8月の我国周辺海域における中ロ海軍の活動


2018-08-24(平成30年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部は、次の発表を行った。

30-08-07 「中国海軍艦艇の動向について」

30-08-08 「中国海軍艦艇の動向について」

30-08-09 「ロシア海軍艦艇の動向について」

30-08-17 「ロシア海軍艦艇の動向について」

以下にそれぞれについて解説する。

これらについて我国マスコミは一切報じていない。

 

86日月曜日午後5時、中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻およびフチ級補給艦1隻が種子島の東50 kmの海域を北西に進み、大隅海峡を西に通過、東支那海に入った。海自呉基地第42掃海隊所属の「つのしま」が発見追尾した。

これら3隻は昨年12月5日に大隅海峡を東に進み太平洋に出たものと同じ。

08-06 ジャンカイII 546

図1:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(546)「塩城」は江凱II級/ 054A型の10番艦。満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型フリゲート。艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルが米海軍のMk41VLSと似た32セルVLS(垂直発射装置)に収められている。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5である。HQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後27番艦「日照」まで完成、中国海軍の主力フリゲートとして整備されている。

08-06ジャンカイII 550

図2:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(550)「准坊(Weifang)」は14番艦になる。

08-06 フチ補給艦889

図3:(統合幕僚監部)903型「福地」級補給艦の3番艦、艦番号889は2013年就役の「太湖」。本格的な洋上補給艦で、空母打撃艦隊を支援するのが主任務、同型艦は8隻が完成している。満載排水量23,000 ton、速力20 kts、甲板には、前方/燃料移送用、後方/ドライカーゴ用の門型ポスト2基を備えている。搭載補給物資は艦船用燃料7,900 ton。903型補給艦の充実で中国海軍の遠洋作戦能力は著しく向上した。

大隅海峡付近

図4:(Google) 8月6日および同8日の中国艦隊の航跡。いずれも4,500 ton級の僚艦防空能力を備える大型フリゲート2隻と2万トン級大型補給艦の艦隊。これらを発見、追尾したのが海自の500 ton級小型掃海艇。これでは攻撃されたらひとたまりもない。攻撃に対抗できる5,000 ton級の護衛艦による警戒、監視が必要だ。

 

8月8日水曜日午前5時、中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻とフチ級補給艦1隻が、口永良部島の西40 km の海域を東に進み、大隅海峡を抜け太平洋に向かった。呉基地第42掃海隊所属の「つのしま」と佐世保基地第43掃海隊所属の「うくしま」、および鹿屋基地第1航空群所属のP-3C哨戒機が発見、追尾した。

08-08 ジャンカイII 539

図5:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(539)「燕湖(Wuhu)」は25番艦。

08-08 ジャンカイII 579

図6:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(579)「邯鄲(handan)」は20番艦。

08-08フチ補給艦960

図7:(統合幕僚監部)903型「福地」級補給艦の5番艦、艦番号960は2015年就役の「東平湖」。

MSC_683_JS_Tsunoshima

図8:(海上自衛隊)大隅海峡を通過する中国艦隊を発見、追尾した海自掃海艇「つのしま」は「すがしま」型の3番艇。基準排水量510 ton、満載排水量590 ton、全長54 m、幅9.4 m、デイーゼル・エンジン2基で出力1.800馬力、速力は14ノットの低速、艇体は木造。「すがしま」型は、英国海軍のサンダウン級機雷掃海艇をモデルにして、1996-2007年間で合計12隻建造された。搭載装備もサンダウン級に準じて、英国およびフランス製の情報処理装置、機雷探知器、機雷処分具を使っている。

 

89日木曜日午前5時、ロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻が、北海道宗谷岬の西100 kmを東に進みオホーツク海に入った。余市防備隊第1ミサイル艇隊所属「くまたか」が発見、追尾した。

08-08 タランタルIII916

図9:(統合幕僚監部)海自ミサイル艇「くまたか」が撮影したタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(916)。超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に備える。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装はSS-N-22ミサイル4基と76mm単装砲1門。さらに対空火器として、新型の高射ミサイル発射器3M87コールチクに9M311Kミサイルを搭載、また30 mm 6砲身機関砲2基を装備している。タランタル級哨戒艇は1241型とも呼ばれ多くの派生型がある。海自「くまたか」に比べ2倍以上の大きさ、強力な兵装を誇る。

