令和2年2月、我が国周辺における中露両軍の活動


2020-03-03(令和2年)  松尾芳郎

令和2年2月、我が国周辺における中露両軍の活動

統合幕僚監部発表の中露両軍の活動は比較的低調で次の3件のみ、中国で蔓延する新型肺炎の対応に追われているためだろうか。

 

02/09  公表 中国機の東シナ海および太平洋における飛行について

02/13  公表 ロシア海軍艦艇の動向について

02/27  公表 ロシア機のオホーツク海における飛行について

以下にその内容を紹介する。

 

02/09  公表 中国機の東シナ海および太平洋における飛行について

2月9日(日)、中国空軍のH-6爆撃機が2機ずつ合計4機、宮古島南方の太平洋から沖縄本島―宮古島間の宮古海峡を北西に通過し東シナ海に入った。那覇基地南西航空方面隊所属の空自戦闘機F-15J複数が緊急発進し、領空侵犯を防いだ。

 

本件に関し、中国軍報道機関[China Military Online]および、米国の[Global Security.org]は同日付けで相次いで次のように報じた。

  •  中国東部軍管区司令部は、駆逐艦、フリゲート、爆撃機、戦闘機、早期警戒機が参加する実戦を想定した演習を台湾周辺で行なった。空軍の爆撃機(H-6K)部隊はバシー(Bashi)海峡および宮古海峡を通過した。台湾とその付近の島々(我が国の南西諸島を指す)は中国固有の神聖な領土であり、今回の中国軍の演習は “台湾独立の動き”に対し、何時でも阻止しうることを示した。
  • Global Securityは、台湾Central News Agencyの報道を引用し、中国空軍機がぼ1年振りに台湾海峡の中央線を越え台湾領空に侵入した、と報じた。侵入したのは複数のH-6爆撃機とその護衛のJ-11戦闘機など。これらは台湾海峡を南下した後、護衛機は中国本土方面に退去、H-6爆撃機とKJ-500早期警戒管制機はバシー海峡を抜け10時ごろに西太平洋に出た。台湾空軍は、空対空ミサイルを装備したF-16戦闘機を緊急発進させ対応した。H-6爆撃機の編隊は、その後宮古海峡を通過し東シナ海に入った。中国東部軍管区の張春暉報道官は、”台湾の如何なる分離の動きに対しても中国政府は容赦はしない、今回の演習はそれを示したもの”と言明した。台湾国防相は、中国機の領空侵犯に対し、直ちに北京政府に抗議を申し入れた。

 

去る1月11日に行われた台湾総統選挙で現職の与党・民主進歩党の蔡英文氏(53)が820万票を獲得して圧勝し、また同時に行われた立法院(国会)選挙でも与党民進党は過半数を確保した。蔡英文氏/民進党は、”中国の言う「1国2制度」による中台統一を拒絶する” と明確に示して選挙に勝利した。今回の中国軍H-6爆撃機の台湾周回飛行は、この選挙結果に対する中国の威嚇に他ならない。

中国は深刻な国内問題、中国発のコロナ・ウイルス肺炎の蔓延、それに伴う経済低迷、新疆ウイグル自治区問題、香港で表面化した一国2制度に対する不満、等の諸問題を抱えながらも領土では1歩も譲らない強硬な姿勢を崩していない。尖閣諸島に対する海警局艦艇による接続水域、領海侵犯は2月も20日間以上にわたって連日のように続いた。

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図1:(統合幕僚監部)2月9日にH-6K爆撃機が2機ずつ二手に分かれて台湾を周回する形で宮古海峡上空を飛行した。H-6はロシアTu-16バジャー爆撃機を西安航空機でライセンス生産した機体。以来改良が重ねられ現在のH-6K型となり巡航ミサイル搭載機となり対地・対艦用巡航ミサイルCJ-10Kを6基搭載する。乗員3名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76 ton。複合材使用率を高め、エンジンは国産WP-8型からロシア製のD-30KP-2型に換装、推力を30 %アップ、燃費は20 %向上した。H-6Kは2007年1月に初飛行、2011年5月から配備。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9 ton。搭載するCJ-10K巡航ミサイルは、車載型のDH-10の系列で、長さ約7 m、重さ1,350 kg、弾頭炸薬300 kg、速度マッハ0.9、射程は280 kmもしくは2,000 kmと言われる。米国のトマホークに匹敵する。昨年4月15日にも全く同じ航路で数機が飛行した。

02-09 H-6 2

図2:(統合幕僚監部)中国H-6K爆撃機。翼下面に巡航ミサイルCJ-10Kが見える。

02-09 H-6爆撃機航跡

図3:(統合幕僚監部)2月9日、中国軍機H-6K爆撃機の航跡。統幕監部発表の図にGlobal Security.comの記事内容を追加、加筆した図。

 

