平成31年1月の中ロ両軍の我が国周辺における動向/Chinese and Russian Forces Movements Nearby Japanese Islands in January


2019-02-01(平成31年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部の1月分発表をまとめると次のようになる。すなわち、ロシア軍の動きは、両国首脳会談等で協議中の北方4島返還交渉を牽制するためか、依然として活発な状態が続いている。一方中国軍は米中貿易戦争で防戦を強いられている影響か、我国に対する威嚇行動は、尖閣諸島海域での接続水域・領海侵犯は頻繁に繰り返しているものの、全体としてやや低調になっている。

(According to the Ministry of Defense Joint Staff Japan, Chinese and Russian Forces movements surrounding the Japanese Islands were kept high as usual during January 2019. Four notable reports have been issued as follows.)

 

統合幕僚監部発表は次の通り。

①1月16日 ロシア機の日本海における飛行について

②1月17日 ロシア海軍艦艇の動向について

③1月17日 ロシア機の日本海における飛行について

④1月24日 中国海軍艦艇の動向について

 

以下に各「発表」を解説する。

 

①  1月16日 ロシア機の日本海における飛行について

16日(水)ロシア空軍のSu-24戦術偵察機2機が日本海沿岸に飛来した。機体番号[22]は北海道北端西の礼文島沖から北海道西岸に沿い南下小樽沖の奥尻島付近から西に進路を変え立ち去った。機体番号[07]は本州能登半島北佐渡ヶ島北西沖に飛来、秋田県沖合を北東に進み男鹿半島沖で北西に進路を変えシベリアに向かった。いずれも我国防空識別圏(ADIZ=Air Defense Identification Zone)を飛行したが領空侵犯はなかった。航空自衛隊戦闘機が緊急発進し監視、警戒に当たった。

16日Su-24 (22)

図1:(統合幕僚監部)写真は機体番号[22]。Su-24戦術偵察機は、2018年4月7日、9月1日、12月19日にも我国の日本海側防空識別圏を侵犯した。スーホイ(Sukhoi)Su-24攻撃機の後期量産型Su-24Mを偵察機型に改装した機体でSu-24MRと呼ぶ。機首にはBKR-1側方視認レーダー、胴体下面には赤外線センサー、電子偵察機材、各種カメラを搭載、主翼下面には電子情報蒐集ELINTポッドのほか対地・対艦巡航ミサイルを携行する。ロシア空軍の戦術偵察機の主力。

基本のスーホイ(Sukhoi) Su-24フェンサー(Fencer)は、超音速の全天候攻撃機、可変後退翼、双発で並列座席に乗員2名が乗る。1974年就役開始1993年までに約1,400機が作られた。航続距離3,000 km、爆弾・ミサイル搭載量は8 ton。構造、電子装備の近代化改修が行われSu-24M2として配備されている。最大離陸重量は43,8 tonの大型機で、可変後退翼は飛行モードに応じて4段階にセットできる。エンジンはサターン(Saturn)AL-21F-3A、アフトバーナ付き推力24,700 lbsが2基。ロシア空軍では各種合わせて約370機を配備している。

16 Su-24偵察機

図2:(統合幕僚監部)Su-24戦術偵察機、機体番号[07]。

1-16 ロシア機

図3:(統合幕僚監部)1月16日日本海沿岸に飛来し我国が配備するレーダー等の電子情報を収集したロシア空軍Su-24戦術偵察機2機の航跡。

 

②1月17日 ロシア海軍艦艇の動向について

16日(水)午前8時ごろ下対馬南西115 kmの海域をロシア海軍太平洋艦隊旗艦のスラバ級ミサイル巡洋艦1隻、ウダロイI級駆逐艦1隻、およびボリスチリキン級補給艦1隻の3隻が航行し、対馬海峡を北上して日本海に入った。発見、追尾したのは海上自衛隊第43掃海隊「とよしま」(下関)と第1航空群鹿屋基地の「P-3C」哨戒機。

これら3隻は、昨年10月9日(火)に対馬海峡を南下東支那海に入った艦艇と同じものである。

ロシア「ウリヤノフスク赤旗・親衛ロシア海軍情報管理局」2019-01-24発表によれば、これら3隻の太平洋艦船支隊は、昨年10月1日にウラジオストクを出港、10月4日に北海道函館に寄港したのを始めとしアジア太平洋9カ国を訪問して1月24日にウラジオストクに帰還した。

1月17日スラバ級

図4:(統合幕僚監部) 「新鋭ロケット巡洋艦」と呼ぶ「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊の旗艦。1989年就役だが、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が配備中。両舷に見える4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルが装備されている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。度々北海道宗谷海峡や対馬海峡近辺に現れる。

