–小野寺防衛相「島嶼防衛のため強襲揚陸艦の導入を検討」と語る。平成28年度(2016)予算に計上し同31年度(2019)に1号艦就役を目指す—
2014-08-24 松尾芳郎
小野寺五典防衛相は7月7日(米西海岸時間)、米海軍サンデイゴ基地を訪れ、強襲揚陸艦「マキン・アイランド(Makin Island)」を視察、離島奪回作戦で使う新型艦の導入を本格的に検討する意向を明らかにした。
軍事筋によると、大型強襲揚陸艦が導入されれば海上自衛隊の航空作戦能力は飛躍的に強化される。就役は、これまで2020年初めとされていたが、中国からの尖閣諸島への脅威の高まりや、竹島を巡る韓国の不法占拠継続などを受けて、1年前倒しの2019年3月と改められた。このための調査費が防衛省の平成27(2015)年度概算要求予算案に計上された。
現在海上自衛隊は、島嶼奪回に必要な揚陸艦として、やや小型の「おおすみ」級3隻を保有している。
図:(海上自衛隊)揚陸艦(輸送艦と呼ぶ)「おおすみ」艦番号4001、基準排水量8,900㌧、満載排水量14,000㌧、全長178m、速力22 kt。揚陸艦としては小型だが、一通りの能力は備えている。エアクッション艇LCAC(基準排水量100㌧)を2隻搭載する。輸送能力は戦車十数輛と兵員330名。同型艦に「しもきた」4002、「くにさき」4003、がある。CH-47大型ヘリ2機の同時運用ができる。
図:(海上保安庁)日本列島の長さは、北海道東北端から沖縄八重山列島の西表島まで、およそ3,000km。日本の国土は約38万 km2で世界では60位、しかし領海と排他的経済水域(EEZ)を併せると、陸海の合計面積は約447万km2で世界第6位となる。
* 領海とは海岸線で潮が最も引いた地点を結びそれを基線として、その外側12海里(22km)以内の海域を云う。
* 接続海域とは領海の基線から24海里(44km)以内の海域を云う。ここでは領土領海に関わる法令違反の防止のための必要な規制が認められている。
* 排他的経済水域(EEZ=Exclusive Economic Zone)とは、領海の基線から200海里(370km)以内の海域を云う。ここでは天然資源の開発等に関わる主権的権利が認められている。
この広大な海域を、不法侵犯から守り、保全するには相応の抑止力が必要だ。
地図でご覧の通り、問題の尖閣諸島は最も近い宮古島からでも200km離れていて、一旦奪われた後の奪回作戦では、ヘリコプター輸送だけでなく、V-22オスプレイを使った高速輸送、さらに水陸両用戦闘車AAV7やエアクッション艇などによる上陸作戦が必要となる。
冒頭の小野寺談話は、この島嶼奪回のために必要な大型高性能の強襲揚陸艦の建造に言及したもの。すでに防衛省内では新揚陸艦に必要な機能、サイズについては、かなりな程度検討が進んでいて、1年以内には設計が完了すると見られている。
我国での大型艦の建造はほぼ3年掛かるのが通例で、新揚陸艦は2016年から工事を始めると2019年には完成することになる。但し新造は1隻に止まるか2隻以上になるかは、明らかにされていない。しかし、最近の大型艦建造の経緯を振り返ると、ヘリ空母「ひゅうが」級、同じく建造中の「いずも」級、などいずれも2隻を揃えるので、新揚陸艦も前例に準拠することになりそうだ。
図:「ひゅうが」手前は写真だが、それに艤装中の「いずも」奥が並走している想像図。大きさを比較すると「ひゅうが」全長197mに対し「いずも」は248mでほぼ50mの差がある。建造費は両艦変らず約1,200億円。
海自が取得済み、取得中のヘリ空母は次ぎの4隻で、いずれも航空運用を主眼とし、強襲上陸作戦用のエアクッション艇は装備していない;—
*「ひゅうが」級:基準排水量13,950㌧、満載排水量19,000㌧、全長197m、速力30kt、各種搭載ヘリ約10機、V-22オスプレイの運用可能。同型艦に「いせ」がある。それぞれ2007年と2009年に就役した。
*「いずも」級:基準排水量19,500㌧、満載排水量26,000㌧、全長248m、速力30kt、各種搭載ヘリ約14機、現在艤装中で就役は2015年。同型艦の24DDHは建造中で就役は2017年と見られる。前掲図のように「ひゅうが」級より一回り大きい。
防衛当局が漏らした新揚陸艦の要件とは“指揮管制機能を備え、揚陸作戦に必要な大規模な輸送能力と航空能力を備えた多目的艦”。前述の小野寺防衛相の7月8日の談話でこれが確定したと云って良い。
小野寺防衛相と随行の専門武官の一行は、7月7日にサンデイゴ(San Diego, Calif.)米海軍基地で強襲揚陸艦「マキン・アイランド(Makin Island)」LHD-8を視察した。
