ボーイング[737 MAX]、1月に運航再開の見通し


2019-11-16(令和元年) 松尾芳郎

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図1:(The Seattle Times / Mike Siegel) シアトル・ボーイング・フィールド(Boeing Field, Seattle)の南端マージナルウエイ(Marginal Way)に引き渡し待ちで駐機する[737 MAX]の大群。世界各地で393機の737MAXが飛行再開を待っている。

ボーイングの発表(2019-10-25)によれば、2度の墜落事故で運航停止が続いている[737 MAX]狭胴型旅客機は、12月にはFAA(米連邦航空局)から飛行再開の認可を受け、来年1月にはESA(欧州航空安全庁)から同様の承認を得て運航を再開する見通しとなった。

(Boeing CEO Dennis Mulenburg announced, the grounded 737 MAX after the two deadly crashes in Indonesia and Ethiopia, should get approval to return to service before year-end from FAA, and European Agency will follow January.)

運航停止から7ケ月を経過したが、ボーイングはこの間[737 MAX]の安全性を高めるため、FAAおよび他国の監督官庁と密接に協力して搭載ソフトの改良とパイロット訓練方式の改善に取り組んできた。加えて2度の墜落事故を重く受け止め、安全性向上のため全社を挙げてあらゆる角度から努力を払ってきた。

2件の墜落事故とは;―

①     2018年10月29日、インドネシアのライオン・エア(Lion Air 610便)で189人死亡。

②      2019年3月10日、エチオピア航空(Ethiopian Airlines 302便)で157人死亡。

いずれも離陸後10分前後で墜落しており、原因は失速防止のため搭載したソフトの誤作動とパイロットの不適切な対応にあるとされている。詳しくは「TokyoExpress 2019-04-15 “ボーイング737 MAXの事故について“」などを参照されたい。

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図2:(The Seattle times Dominic Gate氏説明・Mark Nowin氏作図の原図を修正した説明図。TokyoExpress 2019-04-15記事から再録したもの。

 

搭載ソフトの改良

[737MAX]には、機体が失速しそうになった場合、自動的に尾部の水平安定板を機首下げ方向にして機首を下げ失速を防ぐ【MCAS】システム(Maneuvering Characteristics Augmentation System / 操縦特性増強システム)が付いている。失速の検知のため機首両側には迎え角センサー(AOA=angle of attack sensor)がある。

新[MCAS]ソフトの改良点、3項目の防御機能は次の通り。

1)   両方のAOAセンサー信号を比較する機能を追加。フラップ収納時で2つのセンサー値が5.5度以上違う場合は{MCAS}は不作動となり、コクピット・デイスプレイ上に警告が表示される。

2)   [MCAS]は2つのAOA信号を受信して作動する。[MCAS]が異常指示を出すのはAOAセンサーに原因がある。

3) パイロットの操縦舵輪の操作に反して[MCAS]が水平安定板に作動指示を出せなくした。これでパイロットは常に[MCAS]を解除し手動操縦に移ることができる。

新[MCAS]ソフトは実機搭載の試験を含め800回以上行い、その試験飛行時間は1,500時間以上に達した。

これに関連したフライト・コントロール・コンピューターのソフトも改良し、冗長性(redundancy)と安全性を一層強化した。

 

パイロット訓練方式の改善

各國の監督官庁と協力して包括的幅広い(comprehensive)訓練方式を開発した。訓練方式に関して全世界のパイロットから意見を聴取している。[737 MAX]を導入しているオペレーターの大部分(90 %)は新[MCAS]を搭載したシミュレーター訓練に参加している。

737操縦資格を持つパイロットが[737 MAX]に移行する際に受ける新訓練方式は、「コンピューター・ベースド・トレーニング(CBT)」と座学である。この中では[737 MAX]の[MCAS]機能を含むスピード・トリム・システム(speed trim system)の学習に重点が置かれる。特に次の3点のレビューが求められる。

1)   フライトクルー・オペレーションマニュアル・ブレテイン

2)   スピード・トリム故障時のチェックリスト

3)   クイック・レファレンス・マニュアルの改訂版

 

737 MAX飛行再開の道筋

想定通りFAAから飛行再開の承認が12月中に得られば、ボーイングは来年中に現在の737 MAXの月産42機から57機体制に引き上げる予定と云う。しかし承認が来年にずれ込むとさらなる減産が必要になるかもしれない。

 

737MAX運航停止による損失

10月23日に発表された決算によると、737MAXの運航停止による損失は、減産と運航再開に必要なコストを含め総額で、92億ドル(約1兆円)近くになると言われる。加えて運航停止により影響を蒙った多くのエアラインに対し、50億ドル(5,400億円)の補償金を支払う約束をした。

このようなことで、ボーイングの2019年1~9月の利益は、前年同期の70億ドル(約7,600億円)から2億3,000万ドル(約250億円)に大きく減少した。

 

ボーイング民間航空機部門の問題

ボーイング民間航空機部門は、737MAX狭胴型機、787広胴型機、そして大型最新型機777Xの3機種を戦略の中核に位置付けている。787広胴型機は最大の成功をもたらしたが、月産機数を14機から2020年末に12機に減らすことを発表した。787の受注残は約530機、これは月産14機だと3年分に相当、これを12機にすると2年ほど延長できる。しかし中国との貿易摩擦の影響もあり需要の伸びが漸減してきている。

大型機777の引渡しは現在3.5機/月から、受注残が減っているため来年は3機/月になる。

777Xは、現在成功を収めている大型機777シリーズの後継として計画され、エアバスA350型に対抗し、さらには生産が終わりつつある4発大型機747やエアバスA380に匹敵する大型双発機である。400人乗りで、当初の予定では、2019年パリ航空ショーで展示、2020年夏から納入・就航する予定だった。しかし、装着する[GE9X]エンジンにコンプレッサーの問題が生じたこと、機体の静負荷試験中に貨物室ドアが破壊するなどで、対策に追われ未だ初飛行をしていない。777Xの確定発注は、-8と-9型の合計で300機を超えており、この中にはANAの20機(-9型)を含んでいる。777Xの開発遅れが最大の顧客、150機発注のエミレーツ航空に及ぼす影響は判らない、ルフトハンザ航空は777Xの確定発注20機を6機に減らし他の14機をオプションに変更した。

 

終わりに

ソフトウエア設計上の不備が墜落事故の主な原因とされたことは、近代社会全体にに大きな教訓をもたらしたと言えよう。今や航空輸送だけでなく、あらゆる分野でコンピューターへの依存度が高まり、コンピューターを動かすソフトの力で世の中が動くようになっている。航空を含む輸送・配送システム、大型建設事業、製造事業、医療診断などだけでなく、安全保障関連装備、政治・政策決定に関わるシステムから、隣国が実施する反政府活動監視システムまで、あらゆるものが今やAI化している。

ボーイングは航空機搭載ソフトの不備で手痛い打撃を受けたが、これを教訓として社会全体で、使用するソフトの完全性を追求することが求められる。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

The Seattle Times Oct. 23. 2019 “Profit slashed and costs rising, Boeing CEO holds firm: 737 MAX to fly again by year-end” by Dominic Gates

Boeing Com. “Boeing 737 MAX Updates-737 MAX Return to Service

Aviation Week November 11-24, 2019 “Decision Impossible” by Jens Flottau

Forbes Japan 2019-11-14 “ボーイングの問題が静かに悪化、737MAX以外にも暗雲” by James Asquish

TokyoExpress 2019-04-15 “ボーイング737 MAXの事故について“