ボーイングの新中型機[NMA]の行方


2020-02-19(令和2年) 松尾芳郎

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図1:(Boeing) 2018年発表のNMAの想像図。2列通路にも対応する広胴型機とされていた。第6世代の複合材製主翼、電動システムを多用、高バイパス比ファンエンジンを装備、座席数は200-240席、航続距離は757よりかなり伸びて大西洋横断に十分な4,700 nm。エンジン燃費は757が使う第2世代ファン( RR製RB3095)に比べ25 %向上した新型ファンを搭載する。候補になっているのはPWA製PW1100GおよびCFM製Leap 1Aの改良型で、ファン直径は、現在の81 inch/PW、78 inch/CFMからいずれも100 inch (2.54 m)級となる。候補エンジンは、ファン・バイパス比が[ 10 : 1 ]以上、全体の圧力比が[ 50 : 1 ]以上となり50,000 lbs級の推力になる予定だった。

今回の見直しで、狭胴型機になる可能性もあり、その場合はエンジンの推力要件が低くなる。RRは、NMAに開発中のウルトラ・ファンで対応を試みたが、完成が間に合わないため2019年2月に参加を取り止めた。しかし推力が下がれば、A350用のTrent XWBの改良型で再び参入を図るかもしれない。

胴体比較

図2:(Boeing / Global Security) NMAの胴体は2018年案では楕円断面の広胴型だったが、今回の見直しで単通路の狭胴型に変わる可能性がある。この図の左端は真円型断面案で、単通路(上)あるいはビジネスクラスで2通路(下)に変換できる大きさ。床下の貨物室はA320系列機と同じAKHコンテナ(LD3-45型)を搭載できる。

 

ボーイングは、検討中の次期新型機[NMA=New Midmarket Airplane]について、従来言われてきた757 および767の更新という漠然とした目標ではなく、エアバスが昨年6月に発表した長距離路線用狭胴型機[A321 XLR]のマーケットを目標に絞り込む、と述べた。[A321 XLR]の市場が急速に拡大しつつあるからだ。

(Boeing announces to be redirect and changing its next new airliner project to compete more directly with the long-range Airbus A321XLR rather than take on the broader 757-767 replacement market previously studied under the New Midmarket Airplane (NMA) project.)

 

2019年12月になると、ユナイテッド航空(United Airlines)が使用中のボーイング757-200型機・53機の更新用としてA321 XLR型機を50機発注した。ユナイテッドはこの他に大型の757-300型機を21機保有している。

今年2月中旬に開催されたシンガポール・エアショーで、ボーイング民間機部門営業担当先任副社長 ハッサン・ムーニル(Ihssane Mounir)氏はエビエーション・ウイーク誌の記者に次のように語った。「我々はA321 XLRから市場が望む方向を学んだ。」これは、ボーイングの次世代中型機NMA開発は一旦白紙に戻し再発足することを示唆したものと受け止められる。

ボーイングのCEOにデイブ・カルホーン(Dave Calhoun)氏は就任したばかりだが、先月「NMAプロジェクトは白紙から再出発する」と述べた。これまでNMAは、737 MAXや757を更新する新型機になるとされてきた。しかしムーニル副社長の話のように、NMAの目標は、席数200 – 240席、航続距離4,700 n.m. (8,700 km) 辺りの機体に変わっている。この目標は、2019年にエアバスが開発を発表したA321 XLRのサイズである。A321 XLR型機は2023年から引渡し開始予定で、すでにアメリカン(50機)、ユナイテッド(50機)、含む各社から450機以上の注文を受けている。

これに対しNWAは2025年から就航を目指す757の後継機として、これまで5年間にわたり検討が進められてきた。そしてその延長上に767の更新も可能な広胴型機として考えられてきた。当時の検討プログラムでは、225席級のNM-6Xと275席級のNMA-7X2の2機種があり、最初に後者(大型機)を開発する計画だった。しかし今となっては、今日の市場の動向を十分に見極めたものとは言い難く、改めるのが正しいと考えるに至った(ムーニル氏談)。

ボーイングはこれまでのNMAの検討過程で多くのことを学んできた。すなわち運航費と価格をベースにした市場予測、さらに、広胴型機の製造コストを狭胴型機なみに抑える生産システムの開発、である。これでボーイングは、従来は難しかった変更にも容易に対処可能な生産システムを構築できようになり、NMA計画でもこれが生かされそうだ。

ムーニル氏は「新しい生産システムの考え方で、いつでも市場のニーズに応えられる飛行機を作れるようになる。これで設計チームは、顧客の要望に応じ最新のアイデアへの修正を適時に行えるようになる。」と話している。

[NMA]は大きさ、性能でエアバスA321 XLRに直接対抗する機体として開発が始まるが、この動きは長期的には737 MAXの後継機をどうするか、と云う戦略にも関係してくる。NMAは前述のように座席数200 – 240席となり、757と737の大型版を含むサイズの機種となる。

ムーニル氏は、一部にある「NMAを大型化して廃案となった787-3が狙った市場に出すのか?」との見方について、“あり得ない”と否定している。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

Aviation Week February 10-23, 2020 “Clean Sheet” by Guy Norris

Aviation Week February 12, 2020 “Boeing Hints at New Direction for NMA refocus” by Guy Norris

Reuters January 23, 2020 “Boeing’s new CEO orders rethink on key jetliner project” by Tim Hepher, Tracy Bucinski

Global Security “Boeing 797”

TokyoExpress 2017-06-26 “ボーイング新中型機(NMA)構想とエンジン選定“

TokyoExpress 2019-12-25 “エアバスの新型機 A321XLR、極めて好調な滑り出し“