土星探査機「カッシーニ」、探査開始から10年が経過


2014-07-02 松尾芳郎

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図:(NASA) 写真は、土星探査機「カッシーニ」が活動を始めてから10年になるのを記念してNASAが発表したロゴ。

土星探査機「カッシーニ」は、1997-10-15にケープカナベラル空軍基地から「タイタンIVB」ロケット、推力1,000㌧、で打上げられ、地球から15億km離れた土星に向かい出発した。土星迄の飛行距離は、スイングバイ飛行を行っているので35億kmになった。地球から土星まで光が到達するには85分かかる。

スイングバイ飛行は、金星重力圏で1998-04-26にフライバイ、地球重力圏で1999-08-18にフライバイ、木星重力圏で2000-12-30にフライバイを行い、打上げから6年半後、2004年6月30日PDTに目的の土星周回軌道に到着した。そして、帯同した「ホイヘンス」プローブを衛星「タイタン」に放出したのは2004-12-24、表面に着陸したのは2005-01-14であった。

4年間で土星とその衛星の探査を終了する予定だったが、探査機の状況が良いのと燃料に余裕があることから、活動期間が延長され今も飛び続けていている。

本プログラムは、NASAが主体となり、欧州宇宙機構(ESA)、イタリア宇宙機構(ASI)が協力、17ヶ国が参加している。日本は参加していない。

開発費をふくめミッション全体に要した費用は、米国負担が26億㌦、欧州負担が6.6億㌦と云われる。合計3,300億円の巨費を投じたプログラムである。

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図:(NASA)カッシーニが10年間に成し遂げた業績を数字で示すと;–

*  2百万回の指令を実行

*  土星周回軌道に到着後32億㌔を飛行

*  514ギガバイトのデータを収集

*  これ等データに基づき3,039件の科学論文が発刊

*  土星を周回する惑星を新たに7個発見

*  土星の周回軌道を206回にわたり飛行

*  土星を周回する多くの惑星に132回接近飛行を実施

*  地上に送信した写真は332,000枚

*  世界中から26ヶ国の科学者が参加

*  装備したスラスターは91回着火、停止を繰り返し使用

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図:(NASA)カッシーニ土星周回探査機の大要。各種センサー、地球との通信のためのアンテナ、原子力発電装置(RTG = radioisotope thermoelectric generators)、軌道修正用の推力僅か45Nのロケットスラスター、それに「タイタン」着陸用の「ホイヘンス」プローブが取付けられている。カッシーニ探査機全体の大きさは、高さ6.7m、幅4m、重量は5.7㌧。このうち「ホイヘンス」の重量は320kg。原子力発電装置(RTG)は、放射性同位元素「プルトニウム-238」を使い、その崩壊熱で発電する方式で、現在飛行中の冥王星探査機「ニュー・ホライゾンズ」に使われているものと同じ。運転開始から11年後でも700W程度の発電能力がある。

 

この6月30日で、土星と周囲の輪および衛星の探査のため打上げられた「カッシーニ」探査機は、土星に到着後10周年を迎えた。

「カッシーニ(Cassini)」探査機は、ヨーロッパ宇宙機構(ESA)の探査機「ホイヘンス(Huygens)」を帯同し、2004年6月30日に土星周回軌道に到着、4年間の予定で探査ミッションを開始した。

2008年に、NASAはミッションの延長を決定し、30年の周期で太陽を周回している土星の季節変動の模様を調べることにした。NASAのジェット推進研究所の「カッシーニ」計画担当サイエンティスト(Linda Spilker)によると、「探査機の状態は極めて良いので貴重な機会を使うことにした」そして「この10年間でカッシーニのお陰で、これまで未知だった世界を見ることが出来、我々の惑星系がどうして出来たか、そして生命はどのような条件で存続するのか、について知見をもたらしてくれた」。

10年間に及ぶ土星探査で、この忠実な探査機は地球に向け数百ギガバイトの科学データを送り続け、これを活用して3,000件以上の研究報告が発表された。以下にカッシーニが達成した主な10件の功績を挙げる;–(写真は全てNASA提供)

 

*  同伴した「ホイヘンス(Huygens)」探査機を土星の衛星「タイタン(Titan)」に着陸させた。下の写真は着陸時にタイタン表面を写したもの。

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*  土星の衛星「エンセラデス(Enceladus)」から写真のように、霧状の氷が噴出しているのを発見した。厚い氷層の下には大量の水があると思われ、ここにも生命存在の可能性がある。

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*  土星の輪は、活動的で変動していることが判った。

*  衛星「タイタン」には、地球のように雨が降り、水が流れ、湖や海があることが判った。

*  2010~2011年にかけて土星北半球に発生した大規模な嵐を観測した。下の写真の北半球帯にオレンジ色の嵐が映っている。木星表面の嵐は知られているが、土星にも同じような気象が存在することが確認された。

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*  土星の周囲には短波帯電波が見られるが、予想に反しこれは土星内部のコアの回転によるものではないことが判った。

*  土星の輪の断面構造が初めて明らかにされた。

*  「タイタン」の生命存在の可能性について予備研究が行われた。

*  衛星「ラペタウス「Lapetus」の表面にある“白黒”の斑点の謎が判った。

*  土星北極上にある六角形模様の完全な写真と南北両極に発生する巨大なハリケーンの模様が撮影された。下の写真は北極に現れている不思議な六角形模様。

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本探査機のネーミングは、次ぎのように説明されている。

「カッシーニ」探査機の開発には、NASAとイタリア宇宙開発機構「ASI」が携わったので、イタリアの天文学者「ジオバニ・ドメニコ・カッシーニ(Giovanni Domenico Cassini)」の名前を充てた。そして「ホイヘンス」プローブの開発は欧州宇宙開発機構(ESA)が担当したので、オランダの天文学者で数学者の「クリステイアン・ホイヘンス(Christiaan Huygens)」の名前が使われた。

「ジオバニ・ドメニコ・カッシーニ」は、1625-06-08イタリアのジェノバで生まれ、後にフランスに移籍し、1712-09-14にフランスのパリで87才で没した。

「クリステイアン・ホイヘンス」は、1629-04-14オランダのハーグに生まれ、1695-07-08に同地で66才で没した。

 

最後に“土星”に付いて簡単に触れておこう。

土星は太陽から6番目の惑星で、太陽系では木星に次いで2番目に大きい惑星。ガス惑星で太陽からの距離は約10天文単位(15億km)。約30年の周期で太陽を回っている。大きさは直径で地球の9倍、しかし密度は8分の1なので質量は地球の100倍に足りない程度。土星周辺には氷の小片からなる大きなリングがあることで知られている。土星を周回する衛星(月)は少なくとも150個あり、その内53個に名前が付けられている。最大は「タイタン」で、太陽系内の衛星で唯一大気と炭化水素の海を持つことで知られている。

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図:(NASA)2011年9月4日「カッシーニ」撮影の「土星が太陽光を遮る日食のシーン」。写っているのは土星の夜の部分だが、自身のリングが反射する太陽光で明るく見える。リングの土星の影になる部分も、一部が陰るだけで大半は自身の散乱光で明るく見える。さらにその外側には、太陽光を遮ったため、これ迄判らなかった微細な氷片でできたうっすらと見える新しい”E”リングが写し出されている。”E”リングの内側、写真の左やや上に芥子粒のような青色の地球がある。(拡大すると見えるかも)

–以上−

 

本稿の作成に参考にした記事は、全てNASA発行の「カッシーニ」探査機関連のニュース、書類に依った。