08-08タランタルIII991

図10:(統合幕僚監部)同じく海自ミサイル艇「くまたか」撮影のタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(991)。

 

816日木曜日午前10時、ロシア海軍ウダロイ級駆逐艦2隻が、北海道宗谷岬の北西80 kmの海域を東に進みオホーツク海に入った。余市防備隊第1ミサイル艇隊所属「くまたか」が発見、追尾した。

これに関連して、ロシア海軍情報管理局は次の発表(2018-08-20) をして、日本側の報道を訂正した;—

「太平洋艦隊戦闘支隊はオホーツク海で対潜戦闘、対空戦闘、操艦訓練を行うため、ロケット巡洋艦「ワリヤーグ」、駆逐艦「ブイストルイ」、大型ミサイル対潜艦、の3隻がオホーツク海へ向かった。つまり、同時刻に宗谷海峡を通過したのは「大型対潜艦のウダロイ級駆逐艦2隻ではなく、「スラバ級ミサイル巡洋艦1隻」、「ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦1隻」、「ウダロイ級駆逐艦1隻」の3隻とするのが正しい。」

日本側は警備が手薄だったため、通過艦艇全てを把握できなかったようである。

宗谷海峡付近

図11:(Google) 8月16日ロシア太平洋艦隊旗艦「バリヤーク」を含む3隻の艦隊が宗谷海峡を通過した経路。北方4頭はロシアが実効支配中で、我国の施政権は及んでいない。通過した艦隊はいずれも1万トン前後の大型艦3隻で、これを発見追尾したのはわずか200 tonの小型艇。攻撃されればたちまち撃沈される。大隅海峡と同様、宗谷海峡の警備には大型艦の配備が必要だ。

08-16 ウダロイ

図12:(統合幕僚監部)ロシア海軍情報管理局では「大型対潜艦」と呼んでいる。海自ミサイル艇「くまたか」撮影のウダロイ(Udaloy)級駆逐艦(艦番号不明)。満載排水量8,500㌧の大型対潜艦、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中。太平洋艦隊には4隻が配備されている。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。

スラバ級巡洋艦

図13:(統合幕僚監部)2017-06-25、宗谷海峡を通りオホーツク海に入る時に撮影した写真。艦番号011は1989年就役の「バリヤーク」。太平洋艦隊の旗艦で2008年にオーバーホールを完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が現役配備中。両舷4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン」対艦ミサイルが装備されている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。度々北海道宗谷海峡や対馬海峡近辺に現れている。

ソブレメンヌイ駆逐艦

図14:(統合幕僚監部)2017-06-25、宗谷海峡を通りオホーツク海に入る時に撮影した写真。956型ソブレメンヌイ級駆逐艦は10隻が就役中で、「ブイストルイ(Bystry) 715」はそのうちの一隻。1980-1994年にかけて作られた。蒸気タービン推進艦のため維持に手間がかかるようだ。満載排水量8,500 ton、速力33 kt。対空兵装は30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSAM発射機2基、6連装対潜ロケット砲2基、さらに主砲としてAK-130型130 mm連装砲2基を持つ。艦後部にヘリ1機を搭載する。我が国近海にはしばしば現れている。

 

宗谷海峡でロシア艦隊の捕捉、追尾を行った海自ミサイル艇について触れる。これは昨年7月2日付けTokyoExpress記事の再録。

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図15:(海上自衛隊)「はやぶさ」型ミサイル艇(PG = guided missile patrol boats) は2000-2004年(平成12-16年)に建造された6隻のみ。余市防備隊所属の「わかたか」(PG-825)と写真の「くまたか」(PG827)はこの中の2隻。他の4隻は舞鶴基地と佐世保基地にそれぞれ配備されている。基準排水量200 ton、全長50 m、の小型艇。エンジンはIHIライセンス生産のLM500-G07ガスタービン5,400 hpを3基と付属のウオータージェット推進器。速力最大44 kt、乗員21名、兵装は、艇尾に90式対艦ミサイル連装発射筒2基、前甲板に76 mm単装砲1門。対空機関砲はない。

 

余市防備隊は、海自大湊地方隊の配下部隊で北海道小樽市近くの余市郡余市町にあり、第1ミサイル艇隊の一部が駐留する。大湊地方隊には「わかたか」(825)と「くまたか」(827)の2隻が配備され、秋田県沖から北海道北端の稚内までの広い範囲の日本海海域を警備している。

 

 

—以上—