中ロ両國の艦艇、同時に尖閣諸島接続海域に侵入し領海に接近


2016-06-10(平成28年) 松尾芳郎

 

昨日来マスコミで大きく報道されている中露艦艇による尖閣諸島周辺の接続水域侵入事件について、防衛省の発表をもとに解説を試みた。

 

9日深夜0時50分ごろ、中国海軍のジャンカイ/江凱(Jiangkai)型フリゲート1隻が尖閣諸島久場島の北東の接続水域に入ったのを、海上自衛隊護衛艦「せとぎり」が発見、直ちに接続水域から退去するよう警告し監視を続けた。フリゲートは警告に従わず南東に向かい、暫くして反転3時10分ごろには大正島北北西に航行、接続水域を離れた。

一方、ロシア海軍のウダロイ級駆逐艦を含む3隻の艦隊が、8日午後9時50分ごろに久場島と大正島の間の接続水域に南方から入ったのを海自護衛艦「はたかぜ」が探知、追尾した。ロシア艦隊はその後、9日午前3時5分ごろには北に抜け、接続水域から離れた。

外務省斎木事務次官は9日午前2時に中国の程永華駐日大使を外務省に呼び、抗議して中国艦艇が直ちに接続水域を出るように求めた。ロシアに対しては抗議ではなく、注意喚起を行うに止めた。

接続水域とは、領海(沿岸から22kmの範囲)からさらに外側22 km (12海里)の範囲を云い、国際法上は外国軍艦が入ることは許されている。しかし尖閣諸島は、中国が領有権を主張し、中国海警局所属の武装船が頻繁に領海侵犯を繰り返しているため、その都度我が海上保安庁の巡視船が対応している。この状況下で中国軍艦の侵犯(2度目)が行われたため、外務省による厳重抗議が発せられた。

しかし一般論でいえば、駐日大使を呼びつけて「抗議」するなどは犬の遠吠えに等しく効果は全く期待できない。本気でわが国固有の領土を守る気概があるなら、政府はそれに相応しい毅然とした対応をすべきだろう。

なお今回の事案はいずれも深夜に起こったため、写真撮影は不可能だったと思われ発表はなかった。

 

中国海軍ジャンカイ/江凱(Jiangkai)型フリゲート

054フリゲート

図1:(Wikipedia)ジャンカイ/江凱(Jiangkai)型フリゲートは、中国海軍で2005年から就役を開始した次世代型フリゲート。排水量4,000 ton、速力27 kt。試作型は江凱I型(054型)で2隻が建造された。量産型は江凱II型(054A型)ですでに就役済みの艦は22隻に達し、なお3隻が建造中だ。ロシア製兵装を備え、フランス製のレーダー、ソナーなどのセンサーを中心とした戦術情報処理装置を搭載している。今回接続水域に侵入したのは江凱I型(054型)で、「馬鞍山(525)」か「温州(526)」のいずれかである。エンジンは現在のMAN、旧フランスSEMTピルステイク製高速デイーゼルエンジン4基、兵装はやはりフランス製55口径100 mm 単装砲、ロシア製AK-639 30mm CIWSを4基、フランス製R440クロタル対空ミサイルを国産化したHQ-7短SAM 8連装2基、装備している。

ウダロイ

図2:(統合幕僚本部)「ウダロイI級」ミサイル駆逐艦、艦番号572「アドミラル・ビノグラドフ」。同艦はしばしば日本近海に現れており、2016-03-28に他の数隻とともに対馬海峡を南下しているので、これが演習を終わり帰途に接続水域に侵入したものらしい。ウダロイ(Udaloy)I級ミサイル駆逐艦は満載排水量8,500㌧の大型対潜艦。強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980年から1991年にかけて12隻が就航し、現在8隻が現役にある。太平洋艦隊にはこの内4隻が配備されている

久場島

図3:(外務省資料)中国海軍のジャンカイ/江凱(Jiangkai)型フリゲート1隻は9日深夜久場島北西から南東に向かいその後反転して3時10分ごろには大正島北島で接続水域を離れた。ロシア海軍ウダロイ級駆逐艦など3隻は、8日9時50分ごろ南方から久場島と大正島の間の接続水域に入り、北上通過して9日午前3時過ぎにそのまま北に向かった。

尖閣位置関係

図4:(外務省資料)尖閣諸島魚釣島と周辺の位置関係。

地図

図5:(外務省資料)尖閣諸島は九州から南西に1000kmも離れ、中国大陸や台湾の至近距離にある。

 

今回の接続水域侵犯事件で中露海軍艦艇の発見追尾を担当した我が海自護衛艦を簡単に紹介する。いずれも艦齢が高く、中国艦ジャンカイ/江凱(Jiangkai)型フリゲートに比べると残念ながら見劣りがする。

156_01l

図6:(海上自衛隊)護衛艦「せとぎり」DD-156は「あさぎり」型の6番艦。就役は1990年2月、基準排水量3,550 ton、エンジンは川崎製RR SM1Aガスタービン4基、速力30 kt、兵装は62口径76mm単装砲、Mk15 20mm CIWS2基、ハープン対艦ミサイル(SSM)4連装2基、シースパロー短SAM 8連装1基、など。第3護衛隊群第7護衛隊所属で定係港は大湊。

171_01l

図7:(海上自衛隊)護衛艦「はたかぜ」DDG-171。就役は1986年3月、基準排水量4,600 ton、エンジンはRR TM3B 2基プラスRR SM!A 2基。速力30 kt。兵装は5 inch単装砲2門、Mk15 20mm CIWS 2基、ハープーンSSM 4連装発射機2基、定係港は横須賀。

 

—以上—