クラトス社試作の[XQ-58]無人戦闘機、初飛行に成功


2019-03-16(平成31年) 松尾芳郎

 

クラトス社は、空軍研究所(AFRL=Air Force Research Laboratory) のLCAAT (Low Cost Attritable Aircraft Technology / 低価格小型航空機技術) 計画に適合する技術実証無人機[XQ-58A] を開発、3月5日に初飛行を行った。

[XQ-58A]初飛行の直前の2月27日にボーイングは、オーストラリア政府と共同で開発する無人戦闘機の概要を発表した。こちらはF-16戦闘機とほぼ同じサイズの大型機で、車輪があり滑走路から離発着する。

(On March 6, a week after Boeing unveiled a UAV mockup in Australia, U.S. drone manufacturer Kratos completed the first flight of the XQ-58A Valkyrie, an experimental design ordered by the Air Force Research Laboratory (AFRL) 30 months ago, based upon LCAAT program. The XQ-58A completed 76-min. flight, the first of five planned, After launching by rail, the craft recovered with parachute.)

クラトスXQ-58A

図1:(US Air Force) 「クラトス」社製の無人戦闘機[XQ-58]の試作初号機 は2019年3月5日にアリゾナ州ユマ(Yuma Proving Grounds, Arizona)で76分間の初飛行に成功した。地上スタンドからロケットで発射され、有人戦闘機と同行、あるいは複数機が群となって攻撃に参加・帰還、基地にパラシュートで降下して回収される。地上目標攻撃には、重量130 kgの小型誘導滑空爆弾[GBU-39B SDB] を2発ウエポンベイに携行、投下する。我国防衛省/富士重工が開発中の無人機「TACOM」の2倍の大きさ。

[LCAAT](低価格小型航空機技術) は、高騰する航空機開発価格をできるだけ抑えるために始まった計画で、[XQ-58A]はその最初の案件となる。クラトス社は、受注後僅か2年半で初飛行に成功した。同社は、[XQ-58A] の価格を1機$2~3 million (2.2~3.3億円)にできれば、数百〜数千機の需要があると見ている。

ボーイングの無人戦闘機は、“エアパワー・チーミング・システム(ATS = Airpower Teaming System)”と云う名称。[ATS]は、同社のオートノーマス・システムズ(Autonomous Systems) 部門とファントム・ワークス(Phantom Works International) 部門の協力を得て開発中で、2020年末の初飛行を目指している。航続距離は3,600 km、オーストラリア空軍が開発費$28.5 million (31億円) を支出、残りをボーイングが負担、4年間で総額$34 million (40億円) を投入し生産はオーストラリアで行われる。

ATSは全長11.6 m、ステルス形状で主翼はデルタ翼、尾翼は”V”字型、民間用ターボファン1基を搭載する。

ボーイングATS

図2:(Boeing) ボーイングは2月27日のオーストラリア国際航空ショーで、無人機[ATS (Airpower Teaming System)]の 実物大モックアップを発表した。

ボーイングATS2

図3:(Boeing) ボーイング[ATS]の完成想像図。オーストラリア空軍のF/A-18E/Fスーパーホーネット、EA-18Gグローラー、早期警戒機E-7Aウエッジテイルス、哨戒機P-8Aなどの編隊列機として作戦に参加する。

図1で説明したが[XQ-58A] 無人戦闘機(UCAV=unmanned combat air vehicle)は、ボーイング[ATS]の半分の大きさで、滑走路を使わず、専用のランチャーからロケットで発射され、パラシュートで回収される。

航続距離はボーイング無人機より50 %も長い4,800 kmに達する。F-22やF-35などの有人戦闘機の“忠実な編隊列機(Loyal Wingman)”として攻撃に参加し、あるいは大群(swarm) で偵察や攻撃を行う。クラトス社では近く[Loyal Wingman]計画の実証のため[XQ-58A]を複数機用意して飛行試験を行う予定。

[XQ-58A] は、このクラスのUAVとしては、初の低廉な価格と運用費の革新的な(game-changing) 戦闘機。設計、製造に多くの民生技術を取り入れたため単価は$2 million (2.2億円) に収まると言われる。

[XQ-58A] は、全長8.8 m、ステルス形状、Mach 8.5の高速、単発で、130 kg の小型爆弾[SDB](GBU-39 small diameter bomb) を2発ウエポンベイに、翼下面にも2発を携行する。新型の[SDB II]は、レーダー、赤外線シーカー、レーザー誘導の3つのシーカーを備え命中精度が極めて高い(CEP=1 m)。

[XQ-58A] の開発、製造を担当した「クラトス・デフェンス&セキュリテイ・ソリューションズ(Kratos Defense & Security Solutions)」社は、サンデイゴ(San Diego, Calif.)に本社、従業員は2,700名、米国の国家安全保障ならびに関係の民間企業を顧客とする企業である。得意分野は、無人システム、衛星通信、サイバー攻撃対処、マイクロウエーブ、ミサイル防衛、超音速システム、など。「クラトス」社は現在標的機を含む無人航空機プログラムを10種抱え、同時並行で開発、あるいは生産を行なっている。

「クラトス」社の最近の状況を紹介すると;—

2019年2月に米海軍向けの亜音速標的機[BQM-174]の「初期運用能力(IOC)」認定を取得した。

DARPA(Defense Advanced Research Project Agency/国防先端技術研究開発局)の「グレムリンズ(Gremlins)」計画で使う戦術無人機「マコ(Mako)」の初飛行を2019年6月に行う。

