2018-6-28(平成30年) 松尾芳郎
我国では米朝首脳会談を受け、安全保障問題は最悪の危機を脱したとする見方が広まっている。一方で、我が国周辺での中国軍とロシア軍の活動は依然として活発な状態が続いている。油断は禁物、警戒心を緩めず監視、対応、有事に備える準備を怠らないことが肝要である。
以下は防衛省統合幕僚監部が発表した今年6月の中露海空軍が我が国周辺で行った行動の一部始終と中国国防省が6月17日に発表したニュースの大要である。これらについて我が国メデイアは一部を除き殆ど報じていない。
- 6月3日:午後5時ごろ中国海軍ジャンカイ(江凱)II級フリゲート「益陽」(548) 1隻が東支那海から太平洋に向け、宮古海峡を通過した。那覇基地・第5航空群所属のP-3C哨戒機が発見。
- 6月3日:午後1時ごろロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻(954、971)が宗谷岬北西海域をオホーツク海に向け通過した。余市基地・第1ミサイル艇隊所属くまたかが発見。
- 6月4日:中国空軍のY-9情報収集機1機が東支那海から宮古海峡を通過、太平洋に出て南東に変針、バシー海峡方面に向かい、その後往路同じ航路で東支那海に戻った。空自那覇基地・南西航空方面隊(SADF)所属の戦闘機が緊急発進、領空侵犯に備えた。
- 6月4日:午後11時ごろ中国海軍ジャンカイ(江凱)II級フリゲート「益陽」(548)1隻が太平洋から宮古海峡を通過東支那海に向かった。本艦は6月3日太平洋に向かった艦と同一である。那覇基地・第5航空群所属P-3C哨戒機と舞鶴基地・第14護衛隊所属の護衛艦まつゆきが発見。
- 6月5日:後後1時半ごろロシア海軍グリシャV級小型フリゲート2隻(332、375) およびナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻(418、450)が、オホーツク海から宗谷海峡を通過、日本海に向け航行した。余市基地の第1ミサイル艇隊くまたかおよび八戸基地・第2航空群所属のP-3C哨戒機が発見。
- 6月16日:午前3時ごろロシア海軍グリシャV級小型フリゲート2隻(332、375)が、また午後6時ごろにもグリシャV級小型フリゲート2隻(354、362)が、それぞれ宗谷海峡を通過オホーツク海に向かった。余市基地所属のミサイル艇くまたかと八戸基地・第2航空群所属のP-3Cが発見。
- 6月17日:午後6時ごろ中国海軍ジャンカイ(江凱)II級フリゲート「益陽」(548)が東支那海から宮古海峡をぬけ太平洋に出た。本艦は6月3日宮古海峡通過した艦と同じである。那覇基地のP-3C哨戒機と舞鶴基地所属のあさぎりが発見。
- 6月23日:午後4時ごろ中国海軍ジャンカイ(江凱)II級フリゲート「益陽」(548)が、宮古海峡を通過して太平洋から東支那海に入った。本艦は6月17日に宮古海峡を通過太平洋に出た感と同一である。那覇基地のP-3Cが発見。
- 6月24日:午後7時ごろ中国海軍ルフ級駆逐艦1隻(113)が西対馬海峡を東支那海から日本海に向け通過した。佐世保基地・第3ミサイル艇隊おおたかと鹿屋基地・第1航空群のP-3Cが発見。
一連の中露軍の活動の中で、気になるのは中国海軍ジャンカイ(江凱)II級フリゲート「益陽」(艦番号548)の1ヶ月間で2回もの宮古海峡往復である。いずれの場合も太平洋に出てから南東に変針、台湾の東岸に向かい、それから元に戻っている。
これと前後して中国国防省は6月27日、China Military com.を通じて“中国海軍、台湾を周回する訓練を実施”と発表した。すなわち;—
『中国海軍はイージス艦相当の駆逐艦を含む2隻で、バシー海峡、台湾海峡を通過、台湾を周回しながら実戦を想定した訓練を行った。演習は6月17日に、中国版イージスの蘭州級駆逐艦“旅洋II / 052C型(Luyng)「済南(Jinan) (152) 」と、ジャンカイ(江凱)II級フリゲート「黄岡(Huanggang)」(577)が参加して行われた。特に”旅洋/ 052C型“は、最新のフェイズド・アレイ・レーダーと強力な対空ミサイルを備えているので台湾軍にとり大きな脅威となる。
中国海軍と空軍は独立志向を強める台湾に圧力を加えるべく、台湾領海に接近して演習を繰り返している。今回の演習は6月で2回目となるもので、台湾の防空識別圏(ADZ)内で1週間以上にわたって行われた。中国海空軍は台湾軍との戦闘だけでなく、台湾の同盟国である日本や米国軍とも十分に戦う能力を備えている。
中国海軍では、052C型に止まらず間もなく排水量10,000 ton級055型ミサイル駆逐艦が完成するので空母と協力して台湾への圧力をこれから一層強めることになる。台湾は火遊びをやめ、中国との交渉のテーブルに着くよう強く警告する。』
図1:(統合幕僚監部)統合幕僚監部発表の中露軍活動をグーグル地図に転写した図。
以下に統合幕僚監部発表の中露軍艦艇および空軍機の写真を示す。複数回撮影された写真は最初のもので代用する。
図2:(統合幕僚監部)6月3日宮古海峡を通過、太平洋に向かう中国海軍ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(548)「益陽」。本艦は6月4日には再び同海峡を通り東支那海に戻った。また本艦は6月17日に東支那海から宮古海峡を通過太平洋に進出、同23日には再び太平洋から宮古海峡経由、東支那海に戻った。江凱II級/ 054A型は満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型フリゲート、艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルが米海軍のMk41VLSと似た形式の32セルVLSに収められている。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載している。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5。HQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後24番艦「許昌」までが完成している。
