NASA探査機ニュー・ホライゾンズ、カイパーベルトの新目標へ


2017-08-11(平成29年) 松尾芳郎

 

NASAの担当科学者たちは探査機「ニュー・ホライゾンズ」の次の目標、遥か彼方にあるカイパーベルト(KBO=Kuiper Belt Object)の天体「2014 MU69」に関するデータの収集に取り組んでいる。天体「MU69」は冥王星からさらに16億kmも遠方にある。ニュー・ホライゾンズは2019年1月1日に「MU69」近辺に到達し観測する予定である。

「ニュー・ホライゾンズ」は2006年1月に打ち上げられ、2007年2月に木星近傍に到着し木星とその衛星群の探査をした。それから木星の重力を利用して速度を上げ冥王星に向かい、2015年7月14日午前(日本時間14日夜8時)に冥王星に最も接近した。そのまま冥王星と衛星カロンの間を高速で通過し、多くの写真データを取得、地球に送った。探査機はさらに遠方のカイパーベルトを目指して現在時速51,500 kmで飛行中である。冥王星から地球に電波や光が届くには片道4時間25分掛かる。

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図1:(NASA) 「ニュー・ホライゾンズ」は、カイパーベルト天体の探査をする最初の探査機となった。「カイパーベルト(KBO)」は円盤状の天体群で海王星の外側30ないし55 AU (1 AU(天文単位)は地球—太陽間の距離) に広がる数兆個の氷塊から成る。以前小惑星と呼ばれた冥王星はKBOの中の最大の氷塊の一つで、200年の周期で太陽を回っている。KBOは46億年前に太陽系で形成されたと云う。KBOの名前は1951年に最初にその存在を予言したGerard Kuiper氏にちなんで名付けられた。

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図2:(NASA/JHUAPL/SwRI/Alex Parker) NASAのニュー・ホライゾンズの次の目標、カイパーベルトの天体「2014 MU69」の想像図。この想像図は2017年7月17日アルゼンチンのパタゴニア(Patagonia, Argentina)で望遠鏡がとらえた映像を元にしたもので、2つの大きな塊からなる「MU69」が近くの星の光を受け光る姿を示している。2つの塊は繋がっているのか離れているのかは判らない。

 

10年ほど前までは、「冥王星」は太陽系の最も遠距離にある惑星と考えられていたが、今ではカイパーベルト天体(KBO)と呼ぶ別の天体群の入口にある星とされている。

ニュー・ホライゾンズが目指すカイパーベルト天体「2014 MU69」は、地球から65億km以上離れたところにあり、今年、2017年7月17日に近くの星の近傍を通過した。ニュー・ホライゾンズ観測チームは、世界中20数箇所に観測用望遠鏡を配置し、これらによりMU69の詳細なデータの取得を試みてきた。そのうちの一つアルゼンチン南部・パタゴニアに配置した直径40 cmの車載型望遠鏡が今回の成果をあげた。観測チームの一員アレックス・パーカー氏がこれを使ってMU69が星の光を受けて光る神秘的な瞬間」を撮影するのに成功したのだ。これは単に映像だけでなく、探査機「ニュー・ホライゾンズ」の飛行軌道を決めるに必要なデータになり、MU69の大きさ、形、軌道、周辺の状況などを把握するのに有用な知識をもたらしてくれた。

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図3:(NASA/JHUAPL/SwRI/Alex Parker)カイパーベルト天体「2014 MU69」を描いたもう一つの想像図。若しかしたら「MU69」は単一の大きな塊かもしれない。

 

この「神秘的な観測(occultation observations)」の結果、観測チームは、MU69は一つの楕円球体ではなくて、“長径の楕円球体”、つまり“細長いフットボール”、状の塊が2個接続しているか、あるいは2個が極めて接近して回っているかもしれない、と推定している。「MU69」の大きさは、観測結果から長さ30 km程度、2個の塊の場合はそれぞれが直径15-20 kmと思われる。

コロラド州Boulderの南西研究所(SwRI= Southwest Research Institute)に所属し、ニュー・ホライゾンズ・ミッションの首席研究員であるアラン・スターン(Alan Stern)氏は次のように語っている;—「MU69の形は極めて興味をそそる。ニュー・ホライゾンズのフライバイが成功するまでは心が休まらない」。

今回のミッションはニュー・ホライゾンズにとり3回目(1回目は2007年2月の木星探査、2回目は2015年7月の冥王星探査)となる歴史的な観測になるが、これに必要なデータは7月17日の“観測”で得られた。観測チームは、ハブル宇宙望遠鏡と欧州宇宙機構のガイア衛星(Gaia satellite)の観測データを使って地球から観たMU69の正確な位置を算定している。スターン氏は「この“ハブル望遠鏡”と“ガイア衛星”の働きが今回のミッションの成否の鍵を握ると言って良い」と語っている。

何れにしてもニュー・ホライゾンズがMU69に到着するのは、17ヶ月後に迫っており、この不可思議な天体を解明する期待が高まっている。

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図4:(ESA) ガイア衛星は欧州宇宙機構(ESA)が設計した2個の望遠鏡を積む光学観測衛星で、2013年にL2ラグランジェ・ポイントに打ち上げられ、2014年7月から活動を始めた。銀河系の3次元図を作成するための装置を積んでいる。ガイアはこれまでよりはるかに高精度な天体の位置とその移動角速度を測定できる。銀河系内の1,000億個の恒星だけでなく、太陽系近傍の小天体の観測にも使える。

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図5:(NASA)ニュー・ホライゾンズは搭載燃料を含め重量474kg、冥王星と衛星カロン(Charon)などの組成、温度、近接撮影等のための計測機器7種類を搭載している。通信機器や計測機器の電源にはプルトニウム238の崩壊熱を利用する「ラジオアイソトープ・熱発電装置(RTG=radioisotope thermoelectric generator)」で発電した(200 watts)を使っている。プルトニウム238(Pu238)はプルトニウムの同位体で、半減期は87.7年。放射能防護壁がほぼ不要なため、宇宙探査機の電源[RTG]用として適している。

 

—以上—

 

本稿作成に参照した主な記事は次の通り。

NASA News April 4, 2017 “New Horizons Halfway from Pluto to Next Flyby Target” by Tricia Talbert

NASA News June 14, 2017 “New Horizons Team Digs into New Data on Next Flyby Target” by Tricia Talbert

NASA News Aug.4, 2017 “New Horizons’ Next Target Just got a Lot More Interesting” by Bill keeter

NASA Science “Kuiper Belt; In Depth”

ESA Space Science “GAIA Overview”

TokyoExpress 2015-07-14 “ニュー・ホライゾンズ、冥王星とカイパーベルト探査を実施“

TokyoExpress 2014-12-20 “ニュー・ホライゾンズ、冬眠から目覚め、いよいよ冥王星へ“