エアバスとボーイング、それぞれ狭胴機メーカーを傘下に —ファンボロー航空ショーでの民間機トピックス−


2018-07-25(平成30年) 松尾芳郎

 

我国でも報じられたが、エアバス、ボーイングは、100席級狭胴型機メーカー、ボンバルデイアおよびエンブラエルとそれぞれ事業を統一することになった。エアバスは、ボンバルデイアから経営難のC Seriesプログラムを無償で引き受け、ボーイングはエンブラエルのE2 Jet部門を有償で受け入れ設立するべく協議中である。

すなわち、エアバスは、カナダ・ボンバルデイアからC Series開発、生産に関わる事業部門を無償(プラス将来の損失補填として7億ドル追加)で移管する提案を受け(昨年10月)、両社が今年7月に運営母体を発足した。一方ボーイングは、今年(2018)7月5日ブラジルのエンブラエルと、同社の民間機部門と合弁企業を設立することで基本的に合意し、ボーイングが80 %、エンブラエルが20 %を出資する予定。

ボンバルデイアのC Seriesには-100と-300の2機種があるが、合意の結果「エアバスA220シリーズ」と名称が改められた。一方エンブラエルのE2系列機は旧型の-E1系列機を改良した機体で、両機種共にエアバス、ボーイングの狭胴型機(A320および737)系列の小型機とほぼ同じサイズでお互い競合する関係にある。

エアバス、ボーイング共に昨年始めまでは狭胴型機メーカーを傘下にしようとは考えていなかった。しかし、ボンバルデイアC Seriesの生産コストが高くなり開発資金の回収が困難になることが判明、同社の大株主であるカナダ・ケベック州政府がC Seriesプログラムをエアバスに譲渡したいと発表、事情が一変した。ただしボンバルデイアは、他の航空機事業、CRJシリーズ機およびQ400系列機はそのまま残し生産を続ける。

エアバスにとり、新しいA220 (旧C Series) は、当面利益は見込めないが、エアバスの持つ販売力とサプライヤーに対する強い影響力で、損失はかなり縮小される見込みである。

A220プログラムを担当するのは、エアバスが50.01 %を保有する「Airbus and C Series Aircraft Limited Partnership (CSALP)」部門で、この7月1日に発足した。残りはボンバルデイアが31 %、ケベック州が19 %の株式を持つ。最初のエアバス塗装のA220は7月10日に完成、ファンボロー航空ショーに姿を見せた。

A220-300写真

図1:(Airbus) エアバスA220は、これまでボンバルデイアC Seriesと呼ばれていた狭胴型機。A220-100型機は108 – 133席級、A220-300型機は130 -160席級である。すでに2016年12月から就航中。エアバス、ボンバルデイア、ケベック州政府の3社によるC Seriesプログラムの運営母体は、2018年7月に発足したばかり。エンジンはP&W製PW1500G推力23,000 lbs級2基を装備する。

 

一方エンブラエルの新型機「-E2」は自力で利益を出しつつあるが、ボーイングは共同出資会社に38億ドル(80 %に相当)を出資する。ボーイングの狙いは「-E2」による利益よりも、エンブラエルが保有するエンジニアリング、生産能力などの活用にある。エンブラエルは、これまで10種類ほどの軍民両用の機種を次々に送り出し、その技術力は航空機業界で高く評価されている。

すなわち、エンブラエルは、民間航空機部門ではエアバス、ボーイングに次ぐ世界第3位のメーカーで、E190-E1、同-E2系列機の他にビジネス機Phenom 100および300、Legacy 600、を生産中。軍用機部門では中型輸送機KC-390、AMX A1-A戦闘機などを送り出している。生産工場は、サンパウロとフロリダ州オーランドに持つ。

エアバスがC Seriesを傘下に入れA220と改めて間もなく大きな受注があった。ジェットブルー航空(JetBlue Airways)からで、「運用中のエンブラエル190型機をエアバスA220-300型機の60機(総額55億ドル)で更新する」覚書を締結した(7月11日)。引渡しは2021年から始まる。

ジェットブルー航空は、米国/ブラジルの2重国籍を持つ投資家デイビッド・ニールマン(David Neeleman)氏が率いる一群の航空会社の一つで、ウエストジェット(WestJet)、アズール(Azul)ブラジル等とのグループ企業である。同社はさらにオプションとしてA220-100を含め60機を追加し、2025年までに現在保有する全機をA220系列機にすると発表した。エアバス民間航空機部門社長エリック・シュルツ(Eric Schulz) 氏は、今年中にさらに数百機のA220の受注があるだろう、と語っている。

