米空軍、大型ロケット開発で「ブルー・オリジン」、「ノースロップ・グラマン」および「ULA」を選定


2018-10-22(平成30年) 松尾芳郎

 

米空軍は、ロシア製RD−180エンジンに依存してきた打上げロケットを「LSA (Launch Service Agreement)」計画で国産化を進めてきた。これに基づいて10月10日に、3社と合計20億ドルで6年以内に試作機を開発する契約を結んだ。試作機完成後、第2フェイズの審査を行い2社に絞り、それらが空軍の重要ペイロードの打上げを担当することになる。すなわち;—

  •  選定された3社は「ブルー・オリジン(Blue Origin)」、「ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)」および「ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA =United Launch Alliance)」。
  •  開発費支給額は、「ブルー・オリジン」は「ニュー・グレン(New Glenn) 」に5億ドル、ノースロップ・グラマン」は「オメガ(OmegA)」に7億9,200万ドル、「ULA」は「バルカン・セントール(Vulcan Centaur)」に9億6,700万ドル。
  • 「スペースX (Space X)」は2016年に上記3社と共に1回目の「LSA」開発契約を結んだが今回は選定されなかった。

 

「スペースX」:

「スペースX」は、「ファルコン9」とその大型版「ファルコンヘビー」をすでに実用化し、空軍が進める打上げ計画「国家安全保障宇宙ミッション(NSS= National Security Space Mission) 」に採用されている。従来空軍など国防総省の衛星打上げは「ULA」が独占していたが、2016年に「スペースX」はGPS-IIIの打上げを低価格で獲得、国防総省の仕事に参入している。これまでに「ファルコン9」でGPS-IIIを5基、さらに「ファルコンヘビー」で秘密衛星の打上げ2件を獲得している。同社の打上げ予定表には、100基以上がリストされており、収益合計は120億ドルに達する。しかしこのうち空軍との契約は7 %に過ぎない。

「スペースX」が選に漏れたことについて空軍の調達部門幹部は「同社は重要な打上げチームの一員であり、最新のGPS衛星を含み今後7回の打上げを契約済みである。今回の選定は、今後の「NSS」ミッションに選ばれる前提条件ではない。「スペースX」が「LSA」に参加を望むなら第2段階で競争できる」と話している。

 

「ULA」:

一方「ULA」にとっては、今回の「LSA」契約は必須であった。同社の将来計画は、国防総省から40 %、NASAから40 %、残りを民需から、とする予定となっているからだ。「ULA」は今年8月に、再使用可能として計画中の「バルカン」のエンジンを「ブルー・オリジン」社から購入する契約を結んだ。つまり「ULA」にとり、「ブルー・オリジン」は競争相手であると同時にキー・サプライヤーでもある。

以下に3社が開発する打上げロケットの概要を紹介する。

「ブルー、オリジン」の「ニュー・グレン(New Glenn)」

 「ニュー・グレン」:

「ニュー・グレン」の完成予定は2024年7月31日。

「ニュー・グレン」は高さ86 mの“2段式”、高さ99 mの“3段式”案があったが中止となった。ペイロード・フェアリングを含む筐体の直径は7 m、ペイロード容積は他の打上げロケットが採用する直径5 m級の2倍以上になる。

1段目は、自社開発の液体酸素(LOX) / 液化天然ガス(LNG) 燃料の「BE-4」を7基束ねて装着、打上げ後は1,000 km離れた洋上に待機する回収船に着陸して再使用する。再使用回数は25回が目標。1段目の合計推力は385万lbs (17,100 kN)になる。

2段目は宇宙空間で使うため再着火可能な「BE-3U」推力24万lbsを2基装着。

「ニュー・グレン」の製造はフロリダ宇宙基地内の空軍施設36号発射台の隣接地に建設中の巨大施設で行われる。

「ニュー・グレン」の打上げと1段目の回収を示す動画(約2分)があるので、タップしてご覧になる事をお勧めする。

 

youtu.be/BTEhohh6eYk.webloc

 

ブルー・オリジン(Blue Origin)

宇宙開発を目的に2000年にアマゾンの創業者ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏が設立した。現在、有人カプセル「ニュー・シェパード(New Shepard)”」の大気圏外弾道飛行および地球周回軌道飛行の試験を行っている。「ニュー・シェパード」カプセルの打上げブースターは、2018年7月までに試験飛行を9回実施済み、初回を除く全てでブースターを含む回収に成功している。ペゾス氏はこの数年間、「ブルー・オリジン」社に毎年10億ドルの資金を供給している。そして来年には「BE-4」エンジンと「ニュー・グレン」打上げにさらに10億ドルを投入し開発を進める計画だ。

