令和元年11月、我国周辺における中露両軍の活動


2019-12-06(令和元年) 松尾芳郎

 

令和元年11月、我国周辺での中露両軍の活動は、先月に比べ減ってはいるものの続いている。防衛省統合幕僚監部が特異事象として公表したのは次の4件。これとは別に、注目すべきニュースが2件あったので追加する。すなわち、11月17日に中國海軍の新造空母が台湾海峡を通過・南シナ海に向け航行した件、もう一件は、11月11日〜21日、日本周辺の海域で日本、米国、オーストラリア、カナダ4カ国の海軍によって行われた合同演習[ANNUALEX 19]である。

 

11-18  China Military Online “Chana’s Aircraft carrier passes through Taiwan Strait”

11-21  US Navaltoday.com “Japan, US Navy conclude major bilateral drill ANNUALEX”

11-27 公表  ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について

11-28 公表  中国海軍艦艇の動向について

11-29 公表  中国機の東シナ海および日本海における飛行について

12-02 公表  中国海軍艦艇の動向について

 

軍事面での特異事象に隠れているが、中国による注意すべき動きが続いている。中国海警局の武装艦艇による尖閣諸島領海への侵犯は連日行われているし、スパイ容疑で逮捕された邦人は、先日釈放された北大教授を除き、依然として10名前後は拘留されたまま。先日新天皇ご即位の慶事の陰で殆ど報じられなかったが、ご即位の礼に参加した中国の王岐山国家副主席は、ご即位の礼出席直後に北海道に行った。北海道に対する中国の進出ぶりは尋常ではない。大規模な山林原野の買収、自衛隊基地周辺の土地の物色、道内で外資により買収された山林は申告ベースで2,700ヘクターを超えている。実際にはこの10倍が中国資本に抑えられた、と言われている。昨年5月来日した李克強首相は札幌市、苫小牧市を訪問、関係者に対し中国の北極海進出への重要拠点となる釧路・苫小牧両港の使用許可を言外に求めた。今回の王岐山の動きはこれを補完するものと言える。産経新聞は、王岐山の北海道訪問を「Youは何しに北海道へ?」と皮肉って論評している。最近の報道によると、中国資本による土地買収・物色は北海道にとどまらず南西諸島方面にも広がり、奄美大島西隣りの加計呂麻島(面積7,700 ヘクタール)を島ごと買い取りたいと云う打診があったそうだ。

この国の将来はどうなるのか。政府よ、しっかりして欲しい。

 

11-18  China Military Online “Chana’s Aircraft carrier passes through Taiwan Strait”

11月17日日曜日、中国海軍の国産空母1隻が、航海試験と訓練のため東シナ海から台湾海峡を通過、南シナ海に入った。

台湾国防当局によると、中国海軍の空母艦隊が11月17日に台湾海峡を通過、南シナ海に入った、と報じた。日本の海上自衛隊と米海軍の艦艇が空母艦隊を追尾、台湾軍は艦艇と戦闘機を緊急発進させ、監視を続けた。本件に関し、海上自衛隊も米大平洋艦隊司令部も「発表する情報はない」として沈黙している。

11-18 中国空母

図1:(China Military Online)台湾海峡を通過した中国空母は、001A型(艦名は未定)。この空母は、「遼寧」に次ぐ2隻目で、初の中國国産空母でもある。満載排水量70,000 ton、全長315 mと言われ、J-15艦上戦闘機32機と各種ヘリ8機を搭載できる。飛行甲板前部はスキージャンプ形式、カタパルトはない。いわゆる“短距離離陸・拘束着艦方式”(short take-off but arrested recovery)型の空母。環球時報によると、同空母は試験航海を終えた後、海南省(海南島の呼称)三亜軍港を本拠とする南海艦隊に編入・就役する。

 

11-21  US Navaltoday.com “japan, US Navy conclude major bilateral drill ANNUALEX”

海上自衛隊と米海軍の第72任務部隊[CTF 72 (Commander, Task Force 72)] および第15駆逐隊(DESRON 15)を含む艦隊は、日本海、フイリピン海を含む日本周辺の海域で大規模な合同演習 (ANNUALEX 19) を11月11日から開始、21日に終了した。演習にはオーストラリア海軍とカナダ海軍の艦艇も参加し、対潜水艦戦を想定する共同作戦の技量向上を図った。米海軍からは潜水艦を含む13隻の艦艇の他に、最新型対潜哨戒機P-8A ポセイドンも参加し15回の哨戒飛行を行った。