エアバスでは、A220-100および-300は、それぞれが競合するエンブラエルE190-E2およびE-195-E2と比べ座席あたり燃費が相当低い(1説では40 % ?)、と主張している。しかしこれは座席数の差、A220-300では最大160席、E195-E2では146席、に加え、A220の製造コスト低減の見積りなどが影響していると思われるので一概には言えない。

A220の受注は確定402機、引渡し済み38機。生産能力はカナダ・ケベック州モントリオールのミラベル空港内の工場で年間120機、それに2020年から稼働する米国アラバマ州モーバイル工場で60機を予定している。モーバイル工場では、A320neoの生産も並行して行われる。

ジェットブルーの大量発注は、1月前にE190-E2を就航させたばかりのエンブラエルに大きな衝撃を与えた。これがボーイングへの急接近の理由となったのは間違いない。E190-E2は、エアバスA220-300に対抗する機種で、リージョナル機市場で競合関係にある。

E190-E2 at Show

図2:(Embraer) ショーに飛来したエンブラエルE190-E2。E-Jet E2系列はリージョナル機として成功したE-Jet E1系列の後継機。最初のモデルはE190-E2で、2018年4月に就航したばかり。系列には、小型のE175-E2 (80席級)、E190-E2 (96席級)、大型のE195-E2 (120席級)、の3つがある。いずれも旧型機に比べ、主翼を再設計、エンジンを-E1系列機で使っていたGE製CF34系列からP&W製PW1900Gに換装、フライバイワイヤを採用、新アビオニクスを搭載、などの改良をしている。-E2系列機の受注は3機種合わせて274機。旧型の-E1系列の受注が1,400機に達したのに比べまだ少ない。

 

ボーイングとエンブラエルの合弁企業設立案は話し合いが始まったばかりで、最終決定は2019年になりそう。ボーイングとの合弁企業案が報道されたのは昨年12月、今年のファンボロー航空ショーでエンブラエル社長兼CEOのパウロ・シルバ(Pauro Silva)氏は「ボーイングとの合弁は極めて戦略的なもので、エンブラエルの新製品をより広い市場に送り出すためだ」と語っている。さらに「設立する合弁企業は、ボーイングが80 %・38億ドルを出資、エンブラエルが20 %を負担する。この合弁でエンブラエルはより多くの航空機を製造し、顧客に引渡し、ブラジルにより多くの仕事をもたらし、より多くの技術を習得し、国内への投資を活発化させるだろう。」と述べている。

両社の関係は軍用機部門ではむしろ進んでいる。対象はKC-390軍用輸送機で、営業・拡販で協力する覚書が締結され、今後の改良についても協議が行われている。

エンブラエル民間航空機部門社長のジョン・スラッタリー(John Slattery)氏は「今回の航空ショーで、E1およびE2系列機は約300機の購入覚書を獲得した」と発表した。この中には旧型で席数を76席以下に抑えたE175-E1の受注125機+オプション100機が含まれている。

小型のE175-E1が多くを占めたのは米国内特有の事情による。すなわち「主要エアラインとパイロット組合との間で結ばれた協約”scope clause” があり、主要エアラインがリージョナル路線運航を外注する場合、使用する機体は席数76席以下」と決められているのに対応したものである。この分野の市場は、三菱がMRJ70で販路を伸ばそうとしている分野であり、この意味でMRJの完成が待たれる。

今年(2018) 10月にはブラジル大統領選挙があり、合弁企業が新大統領により承認されるか否かが、一つの焦点になっている。

ショー期間の民間航空機分野での各社の受注は、エアバスとボーイングでほぼ折半した。ボーイングは737 MAXと777貨物機で受注を伸ばし、エアバスはA320neo系列機の大量受注で成功した。

