野党がこれほど無力なときはない


2013-10-26  豊島典雄

民主政治の発展には健全な野党が必要である。野党には、政府与党の施政をチェックし、対案を出し、次期国政選挙での選択肢を示す責任がある。その野党が無力な今日である。「野党がこれほど無力な時はないね」「永田町、自民党にあらずば人にあらず、になってますな」「しかも3年近く国政選挙は無いでしょう。この状態が続くんです」。自民党のベテランの言である。

自民党と公明党は衆議院(定数480)の3分の2超の325議席を占め、参議院(定数242)でも134議席と過半数を超える議席を持っている。7月の参院選で与党は議席を増やしてねじれ国会は解消し、余裕をもっての臨時国会運営である。

世論調査でも、アベノミクスと東京五輪決定で国民に希望と夢を与えている安倍晋三内閣の支持率、自民党支持率ともに高い。安倍内閣は長期政権化の様相を見せている。衆院選、都議選、参院選と三連敗し、敗戦後遺症を引きずっている民主党をはじめ野党の支持率は一桁台と極めて低い。

時事通信社が10月11日~14日に実施した世論調査では、内閣支持率が55.8%、不支持率は22.8%。政党支持率では自民党25.7%、民主党2.9%、日本維新の会1.7%、公明党3.4%、みんなの党0.9%、生活の党0.5%、共産党2.3%、社民党0.9%、支持政党なしは60.4%。民主党は過去最低だった2002年12月(2.1%)以来となる2%台に落ち込んだ。みんなの党の1%割れは2010年2月(0.4%)以来である。

10月15日のNHKニュースによると、NHKの世論調査では、内閣支持率は58%、不支持率は26%。政党支持率では自民党36.1%、民主党5.2%、共産党4%、公明党3.8%、維新2.1%、みんなの党1.2%、社民党0.5%、生活の党0.2%、特に支持している政党はないが41.8%であった。民主党の支持率は、NHKが今の方法で調査を始めた平成16年7月以降では、最も低くなったという。

日本テレビが18日から20日に行った世論調査では内閣支持率は56.7%、不支持率は25.8%。政党支持率では自民党43.1%、民主党7%、日本維新の会2.9%、公明党4.3%、みんなの党2.5%、共産党3.8%、生活の党0.0%、社民党0.8%、支持政党なし33.3%。

この三つの世論調査を検討してみると、1年前の政権党の民主党に対して世論は厳しい。期待した反動であろう。統治能力の無さに「うっかり一票、がっかり4年」の思いのあらわれであろう。一度失った信頼は簡単には戻らない。

みんなの党の支持率の低下は、渡辺喜美代表と江田憲司前幹事長の路線の違いによるいがみ合いに支持者が失望した結果であろう。「みんなの党、俺が俺がの自分の党」というイメージを与えてしまったのである。

1年前には「橋下台風、永田町に上陸か」とも思われた日本維新の会も地元の堺市長選で敗北するなど、すっかり勢いを失い温帯低気圧化している。元県知事の所属議員が、再度知事選を目指すと報道されるように求心力を欠いている。

生活の党など国民の生活の前に、自分の生活が心配ではないか。かっての野党第一党の社会党の後身である社民党も風前の灯である。社会党本部があった三宅坂を歩くと、「夏草や兵どもが夢の跡」の句を思い出す。

安定しているのは共産党、自民党、公明党の3党である。この順番に結党しているのである。 一昔前の歌謡曲の「昔の名前で出ています」である。老舗政党が安定的な支持を確保している。

15日から臨時国会が始まり、21日からの週は衆参両院の予算委員会の質疑があったが、安倍首相の答弁風景の写真のキャプションには「余裕の陳謝」「穏やかな最終日」(産経新聞)とあった。

24日の参院予算委員会での麻生太郎副総理兼財務相と日本維新の会の片山虎之助参院議員との質疑で、片山議員が消費税率引き上げに伴う経済対策の規模の根拠を問い質した。麻生氏は人気ドラマ「半沢直樹」の主人公の決めゼリフ「倍返し」を引用し、委員会室が笑いに包まれた。麻生氏が「(引き上げの反動は)民間統計の

平均で1.8兆円なので約2兆円」と指摘。「それを埋めて『倍返し』で4兆円。プラス1兆円で5兆円というところだ」と答えると、片山氏は「ふまじめだ」と批判した。軽口を交えるほどに政府側に余裕があるのである。

ある自民党幹部は「1955年体制下の何でも反対の野党を知っている身からみると、今のは野党ではなく『ゆ党』だな」と言っていた。しかし、無力な野党にも再編成の兆しはある。みんなの党の江田憲司グループ、日本維新の会、民主党の細野豪志グループの連携、さらに新党が話題になっている。日本維新の会の橋下徹共同代表も25日、「(細野氏が)日本を引っ張っていく人であることは間違いない。ぜひ維新やみんなの党など、考え方を同じくする人とコミュニケーションを取ってもらい、一つの集団にまとめていただきたい」と期待を示した。

しかし、「君主は獅子の威と狐の狡知をあわせ持て」。逞しいリーダーがいるか。また、新党は大義=旗、理念、骨太の政策を示せるか。維新には正統保守もいる。いわゆるリベラル派の細野氏と無理やりくっついても、いつも党内対立の第二民主党になるだけではないか。

政界は与党が割れない限りは本格的には再編されない。その可能性は極めて低い。野党内での再編成ではコップの中の嵐程度になる。野党冬の時代は簡単に終わらない。少なくとも3年近くは続きそうである。

–以上−