スカンクワークス、開発中の小型核融合炉「CFR」を公表


2014-10-29 松尾芳郎

2014-10-31 改訂

 

原子力と云えば目下の我国では、鹿児島県川内原発の再開認可と福島原発の残留放射能(セシウム135)の除染くらいが話題だ。特に後者は前政権が世界基準の放射線規則を遥かに厳しくした規制値を設けたため、無意味な除染作業、不当な居住制限や食品の出荷制限が行われて、それが今でも続いている。

我国の現行規制が如何に馬鹿げているかは、2013-01-22作成「放射線とがん、日本人が知るべき国連の結論」に記載済みなので参照されたい。

 

しかし、海の向うアメリカでは、スリーマイル原発事故の経験を克服して新しい原子力発電の実用化に向けての研究が着々と進んでいる。ここで紹介するのは、実用化に向け進む最新の核融合炉開発の現状である。

ロッキードマーチン社の研究チーム“スカンクワークス(Skunk Works)”が密かに開発してきた革命的な原子力発電装置の概要が、このほど明らかになった。これは「CFR」”コンパクト核融合炉(Compact Fusion Reactor)”と呼ばれ、原型炉は5年以内に完成し、10年後には実用炉は出来上がると云う。

 

現在の原子炉は、ウラン235原子に中性子を衝突させると2つの原子に分裂するが、このとき何個かの中性子が放出される。できた中性子が別のウラン原子にぶつかるとまた原子が分裂し中性子が放出されると云う連鎖反応が起きる。これで生じる熱エネルギーを利用するのが現在の原子力発電である。この反応を「核分裂(fission)」反応と呼んでいる。核分裂反応が沢山起きて中性子の数が多くなり過ぎると反応が止まらなくなる、いわゆる熱暴走がこれだ。これを防ぐために炉内に制御棒などを入れて反応をコントロールする必要がある。核分裂炉にはこのような性質があるため、安全性を保つため装置全体がかなり大型になる。

これに対し「CFR」”コンパクト核融合炉”は、遥かに小型で、安全で、清潔で、しかも強力な発電能力を持つ。さらに重要なのは”コンパクト”が意味するように、惑星間飛行用の宇宙船の小型発電・推進装置から始まって、船舶の推進装置に、さらには地上設置の大出力発電所に至るまで、大小様々な形に作り上げることができる”scalable”な点が特徴である。

核融合”nuclear fusion”反応とは、水素のような軽い原子核同士をぶっつけて融合させるとヘリウムのような重い原子に変わるが、この際に生じる中性子などのエネルギーを利用する方法である。自然界では、太陽など多くの恒星の内部で起きている反応が「水素èヘリウム」の核融合反応で、巨大なエネルギーを生み出している。

核分裂と核融合原理

図:(星のかけら・核融合/高畑一也・総合研究大学院大学)核分裂と核融合の違い。

 

核融合反応を起こすには、水素の原子核同士(重水素とか三重水素とか)をぶっつければ良い。しかし原子核は正の電荷を持っているのでぶっつけようとすると斥力が働くので、ぶっつからず核融合反応は起きない。速度を秒速で1000km以上にすると斥力が働く前に衝突させることができきる。一般に気体を熱すると原子の飛び回る速度は速くなる。1億度にすると核融合反応に必要な速度が得られるが、同時に気体は膨張するので原子と原子の間が広がり、そのままではぶっつからない。そこで原子間の距離が広がらないよう回りから押さえ込むことで反応を起こしてやる。しかし周囲の圧力が少しでも下がると反応は直ぐ停止してしまう。つまり核融合反応は核分裂反応とは違い、決して熱暴走は起きない仕組みになっている。

CFRとマクガイヤ–氏

図:(Lockheed Martin / Eric Schulzinger)開発中の「CFR」と開発チームのリーダー、トーマス・マクガイヤー氏は一番左の人。

 

太陽や恒星で起きている核融合反応を、地上で再現しエネルギーを利用する実用的な装置を作るため、科学者達は長年努力を続けてきた。世界各地の先端研究所、企業、が研究や実験を重ねてきているが、これまで一つとして実用的な核融合炉の開発に成功したところはない。

今回ロッキードマーチンは、斬新な構想で研究を進めた結果革新的な核融合炉の実現に目処が立ったため、その研究情報を一般に公開し、多くの企業の協力と有能な研究者達を結集し、製造に踏み切りたいとしている。

 

