NASAの木星探査機「ジュノー」が木星周回軌道に到着


2016-07-07(平成28年)  松尾芳郎

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図1:(Lockheed Martin)) 「ジュノー」が木星上空で主エンジンを噴射し速度を落とし周回軌道に入る様子を想像した図。

 

木星探査機「ジュノー」については、多くの報道があり2番煎じになるが、多少詳しく紹介したい。

NASAの木星探査機「ジュノー」ミッションは、5年前の2011年8月5日にケープカナベラルから打ち上げられ、当初の計画通り2016年7月4日に木星の北極と南極を回る軌道に入ることに成功した。これから太陽系で最大の惑星である木星を1年半かけて内部構造や磁場などを調査する。

探査機が木星の極周回軌道に入ったことは、NASAのジェット推進研究所(JP= Jet Propulsion Laboratory / Pasadena, Calif.)とロッキード・マーチンのジュノー運用センター[Juno Operation Center (Littleton, Colorado)]の両方で確認された。「ジュノー」からの通信データ受信と追跡はゴールドストーン(Goldstone, Calif.)とキャンベラ(Canberra, Australia)にあるNASAの“深宇宙ネットワーク・アンテナを使って行われている。

「ジュノー」は木星探査機としては、1995年に到着し2003年に任務を終えたNASAの「ガリレオ」ミッションに次いで2度目となる。

「ジュノー」は、地球出発後木星の引力を利用して時速265,000 km/hの超高速で飛行を続けた。木星到着は米国西部夏時間(PDT) 7月4日午後9時、ここで「ジュノー」はメイン・エンジンを35分噴射して速度をそれまでの210,000 km/hから1,951 km/hに落とし、18,698個のセルが貼ってあるソーラー・パネルが太陽光を受けるように姿勢を制御して、木星の周回軌道に入った。地球から木星までの通信は、片道48分掛かるのでこれらの操作は全て自動で行われた。

探査機は発射以来27億km以上を飛行してきたが極めて順調に作動中で、木星極軌道に入ったことで大きな山を越えたが、これから数ヶ月かけて、探査機の各システムの最終調整と、10月から始める科学観測に使う計測機器類の校正をすることになる。

「ジュノー」はこれからも精密な姿勢制御プログラムに従って飛行し、最初は53.5日掛けて曲軌道を周回し、徐々に高度を下げ速度を上げながら10月19日までに目標の14日周回サイクルに入る。

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図2:(NASA/JPL-Caltech)木星近傍に到着した探査機「ジュノー」の想像図。

 

「ジュノー」の主目的は、木星の起源と進化の過程を探ることにある。このため9つの科学計測機を搭載しており、木星の固体中心核の探査、木星の強力な磁場の調査、厚い大気中にある水とアンモニアの量の測定、それに極地方に発生するオーロラの観測、を行う。さらにこの巨大惑星が太陽系の他の惑星群に及ぼしてきた影響も調べる。木星は太陽系の巨大惑星の一つだが、この探査と通じて他の恒星(他の太陽系)が作る惑星システムの生成を理解する助けを得る。

「ジュノー」探査機は、既述のように2011年8月5日にフロリダ州ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた。このミッションはNASAのマーシャル宇宙飛行センター(Huntsville, Alabama)が進める「ニュー・フロンテアー計画」の一つである。探査機を製作したのはロッキード・マーチン宇宙システム部門(Denver, Colorado)、そしてカリフォルニア工科大学(Pasadena, Calif.)がJPLを指揮した。

「ジュノー」探査機は、今年10月下旬からほぼ1年かけて木星軌道を高度5,000 kmで飛行、32回ほど周りながら科学観測を行う。

周回は既述のように北極と南極を回る極軌道だが、木星の強力な放射線を避けるためかなり大きな楕円軌道となる。

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図3:(NASA/JPL) 「ジュノー」に搭載している科学計測装置9項目を示す。

 

搭載する科学計測装置は次の通り。

・  重力計(gravity/radio science system)、木星深部の重力分布と磁気圏の構造を調べる。

・  6波長マイクロウエーブ波長計、大気圏の厚さと酸素及び水の分布を調べる(MWR)

・  磁力計(vector magnetometer=MAG)、磁力線の強度、方位を調べる。

・  プラズマ粒子検知器 (JEDI)、とオーロラ分布測定器(JADE)は、木星外周の電子圏、プラズマ波と粒子が、大気圏内で磁気圏と(特に北極と南極で)どのように結合しているかの調査をする。

・  ラジオ波、プラズマ波波長計(radio/plasma wave experiment=Waves)

・  紫外線探知/分光計(ultraviolet imager/spectrum=UVS)と赤外線探知/分光計(infrared imager/spectrum=JIRAM)は、いわゆるカメラで、大気とオーロラの様子を構成する組成を含めて調べる。

・  カラーカメラ(JunoCam)、極地域を含め近接撮影をする。

 

「ジュノー」はNASAの探査機パイオニアと同様、位置を正確に制御するためスピンさせながら飛行し、木星周回軌道に到達した。軌道に入ってからも毎分3回の割合でスピンを続け、各スピン中は全計測器が1回は木星の観測をできるようになっている。両極間の飛行には2時間(120分)かかるので、その間に400回の観測ができる。

木星の太陽周回軌道は地球と太陽間の距離(1 AU)のおよそ5倍もあるので、木星周辺での太陽光は地球が受けるエネルギーの25分の1にしかならない。前述のように3枚のソーラー・パネルは合計で18,693個のセルを持ち、地上では14 k-wattを発電できるが、木星では僅か500 wattsしか発電できない。このため「ジュノー」のソーラー・パネルは長さ10 mにもなった。

木星には、地球を取り巻くバンアレン帯(Van Allen belts)に似ているが遥かに強力な磁気帯があり、最も強いところは北極圏でそこから南に出ている。「ジュノー」はこれを避けるために北極付近では高度を下げ、磁気帯の下を潜り飛行する。「ジュノー」の電子器具を放射線から防護するため、本体と高利得アンテナとの間にチタニウム製の覆いを設けてある。この覆いは探査機のコンピューターや計測機器を、木星から出る強力な放射線やエネルギー粒子から守るシールドの役をしている。

 

(注)木星;—太陽系の内側から5番目の惑星で、太陽系の中で最大の質量を持ち、その質量は他のすべての惑星の合計の2,5倍にもなる。赤道面の直径は140,000 km、質量は地球の318倍、約10時間で自転し、太陽からの距離は約5.2AU(天文単位、1AUは太陽と地球の距離)、太陽周囲軌道を約12年かけて一周している。大気圧は70 kPa、構成は水素90%、ヘリウム10%、その他となっている。磁場は極地域で10ガウス以上、地球の14倍ほどもある。周囲を回る衛星67個を従えている。衛星のかなで名を知られているのは、イオ、エウローパ、ガニメデ、などである。

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

NASA July 5,2016 “Juno Enters Orbit Around Jupiter”

Lockheed Martin “Juno”

NASA July 5, 2016 “NASA’s Juno Spacecraft in Orbit Around Mighty Jupiter”

NASA “Juno Spacecraft and Instruments”

Space.com July 4, 2016 “By Jove! NASA Probe Arrives at Jupiter After 5-Years Trek” by Mike Wall

TokyoExpress 2011-08-08 「木星探査に向けNASAジュノーが出発」