有力調査機関“モーガン・スタンレー(Morgan Stanley)”によると、ベゾス氏が保有するアマゾンの時価総額は1,600億ドルで、これはNASAの宇宙探査予算お16年分に相当すると云う。

ニューグレン

図1:(Blue Origin) 「ニュー・グレン」打上げロケットの完成想像図。

ニューグレン2

図2:(Blue Origin) [ニュー・グレン]の構造概要。

「ニュー・シェパード」:

「ニュー・シェパード」システムは、完全に再使用が可能な「垂直離着陸(VTVL=vertical takeoff and vertical landing)」機能を備えている。システムは、「ブースター」の頂部に「カプセル」を取付け、垂直に打上げられ、2分半ほど加速してからエンジンを停止、「カプセル」は大気圏外で切り離され弾道飛行に入る。「ブースター」は数分間自由落下した後に自動的にエンジンを再始動、垂直にゆっくり着地する。一方「カプセル」はパラシュートで安全に着地する。

「カプセル」は与圧式、大きな窓(108 cm x 72 cm)を6個設け、6名用の座席が用意されている。「カプセル」頂部には着陸用のパラシュート3個が収められる。

「ブースター」は、高さ20 m、安全な姿勢制御ができるよう頂部に空気が通過するリングがあり、その周りには4枚のフィンが付いている。またその近くには8枚の大型エアブレーキがあり、降下時に開く。「ブースター」エンジンは、自社開発の「BE-3PM」、推力11万lbs、1基である。エンジンは降下着陸の際には再着火され、時速8 kmで着地できる。着地時には高さ4 mほどの4本のランデイングギアが胴体基部から張り出され安全な着地を助ける。

ニューシェパード

図3:(Blue Origin) 「ブルー・オリジン」の西テキサス発射基地から打上げられた8回目(2018年4月29日)の「ニュー・シェパード」。これは7回目の飛行で回収され、再使用されたもの。頂部の「カプセル」は打上げ2分半で分離、大気圏外弾道飛行ののち回収された。「ブースター」も安全に着地、回収された。

ニューシェパード回収

図4:(Blue Origin) 2018年7月18日西テキサスで行われた「ニュー・シェパード」9回目の試験で、「ブースター」が着地する様子。一方「カプセル」は脱出用モーターを点火して高度119 kmまで上昇、11分間の弾道飛行をし、回収された。「シェパード」の名前は、NASAの宇宙飛行士で「マーキュリー(Mercury)」カプセルに乗務、宇宙飛行をしたアラン・シェパード(Alan Shepard)氏 にちなんだもの。

ここで「ブルー・オリジン」が開発した「BE-3」と「BE-4」エンジンを簡単に紹介する。両エンジンとも正確な始動/停止を含む操作性に優れ、発射時には大推力が出せ、着陸時には推力を絞り込む機能を備えている。また特筆すべき点は、いずれも自社資金で開発が行われている。

「BE-3」:

「BE-3」は、液体水素(LH2)・液体酸素(LOX)を燃料とするロケットで、1段目用の「BE-3PM」と上段用の「BE-3U」の2種類がある。

BE-3PM

図5:(Blue Origin) 「ニュー・シェパード」の「ブースター」で使用中の「BE-3PM」エンジン。推力は110,000 lbs、「ブースター」帰還時は20,000 lbsまで推力を絞り、誤差30 cmの精密な着陸ができる。簡単な「タップ・オフ(tap-off )」構造で、主燃焼室の高温ガスの一部を抽気してターボポンプを回す方式、これで一般のロケットにある予燃焼室/前段燃焼室を省いている。

BE-3U

図6:(Blue Origin) 開発中の「BE-3U」。真空中で高性能を出せるようエキスパンダー・サイクルとし、大きなノズルを使う。推力は125,000 lbs。

「BE-4」:

BE-4

図7:(Blue Origin) 「BE-4」は開発中の大型エンジン。液化天然ガス(LNG) / 液体酸素(LOX) 燃料、推力は550,000 lbs (2,400 kN)。LNGはガス化に伴いタンク内を自動的に加圧するので、ケロシン燃料の場合に必要なヘリウムガスを使う複雑なタンク加圧装置は不要。現在地上試験を繰り返している。

 

「BE-4」は、「ニュー・グレン」1段目に7基、また、2014年末には「ULA」社打上げロケット「バルカン・セントール」1段目に2基装備が決定済み。

「BE-4」は濃酸素予燃焼室方式(Oxygen-rich Staged Combustion Cycle)の設計で、高性能と開発リスクの低減を目指している。2基の「BE-4」を使うことで110,000 lbsの推力が得られ、ロシア製「RD-180」に比べ打上げ能力で勝る。

