安倍晋三の官僚人事 


2013-08-31 政治評論家 伊達 国重

安倍晋三が首相に復帰してからの、彼はこれまでに二つの目玉人事を行った。第一はバブル崩壊以降四半世紀近く続いているデフレ経済脱却のために、デフレ容認論者の白川方明日銀総裁の首を切り、黒田東彦に挿げ替えたことである。この人事は見事に奏功。円高で苦しんでいた我が国の輸出産業は、日銀の金融緩和宣言による円安で息を吹き返した。もう一つの目玉人事は、集団自衛権を巡る憲法解釈で、思考停止、旧例墨守しか頭にない山本庸幸内閣法制局長官を更迭し、駐仏大使をしていた小松一郎を後任に据えたことである。

我が国では、政府も民間企業も政策転換、方針転換をする際には、まず責任者を替えて行なう。白川日銀のままでは、デフレ脱却は不可能だから、黒田に替えた。集団自衛権を巡る憲法解釈では、山本は安倍首相の命令を聞かずに、役所を挙げて死に物狂いで抵抗するだろうから、小松に替えるというわけだ。

安倍は首を切った山本を温情で最高裁判事に処遇してやったが、山本は最高裁判事の就任会見で、憲法解釈の変更による集団自衛権の行使容認について「非常に難しい」と述べて、安倍に早速意趣返しした。司法権の逸脱そのものの発言である。山本の言動は判事罷免に値する。国民の命と財産を守る為の国家の安全保障について、司法が自ら発言するのは、行政権に対する重大な横槍であり、決して認められるものではない。

憲法の有権解釈は内閣がその責任で行なう。内閣法制局は法律面での補佐機関に過ぎない。補佐機関に過ぎない官庁のトップが、内閣の判断に従えないなら、解任されるか、自ら辞任して貰うしかない。官僚内閣制ではないのだ。内閣法制局は長年甘やかされてきたから、山本に限らず役人上がりの歴代長官は、勘違いして思い上がっているのが実態だ。また有力メディアの”左傾マスコミ”は、長官OB連中の思い上がった言動を、さも良心の声のように報道して無知な読者を惑わす。

内閣法制局の官僚は、我が国を取り巻く安全保障環境が、21世紀に入り、がらりと様変りしていることを決して理解しょうとしない。かって「世界の警察官」として圧倒的な軍事力を背景にアジア太平洋地域の平和と安定に寄与してきた米国のパワーが次第に衰退傾向にある中で、経済的に力をつけた中国は、軍備増強に狂奔。近隣諸国を軍事力で威圧するなど、その好戦的な姿勢を鮮明にしている。我が国の尖閣諸島に対する中国の領土要求は、その一端に過ぎない。北朝鮮は核武装に突き進んでいるし、韓国は米国とは同盟関係にありながら、今では中国の顔色ばかり伺い、国策として我が国にあらゆる言いがかりをつけてくる。要するにヤクザ、ゴロツキまがいの隣人たちに囲まれて、日本人にはこのままでは将来の生存すら危ぶまれる状況に陥っているのだ。

安倍が憲法解釈を変えてまで、集団的自衛権の行使容認に踏み切ろうとしているのは、このままでは日本が危ない、という危機感からなのだ。本来ならば、憲法改正という正規の手続きを経て、集団的自衛権を行使出来るようにすべきだろう。しかし、その時間的な余裕は無く、また憲法改正は容易にはできない。ならば、やや無理筋ではあろうが、次善の緊急策として憲法解釈を変えるしかないのだ。

こうした国際情勢の激変を睨んだ安倍の現実的で柔軟な考えを、日本国民は支持して、昨年の衆院選、今夏の参院選で安倍自民党は大勝した。

選挙の洗礼も浴びずに、失敗しても頬かむりすれば、何ら責任を問われない官僚が、旧説墨守で、内閣の判断を妨害すべきではないのだ。我が国は、尻尾が頭を振り回すような犬になってはならない。

小松は安倍首相の意を受けて、集団自衛権の行使容認の憲法解釈に大きく舵を切るだろう。外交官上がりの小松は、国際環境の厳しさもよくわかっているし、国策を判断するのは内閣であり、内閣法制局は内閣の判断を補佐するのが役割だとよく判っているはずだ。(文中敬称略)

1 comment for “安倍晋三の官僚人事 

  1. 杉原誠四郎
    2013年9月13日 at 2:38 AM

    楽しみにしております。杉原

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