エビエーションウイーク誌は、このほど同社の”スカンクワークス”部門の”T4”と呼ばれる研究チームに独占取材し、その概要を公表した。

トーマス・マクガイヤー(Thomas McGuire)”氏がリーダーを務める”T4”チームが開発中のCFR/核融合炉は、ビジネス機に使われる小型のジェットエンジンほどの大きさである。外観は、センサー類、インジェクター類、内部を真空に保持するターボポンプ、大型の一連のバッテリー、それに分厚いステンレス製容器などで構成されている。一見したところこれが”核融合炉”だとはとても想像できない。

マクガイヤー氏はペンシルベニア州立大で航空工学科を終了、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)で航空宇宙工学のPh.D.を取得した人。その後ロッキードマーチンに入社、現在「CFR」”コンパクト核融合炉”研究チームのリーダーを勤めている。このチームは大学卒業後直ぐに入社した若い技術者、科学者達10名からなっている。

マクガイヤー氏は、このプロジェクトに付いて以下のように語っている;—

 

大学院生の頃NASAの研究課題[火星に早く行ける方法]について勉強をした。かなり熱心に取組み、多くの核融合利用の宇宙推進構想の論文を読んだが内容には失望した。これがきっかけとなり、公開されているあらゆる関係論文を調べ、それらから得られた多くのヒントを統合し、全く新しい発想のもと社内で取組んでいるのが「CFR」”コンパクト核融合炉”である。

ロッキードマーチン構想の革新性を理解するには、核融合の生じ方、得られるエネルギーの量と核融合炉の大きさを決める融合反応の制御方法、を知ることが手っ取り早い。

核融合の燃料には水素の同位元素、重水素(deuterium)と三重水素(tritium)を使い、気化した状態で真空容器に注入する。高周波数帯(100 GHzかそれ以上)、つまり波長の短い電波で容器内にエネルギーを供給、混合ガスを超高温にする。これは家庭で使う電子レンジで物を暖めるのと同じ原理である。すると重水素と三重水素の混合ガスはイオンと電子に分離しプラズマを形成する。

超高温になったプラズマは、強力な磁場の中に閉じ込められて真空容器の内壁から隔離される、完全に閉じ込められるとイオンはお互いの斥力に打ち勝って衝突し、融合してヘリウム4(helium-4)となり、運動エネルギーを持った中性子を放出する。

中性子は磁場の影響を受けないので、そのまま磁場を通過して容器外壁(ブランケット)に入り、その運動エネルギーが外壁の中を通る際に熱エネルギーに替わる。こうして核融合炉の容器は加熱され高温となるが、これを熱交換器で高温高圧の水蒸気に変換してタービン発電機を駆動する。これが核融合発電の仕組みである。

現在の研究用核融合炉の多くは、プラズマを閉じ込めるのに、1950年代に旧ソ連の学者が考案した“トカマク(Tokamak)”と呼ぶ装置を使っている。”トカマク”はリング状の(超伝導)磁石を輪状に並べて磁界を作り、その中にプラズマを閉じ込める方式である。しかし、これで核融合反応を持続させるには、しばしば得られる電力と同じかそれ以上の電力がプラズマを生み出す磁場の形成に必要となる。

トカマク型の原理

図:(星のかけら・核融合/高畑一也・総合研究大学院大学)トカマク型核融合の原理。

 

欧米日露などが協力して、10年前からフランスのカダラチェ(Cadarache)にトカマク型核融合実験炉”ITER(international Thermonuclear Experimental Reactor=国際熱核融合実験炉)を建設中だが、これは500 MWの出力を目標にしている。しかしプラズマが生成されるのは早くても2020年末になり、実際に予定の電力が発電されるのは2040年以降になると云う。

ITERの見取図

図:(ATOMICA)南部フランス・カダラチェに建設中の巨大なトカマク型国際熱核融合実験炉[ ITER ]の見取図。高さ30m、直径36mの大型装置。プラズマを閉じ込めるため超伝導コイル20個をドーナツ状に配置する。

 

“トカマク型”核融合炉の欠点は、プラズマの圧力と磁界の強さの比を表す”ベータ値”が低く5%程度にしかならず効率が悪い。

リング状(超伝導)磁石を自転車のタイヤに例えると、タイヤにエアを入れ過ぎれば破裂する、つまり磁石に大電力を注入して磁界を強くすることは無理がある。これを改めるには、”トカマク”の物理法則に従って超伝導磁石を非常に大きくしなければならない。このためITERは、高さ30m、重量50,000㌧もの巨大な装置になり、製造コストは500億㌦にも達する。

CFRでは、”トカマク型”核融合炉の欠点を改めるため「プラズマ閉じ込め方式」を全く新しい構成にした。すなわち、プラズマをチューブ状リングの中に閉じ込めるのではなく、一対のコイル状の超伝導磁石を使い容器内全体を磁界にしてプラズマを閉じ込める方式である。