l   ボーイングの受注は公示価格で984億ドルに達したが、737 MAXの受注と覚書は400機を超え、狭胴型機分野のベストセラーとなった。

BAが777-300ERを3機

未公表社から737 MAXを合計100機

JSAから737 MAX を30機

Vietjetから737 MAXを100機

GECASから737-800を35機

ACGから737 MAX8を20機

Air Lease Co.から787を含む78機

Voga-Dnepr航空から777貨物機を29機購入意向

インドJet Airwaysから737 MAを75機

ルーマニアTAROMぁら737 MAX 8を5機

Qatar Airwaysから777貨物機を5機、

DHLから777貨物機を14機

max10

図3:(Boeing) ボーイング737 MAX 系列は、基本の737、次の737クラシックから737 NG (Next Generation) を経て登場した最新の737型機。737 MAXにはMAX-8、MAX-9、MAX—10、の3つがあり、MAX-8とMAX-9は2017年5月から就航している。エンジンはNG系列のCFM56-7Bから新しいCFM Leap-1Bに換装している。中でもMAX-10は販売好調なエアバスA321neoに対抗すべく開発された機体で、MAX-9から胴体を1.7 m延長し全長44 mとし、エンジン推力を31,000 lbsに増加、ランデイングギア高さを23 cm伸ばし胴体延長に対応している。これで客席は標準2クラスで188席となりエアバスA321neoに近ずく。航続距離は8,100 km、細部設計は2018年2月に決定済み、2020年の就航開始を目標にしている。現在の受注は約400機。

 

l   エアバスは431機を受注し、これにはJetBlueからのA220-300 (旧C Series)の60機を含んでいる。

VietjetからA321neoを50機受注

未公表社からA330neoを6機受注

スペインLevelからA330-200を2機受注

Peach AviationからA320neoを2機受注

ハワイアン航空からエアバス機10機を受注

未公表社からA321を25機、A320を75機受注

Oman のSalamAirからA320neoを6機受注

Macqarie GroupからA320neoを20機受注

未公表のリース会社からA320を80機受注

香港のNWS HoldingsとChow Tai FookからA320neoを20機受注

クエートのWataniyaからA320neoを25機受注

インドのVistaraからA320neoを13機受注

台湾のStaluxからA350-1000を12機とA350-900を5機受注

A321neo

図4:(Youtube) ファンボロー航空ショーで、エアバス民間航空機部門のジローム・フューリー(Guillaume Faury)社長は、A320neo系列機が直面しているエンジン問題は一刻も早く解決すべき、と語った。現在約100機の系列機がツールース(Toulouse)とハンブルグ(Hamburg)工場でエンジン待ちで繋留中。エアバスは今年末までには問題は解消する、と約束している。エンジン・メーカーのP&WとCFM Internationalは解決に努力しており、結果に期待したい、としている。エアバスでは、ボーイング737 MAX 10と検討中のボーイングNMA(New Midmarket Airplane)が具体化する前に、好調なA321neo(写真)で市場を制したい考えだ。

A321neoはA320neo系列で最大の機種で、最大離陸重量をA320neoの79 tonから97 tonに増やし、これに伴い胴体、主翼、ランデイングギアを強化してある。客室は、標準2クラスで206席、モノクラス最大244席で、伝えられるボーイングの新中型機NMAより数席少ないだけである。A321neoは2016年2月に就航開始、今年初めまでの受注は1,900機を超え、増え続けている。現在離陸重量を増やし、航続距離をA321neo LRの7,400 kmから8,300 km以上に伸ばすA321neo XLRを検討中で、2022年の就航を考えている。

A320neo系列機全体の2018年6月の受注は6,143機、内引き渡し済みは359機で、狭胴型機市場の60 % を占める。

 

l   エンブラエルの受注状況は-E1と-E2の合計で300機に届かず、しかも大半は旧型の-E1系列機であった。

リパブリック(Republic Airways) から小型のE175-E1を100機+オプション100機受注

クエートのWataniyaからE195-E2を10機受注

ブラジルのアズール(Azul)からE195-E2を21機受注

ユナイテッド航空傘下のリージョナル路線用にE175-E1を25機

 

終わりに

このようにエアバス、ボーイングがそれぞれ狭胴型機メーカーを自社陣営に組込む事になったが、状況は2社でかなり異なる。

エアバス・ボンバルデイアでは新組織が発足し、受注は順調に伸びている。しかもエアバスの出費はゼロ。これに対しボーイング・エンブラエルは、基本合意に達したばかりで合弁企業が発足するのは2019年、さらにボーイングは80億ドルの出費が必要、しかもエンブラエルが頼みとする-E2系列機の売上は期待ほどではない。

一言で言えば、この競争でエアバスの優位は動かない。その中で我国が開発する三菱MRJ70の販売は十分伸びる余地があると見る。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week July 16-29, 2018 Page 38-39 “From Four to Two” by Jens Flottau

Aviation Week July 16-29, 2018 Page 48-53 “Farnborough 2018 /Commercial Programs to Watch”

Aviation Week Network Jul 20,2018 “Airbus MovesAhead wo\ith A321XLR Definition” by Jens Flottau and Guy Morris

The Manufacturer July 20, 2018 “Airbus dominates Farnborough Airshow 2018”