高性能を誇る海自救難飛行艇US-2


2013-07-11  松尾芳郎

 

US-2は、前身のやはり新明和工業製であるUS-1Aの改良型で、2006年から海上自衛隊岩国基地に納入開始、以来救難業務に当たっている。最近では2013年6月21日に、宮城県金華山沖1,200kmの海上で遭難漂流中のヨット乗組員2名を救助したことで話題になった。この時は厚木基地からP-3C哨戒機とUS-2がペアを組み出動したが波高が高く着水を断念帰投、このため直ちに2組目のペアが出動しUS-2が風速16-18m、波高3-4mの中で見事着水に成功、遭難者を救助した。

波消し装置

 

図:(防衛省)US-2の2号機、波消し装置が良く見える。

前身のUS-1Aからの主な改良点は次ぎの通り。

・フライバイワイヤ操縦系統の導入:パイロットの操縦イメージを熟練に頼らずコンピュータ制御で実現し、正確な着水を実現する。FBWシステムは3重プラス油圧1系統にしてある。

・グラスコクピットの導入:最新の旅客と同じく、6基の液晶モニターを備えている。

・与圧式キャビンへの改修:US-1Aはキャビンの与圧がなかったため悪天候時は高度をとることできず、迂回せざるを得なかった。これを改めるためUS-2では前部、中部胴体を完全な与圧式に改め、巡航高度を20,000ft(約6,100m)にした。この改修で胴体はやや丸みを帯びた形になった。

・エンジン,プロペラの換装:高高度飛行をするためエンジンは、US-1AのGE T64-IHI-10Jターボプロップ(2,850軸馬力)からRR AE2100J(4,600軸馬力)4基に換装され、プロペラは6枚ブレードのダウテイ R414に改めた。これで重量が増えたにもかかわず、離水距離が短縮され、燃費が変わらないのに1000海里進出して2時間の活動ができるようになった。

・自動波高、波長解析計器の搭載:US-1Aの計器では乗員の手作業が必要だったが、US-2では自動式に改められた。

機体は大きな変化はなく、直線翼、T字尾翼、エンジン配置等はそのまま、また、PS-1で実用化された強力なSTOL性能を支える境界層制御(BLC)システム等を継承している。BLC用にRRとハニウエル共同のLHTEC T800ターボシャフトエンジンが使われている。

さらに激しい離着水時の衝撃に耐える頑丈な艇体を備えている。そして艇体側面には、機首からの波しぶきがキャノピイに当たるのを防ぐ「波消し板」、エンジン、プロペラに当たる波しぶきを抑える「波消し溝」、機体側面から波を離して逃す「スリット」等が備えられている。

波高3mの荒波でも離着水でき、4,700kmに及ぶ長大な航続性能を持つUS-2は各国の注目を集めている。

飛行艇は1930年代から第二次大戦時代にかけて最盛期を謳歌し、アメリカを始めイギリス、ドイツ、イタリア、日本で多く作られた。しかし戦後は大型陸上機の発達に押されて、小型飛行艇を別にすると、現在生産中の飛行艇は日本/新明和・US-2、ロシア/ベリエフ・Be-200、カナダ/ボンバルデイア・CL-415の僅か3機種のみとなっている。この3機種の大きさ、性能等の比較表を見れば我国のUS-2の優秀性は一目瞭然で、評価が高いことがうなずける。

中でも長い海岸線と島嶼部が広大なインドは、インド洋進出を目論む中国に対抗する意味もあり、US-2の導入に強い意欲を示している。インド海軍とインド沿岸警備隊合計で15機の発注を考慮中と云われる。現在検討中の「武器輸出3原則の緩和」が実現すれば、輸出成約に向け大きく前進することになろう。これは安倍政権が目指すトップセールスに弾みを付けることにもなる。

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