 

「ノースロップ・グラマン」の「オメガ(OmegA)」

「オメガ」は、“オービタルATK (Orbital ATK)” 社が開発する打上げロケットだが、同社は「ノースロップ・グラマン」に92億ドルで買収され(2018年6月)その傘下となり、今は「ノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ(Northrop Grumman Innovation Systems)となった

「オメガ」は同社内の「フライト・システムズ・グループ」が開発する。この部門は固体燃料ロケットを担当し、「ペガサス」、「アンタレス」などの小型、中型の打上げロケットおよび各種ブースターを開発している。

「NSS」ミッション用として中型「オメガ」を2021年に最初の試験発射を行い、その後大型「オメガ」を2024年末までに完成する予定である。打上げ能力は、GTO(Geosynchronous Transfer Orbit/静止トランスファー軌道)に4.9–10.1 ton、GEO(Geostationary Equatorial Orbit / 地球赤道静止軌道)に5.25–7.8 tonとされる。

中型、大型の違いは1段目のみで、いずれも3段式で他は同じ、2段目は「キャスター(Castor)300」固体燃料ロケットを1基、3段目は液体水素/液体酸素使用のエアロジェット・ロケットダイン製「RL-10C」エンジン2基を使う。いずれも1段目、2段目ともに胴体直径は3.7 mだが、3段目とフェアリングは直径5 mに太くしてある。

中型「オメガ」は、1段目に「キャスター(Castor) 600」固体燃料ロケットおよび胴体周囲に「GEM-63」または「GEM-63XL」固体燃料ブースター(SRB)を数本取り付ける。

大型「オメガ」は、1段目は「キャスター1200」固体燃料ロケット、胴体周囲に「GEM-63」または「GEM-63XL」固体燃料ブースター(SRB) 6本を取付ける。

「キャスター」系列は、同社が開発してきた一連の固体燃料ロケット/ブースター(SRB)で、スペースシャトルに使われたSRBが基本である。シャトル用SRBは、推力280万lbs (12,000 kN)、高さ45.5 m、直径3.7 m、であった。

「キャスター120」:空軍の固体燃料弾道ミサイルICBM「MX」の1段目に使われている。我国の「H-II」ロケットに使うSRB (IHI開発の「SRB-A」)はこれを基本にしている。

「キャスター300」:スペースシャトルSRB 1分節が基本で、高さ12.7 m、直径3.7 m。

「キャスター600」:スペースシャトルSRB 2分節が基本で、高さ22 m、直径3.7 m。

「キャスター1200」:スペースシャトルSRB 4分節が基本で、高さ37.5 m、直径3.7 m。

「オメガ」の胴体周囲に取付ける固体燃料ブースター(SRB)の「GEM」は[Graphite-Epoxy Motor]の略で“炭素繊維複合材(CFEP)製ケースを使用していることを示す。燃料は「HTPB」を使用。

「GEM-63」は高さ20.1 m、直径1.6 m、推力373,000 lbs(1,660 kN)、燃焼時間84秒。

「GEM-63XL」は高さ21.6 m、直径1.6 m、燃焼時間94秒である。デルタIV、アトラスV、バルカン、各系列の打上げロケットの1段目にSRBとして使用される。

1段目、2段目の筐体(モーターケース)はすでに4基が完成し、2019年から地上試験を開始する。

(注)1段目胴体には必要に応じSRB「GEM-63」または「GEM-63XL」が6本まで装着される。

中型、大型オメガ

比較表オメガ

図8:(Northrop Brumman)中型オメガと大型オメガの比較図。

オメガ想像図

図9:(Northrop Grumman) 「ノースロップ・グラマン」の大型「オメガ」ロケットの完成想像図。1段目は「キャスター1200」高さ37.5 m、2段目は「キャスター300」高さ12.7 m、いずれも直径3.7 mの固体燃料ロケット、胴体周囲の固体燃料ブースター(SRB)は「GEM-63XL」を6本使用する。3段目は「RL-10C」液体燃料ロケット2基を装備しフェアリングを含め直径は5 mになる。

オメガ胴体

図10:(Northrop Grumman) 「ノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ」が開発中の「オメガ」ロケットの胴体/モーターケースは炭素繊維複合材(CFRP)製。同社は一体成形工程を開発し、鋼製に比べ強度は2倍、重量は80 %軽量化している。我国のIHIは、この成形工程をライセンス導入、国産の固体燃料ブースター「SRB-A」の製造に使っている。