「グレムリンズ(Gremlins)/(小悪魔)」計画とは、2016年から始まった無人機を使う新しい攻撃法の開発計画。3.5年の開発期間を3段階に分けて、総額$64 million (70億円)を費やし行われている。

「グレムリンズ」は、C-130輸送機から[ISR = intelligence, surveillance and reconnaissance /情報、監視、偵察] 機能を備えた無人機(UAV)の一群を発進させ、携行する爆弾で目標を攻撃する。強固な防空網で守られた陸上目標をF-22やF-35で直接攻撃するのはかなり危険なので、これを避けるための攻撃法である。

中国は自国の領有権を守るため[ A2 / AD] (Anti-Access / Area-Denial、接近阻止・侵入拒否)戦術を展開しているが、「グレムリンズ」はその対抗措置の一つとなる。

これに使う無人機(UAV)は、長さ数m の巡航ミサイルどの大きさで、C-130輸送機から発進し、攻撃を行い、任務を終わると再びC-130に回収され基地に戻り、簡単な整備で再び出撃する。UAVは約20回の使用を想定している。

「グレムリンズ」計画は現在最終の第3段階にあり、“ダイネテイクス(Dynetics)”社(Huntsville, Ala.,)が主契約となりC-130輸送機を使う回収システムの完成を急いでいる。この計画でクラスト社が開発するUAV「マコ」が選定された。

Dynetics 1

図4:(Dynetics) DARPA「グレムリンズ」計画で、C-130輸送機から発進した巡航ミサイルサイズの複数の無人攻撃機(UAV)の予想図。

Dynetics 2 

図5:(Dynestics) ダイネステイクス社が検討しているUAVの回収方法。UAVにはクラトス社の「マコ」が選ばれた。

マコ

図6:(Kratos) クラトス製[UTAP-22 Mako] 無人機は、2018年3月に輸出認可を取得済み。[Mako]はF-22やF-35有人戦闘機に随伴する”loyal wingman”として開発された無人戦闘機。クラトス社が空軍に無人標的機として納入してきた[BQM-167A]を改良して、高機動性を持たし、小型爆弾を搭載、センサーを先進型に換装し、上昇限度17,000 m、最大速度Mach 0.91、航続距離2,500 kmとした機体。[Mako]の原型機は2015年にAV-8B ハリヤー攻撃機と編隊を組んで試験飛行をしている。[Mako]は1機あたり$ 2〜3 million(2〜3億円)、F-35の単価$ 95 million (100億円)に比べ格段に安い。

「クラフト」社は2019年1月には、次世代型巡航ミサイルや無人機に使う小型ターボファンやターボジェットの開発、供給で革新的な技術を持つ企業「フロリダ・タービン・テクノロジーズ(FTT=Florida Turbine Technologies)」社の株式80 %を$ 60 million (66億円)で買収し傘下に収めた。FTT社は1998年サーリーおよびジョセフ・ブロストメーヤー(Shirley and Joseph Brostmeyer) 夫妻によりジュピター(Jupiter, FL)で設立されたベンチャー企業。小型ターボファン、ロケット用ターボポンプなどを得意とし、「クラフト」社のUAV/ドローンに多数使われている。

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図7:(Florida Turbine Technologies) FTTは、米国防総省向けの無人機(UAV)用および巡航ミサイル用の低価格、高性能のエンジンを開発している。これらは、大量使用、短寿命、そして高効率/低燃費で航続距離を伸ばし、使用期間中は十分な信頼性を維持する必要がある。FTTはこれら要件を満たす各種サイズのエンジンを開発、「クラトス・デフェンス&セキュリテイ・ソリューションズ」社を含む関係企業に供給してきた。

結び

クラスト社が作る[XQ-58A]無人戦闘機を調べて見て、改めて米国の産業界の懐の深さを痛感した。ボーイングやロッキード・マーチンなどの巨大企業だけが米国航空宇宙業界を独占しているのではない。独自の発想と技術力で小さな会社を起こし、それに資金を注ぎ込む投資家がいて、小規模企業が設立される。そのような技術者、経営者が随所で、大企業に引けをとらず活躍していることが改めて分かった。我国ではお目にかかる事が少ない風土である。

中国の主張する第1列島線としてその脅威に晒されている我国は、米国以上に低廉な価格、高性能の無人戦闘機が必要なことは言うまでもない。防衛省、防衛関連企業の一段の努力を望むものである。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation week Network.com 2019-03-08 “Kratos Steals Boeing’s Thunder with XQ-58A First Flight” by Steve Trimble

Aviation Week Network.com Feb 26, 2019 “Boeing unveils ‘Loyal Wingman’ UAV developed in Australia” by Graham Warwick

AIN online March 8, 2019 “First Flight for the Low-Cost ‘Loyal Wingman’ “ by David Donald

KRATOS defense & Security Solutions May 7, 2019 “Krados XQ-58A Valkyrie Completed its Maden Flight on March 5, 2019”

DARPA “Gremlins” by Scott Wierzbanowski

Defensenews.com May 1, 2018 “Kratos gets green light to market potentially armed Mako “loyal Wingman” drone to allies” by Valerie Insinna

Flight Global 15 March, 2018 “Kratos’ Mako drone approved for sale to foreign military” Garrett Reim

Army Technology 3 July 2018 “Gremlins are coming: DARPA enters Phase III of its UAV Program” by Talal Husseini

UAS Vision March 4, 2019 “Kratos Acquires Florida Turbine Technologies”

TokyoExpress 2017-02-17 “「クラトス」社開発の無人攻撃機、2018年完成を目指す」