一対の超伝導磁石から生じる磁界は容器の外周までにも及ぶ。空気中で自転車のタイヤに空気の入れ過ぎると破裂するが、頑丈な容器内でタイヤを膨らませれば破裂しない。これと同じ理屈で、CFRでは超伝導磁石に大電力を供給できるので磁界を強くできる。つまりこのシステムは原理的に、磁界を強して拡散するプラズマを封じ込めるのに好都合な方式と云える。すなわち理論的には「CFR」”コンパクト核融合炉”は”ベータ値”を1にすることが可能である。

コンパクト核融合炉

図:(Lockheed Martin)「CFR」”コンパクト核融合炉”の概念図。格納容器内に一対の超伝導磁石を配し、室内全体を強力な磁界で覆いプラズマを閉じ込める。燃料(重水素、三重水素)を注入、プラズマ化してお互いを衝突させヘリウムに変換し、放出された中性子のエネルギーを使い発電する。

 

トカマク型と「CFR」”コンパクト核融合炉”の決定的な違いは、そのサイズにある。つまり同じサイズであれば「CFR」はトカマク型の10倍の出力を生み出せる。あるいは、同じ出力を得るのに「CFR」はトカマク型の10分の1のサイズで充分である。つまり「CFR」は、低コストな将来のエネルギー供給源となり得ることを示している。

 

 

しかし物理学的には、解決しなければならない問題が多く残されている。最大の問題は”本質的に安定した機器構成”を見付けだすことである。”安定”を得るには、超伝導磁石の位置とそこから生じる磁力線の強さと形状を適正にしなければならない。

今のところ設計は順調に進んでおり、”ベータ値”を高くする設計もその一例である。プラズマを閉じ込めるために設けた容器両端の”先端室(cusps)”にも磁力線が及ぶようにしてある。この”先端室”は、強力な磁力線から逃れようとするプラズマのかなりの部分が封入される場所になる筈だ。

開発チームは、試作CFRの実現には未解決の問題が多くあることを認めている。しかし「スカンクワークス」の伝統である“解決への執念”が5年後のCFR原型機の完成をもたらしてくれるだろう。原型機は、燃料(水素)を注入してプラズマを発生させ10秒間持続し、運転を終了する予定にしている。いわゆるフルパワー運転ではないが、これでチームが考えた基本的な物理理論の正しさを証明できる。

原型機の運転開始から5年後には実用炉の実現を目指している。これには一層多くの努力が必要である。すなわち、材料と熱伝導の専門家の知恵からガスタービン・メーカーの協力まで、多くの力を糾合しなくてはならない。実用炉の初期の装置は23 x 43 ㌳(約7m x 13m)の大きさの可搬型で、出力は100 MWクラスにする。この大きさだとトレーラーに載せ簡単に移動でき、設置後数週間で運転をスタートできる。電力は現在の送電網で送ることができ、100 MWあれば米国の標準的な家庭8万戸を賄うことができる、また船舶のエンジンとしても使える。

消費する燃料は1年間で約25kgあれば充分である。燃料は充分に存在していて、重水素(deuterium)は海水から容易に抽出でき無尽蔵である、三重水素(tritium 、トリチウムとも呼ぶ)はリチウム(lithium)から分離できる。世界中に多数設置済みの核分裂原子炉を使って、中性子をリチウムに当てると三重水素ができるので入手に心配はない。三重水素は最も毒性の低い放射性物質で、大量に摂取したりすれば健康に悪いが、少量を取り扱う分には全く影響はなく安全である。

これまで行ってきた予備的な実験から”CFR・核融合炉”は極めて有望で実現性が高いことが判った。現在はプラズマイオン封じ込めの磁力線研究に力を集中しているが、予期通りの結論に到達しつつある。

今回”CFR・核融合炉”について途中経過を発表したのは、このチームを一段と強化してこれからの難題に立ち向かうためである。より多くの有能な人材を集め、世界規模の企業の手を借りて目的の完遂を目指したい、その案内役を果たすのが我々の喜びであり、望むところである。

–以上−

 

本稿の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week eBulletin Oct. 15, 2014 “Skunk Works Reveales Compact Fusion Reactor Details” by Guy Norris

Aviation Week eBulletin Oct. 20, 2014 “Meet the Leader of Skunk Works’ Compact Fusion Reactor Team” by Carole Hedden

Lockheed Martin webloc. Compact Fusion Reactor

ATOMICA “ITER計画の経緯、工学設計活動における詳細設計”更新2014年03月