「ニュー・ホライゾンズ」冬眠から目覚め、いよいよ冥王星へ


2014-12-20 松尾芳郎

 NH冥王星へ

図:(NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)探査機ニュー・ホライゾンズは2015年7月14日に冥王星とその衛星カロン(Charon)の間を通過する予定。図は冥王星に近づく探査機の想像図。ニュー・ホライゾンズは2014年12月6日に冬眠から起こされ、太陽系惑星群の端、カイパー・ベルト天体群(KBO)の入口に位置する冥王星の観測に入った。

冥王星は地球の月よりも小さく直径は地球の18%、その衛星カロンの直径は冥王星の半分以上で、その軌道は冥王星の周囲を回ると云うよりお互いが回り合う連星と云われる。太陽系の惑星は黄道面ほぼ沿って真円に近い軌道を周回しているが、冥王星の軌道は黄道面から17度以上傾斜した面の楕円形で、その一部が海王星軌道の内側に入っている。

ニュー・ホライゾン位置

図:(NASA)「ニュー・ホライゾンズ」の現在位置。「緑色」は地球出発後から現在までの航跡、「赤色」は今後の予定飛行経路。「AU」(Astronomical Units)とは地球—太陽間の平均距離で、「1AU」は1億4,960 km。図上段の「秒当りの速度:14.63 km」とあるのはニュー・ホライゾンズが太陽から離れて行く秒速度、時速では52,670 km/hrとなる。

 

去る12月6日、NASAの探査機ニュー・ホライゾンズは、地球から約48億kmの距離を飛行し、太陽系の外縁、カイパー・ベルト天体(KBOs)にある冥王星まであと2.5億kmに近づいた。ここで冬眠状態から起こされ、観測装置に電源が入り観測の準備が始まった。

冥王星探査機プログラムを担当するジョン・ホプキンス大学応用物理研究所(Johns Hopkins Univ. Applied Physics Lab.)が、ニュー・ホライゾンズに起きるよう指令を送った。これに対し探査機からはオーストラリア・キャンベラにある直径70mの深宇宙ネットワーク・アンテナ経由で、6日(土)09:53pm(EST)に返信があり、全てのシステムが活動できる状態になったことを伝えてきた。

ニュー・ホライゾンズは、9年前(2006年1月19日)に地球を出発したが、以来ほぼ3分の2に相当する期間は、搭載システムの故障を防ぐため18回も冬眠を繰り返してきた。今回冬眠から目覚め活動を再開したが、これは2014年7月14日に予定通り冥王星の近く約1万kmを通過し、5個の衛星を含む関連の情報を収集し、データを地球に送信するまでは続く予定だ。

地球から48億km離れた探査機と交信するには、片道で4時間27分、往復では8時間54分も掛かる。そして現在位置から冥王星までは未だ2億5,000万kmほどが残っている。

ニュー・ホライゾンズは搭載燃料を含め重量474kg、この中に冥王星とその衛星カロン(Charon)などの組成、温度、近接撮影等のための計測機器7種類を搭載している。地球との通信機器を含め、これ等の電源としてプルトニウム238の崩壊熱を利用する「ラジオアイソトープ・熱発電装置(RTG=radioisotope thermoelectric generator)」で発電した電力(200 watts)を使っている。

 

(注)プルトニウム238(Pu238)はプルトニウムの同位体で、半減期は87.7年。放射能防護壁がほぼ不要なため、宇宙探査機の電源[RTG]用として多く用いられる。

 

10年ほど前までは、「冥王星」は太陽系の最も遠距離にある惑星と考えられていたが、今ではカイパー・ベルト(Kuiper Belt)と呼ぶ別の天体群(KBO)の入口にある天体とされている。従ってニュー・ホライゾンズは、惑星系とは別の天体を調べる初めての探査機となる。

搭載している計測機器は次ぎの通り;–

[Ralph]:可視光・赤外線波帯の撮像/分光分析装置および表面温度分布計

[Alice]:紫外線波帯の撮像/分光分析装置で冥王星の大気分析と衛星カロン とカイパーベルト天体(KBOs)の大気調査

[REX] (Radio Science Experiment):冥王星の薄い大気の組成と温度を感知する電波受信計

[LORRI] (Long Range Reconnaissance Imager):遠距離撮影用カメラ、1月15日から冥王星と衛星の撮影を開始

[SWAP] (Solar Wind Around Pluto):太陽風とプラズマの分光分析装置;冥王星大気の逃げ出す割合の測定と太陽風の与える影響の測定

[PEPSSI] (Pluto Energetic Particle Spectrometer Science Investigation):エネルギーを持つ粒子の分光分析装置;冥王星から逃げだす大気プラズマの組成と密度を測定する装置

[VBSDC] (Venetia Burney Student Dust Counter):コロラド大学の学生が提案した装置;探査機に衝突する宇宙塵の数を測定する装置

ニュー・ホライゾンズ

図:(NASA NEW HORIZONS, August 2014) ニュー・ホライゾンズ搭載の科学分析装置。ニュー・ホライゾンズは、2006年1月9日ケープカナベラルから打上げられた。2007年2月には土星近傍に到着し土星とその衛星の観測を行い、その重力を得て加速し、2014年12月末に冥王星観測に入り、2015年7月15日に冥王星に最接近する。そして2017〜2020 年にはさらに遠方のカイパー・ベルト天体(KBO)に到着、観測を試みる。

 

ハブル宇宙望遠鏡を通して見る冥王星の姿はかなりぼんやりしている。探査機が冥王星到着の2ヶ月くらい前になると、 [LORRI]遠距離カメラのお陰でかなり鮮明に見えると期待されている。冥王星近くを通過中には、探査機本体を一時的に後ろ向きにし、太陽光のバックライトの中に冥王星の薄い大気を浮かび上がらせて撮影する予定だ。ただ、これ等写真の送信速度は極めて遅く、僅か1kb/秒なので1枚の写真を送るのに数時間も掛かる。これは送信電力が僅か12 wattsであることに加え、送信距離が34 AU/50億km以上にもなるためだ。

冥王星を通過した後は、彼方に広がるカイパー・ベルト内をさらに3〜4年飛び続け太陽から65億kmの遠距離に進む。そして今年の夏にハブル宇宙望遠鏡が選び出した3個のカイパー・ベルト天体(KBO)の近くに向かい、写真を撮る予定にしている。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

NASA NEW HORIZONS, August 2014

NASA New Horizons Project Website

Aviation Week eBulletin Dec 8, 2014 “New Horizons Wakes Up for its Pluto Flyby” by Frank Morring Jr.