1月17日ウダロイ548

図5:(統合幕僚監部) ロシア海軍ではウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦を「1155型大型対潜艦」と呼ぶ。艦番号[548]は「アドミラル・バンテレーエフ(Admiral Panteleyev)」。満載排水量8,500㌧、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中、太平洋艦隊には4隻が配備中。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。

1−17補給艦

図6:(統合幕僚監部)補給艦「ボリス・ブートマ」は「ボリス・チリキン(Boris Chilikin)」級の6番艦、1978年11月就役で太平洋艦隊所属。満載積載量22,400 ton、速力16 kt。

 

③1月17日 ロシア機の日本海における飛行について

17日(木)ロシア海軍のIL-38哨戒機1機が、我国本州の日本海側沿岸に沿って長時間飛行した。航空自衛隊では担当管区航空団から戦闘機を緊急発進させ、監視・領空侵犯を防いだ。

1-17 IL-38

図7:(統合幕僚監部)イリューシンIL-18型4発ターボプロップ旅客機を対潜哨戒機に改装したのがIL-38。1967年から量産、58機が製造されロシア海軍は35機を受領、5機がインド海軍に引き渡された。[IL-38]はIL-18の胴体を4m伸ばし、主翼を3 m前方に移し前部胴体のみを与圧室にしている。尾部には潜水艦探知用のMAD(磁気探知装置)を装備。前部胴体下のドームはレーダー。胴体前後にある兵装庫は前にソノブイ、後ろに対潜魚雷を格納する。機首上部のアンテナは新開発の電子情報収集システム(Electronic Intelligence System)[ノベラ(Novella)P-38]である。撮影した本機は昨年11月8日今回と同じ空域に飛来した新型のIL-38N型で、ロシア海軍では8機を保有、全て太平洋艦隊に配属している。

1-17 IL-38航跡

図8:(統合幕僚監部)1月17日のロシア海軍IL-38哨戒機の航跡。これで見ると能登半島/佐渡ヶ島北西沖で周回飛行をした。この空域、海域は我が空自および海自の演習区域で、また防衛装備庁の新型兵器の試験にも使われている。これら演習の偵察、妨害、電波盗聴などが今回の飛行の目的と思われる。

 

④1月24日 中国海軍艦艇の動向について

24日(木)午前5時ごろ沖縄県久米島の南西100 kmの海域で、太平洋から宮古海峡を北西に進む中国海軍のジャンカイ(江凱)II級フリゲート2隻とフチ級補給艦1隻を発見した。同艦隊はその後東支那海に入った。発見、追尾したのは海上自衛隊佐世保基地第1補給隊所属「おうみ」と那覇基地第5航空軍所属の「P-3C」である。

これらの艦艇は昨年8月8日(水)に鹿児島県南の大隅半島と種子島の間の大隅海峡を東に進み太平洋に入った艦艇と同一である。

1-24江凱II級539

図9:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(539)「燕湖(Wuhu)」は25番艦。ジャンカイ(江凱)II級は満載排水量4,500 ton、速力27 Kts、の大型フリゲート。艦橋前方には、HQ-16対空ミサイルが米海軍のMk41VLSと似た32セルVLS(垂直発射装置)に収められている。艦中部にはYJ-83 対艦ミサイル4連装発射機2基を搭載。YJ-83は射程200 km、最終段階での速度はマッハ1.5である。HQ-16対空ミサイルを搭載したことで僚艦防空能力を持つ。1番艦「舟山(529)」が2008年就役した後27番艦「日照」まで完成、中国海軍の主力フリゲートとして整備されている。

 1-24 江凱II579

図10:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱)II級/ 054A型フリゲート(579)「邯鄲(handan)」は20番艦。

1-24補給艦960

図11:(統合幕僚監部)903A型「福地」級補給艦の5番艦、艦番号960は2015年就役の「東平湖」。[903A]型は満載排水量23,000 ton、航続距離10,000 n.m.の大型艦。フランス製SEMT 16PC2-6V400エンジン2基を搭載、速力20 kt.で同型艦は6隻。同級にはやや小型20,000 ton級の[903]型2隻がある。

九州付近地図

図12:(統合幕僚監部)1月16日のロシア海軍艦艇および1月24日の中国海軍艦艇の航跡を示す図。ロシア艦艇3隻は昨年10月9日に対馬海峡を南下、東支那海に入ったものと同一。中国艦艇3隻は8月8日に大隅海峡を通過太平洋に進出したものと同じ。

 

—以上—