第2ステージに入った「民共合作」 ―共産党に『ノー』と言えない民進党—


2016-07-13(平成28年)   元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫

 

6月22日に公示され、7月10日に投開票された第24回参議院選挙は、自民党が追加公認を含め56議席と、改選となる(6年前の)50議席を上回ったが、単独過半数の57議席には届かなかった。

一方、民進党は32議席と改選45議席から後退した。

しかし3年前の2013年からみると、自民党は65議席より10議席近く減らし、民進党は2013年参院選の17議席のほぼ倍増である。

これは全国32ある一人区で、東北、信越地方などを中心に、野党統一候補に対し21勝11敗となったことなどの影響である。

前回2013年参院選では、自民党が一人区(当時は全31選挙区)で29勝2敗と圧倒したこととは大違いである。

野党統一候補は、6年前の前々回とあわせ「一人区」に減った宮城、新潟、長野、福島の4選挙区で勝利した。このほか三人区となった北海道で民主党が2議席を確保した。

これらの選挙区は、いずれも野党と議席を分け合ってきた選挙区だけに、自民党は「ぬるま湯につかってきたツケだ」との見方も強い。

その大きな要因は、環太平洋経済連携協定(TPP)への反発が強い東北での政策不信であった。従来の農業票が離反したことなどにより、東北6選挙区で自民党は1勝5敗と負け越した。

また共産党は6議席を獲得し、改選3議席の倍増となったが、2013年の参院選の8議席には及ばなかった。

 

■□今後に問題を残した「民共合作」

今回の参議院選挙の一人区で見られた野党候補の一本化は、共産党が候補者を取り下げることによって、成立したと言っても過言ではない。

参議院選挙の公示を直前に控えた6月7日、民進、共産、社民、生活の党の野党4党の党首と、シールズなどの左翼団体は、国会内で安保関連法の廃止などの政策協定を締結し、すべての一人区を野党統一候補とすることを合意した。

共産党は、民進党の公認候補がいる選挙区も含めて、香川県を除く選挙区で公認候補を取り下げた。

その香川県では、民進党が推薦を決めていた候補者を取り下げた。

その結果、安全保障観に関しても民進党と共産党との違いがわからなくなってきている。違いは民進党が「自衛隊は合憲」、共産党が「違憲」とするだけ、という印象であった。

共産党に候補者を取り下げてもらうために、民進党(当時の民主党も含めて)は、共産党や左翼団体(シールズなど)による「戦争法案」とのレッテル張りに迎合し、「反アベ」の共同行動を展開した。

しかも今回、民進党の選挙区の当選者は、3年前の10人から今回21人と倍増しているのである。

これでは民進党が、共産党への気配りが不可避となる。

さる3月27日に、民主党に維新の党が合流し、新たな党名を「民進党」とした。

イメージの悪い民主党から、政党名を「民進党」としたことが、比例票の増加に好影響を与えたように思える。

つまり民進党という政党名は、台湾の蔡英文の民進党のプラスイメージに捉えられたのではないか。

しかも比例で民主と書いた無効票が、意外に少なかった。

比例の政党名が民主党ならばマイナスイメージで、政党名投票は激減だったのではないか。

(今回、開票立会人を担当しての感想。私的なことですが)

比例代表は、政党名も候補者個人名どちらかも記載が有効である。

今回は、民進党の政党名投票が8割。(3年前は、政党名の民主党は7割)

ちなみに民進党の個人名投票は、民主党であった3年前の230万票が300万票とやや増加したに過ぎない。

 

■□野党共闘を「次の衆議院選挙でも」という共産党

今回の参議院選挙について、マスコミ各紙の事前予想では、民進党の敗北と共産党の躍進を予想していた。

ところが6月26日のNHK番組で、共産党の藤野保史政策委員長(当時)は防衛費について「人を殺すための予算」と述べ、取り消さなかった。

このため、ふわっと共産党にシンパシィを感じる層の投票行動が民進党へと流れた。

(3年前よりも選挙区で共産党は議席減)

なぜなら共産党と民進党では、安全保障観に違いが見られないからである。

野党統一候補擁立の「民共合作」は、今回の参議院選挙をペースに、次のステージに進みつつある。

それは、2年後に任期満了となる衆議院選挙で「現職議員がいる小選挙区で、共産党が候補者擁立を取り下げない」と言いだせば困る、という民進党への揺さぶりである。

小沢一郎などの生活の党は今回、一人区ばかりでなく複数区の神奈川選挙区、埼玉選挙区、大阪選挙区で共産党候補を推薦していた。

生活の党大阪府連代表の村上史好前衆院議員は「参院選のキーワードは野党共闘。その流れをつくったのは、まぎれもなく、日本共産党の志位委員長。安倍政権の暴走を止めたい」「(推薦は)おかしなことではない」と訴えた。(しんぶん赤旗による)

共産党の志位委員長は、開票日の7月10日夜の記者会見で「野党共闘の最初のチャレンジとしては大きな成功と言っていい。衆院選では発展させていきたい」と述べ、野党共闘の意義を強調した。

また民進党の声明「参議院選挙結果を受けて」(7月11日)では、「今回の選挙では市民が中心となり、これに賛同する政党が集まるという新しい民主主義の形が始まったと受け止める」「この流れを止めることなく、さらに力強くしていかなければならない」と述べた。

民進党が、次の衆議院選挙でも共産党や左翼団体に、選挙協力(共産党の候補者擁立の取り下げ)を求めるのでならば、共産党への批判さえも出来なくなってしまう。

共産党は、あくまでも情勢に応じて機敏に行動する革命政党なのである。

そして民進党は、その支持団体とされる(労働団体の)連合との関係もぎくしゃくしかねない。

連合は、共産党主導の階級的労働運動に対する民主化運動として結集した労働団体であり、共産党批判もフリーハンドである。

すなわち共産党に対し「ノーと言えない」のが民進党であり、「ノーと言える」のが連合なのである。

 

—以上—