02/13  公表 ロシア海軍艦艇の動向について

2月12日(水)正午ごろ、ロシア海軍ウダロイI級駆逐艦1隻およびドウブナ級補給艦1隻が、上対馬北東130 kmの海域を、対馬海峡を南西方向に日本海から東シナ機に向け航行した。発見追尾したのは海上自衛隊八戸基地第2航空群所属のP-3C哨戒機と佐世保基地第13護衛隊所属の「さわぎり」である。「さわぎり」は1990年就役の満載排水量5,000 tonの汎用護衛艦(DD-157)で、「あさぎり」型護衛艦8隻の中の7番艦である。

02-12 ウダロイ

図4:(統合幕僚本部)、ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦「アドミラル・ビノグラドフ」(572)。ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦は「1155型大型対潜艦」、満載排水量8,500㌧、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年に作られ8隻が就役中で太平洋艦隊には内4隻を配備。イージス艦に近い性能を持つ。

本艦(572)は、昨年6月西太平洋上で米海軍イージス巡洋艦に30 mの至近距離まで異常接近する事件を起こしたことで知られる。詳しくは「TokyoExpres 2019-09-02 “令和元年8月、中露両軍の我が国周辺における活動”の6~8ページ」を参照されたい。

02-12 ドウブナ

図5:(統合幕僚本部)満載排水量9,000 ton、速力16 kt。

 

02/27  公表 ロシア機のオホーツク海における飛行について

2月27日(木)、ロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機2機が樺太南部方面から飛来、北海道オホーツク海沿岸の我が国領空に接近する空域を往復飛行した。航空自衛隊は北部航空方面隊三沢基地所属の戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。筆者の知る限り、[Su-34]が我国近傍に飛来したのは今回が初めてである。「図7」説明のようにSu-34は、大型の戦略爆撃機Tu-95に匹敵する攻撃能力を持っており、我国にとって大きな脅威になる。

日露間には「北方領土返還」問題があるが、ロシア側は “第二次大戦の結果ロシア領土に決定済み”との強引な歴史歪曲を主張し、加えて本件のような軍事的挑発を毎月繰り返している。

ロシアは長年5月5日を“対独戦勝記念日として祝い、そして10年前からは9月2日を対日戦勝記念日として追加制定した。聞くところによれば、今年5月5日の対独記念日には安倍首相が参加すると云う。事実とすれば、これはロシアの強引な歴史歪曲や目に余る対日威嚇を容認することにつながる。安倍首相は何を考えているのか、習近平を国賓として招待する件といい、最近党内や外務省内にはびこる親中、親露勢力への忖度が過ぎる。

02-17 Su-34航跡

図6:(統合幕僚監部)2月27日北海道オホーツク海沿岸に飛来したSu-34戦闘爆撃機の航跡。

スクリーンショット 2020-02-29 11.02.01

図7:(統合幕僚監部)2月27日に北海道オホーツク海沿岸に飛来したSu-34戦闘爆撃機。遠方から写したためかやや不鮮明。スーホイ(Sukhoi)34は、西側呼称「フルバック(Fullback)」の双発、複座、全天候、超音速の戦闘・爆撃機。初飛行は1990年だったがロシア空軍に配備が始まったのは2014年になった。基本はスーホイSu-27フランカー(Flanker)戦闘機で、コクピットは並列複座になっている。Su-34は対地・対艦攻撃を主任務とする戦術攻撃機で、昼夜を問わず、天候にかかわらず攻撃任務・偵察任務を遂行できる。これまでに127機が完成・配備されている。主翼、尾翼、エンジンナセルはSu-27/Su-30とほとんど共通で、カナードはSu-20MK1、Su-33、などと似ている。エンジンはSaturn AL-31FM1ターボファン2基で、マッハ1.8+の速度を出す。全兵装を搭載した状態で航続距離は4,000 km(給油無しで)に達する。兵装は、翼下面の12箇所のハードポイントに合計8 tonの爆弾、ミサイルを搭載できる。後方探索用レーダーが尾部にあり、後方からの攻撃に対して空対空ミサイルで対抗する。17 mm厚鋼板で覆われた並列座席のコクピットは長時間快適な飛行ができるようゆったり作られ、簡単なギャレイとトイレを座席の後ろに備えてある。主レーダーは、地表追従(terrain-following)と地表回避(terrain avoidance)機能を備えたLeninets V-004型AESAレーダーで、地上目標の探知距離は200-250 kmと言われる。胴体尾部には前述の後方探知レーダーがあり、攻撃を感知すると直ちに空対空ミサイルR-73を発射する。

Su-34の主な諸元は次の通り;―全長23.34 m、翼幅14.7 m、最大離陸重量45.1 ton、エンジン推力はアフトバーナー時30,000 lbs。最大速度2,200 km/hr、戦闘行動半径1,100 km、”g”リミットは+9 g、搭載兵装は12箇所のハードポイントおよび胴体ウエポンベイを合わせ合計10 ton。

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図8:(Alex Beltyukov Airliners.net)ロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機、翼下面のハードポイントには何も搭載していない。最大離陸重量45 tonの大型機のため、ランデイングギアはタイヤ2本が付く。

 

―以上―