「マキン・アイランド」は、「ワスプ」級の8番艦で全長258m、幅42.7mの飛行甲板を備え、各種ヘリ約30機と垂直離発着攻撃機AV-8Bを8機搭載する。AV-8Bは、数年以内に新型の短距離離陸垂直着陸/ STOVL機F-35Bと交替する予定で、目下大西洋上で「ワスプ」を使いF-35Bの発着訓練を繰り返している。ヘリの搭載機数を減らせば、約20機程度のF-35Bの運用が可能で事実上の中型空母に変身する。
しかし、長い間一部マスコミの反戦、反軍の声に曝されて来たためか、防衛当局は新強襲揚陸艦の持つ卓越した航空性能に言及することをなるべく控え、災害救助の目的を前面に掲げているようにしている。
前述の海自揚陸艦「おおすみ」級は速度22Ktで、このような低速にした理由は、高速用の大型機関を搭載すると輸送用の容積を削らなければならず、これを避けるための措置であった。米揚陸艦も同じ理由で比較的低速(タラワ級2隻は24kt、ワスプ級8隻でも25kt)だ。
ところが、低速にするとF-35Bの離艦に支障が出るので、飛行甲板は長さ250m級とするか、またはスキージャンプ式にする必要がある。英海軍の新空母クイーン・エリザベス(艤装中)は、甲板長さ280m、速度25ktだがスキージャンプ方式を採用した。F-35Bの最大離陸重量(27㌧)での運用を常時可能にするためと思われる。
海自の戦闘艦は一般に30ktの速力を持つが、新揚陸艦ではどうなるか、もし速度30ktとなれば通常型甲板に、また低速の場合でも甲板長さを250m以上とすれば通常型甲板でF-35Bの離発艦にさほどの支障は出ない。
図:(US Navy)小野寺防衛相が視察した米強襲揚陸艦「マキン・アイランド」、1985年から建造が始まった「ワスプ(Wasp)」級の8番艦LHD-8で2009年10月に就役した新鋭艦。1隻で航空輸送・攻撃、ドック・エアクッション艇運用、貨物揚陸、それに作戦指揮の機能を持つ「多目的強襲揚陸艦」だ。搭載ヘリ等は約30機だが、これを減らせばF-35B STOVL攻撃機を20機程度運用できる。「マキン・アイランドLHD-8」はガスタービンと電動機を組み合わせたCOGOS推進である。
満載排水量は41,700㌧、全長258m、幅42.7m、速力25kt、兵装はシー・スパロー短SAM8連装2基、RAM近接防御21連装2基、20mm CIWS 2基、など。揚陸部隊2,000名を輸送できる。
飛行甲板左右の舷外に1基ずつエレベータを備え、艦後部にはウエルデッキがあり、揚陸用エアクッション艇LCAC 3隻または水陸両用戦闘車EFV 39輛を運用できる。
図:(Wikipedia)エアクッション艇[LCAC=Landing Craft Air Cushion]は、強襲揚陸作戦には欠かせない輸送艇。米海軍が74隻と海上自衛隊が6隻を運用中。揚陸艦に2〜3隻搭載され、後部のウエルデッキから発進、60㌧の貨物、兵員を搭載、目的地点に接岸し揚陸する。全長26.4m、幅14.3m、40ktの高速で航行できる。航続距離は約350km。製造は米Textron Marine and Land Systems。
計画中の新しい大型強襲揚陸艦(Assault Landing Ship)は、防衛省が、如何に災害救助が主目的と強調しても、強襲揚陸能力を備えた中型空母であることに替わりはない。この新揚陸艦/中型空母が完成すれば、ヘリに替わる高速テイルトローター機V-22オスプレイを搭載し、また、F-35B STOVL戦闘攻撃機の動く作戦基地として、我国周辺に睨みを利かせる存在となる筈だ。就役が1年前倒しの2019年となったのは喜ばしいが、後続艦の建造も明示し進めて貰いたい。
なお、米誌の論調では、日本政府の動きについて歓迎の意を込め、米国防費の負担軽減と、V-22オスプレイとF-35Bの拡販に繋がるもの、と期待している。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Aviation Week eBulettin Aug 19, 2014 “Japanese Advance Plans for Another Air-capable Assault Ship”by Bradley Perrett
msn産経ニュース「島嶼防衛のため」小野寺防衛相、強襲揚陸艦の導入検討 台中抑止力に2014-07-08
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