次世代型ファルコン9ロケットv.1.1、発射に成功


−1段目の回収実験を実施、リサイクルを目指す–

 

2013-10-06  松尾芳郎

 

ファルコン9v1.1

図:(SpaceX)スペースX社製の次世代型ロケット、ファルコン(Falcon) 9 v1.1はバンデンバーグ空軍基地(Vandenberg AFB, Calf)から9月29日午前9時に打上げられた。全長68.4m、打上げ時重量480㌧の大型ロケット。

 

ファルコン9 version 1.1は、原型のファルコン9 v.1.0を改良した次世代型ロケット。原型の v.1.0はこれまでケープカナベラル空軍基地(Cape Canaveral AFB, Florida)から5回の発射に成功しており、これには「ドラゴン(Dragon)」カプセルによる国際宇宙ステーション(ISS)向け貨物輸送3回が含まれている。今回の打上げ成功で、今後はファルコン9の打上げはv.1.1型のみになる。

ISSへの貨物輸送では、JAXAのH-IIBロケット 4号機/HTV4(こうのとり)補給機が去る8月10日にISSに到着し役目を果たした。我国のマスコミはこの成功を大きく採り上げたが、ファルコン9による3回の補給ニュースは殆ど報じていない。

スペースX社は、ファルコン9によるNASAの国際宇宙ステーション(ISS)向けの補給を始めとし、多くの民間顧客からの受注残を抱えている。その中には世界的なTVおよび電話通信網を運営するSESワールドスカイ社から受注した地球静止軌道(GTO)に乗せるSES-8と呼ばれる新型通信衛星が含まれている。最近の衛星打上げビジネスはヨーロッパのエリアン(Ariane) 5ロケットの独占が続いていたが、今回のファルコン9 v.1.1の成功でシェアは折半あるいは逆転しそうだ。

原型のファルコン9 v.1.0は液体燃料(液体酸素とケロシン)を使う2段式ロケットで低地球周回軌道(LEO)に10.5㌧、地球静止軌道(GTO)に4.5㌧のペイロードを打上げが可能。

ファルコン9 v.1.1は、この原型に比べ多くの改良がなされ、操作方法も簡略化されている。すなわち;–

1) 1段目は60%強力にした改良型のマーリン(Marlin) 1Dエンジンを9基束ね、全長をv.1.0の54.9mから68.4mに延ばし燃料タンクを大きくした。これでより重いペイロード、(LEO)に13.2㌧、(GTO)に4.8㌧、の打上げが可能となった。

2) ペイロードを収納するフェアリングは2枚構成で、室内は高さ13m、直径5mに拡げてあり今回の打上げで支障なく分離できた。これで相当大きい衛星でも搭載できるようになった。

3) 今回の発射は初めて西海岸にあるバンデンバーグ空軍基地(Vandenberg AFB, Calf)から行なったが、ここからだと真南に向け発射して、地球周回の極軌道に衛星を乗せることができ好都合だ。

4) 1段目ロケットは全く新しい機能を備えている。従来のロケットでは打上げ後は“使い捨て”が常識であったが、v.1.1の1段目をリサイクル、つまり回収して再利用する計画だ。大気圏外の上空で1段目が分離して落下を始めたら9基のエンジンのうち3基を再点火して1段目の落下速度を減速して大気圏に入る。それから4基目のエンジンを再点火、さらに速度を下げて水面に着水すると云う方式。今回の場合は3基、続いてもう1基のエンジン再点火は予定通りに行なわれた。しかし着水前に1段目本体の安定性が失われ水面に衝突して終わったが、破損部品はほとんどが回収された。スペースX社では、成功しなかった原因は判っており、修正すれば充分実用になる回収方法だ、と述べている。そして来年には1段目ロケットに着陸用の脚を装備して打上げ、地上へは垂直の状態で着陸させ回収を試みる、と云う。

farukonn9のエンジン配置

図:(Wikipedia) ファルコン9  1段目のエンジン配置図。V.1.0型ではマーリン(Merlin) 1C型9基が左のような格子状に配置され、最大推力は合計5,000㌔ニュートン(kN)を出す。新型のv.1.1は、マーリン1D型エンジンが右に示す円状に配置され、最大推力は合計6,672㌔ニュートン(kN)に増強されている。

