将来戦闘機用エンジンのコアが完成、IHIが防衛装備庁に納入


2017-07-18(平成29年) 松尾芳郎

 

我国の将来戦闘機「F-3」については、概念設計「26DMU」がまとまった段階であるが、エンジンの開発はかなり先行している。この程IHIの開発、試作したエンジンの「コア」部分が完成、6月28日に防衛装備庁(ATLA=Acquisition, Technology and Logistics Agency)札幌試験場に納入された。防衛装備庁では自身の手で今月から「コア」部分の試運転に入る。

新エンジンは「XF9-1」と名付けられ、その概要は次の通り;—

1)    最大推力は33,000 lbsを超える

2)    コンプレッサーとタービンの段数は米国P&W製F119エンジンと同じ

3)    入口直径は約1m

4)    型式は2軸式ターボファン

純国産となる将来戦闘機「F-3」は、現在導入が始まった「F-35」よりかなり大型の双発機となる予定で、胴体内の兵装庫に国産の「AAM-4B」や英国の「メテオール」中距離空対空ミサイル6発を搭載する。搭載エンジン「XF9-1」の最大推力は、15 ton(33,000 lbs)とされていたが、今回の発表では33,000 lbs 以上と修正された。アフトバーナ無し時のドライ・スラストは11 tonを超える。

先進型、高推力の航空エンジンを作る能力のある国が限られている中、これは極めて野心的なプログラムと云える。これまでに、先進技術実証機「X-2」搭載の「XF5-1」実証エンジン・推力10,000 lbsを開発済みだが、新規開発の「XF9-1」はその3倍を超える大型エンジンとなる。

「XF5-1」はIHIが開発、製造し、現在「X-2」で試験飛行を繰り返している。「XF9-1」の「コア」もIHI製で、社内での試験運転を終了している。IHIによると「XF9-1」全体は予定通り2018年6月までに完成する。

XF9-1カットビュー

図1:(防衛省)次世代戦闘機用エンジン「XF9-1」実証エンジンは2018年6月完成が目標。今回IHIで完成、防衛装備庁に納入されたのはエンジン全体の性能を決定する心臓部に当たる「コア」部分である。「XF9-1」の目標推力はアフトバーナ作動時15 ton+、非作動時11 ton+。直径1 m、全長4.8 mとコンパクトに纏められている。

pr170628

図2:(IHI) IHIが開発製造し、今回防衛装備庁に納入された「XF9-1」エンジンの「コア」部分の実物。左側に高圧コンプレッサー6段、中央くびれ部分右側に燃焼器、右端の太い部分に高圧タービン1段がそれぞれ収まっている。直径約1 m、長さ約1.5 mの大きさである。「コア」部分はそれ自身がジェットエンジンで、燃料を注入し単独で実証運転をすることができる。

 

IHIが明らかにした(2017年6月28日)ところでは、IHIは将来戦闘機用エンジンを実現するための研究試作として、防衛装備庁より次の3項目を受注している;—

1)    2010年度:「次世代エンジン主要構成要素の研究試作」

ここでIHIは「最先端の流体のコンピュータ・シミュレーション技術」、「日本独自開発の金属材料」、「セラミック・マトリックス複合材料(CMC)」、「先進的冷却技術」、「高度な電子制御技術」、「ステルス技術」を提案した。また、高圧コンプレッサー、燃焼器、高圧タービン、を試作し、初期の目標性能を満足することを確認した。

2)    2013年度:「戦闘機用エンジン要素の研究試作」

1)の成果を基にして「コアエンジン」の設計製造を進め、単独試運転を行い、2017年6月に所定の機能、性能を満足することを確認し、今回納入となった。

3)    2015年度:「戦闘機用エンジン・システムの研究試作」

完成した「コアエンジン」をベースにして、前部にファン、後部に低圧タービン、アフトバーナと排気ノズルを装着した試作エンジン「XF9-1」の設計製造に取組んでいる。

「XF9-1」の入口直径は約1 mで、GE製のF110戦闘機用エンジンの1.2 mに比べ小さい。またアフトバーナを含む全長は約4.8 m、コア部分の長さは約1.5 mである。

以前の図面にはレーダー波反射を抑えるため入口に3列のガイドベーンを設けていたが、その後公表された図では普通の1段になっている。これでレーダー波反射抑制は機体側のインレット・ダクトで行うことになる。

エンジン全体の構成は、ファン(低圧コンプレッサー)3段、高圧コンプレッサー6段、タービンは高圧、低圧共に1段ずつ。そして高圧系、低圧系のローターはお互いに反対方向に回転する。これは「F-22」戦闘機に使われているP&W「F119」エンジンと同じ方式である。アフトバーナ後端の排気ノズルは3D推力偏向ノズルで2台のエンジンは別々に作動し、機体の機動性を高める。