米海軍第7艦隊は、ホノルルに司令部を置く太平洋艦隊の指揮下にあり、東経160度より西の太平洋とインド洋、南シナ海を担当している。司令部は揚陸指揮艦「ブルー・リッジ(USS Blue Ridge)」にあり、複数の「任務部隊=Task Force, TF」で構成されている。戦闘部隊の主力は第70任務部隊(CTF-70)で、横須賀を母港とする空母「ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)」/第5空母航空団で構成される。これの護衛に当たるのが第15駆逐隊(DESRON 15=Destroyer Squadron 15)で、こちらはアーレイ・バーク級イージス艦8隻前後で編成されている。第72任務部隊(CTF 72) は、第7艦隊哨戒部隊(司令部・三沢)で編成されている。

“ANNUALEX 19”について、海上自衛隊ニュースは「令和元年度海上自衛隊演習(実動演習)」として簡単に、僅か3行と数枚の写真で報じた。

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図2:(US Navaltoday. com.)11月21日終了した日本海、フイリピン海などにおける日・米・豪・カナダ、4カ国海軍の合同演習ANNALEX 19に参加した艦隊。先頭には米海軍の潜水艦、その後ろには大型の強襲揚陸艦 (ワスプ)が見える。

いずも 

図3:(US Navy photo by Taylor DiMartino) 11月11日、フイリピン海での演習に参加した我が海上自衛隊ヘリ空母「いずも(DDH 183)の雄姿。海自から演習に参加したのは他に護衛艦「ありあけ(DD 109)」、「しらぬい(DD 120)」など数隻。いずれも中国軍報道サイト[Sino Defence Forum]が写真入りで報じた。

 

11-27 公表  ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について

ロシア空軍Tu-95 爆撃機2機が11月27日に日本海から対馬海峡を通り南西に進み、東シナ海に進出、沖縄本島に接近したのち反転、再び対馬海峡を通過日本海に入り、本州西岸および北海道西岸に沿って飛行、シベリア東部に向かった。この間大半の時間、我国の防空識別圏(ADIZ)を侵犯・飛行した。航空自衛隊はF-2戦闘機、F-15戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

11-27 Tu-95

図4:(統合幕僚監部) 度々紹介するようにツポレフTu-95型機は改良型Tu-95MS(戦略ミサイル輸送機)となり63機が配備中。軸馬力14,800 hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925 km/hr、航続距離は6,400 km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。Tu-95MSは、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga) Kh-15巡航ミサイル(射程300 km) 6発を胴体内のドラムランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16型は、ラドガ(Raduga) Kh-55亜音速射程2,500 kmの巡航ミサイルをランチャーに6発と翼下面に10発、計16発を搭載できる。従ってTu-95は、我が国防空識別圏( ADIZ)の外から容易に目標を巡航ミサイルで攻撃できる。

19-12 H30防衛白書防空識別圏

図5:(防衛省・平成30年版防衛白書)「防空識別圏・ADIZ=Air Defense Identification Zone」は、防空上の必要性から各国が「領空」とは別に設定した空域である。[日本ADIZ]は赤線で囲まれた空域で、我が国が実効支配していない北方領土と竹島は外してあるが、尖閣諸島は含んでいる。「日本ADIZ」は、我が国敗戦の直後1945年に占領軍GHQが制定した空域をほぼそのまま使用している。通告なしにADIZ内に飛来する航空機があれば、領空侵犯を防ぐため、空自戦闘機が緊急発進し、警告する。「韓国ADIZ」および「中国ADIZ」とは一部重複するが、いずれも「日本ADIZ」制定後に、新たに両国が主張、設定したものである。

図に「日本領空」が示されているが、これは「領海」の上空の空域を指し、その範囲は沿岸から約12海里( 22 km )までを言う。「日本ADIZ」の範囲は、およそ沿岸から100~200 km。

