平成26年度(2014)上半期の緊急発進が激増


2014-10-19  松尾芳郎

2014-10-20 改訂

これは、防衛省統合幕僚監部が10月15日に発表した「平成26年度上半期の緊急発進実施状況について」を基にして解説した記事である。

全般;—

平成26年度(2014)上半期の緊急発進回数は533回に達し前年同期の2倍以上に増えた。対象国はロシア機が約6割、中国機が4割となっている。

年度緊急発進

図:(防衛省)表は昭和33年度から平成25年度までの各年度の緊急発進回数(紺色表示)に、26年度(2014)上半期の回数(赤色)を加えたもの。最高は冷戦時代の昭和59年度の944回、しかし26年度は上半期で533回に達しているので、このまま推移すれば年間では過去最大になりそう。

 

方面隊別の状況;–

北部航空方面隊(司令部は三沢基地)が189回、中部航空方面隊(入間基地)が73回、西部航空方面隊(春日基地)が61回、そして沖縄那覇基地の南西航空混成団が210回の緊急発進を行っている。南西航空混成団の回数が著増しているのは、東シナ海での中国機の活動が活発になっているためだ。

航空方面隊担当

図:(防衛省)航空方面隊の分担区域。各方面隊は原則として戦闘機2個飛行隊から成る航空団2個のほかに固定レーダーサイト、対空ミサイル装備の高射群等で構成される。戦闘機航空団の配置は次ぎの通り。

北部方面隊:第2航空団(千歳基地)、第3航空団(三沢基地)

中部方面隊:第6航空団(小松基地)、第7航空団(百里基地)

西部方面隊:第5航空団(新田原基地)、第8航空団(築城基地)

南西航空混成団:第83航空隊(那覇基地)、平成27年度(2015)に第8航空団築城基地からF-15戦闘機1個飛行隊(約20機)を移設増強し、第9航空団となる。

航空警戒管制隊

図:(平成26年度防衛白書)航空警戒管制隊の配備状況。各地に配備されているレーダーサイトとその型式、それに早期警戒管制機の配備、三沢/E2C、浜松/E-767、那覇/E-2C、の状況を示している。

各方面隊回数

図:(防衛省)各航空方面隊別の過去5年間の緊急発進回数の推移。赤棒で示す26年度(2014)上期は、「北部/189回、中部/73回、西部/61回、南部/210回」。各方面隊とも前年度の半期に比べて増加している。北部方面隊の26年上期実績は25年通期に近く、ロシア機の活動活発化を示している。

 

平成26年度(2014)上半期の特徴;–

ロシア機に対する緊急発進は324回に達し、前年同期より188回も増加した。

中国機に対する緊急発進回数は207回で、前年同期対比で58回増加した。

期間中の領空侵犯はなかったが、ロシア機では情報蒐集機に対し、また中国機に対しては戦闘機に対し多くの緊急発進を行った。

ロシア機では電子戦情報蒐集機イリューシンIl-20と戦略爆撃機ツポレフTu-95が多く、中国機では超音速戦闘機スーホイSu-27 / J-11が主たる対象となった。

我国の防空識別圏

図:(平成26年度防衛白書)我国および近隣諸国の防空識別圏(ADIZ)。2013年11月に中国が国際慣例を破り自国ADIZを拡大したため、東シナ海上で我国ADIZと重なる事態となった。航空自衛隊機による緊急発進は、我国防空識別圏内に通告無しに侵入した外国機に対して行われる。

26白書緊急発進回数

図:(平成26年度防衛白書)冷戦以降の年度別緊急発進回数の表。表にはないが、平成26年度(2014)上期の緊急発進は対ロシア機(灰色)324回、対中国機(赤色)207回、その他2回、合計533回。中国機に対する回数が著増している。

中露機の航跡

図:(防衛省)平成26年度(2014)上期における緊急発進の対象となったロシア機および中国機の飛行パターン。期間中の領空侵犯はなかった。特徴は、ロシア機では情報蒐集機、中国機では戦闘機に対する緊急発進が多かった。

 

緊急発進の対象となった主なロシア機および中国機;–

ロシアIl-20

図:(防衛省)我国ADIZ内を飛行、各地に配置されているレーダー情報を収集する露海軍の電子戦情報蒐集機イリューシンIl-20(NATO 名はクートA)。冷戦時代1970年前後に約20機を製造、ボーイングRC-135電子戦情報蒐集機に相当する能力を持つと云われる。胴体下部のポッドは横方向探知レーダー、胴体横のポッドは赤外線センサー、胴体上部のアンテナは情報蒐集権衛星通信用。

露空軍Tu-95

図:(防衛省)我国ADIZ区域を侵犯、列島周辺を飛行するロシア空軍のツポレフTu-95戦略爆撃機。1956年から露空軍に配備されている4発ターボプロップ戦略爆撃機。500機以上生産され、2040年まで使い続けると云う。多くの派生型機がある。全長49.5m、翼幅51.1m、最大離陸重量188㌧、エンジンはNK-12MV出力14,800馬力を4基。航続距離15,000km、兵装搭載量15㌧。

中国Su-27

図:中国空軍のスーホイSu-27戦闘機。ロシアから約50機を輸入、ライセンス生産でJ-11型として約100機を生産、配備している。2014年5月および6月に我が海自機および空自機に2機が異常接近、威嚇した件は記憶に新しい。長さ約22m、翼幅約15m、最大離陸重量33㌧、エンジンはAL-31F推力12.5㌧を2基。速度マッハ2.3、航続距離は約4,000km。なおSu-27 / J-11の改良型となるSu-30MKKは、2000年頃から空軍用に76機、海軍用に24機が輸入され実戦配備されている。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

防衛省統合幕僚監部 報道発表資料26.10.15「平成26年度上半期の緊急発進実施状況について」

防衛省「平成26年版防衛白書」