タービン入口温度は平均1,800℃で、P&W「F119」の1,600℃より高い。しかし「F-35」戦闘機用のP&W「F135」エンジンの約2,000℃には及ばない。

政府は、搭載予定の実証エンジン「XF9-1」の試験結果を待って、2018年度中に「F-3」戦闘機の国産化の可否を決めることにしている。

 

(注):「F119」エンジンとは;—

P&W製 「F119-PW-100」エンジンは、ロッキードマーチン「F-22」ラプター(Raptor)戦闘機用として作られ、2基を装備する。P&W社内ではPW5000と呼ばれ、アフトバーナ時推力35,000 lbs。2次元の推力偏向装置付き排気ノズルを備える。「F119」を改良したのが「F135」推力40,000 lbsエンジンで、これは我国でも導入が始まったロッキードマーチン製「F-35」戦闘機用のエンジンである。

「F119」は2軸式、直径120 cm、全長516 cm、ファン(低圧コンプレッサー)3段、高圧コンプレッサー6段、タービンは高圧1段、低圧1段、お互い反対方向に回転する。推力 / 重量 比は9以上。

B-2-3_F119_Engine_03_KEN_MIDDLETON

図3:(Pratt & Whitney) 「F119-PW-100」エンジン2基を装備するロッキードマーチン「F-22ラプター(Raptor)」戦闘機は第五世代機と呼ばれ、ステルス性、速度、機動性、状況把握能力、に優れ、長距離空対空及び空対地ミサイルを装備する。しかし高度な技術を駆使しているため、輸出が禁止され、単価も$150,000,000 (約160億円)に達するため、生産は195機にとどまり2011年に製造終了となった。「F-22」は、マッハ1.82の超音速巡航ができ、AIM-120 AMRAAM長距離空対空ミサイル6発とAIM-9サイドワインダー短距離空対空ミサイルを2発を携行できる。戦闘行動半径は850 km、最大離陸重量38 ton。

_F119_Engine 

図4:(Pratt & Whitney)IHI製の 「XF9-1」は「F119-PW-100」と構成が似ているが、「XF9-1」は直径で20 cm 小さく、長さも「F119」の5.16 mに対し4.8 mとされ、全体に小振りである。それにも拘わらず推力レベルは同等以上になるのは、設計年代の違いで新技術の採用に差が生じるためと思われる。「F119」は1983年代に推力30,000 lbs級として設計がスタートし、GE提案の「YF120」に勝って「F-22」のエンジンに採用された。その後「F-22」が生産終了したのに伴い、2013年1月には507台を以って生産を終了した。写真は「F119」の2次元推力偏向ノズルの作動を示している。

 

既述のように、政府は「F-2」の代替機として次世代戦闘機「F-3」を独自開発にするか、他国との共同開発にするか、あるいは既存機の改良型にするか、の決定を2018年度中に行う。

これを受け、ロッキードマーチンはこの6月に「F-35」の改良型を提案したが、今のところ進展はない。現在「F-35A」の国産が開始されたところだが、「F-35」改良型を選べば開発費、生産コストも大幅に低減できることは間違いない。

航空自衛隊では「F-35A」を42機調達するが、大部分は三菱重工で最終組立てが行われているので、提案の改良型に決まればここで製造されることになる。

しかし防衛省の新戦闘機構想「F-3」の要件とはかなりの開きがある。すなわち「F-3」は、胴体内兵装庫に「AAM-4B」や英国MBDA製「メテオール」長距離空対空ミサイル6発と、出来れば短距離空対空ミサイル2発を収納可能なことが求められている。さらに長時間、長距離の飛行をするため燃料タンクの増設が必要となる。これらを考えるとロッキードマーチン提案の「F-35J」の実現は難しそうだ。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Network Jul 10, 2017 “Japanese Fighter Engine Program Advances to Core testing” by Bradley Perrett

防衛装備庁ニュース平成29年6月28日“戦闘機用エンジン要素(その2)の研究試作(コアエンジン)の納入について”

IHIニュース 2017年6月28日“将来の戦闘機用を目指したジェットエンジンの主要部分(コアエンジン)を納入”

KJCLUB 2017-06-28 “XF9-1”

TokyoExpress 2016-12-15 “検討中の国産次世代戦闘機「F-3」は米空軍の「F-22」より大型?“

TokyoExpress 2017-04-24 “F-3戦闘機は日英共同開発になるか?“