2016年(平成28)度の防衛予算(その1)


2016-01-21(平成28年) 松尾芳郎

 

平成28年度(2016)の防衛予算案は、我国周辺海空域の安全確保、すなわち「南西諸島に対する攻撃への備え」と「弾道ミサイル攻撃への対応」に重点が置かれ、総額4兆9,300億円規模(GDP対比1%)となる。前年対比の伸び率は2.2%。

防衛費は平成9-15年(1997-2003)の間ほぼ4兆9,000億円台を維持していたが、その後小泉政権、民主党政権の時代で漸減が続いた。安倍政権になってからの4年間は僅かずつ増え今回初めて平成15年(2003)のレベルに戻る。

新聞は“防衛費、初の5兆円突破、総額5兆541億円”と報じているが、これには“在日米軍再編経費などを含む”ので、防衛省発表の数字とは異なる。

我国に軍事的圧力を加えているのは中国、ロシアそれに北朝鮮だ。近着の外誌によると、今年の国防予算で、中国の公表値は「18.7兆円」、年毎の伸びは依然として10%を超えている点に注目している。ロシアは、ルーブル安・石油安で経済規模が一層縮小し苦しんでが、GDP対比4%の5.6兆円を支出する。

2016国防費比較グラフ

表1:2016年の主要国が公表している国防予算の図。縦軸は「兆円」で示す。中国の国防費は、専門家筋の推定では25兆円を超えるようだ。

2016国防費表

表2:アメリカが最大で約70兆円、国民総生産・GDP対比で3.3%を投じている。続くのはロシアの4.0%、中国の2.1%など。我国は5兆円で、一部では“軍拡予算!”と騒いでいるようだが、中国やロシアなどの脅威に曝されている状況を考えると、非難は全く当たらない。“国民の生命財産と領土を守るには、未だ不足”と認識する方が正しい。

 

新予算で注目すべき新しい装備は次の通り;—

1)    弾道ミサイル防衛の強化のため8隻目となるイージス艦(8,200トン)1隻を建造、予算1,672億円。

2)    対潜水艦作戦能力の向上のため、対潜哨戒ヘリコプター「SH-60K」17機を取得、予算1,032億円。

3)    島嶼奪回作戦用に、テイルト・ローター輸送機「V-22」オスプレイを前年の5機に加えて12機を輸入取得、予算1,321億円。

4)    潜水艦「そうりゅう」(2,900トン)型の12番艦、昨年発注した11番艦に続き世界初の“リチウム・イオン電池搭載型”を建造、予算662億円。

5)    航空優勢を獲得するため、「F-35A」戦闘機6機を輸入取得(完成機4機とキット2機)、予算1,035億円。

6)    西太平洋および接続海域の広い範囲を常に監視するために、滞空型無人機「RQ-4」グローバルホーク3機を輸入取得、予算367億円。

7)    南西諸島付近の海空域の監視強化のために、新早期警戒機(AEW&C)「E-2D」アドバンスド・ホークアイを昨年度の1機に続き、1機を追加輸入取得、予算238億円。

この結果、航空機関連予算のうち、米国から輸入する航空機の割合は昨年の33%から今年度は63%に急増する。

昨年は予算節減のため初の一括発注が行われた。すなわち、川崎重工製の新型哨戒機「P-1」20機を3,781億円で発注、平成30年(2018)から4年かけて毎年5機ずつ取得することとした。

新予算では2件目となる一括発注、すなわち三菱重工から1,386億円で対潜哨戒ヘリコプター「SH−60K」を17機と共通部品が多い空自救難ヘリコプター「UH-60J」の8機を合わせ発注、2018-2021年に分割して取得する。

さらに予算295億円で「SH-60K」の後継となる新対潜哨戒ヘリコプターを開発し、2022年から2038年にかけて90機の導入を目指す。

陸上自衛隊用として、105 mm砲搭載の「機動戦闘車」36両を259億円で取得、機動師団、機動旅団に配備する。

また配備が始まった「12式地対艦誘導弾」を、追加して1個連隊分118億円で取得、南西諸島防衛に配備する。

 

以下に新予算で取得される新装備を簡単に見てみよう。

“図番号”は、上に述べた“注目すべき新しい装備”の一連番号に対応している。また、写真は一部を除き防衛省発行の「我国の防衛と予算〜平成28年度概算要求の概要」から引用した。

あたご型イージス艦

図1:(防衛省)写真は「あたご」級イージス艦。前年度に続きイージス艦1隻を建造・1,675億円、基準排水量は8,200トン。完成後は、現有のこんごう級4隻、あたご級2隻と合わせ8隻体制になる。米海軍はイージス艦を84隻を保有している。

艦橋4面に配置するSPY-1D 多機能レーダーで400 km以内の200以上の目標を探知・追尾できる。艦の前後にMk.41 VLS(垂直発射装置)合計96セルを備え、弾道弾迎撃ミサイル「SM-3」を含め、各種ミサイルを搭載できる。

SM-3 IIA

図1A:(Raytheon)日米(レイセオンと三菱重工)が共同開発中の「SM-3」の改良型「SM-3 Block 2A」ミサイルは、昨年2度の発射実験に成功し2018年には完成する予定。胴体直径が現用のBlock 1Bの13.5インチに対し21インチ(53 cm)と大きくなり、到達高度が60%増え、弾頭が大型化された。完成後は直ちに国内生産が始まり、我国のBMD体制(弾道ミサイル防衛体制)が著しく強化される。セルゲイ・ラブロフ(Lavrov)外相は、先日訪露した自民党高村副総裁に対し「ロシアの弾道ミサイル戦力の無力化に繋がるので、日本のBMD能力向上には断固反対する」と圧力をかけた。

SH-60Kヘリ

図2:(防衛省)対潜哨戒ヘリコプター「SH-60K」。基本は米海軍のシコルスキー製SH-60型シーホークで、海自はこれを1991年からSH-60Jとして配備していた。この能力向上のため三菱重工で改造開発したのが「SH-60K」である。改造内容は、機内容積を拡大、エンジンを「GE/IHI T700-IHI-401C」出力2,145馬力2基に換装、高性能ローターの開発、新型対水上レーダーISARの搭載、対艦ミサイルや対潜爆弾の搭載能力を付与、等である。2005年に正式採用、2015年度予算までに57機を発注済み、すでに多くを取得している。

 

(その2に続く)