「防空識別圏・ADIZ」について、一部の左派マスコミは「国際法上決められていないので、無断侵入を非難、スクランブルを掛けるのは地域の緊張を高めるだけ」と言い、空自機による緊急発進を行き過ぎだとしている。

11-27 Tu-95航路

図6:(統合幕僚監部)11月27日、ロシア空軍の戦略爆撃機Tu-95MS 2機の飛行航跡、我が国防空識別圏(ADIZ) を大きく侵犯して飛行した。

 

11-28 公表  中国海軍艦艇の動向について

11月27日水曜日午前8時、鹿児島県口永良部島の西100 kmの海域を東シナ海から太平洋に向け航行する中国海軍のルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート2隻、およびフチ級補給艦1隻の合計4隻を発見した。これら艦艇は大隅海峡を東進し、大平洋に向かった。発見・追尾したのは海上自衛隊鹿屋基地第1航空群所属のP-3C哨戒機である。

11-27 ルーヤンIII 155

図7:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。1番艦「昆明」は2014年に就役。写真の[155]は9番艦「南京」、2018年就役の最新艦。同型艦は13隻が完成済み、建造中を含めると23隻になる予定。満載排水量7,500 ton、全長160 m、速力29 kt。兵装は対空/対艦/対巡航/対潜ミサイル発射用8セル型VLSを8基(合計64セル)装備する。これにHQ-9B対空ミサイル、YJ-18対艦ミサイルなどを搭載する。我が海自の「あたご」型イージス艦よりやや小型だが、総合性能はほぼ同じ、しかし数では中国海軍が圧倒的。

11-27 ジャンカイII 578

図8:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に1番艦が就役。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt。米国のMk41 VLSに似た32セルVLSには、射程120 km のHQ-16対空ミサイル、を収めている。対艦ミサイルは艦中央部にYJ-83型射程180 km、を4連装発射機2基に格納している。[045A]フリゲートは外洋艦隊用で防空能力の強化を図っている。写真は[578] 19番艦「揚州」、2015年就役、東海艦隊に所属。同型艦はすでに30隻+が建造されている。

11-27 ジャンカイII 601

図9:(統合幕僚監部)[601]は最も新しい艦と思われ、艦名不詳。他は図8を参照されたい。

11-27 補給艦890

図10:(統合幕僚監部)903A型「福地」級補給艦、写真の[890]は2013年就役の2番艦「巣湖/Chaohu」。[903A]型は満載排水量23,000 ton、航続距離10,000 n.m.の大型艦。フランス製SEMT 16PC2-6V400エンジン2基を搭載、速力20 kt.で同型艦は6隻。同級にはやや小型20,000 ton級の[903]型2隻がある。

 

11-29 公表  中国機の東シナ海および日本海における飛行について

11月29日金曜日、中国海軍の情報蒐集機Y-9  1機が東シナ海から対馬海峡を抜け日本海に入り、すぐに反転して往路と同じ経路を通過、東シナ海に戻った。航空自衛隊では戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。

11-29 Y-9

図11:(統合幕僚監部)陜西航空機が作るY-9多用途輸送機を情報収集機に改造したのが本機。Y-9は、アントノフ(Antonov) An-12輸送機を国産化した陜西Y-8Fを基本にし、胴体を延長した機で、貨物搭載量は25 ton、人員なら100名+を運べる。西側のC-130J輸送機に相当するサイズ。2009年から中国空軍・海軍に配備が始まっている

11-29 Y-9航跡

図12:(統合幕僚監部)11月29日、対馬海峡付近の我国防空識別圏を侵犯したY-9情報蒐集機の航跡。

 

12-02 公表  中国海軍艦艇の動向について

11月28日木曜日午前10時半、下対馬南西180 kmの海域を北東の日本海方面に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート 1隻を発見した。その後同艦は日本海に進出後反転し、往路と同じ経路で東シナ海に向かった。発見・追尾したのは海上自衛隊鹿屋基地第1航空群所属のP-3C哨戒機である。

11-28 ジャンカイII 548

図13:(統合幕僚監部)[054A型] 江凱II級フリゲートの7番艦「益陽(Yiyang)」、2010年就役、東海艦隊に所属中。ジャンカイII級フリゲートについては図8の説明を参照。

 

―以上―