ラスベガスで起きた英国航空ボーイング777型機のエンジン火災


2015-09-17 松尾芳郎

BA777@Vegas

図1:(Eric Hays, AP) 9月8日夕刻ラスベガス空港で離陸滑走中に左エンジンが破裂、火災となり離陸中断した英国航空のボーイング777-200型機、BA2276便。乗客乗員が脱出したスライドが展張している。エンジンはGE製GE90-85Bである。

 

去る9月8日ラスベガス・マッカラン(Las Vegas McCarran)空港で、英国航空のフライトBA-2276、ボーイング777-200型機(登録記号G-VIIO)がロンドン ガトウィック(London Gatwick)空港に向けて出発する際に、左側エンジンの火災のため離陸を中断した。

以下は9月15日付け「The Aviation Herald」に記載された本事故に関わる概要である。

 

BA-2276便は乗客157名、乗員13名を乗せ、当日の午後4時14分(現地時間)にラスベガス空港ランウエイ07Lから離陸滑走を開始したが、間も無く左側エンジンが大音響を発し爆発、火災となった。このため直ちに離陸を中断し4分後にはランウエイ07Lの800m /2600feet付近で停止した。乗員はすぐ管制塔に「メーデー、メーデー、消防車を頼む」と連絡し、機内には避難を指示し全員がスライドを使って機外に脱出した。この際に13名が軽傷を負い手当てを受けた。エンジン火災で機体は左側の主翼、胴体にかなりの損傷を受けた。この事故で空港は4時間にわたり閉鎖された。

乗客の話;—

「左側で大音響の爆発があり、すぐにブレーキがかかり停止したが、急激な温度上昇で客室の窓2枚が溶けそこから煙が入ってきた。すぐにスライドで脱出しターミナルに連れて行かれた。後ほど機長が避難した乗客のところに来て、左エンジンが破裂したのが原因、と説明してくれた」。

目撃者の話;—

オーストリアからラスベガスを訪問中の人が、空港のランウエイ07Lの進入側近くのEast Sunset通りで空港を眺めていた時の様子を語っている。すなわち「ボーイング777-200型機が07L端に進入、いつものようにランウエイに正対しエンジン推力を最大にして滑走を始め、200-300m走った辺りで、音は聞こえなかったが左エンジンから大きな閃光と火災が発生、黒煙が立ち昇った。飛行機はすぐにスピードを落とし停止したが、黒煙はしばらく続いた」。

英国航空の話;—

「ラスベガス空港で、777-200型機の離陸滑走中に技術的な問題による事故が起きたが、乗員の指示で安全に脱出が行われ、火災は空港の消防隊の手で素早く消し止められた。搭乗者は乗客157名と運航乗員3名、客室乗員10名であった。少数の乗客と乗員が負傷し病院で手当てを受けている。搭乗者が家族と連絡するためにホットラインを用意した」。

(日本では不祥事が起きると責任のあるなしに関わらず、直ぐに当事者が平身低頭、謝罪するのが習わしだが、外国では少し対応が異なるようだ)

BA777損傷

図2:(Suave Castro / Mail Online) 英国航空BA2276便の左エンジン破裂による損傷状況。

 

本事故の調査のためにNTSBは3名の係官を派遣した。

NTSBは、2015年9月15日に暫定的な事故原因を公表した。すなわち;—

1)      エンジンの高圧コンプレッサー(HPC=High Pressure Compressor)ケースが数カ所で破れ、ランウエイ上には飛び出したHPCのローター部品が数点見つかった。

2)      エンジン本体、パイロン、胴体構造、左側内翼は火災により相当な損傷を受けている。

3)      乗員、乗客が受けた軽度の負傷は、主としてスライド脱出の際の摩擦によるものである。

4)      フライトデータなどの記録装置は取り外し、NTSB研究所で解析を始めた。

turbofan2.jpe

図3:(GE) GE90-115Bエンジンの見取り図。GE90はボーイング777型機用にGEが作るエンジンで、推力は74,000lbsから115,000lbs (330-510kN)の各モデルがある。GE90-94B型(推力94,000lbs)までは高圧コンプレッサー10段だが、図3の-115Bは9段、いずれも高圧タービン2段で駆動される。このように型式で内容が少し変わっている。高圧コンプレッサー・ローターの各デイスクは溶接で接合され全体が筒状になっている。今回はこの部分が破断、爆発につながったらしい。

 

一部の報道によると、FAA(連邦航空局)は2011年に「エンジン分解時に高圧コンプレッサー(HPC)ローターの9段と10段の間の溶接の接合部分にクラックが発見されたため耐空性改善通報(AD=Airworthiness Directive) FAA-2010-1024を発行済みで、これと本事故との関連を報じている。FAAが要求している当該部の検査は、GE90-76B、GE90-77B、GE90-85B、GE90-90B、GE90-94B、の各モデルである。

GEによると、今回の英国航空777-200型機(登録記号G-VIIO)に搭載のエンジンは、GE90-85B型であると述べるに止め、詳細は調査中としている。

-以上-

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Herald Sept 15 2015 “British Airways B772 at Las Vegas on Sept 8th 2015, rejected takeoff due to engine fire, several breaches on engine case”