三菱MRJ、試験飛行中にP&W GTFエンジンが停止、緊急着陸


2017-09-02(平成29年) 松尾芳郎

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図1:(三菱重工)三菱MRJリージョナルジェット機。2020年半ばのFAA型式証明取得に向けて4機がモーゼスレイクで試験飛行中。MRJには76席型MRJ70と88席型MRJ90があり、現在試験中なのはMRJ90。受注は8社から、いわゆる確定が243機、オプションが204機となっている。

 

三菱航空機は、8月21日に発生した試験飛行中のMRJリージョナル機のエンジン故障“フレームアウト(flameout)”を受け、MRJの試験飛行を一時中断した。三菱によると、2号機”FTA-2”の左エンジンP&W製PW1200Gが飛行中に停止した。

どのような試験を行なっている際に“フレームアウト”したかは明らかにされていないが、オレゴン州ポートランド(Portland, Oregon)の西170 kmの太平洋上に設定された訓練空域を飛行中に発生し、パイロットは直ちに左エンジンを停止した。

同機はモーゼスレイク(Moses Lake, Washington)・グランドカウンテイー(Grand County)空港を午後2時に出発し太平洋上所定の空域で飛行したが、この故障のため引き返し、ポートランド国際空港に午後5時12分に無事に着陸した。

ワシントン州

図2:(Google Map) MRJ飛行試験拠点のあるモーゼスレイクと訓練飛行空域、不時着したポートランドの位置関係。

 

着陸後P&W支援チームによるエンジン・ボアースコープ検査で内部に損傷があることが判った。このため当該エンジンを取り卸し、P&W社に送付し詳しい検査をしている。”FTA-2”号機には新しいエンジンが取付けられ、モーゼスレイクに向け飛び立ち、着陸した。

なおトラブルのあったPW1200Gエンジンは今年(2017) 5月にFAA型式証明を取得済み。

この件を受けて三菱では、原因が判明するまでは試験飛行は停止する、しかしFAA型式証明取得のスケジュールには影響ないと見ている。ANAへの初号機引渡しは、当初の目標は今年(2017年)としていたが、今年の初めに量産機の設計変更が必要になったとして、2020年6月に延期された。

三菱重工宮永社長によると引渡し延期の理由は「落雷の影響や客室床からの水漏れの影響を避けるため電子機器の配置を変更すること、それに関連して機内電線(23,000本以上)の配置変更をすること、の2つ」。8月30日の記者会見では、今年(2017年)秋から設計変更した試験機2機の製造を開始し、完成次第モーゼスレイクに送り込む」と述べた。

今回の件が“条件付確定発注(conditional firm order)”とされる米国の会社“スカイウエスト(Skywest)”の50機+オプション50機と、“トランス・ステイツ(Trans States)”の100機+オプション100機の発注に影響が出るか、一部で懸念されている。

 

エンジンを作るプラット&ホイットニー(Pratt & Whitney)社では、A320neoなどに搭載するPW1000G系列の大型エンジンで、エンジン停止後にシャフトが冷却不均一で変形・シールが磨耗する問題、ファンブレード生産の遅れ、地上試運転中にエンジンが停止、などのトラブルに遭遇、解決に追われてきた経緯がある。

エンジン停止が発生したのはボンバルデイアCSeriesのPW1500Gで、2014年に地上試運転中にオイル系統のシールが破損したのが原因と判明、このため3ヶ月間試験飛行が中断した。CSeriesは、その後2016年から就航しているが順調に飛んでいる。

PW1000Gギアード・ターボファン系列エンジンは、この他にエンブラエルE-Jets E2、ロシアのイルクートMC21などに使われている。

PW1200Gカット

図3:(Pratt & Whitney) 三菱MRJリージョナル機に搭載するPW1200Gエンジンのカットビュー。PW1200Gには2種類あり、MRJ70用はPW1215G・推力15,000 lbs、MRJ90用はPW1217G・推力17,000 lbs。在来型エンジンに比べ燃費は15%+低減、騒音は50%低減、エミッションも大幅に低減されるのが特徴。図中の番号の説明は次の通り。

①:ファン1段、直径56 in(140 cm)、バイパス比 9 : 1

②:ファン駆動ギヤボックス、減速比 3 : 1

③:低圧コンプレッサー2段

④:高圧コンプレッサー8段

⑤:燃焼室

⑥:高圧タービン2段

⑦:低圧タービン3段

 

(注)ファン駆動ギヤボックスは減速比3:1で、低圧タービン・コンプレッサーの回転数12,000-15,000 rpmを、ファン側では4,000-5,000 rpmにしている。これで低圧ローターとファンをそれぞれ高効率で運転できる。ギヤボックスの伝達能力は3万馬力で、オイル交換以外の整備は不要である。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Flight Global 24, Aug. 2017 “MRJ Test Fleet Grounded after PW1200G Flameout” by Mavis Toh

AINonline August 24, 2017 “Mitsubishi Grounds MRJs following In-flight Engine Failure” by Gregory Polek

MRO-Network.com Aug. 31, 2017 “MRJ Testing Hit by Geared Turbofan Shutdown” by Alex Derber

Pratt & Whitney “PW1200G Engine”

TokyoExpress 2017-04-04 “素晴らしい運行実績のエアバスA320neo、しかしエンジン問題は残る“

TokyoExpress 2016-12-27 “PW1000Gギアード・ターボファン、遅れを取戻し生産が軌道に“