図3:(統合幕僚監部)6月3日撮影したロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(954)。ミサイル艇くまたかが撮影したのでやや不鮮明。本級は2016年にも数回宗谷海峡に出現している。超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に備える。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装は前記SS-N-22ミサイル4基と76mm単装砲1門。
図4:(統合幕僚監部)同じく6月3日撮影のロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(954)。
図5:(統合幕僚監部)Y-9情報蒐集機・機体番号9211は、去る1月29日、2月27日、東支那海から対馬海峡経由、日本海に入り、反転、同じコースで立ち去った機と同一機。写真で見ると、機首と胴体側面前後にアンテナを収める膨らみがあるので「Y-9JB」型らしい、通信、レーダー波、などを傍受し諜報活動を行うELINT型と思われる。基本形は空軍用中型輸送機Y-9で、全長36 m、翼幅38 m、全備重量65 ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 kmとされる。
図6:(統合幕僚監部)6月5日宗谷海峡を通過、日本海に向かうロシア海軍グリシャV級小型フリゲート(332)。ミサイル艇くまたか撮影のため不鮮明。6月16日に同艦は宗谷海峡を東進、オホーツク海に向かった。グリシャ(Grisha)型は1124型小型対潜艦とも呼び、1970年代から90隻以上建造された。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2基(96発)など強力な対潜装備を持つ。
図7:(統合幕僚監部)同じく6月5日撮影のグリシャV級小型フリゲート(375)。くまたかが撮影。6月16日に同艦は宗谷海峡を東進、オホーツク海に向かった。
図8:(統合幕僚監部)6月5日宗谷海峡を通過、日本海に向かうナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇(418)。くまたかが撮影。ナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇は、沿岸警備を任務とする大型ミサイル艇で、1990年代に100隻以上整備されたタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇の後継艦。基準排水量570 tonで我が海自の「はやぶさ」型ミサイル艇の3倍近くあり、M-507Aジーゼルエンジン3基を搭載出力30,000 hp、速力は32 kt。兵装は、射程が150 km近くあるP-120マヒラート対艦ミサイル3連装発射筒を2基備える。また対空戦用に4K33オサーM短SAM連装発射機1基及びAK-639 30 mm CIWS対空機関砲を1基、さらに対水上戦用に57 mm連装速射砲1基を備える。大型であるだけに海自「はやぶさ」級よりはるかに強力。ロシア海軍ではこの級のミサイル・コルベットを40隻程度保有している。
図9:(統合幕僚監部)同じく6月5日宗谷海峡を通過、日本海に向かうナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇(450)。くまたか撮影。
図10:(統合幕僚監部)6月16日夕刻宗谷海峡を通過オホーツク海に向かうロシア海軍グリシャV級小型フリゲート(354)。P-3Cが撮影。
図11:(統合幕僚監部)同じく6月16日夕刻宗谷海峡を通過オホーツク海に向かうロシア海軍グリシャV級小型フリゲート(362)。P-3Cが撮影。
図12:(統合幕僚監部)6月24日夕刻、西対馬海峡を東支那海から日本海に向け航行した中国海軍ルフ(Lufu)級駆逐艦(113)「青島」。ルフ級駆逐艦は052型と呼ばれ1995年前後に2隻建造され、中国海軍がレーダーやミサイルなどに米、仏などの西側技術を大幅に取入れた初の大型艦。2010年から大規模な近代化改修が施された。満載排水量4,800 ton、速力31 kts、航続距離4,000 n.m.。
図13:(統合幕僚監部)中国国防省は6月27日、China Military com.を通じて“中国海軍、台湾を周回する訓練を実施”を公表、その中に“旅洋II / 052C型駆逐艦「済南(152)」”を含むとした。写真は平成30年4月20日に海自P-3C哨戒機が撮影した同艦。「旅洋型」駆逐艦は、「旅洋I型:広州級(052B型)」、「旅洋II型:蘭州級(052C型)」、「旅洋III型:昆明級(052D型)」に大別される。「旅洋I型」は試作で2隻のみ。「旅洋II型」は中国版イージス艦と呼ばれ僚艦防空能力を持つ、6連装回転式VLSを8基搭載し、6隻が建造された。
「旅洋III型」は最新モデルで、2018年初めまでに18隻が製造中で、うち13隻が就役済み。
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