平成30年度(2018)の空自機緊急発進は999回で過去2番目の多さー対中国機が全体の3分の2を占める


2019-04-17 (平成31年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部の発表(31-04-12)によると、平成30年度の航空自衛隊機戦闘機の緊急発進回数が999回に達し、過去2番目の多さだったと発表した。前年度対比では95回の増加だった。

この統幕発表を報じたのは一部の新聞とTVの朝6時ニュースで簡単に伝えただけ、ご存知なかった方も多いと思う。我国マスコミは総じて日中国交正常化の話題を繰り返し報じ、中国のイメージを悪くする報道は極力抑えるようにしている、まあ仕方がないか。

(According to the report issued on April 4, 2019 by Ministry of Defense Joint Staff Japan, Chinese and Russian air invasion into the Japan’s air defense identification zone were kept high as 999 times, in 2018 fiscal year. Japan’s fighter forces scrambled against to each case, preventing the invasion into our territorial air space.)

この後も4月15日には、中国空軍のH-6K爆撃機4機を含む編隊が、南シナ海から台湾―フィリピン間のバシー海峡を通り台湾東岸に沿って北上し、沖縄本島と宮古島間の宮古海峡上空を北西に進み太平洋から東シナ海に飛行している。これは台湾に対する警告飛行と受け止められている。

空自機の緊急発進は、外国機が我が国防空識別圏内に無断侵入した場合、領空侵犯を防ぐ目的で行われる。お陰で1年間の領空侵犯は1件もなかった。対象となったのは中国機が全体の64 %、ロシア機が34 %、その他2 %であった。

18-05 防空識別圏ADIZのコピー

図1:防空識別圏(ADIZ=Air Defense Identification Zone)とは、各国が防空上の必要性から領空とは別に設定した空域である。我国の防空識別圏は1945年(昭和20年)敗戦直後にGHQが制定し、昭和44年に政府/防衛庁がほぼそのまま踏襲して現在に至っている。北方領土および竹島は含まれていない。中国は2013年11月に、尖閣諸島を含む我国ADIZに大きく入り込む空域、図で“東シナ海防空識別区”と赤色線で囲む区域を自国の防空識別圏だ、と主張し始めた。我国は中国の主張を認めていない。図の赤い曲線で囲まれた区域は我国の領空を示している。

 

緊急発進の空自方面隊別では、北部航空方面隊が277回、中部航空方面隊が52回、西部航空方面隊が74回、南西航空方面隊が596回で、特に西部航空方面隊と沖縄基地の南西航空方面隊の緊急発進回数が増加しているのが目立つ。

航空方面隊図

図2:(防衛省)「北部」、「中部」、「西部」、「南西」、の各航空方面隊が担当する空域を示す。各航空方面隊は、それぞれ1~2個の(戦闘)航空団を持ち、その他にPAC 3ミサイルを備える1~2個の高射群、対空レーダーを備える1個航空警戒団、その他付属部隊で構成される。本図には(戦闘)航空団だけを示してある。各(戦闘)航空団はF-15、F-2、F-35などの戦闘機20機程度で構成する(戦闘)飛行隊、1~2個で成り立っている。例えば、北部航空方面隊に所属する第3航空団には第3飛行隊(F-2)と第302飛行隊(F-35)があり、4月初旬に夜間訓練でF-35が墜落したがこれは第302飛行隊所属の機体である。緊急発進の回数が600回近くに急増した南西航空方面隊(那覇基地)の第9航空団には、第204飛行隊(F-15)と第304飛行隊(F-15)が所属している。

 

中国機に対する緊急発進は638回で、前年度対比で138回も増加している。この内、Y-9情報収集機が宮古海峡を通過・北上し奄美大島の太平洋岸沖合まで進出した件やY-9哨戒機の初確認など特異な飛行19件を公表した。

ロシア機に対する緊急発進は343回で、前年度より47回減少した。この内Tu-142哨戒機が本州周辺の北海道北端から沖縄県の宮古海峡を含む空域を周回飛行した件や、新型戦闘機Su-35の初出現など、特異な飛行16件を公表した。

すなわち平成30年度の空自機スクランブル999回のうち特異事象35件が統合幕僚監部からその都度公表され、それらは本ウエブサイトTokyoExpressで毎月1回まとめて紹介している。

緊急発進10年

図3:防衛省が出版する防衛白書平成30年度版および統合幕僚監部発表資料を基に作成した年度別、空自戦闘機の緊急発進回数を示すグラフ。平成30年度では中国機が全体の3分の2を占め突出している。“その他”には台湾機および韓国機が含まれる。

中露機飛行経路

図4:(統合幕僚監部)平成30年度(2018-04 ~ 2019-03)で、空自戦闘機が緊急発進したロシア機および中国機の飛行経路の例を示す図。我国防空識別圏を侵犯した999回事例のうち特異なものだけを示したもの。

 

―以上―