 

マーリン(Marlin)エンジンは、スペースX社がファルコン1およびファルコン9に使うため自社で開発したロケットで、ケロシンRP-1と酸化剤/液体酸素を燃焼させ推力を出す。あらかじめ海水中から回収し再使用可能なように設計されている。

マーリンエンジンには、マーリン1A、1B、1C、そして1Dがあり、このうち1Aと1Bは試作エンジンとも云うべきもので数台ずつしか作られなかった。1Aモデルの初号機は2006年3月24日ファルコン1の打上げに使われたが燃料漏れで火災を起こし失敗している。

量産機は1Cモデルである。これは単発のファルコン1にも使われたが、この場合はエンジン本体を動かして推力偏向を行ない、ロケットのロールコントロールの役目もしていた。ファルコン9 v.1.0用の1Cエンジンは推力偏向機能を除いた型。2段目に使われる1Cは“マーリン・バキューム(Marlin Vacuum)”と呼ばれ、真空中で使うためノズルのスカート部をかなり大きくしてある。

1Dモデルは1Cを改良して地上推力を650kN(㌔ニュートン)、真空中の推力を720kNまで増強したエンジンである。1Dは、推力–重量比がロケットエンジンでは最高となる150:1、また、燃費に相当する比推力(Isp=Specific Impulse)は海面上で282秒、真空中で311秒を達成している。これら比推力は、燃料にケロシンを使ったガスジェネレータ・ロケットとしては、これまでの最高値である。

今回ファルコンv.1.1が打上げたのはMDA社が製作したカシオープ(Cassiope)と呼ばれるプラットフォーム衛星、これにカナダ宇宙局の「太陽活動が地球上層大気に及ぼす影響」を調べるための装置が積まれ重量は360kgであった。

 

我国ではスペースX社について余り知られていないが、ここで簡単に紹介して見よう。

イーロンマスク

図:(Wikipedia) スペースX社のCEOで創立者のイーロン・マスク(Elon Musk)氏、2008年の撮影。マスク氏はスペースX社の他に、電気自動車メーカーのテスラ・モーターズ(Tesla Motors)、米国最大のソーラーパワー会社であるソーラーシテイ(SolarCity)のCEOを兼務している。

 

スペースX社は2002年に宇宙関連技術に新風をもたらすべく設立され、独自の技術で打上げロケットと宇宙船を開発、製造しているベンチャー企業である。

創設者はCEOのイーロン・マスク(Elon Musk)氏。南アフリカ人技術者の父とカナダ人の母との間に生まれ、アメリカにわたりペンシルベニア大で学び、ソフト出版のZip2社、電子支払いサービスのX.com社などを設立し、成功した人である。

スペースX社は、2010年12月には私企業として世界で初めて地球周回軌道(LEO)から宇宙船の回収に成功した。2012年5月にはドラゴン・カプセルを国際宇宙ステーション(ISS)に送り、搭載貨物を搬入、不要品を地球に持ち帰るのに成功した。その後同じ貨物輸送/持ち帰りミッションを2度続けて成功している。(我国のH-IIB/HTV4“こうのとり”は貨物搬入のみの片道ミッションで帰りは大気圏内で消滅する方式)

スペースX社は、NASAとの間で、ISSへの貨物輸送/持ち帰りの飛行を今後少なくとも10回実施することで16億㌦(1,600億円)の契約を結んでいる。またドラゴン宇宙船は有人化を前提に設計してあり、NASAと4億4,000万㌦(440億円)の契約で有人化への作業に取組んでいる。有人ドラゴン宇宙船の初飛行は2015年とされている。現在の衛星等の打上げ受注は、一部前述したものを含め50件近くになり、その総額は50億㌦(5,000億円)に達している。

現在取組んでいる新ロケットは“ファルコン・ヘビー”で、完成すれば世界最大の打上げロケットになる。これは現在のファルコン9 V.1.1の1段目を3本束ねた構造で、離昇推力は17,000㌔ニュートンにもなる巨大ロケットである。また前述のように、再利用可能なロケット技術の完成に力を注いでおり、これが確立されれば打上げコストの革命的削減が可能となる。

–以上−