 

「ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)」の「バルカン・セントール(Vulcan Centaur)」

「ULA」は「LSA」を3社の中で最大の9億6,700万ドルで契約した。

第1段には、ブルー・オリジン製「BE-4」エンジン2基とノースロップ・グラマン製「GEM-63XL」固体燃料ブースター(SRB)を最大6基使う。第1段「BE-4」は打上げ後回収され再使用される。第2段にはエアロジェット・ロケットダイン製の新型「RL 10C」エンジンを使う。2025年2月31日までに完成予定。

ULA (United Launch Alliance)

ロッキード・マーチン・スペース・システムス(Lockheed Martin Space Systems)とボーイング国防・宇宙・保安(Boeing Defense, Space & Security) の両社で作る合弁会社で、米国政府(国防総省とNASA)の宇宙船、衛星の打上げを任務として2006年12月に設立された。打上げロケットは、ボーイング系「デルタIV (Delta IV)」とロッキード系「アトラスV (Atlas V)」の2つで、「アトラスV」はロシア製RD-180エンジンを使ってきた。

米議会は、ロシア製エンジンを使うのは2022年までと決議しており、これの答える形で、ULAでは2015年4月に「デルタIV」および「アトラスV」の後継機「バルカン・セントール」の開発を決めた。

「バルカン・セントール」は「アトラスV」対比でコストを半減することを目標にしている。1段目はエンジンを「BE-4」(推力55万lbs) 2基、必要に応じて6基の固体燃料ブースター(SRB)「GEM-63XL」を装着する。打上げ後エンジンは本体から切り離しパラシュートで降下させ、ヘリコプターで回収する(本体は回収しない)。2段目は「アトラスV」の「セントール」を基本に、エンジンを新型の「RL-10C」に変え最大4基搭載し「セントールV」とし、現用の「デルタIVヘビー」より30 %多いペイロードを打上げる。

バルカン

図11:(United Launch Alliance) ULAの「バルカン・セントール564」の想像図。

「564」とは、フェアリン直径5 m、SRB本数が6本、2段目エンジンが4基、を意味している。大きさは、高さ58.3 m、直径5.4 m、重量55 ton。

「ULA」は2018年10月にペイロードに関する情報を次のように発表した。

バルカン打上げ能力

図12:(United Launch Alliance)「バルカン・セントール」ロケットの打上げ能力を示す表。

最後にLSA (Launch Service Agreement)」計画で選定された3機種の比較表を示す。参考にスペースXの「ファルコン・ヘビー」と三菱の「H-III」の要目も併記する。

ロケット比較表

図14:「ニュー・グレン」はエンジンを含め最も開発が進んでいる。「オメガ」大型は3段目のエンジンを除き全て自社技術で賄っている。「バルカン・セントール」はエンジンは全て外注し低価格化を目指している。数値は正しいと思われるもを記載したが、開発途上でもあり変更があり得る。

17-07 衛星軌道解説のコピー

図15:地球低軌道(LEO=Low Earth Orbit)、静止トランスファー軌道(GTO= Geosynchronous Transfer Orbit)、地球赤道静止軌道( GEO=Geostationary Equatorial Orbit)の関係を示す図。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした記事は以下の通り。

 

CNBC 27 Sept 2018 “Jeff Bezos’ space company Blue Origin just landed a major rocket deal” by Michael Sheetz

CNBC 10 Oct 2018 “US Air Force hands Blue Origin, Northrop Grumman and ULA each a major rocket deal” by Amanda Macias

CBS News Oct 12, 2018 “3companies win major Air Force rocket contracts” by William Harwood

Aviation Week Network Oct 12, 2018 “SpaceX Losses out on US Air Force Next-Gen Launcher Development” by Irene Klotz and Jen DiMascio

Blue Origin “New Shepard Ready to Fly? ”

Blue Origin “New Glenn Delivers”

Blue Origin “Rocket Engines Designed for Reuse”

Northrop Grumman Newsroom April 16, 2018 “OMEGA: Orbital ATK’s New Large-class Rocket for US Air Force”

Air Force Technology 11 October 2018 “USAF awards $792m LSA to Northrop’s OmegA rocket development”

Orthrop Grumman “OmegA Intermediate and Large Class Space Launch Vehicle”

United Launch Alliance “Vulcan Centaur”

TokyoExpress 2016-04-30 “米国、打上げロケットのロシア依存から自国製への切り替えを急ぐ“

TokyoExpress 2018-09-28 “JAXA、H-IIBロケットで宇宙ステーション補給機7号機(HTV7)を打上げ“