NASA、トランジット系外惑星探査機「TESS」初回ミッションを終了 =新たに惑星66個と惑星らしきもの2,100個を発見=


2020-08-19(令和2年) 松尾芳郎

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図1:(NASA Goddard Space Flight Center) NASAの「トランジット・系外惑星探査機[TESS]。

「TESS」は2年間で、全天を26個に区分し24度x 96度の範囲ずつ観測を完了、続いて新しい任務についている。[TESS]は、来年打上げのジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST)で観測すべき系外惑星を特定する役目を担っている。

 

NASAは7月4日に、「トランジット系外惑星探査衛星 [TESS] / Transiting Exoplanet Survey Satellite」の「初回ミッション(Primary mission)」を終了した、と発表した。初回ミッションでは、星々の多い空域を2年掛けてほぼ75 %探査した。これで「TESS」は、太陽系外の他の恒星を回る66個の惑星と惑星らしきもの約2,100個を発見した。

(On July 4, NASA’s TESS Satellite finished its primary mission, imaging about 75 % of the starry sky as a two-year survey. TESS has found 66 new exoplanet, worlds beyond our solar system, as well as about 2,100 candidates, astronomers are working to confirm.)

 

「TESS」は2018年4月にスペースXのファルコン9ロケットで地球周回軌道に打上げられ、3ヶ月後の7月から“トランジット観測法”による観測を開始した。この観測法はNASAが打上げた“ケプラーKepler)宇宙望遠鏡”で実用化した技術で、“ケプラー”は2018年10月に退役するまで約3,000個の系外惑星を発見している。

[TESS]は、4台の広角カメラを使って天空を24度x 96度ずつの短冊状に分けて観測した。先ず南半球の宇宙空間を13区間に分けて1年間観測、それから2年目に北半球の宇宙空間を13等分して調べ、これで全天のほぼ75 %を調べた。

[TESS]の観測位置

[TESS]は、系外惑星の観測のために、天空観測範囲を最大にし、輻射光や熱の影響を受け難い特殊な位置に打上げられている。MITやOrbital ATKを含むTESSチームでこれまで使われた事のない[P/2]と呼ぶ「月共鳴軌道(lunar-resonant orbit)」に打上げる事を決めた。打上げ後高度600 kmのパーキング軌道に乗り、それからロケットを噴射・遠地点250,000 kmの楕円軌道に入り、ロケットを分離、自身のスラスターでスピンを停止しソーラーパネルを展張。楕円軌道の近地点でスラスターを再噴射し遠地点を400,000 kmに伸ばす。ここから月の重力を利用して最終軌道にに入る。最終軌道は13.7日で地球を一周し、月との共鳴は2:1の割合になる。ここで“共鳴(resonance)”とは月の重力による摂動がゼロになる点をいう。[TESS]の最終軌道は、遠地点で月に対し90度の楕円軌道なので、常に月から引っ張られたり、抑えられたりする。こうして地球を回る長大な楕円軌道(HEO=highly elliptical high-Earth orbit)は今後数十年間安定した状態を保てる。

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図2:(MIT TESS mission) 赤で示すのが[TESS]の観測軌道、緑色は打上げ直後のパーキング軌道、それから黄色の遷移軌道に移り、そこから赤色の観測軌道に入る。ここは円形の白色の月軌道上の月から2:1の共鳴を受ける。

 

現在「TESS」は、“新任務(extended mission)”として南半球の探査を再度実地中で、ここでは新しいデータの収集と処理方法を使う。これで、これまでカメラが1枚の画像を撮影するのに30分掛かっていたのが10分に短縮される。この「速写モード(fast mode)」のお陰で星々の明るさの測定に2分を要していたのが20秒で済むようになった。「速写モード」が使えることで「TESS」は恒星の光度変化の受感能力が向上し(つまり系外惑星の検出能力が高まり)、また恒星から出る爆発的なフレアを詳しく捉えることが可能になる。。

この新しいデータ収集・処理方法は2022年9月までの「新任務」期間中常時使う予定。まず1年間を南半球天空の探査を行い、それから15ヶ月間を北半球天空と天空を横切る「黄道(Ecliptic)」に沿った区域の探査をする。「黄道(こうどう)」とは、地球から見た天球上における太陽の見かけ上の通り道(大円)を云う。

黄道

図3:(yahoo) 地球の公転と太陽の通り道「黄道(Ecliptic)」を示す図。中心(赤色)が太陽、その周囲を地球が公転し、見える星座が記してある。

 

[TESS]は、恒星を周回する惑星(系外惑星/Exoplanet)が恒星面を通過する際に生じる僅かな輝度の低下を利用して、惑星の大きさや周回軌道を調べる「通過観測法(Transit Photometry Method・トランジット観測法)」を使った探査衛星である。

通過観測法

図4:(ESA)系外惑星の探査に使う「通過観測法(Transit Photometry Method)」/「トランジット観測法」の概念。

 

「TESS」が明らかにした系外惑星(exoplanet)の例

  •  [TOI 700d]

「TESS」の初回ミッションで発見した最も新しい惑星は、 [TOI 700 d]と名付けた「生命存在可能領域(habitable zone)」内にあり、地球サイズで表面は水に覆われている。恒星[TOI 700]を周回する3個の惑星の最も外側にあるのが[TOI 700 d]で、37日かけて主星を1周している。主星の[TOI 700]は、南天「かじき座(constellation Dorado)」にある星で、地球からの距離は100光年、重量・大きさは太陽の40 %程度である。

TOI 700系

図5:(NASA) 地球から100光年離れた恒星[TOI 700]とその3個の系外惑星、「TOI 700 d」は最も外側の軌道上の「生命存在可能領域・ハビタブルゾーン」にある。

 

  •  [GJ 357b]

恒星「GJ 357」は太陽の3分の1の重量・大きさで太陽の40 %ほどの温度のM型矮星である。この恒星は「うみへび座(constellation Hydra)」にあり太陽からの距離は31光年。昨年(2019)2月「TESS」のカメラで、主星を「トランジット観測法」で観測していたところ、輝度が3.9日間隔でわずかに落ちることを発見した。これは主星の周回軌道上にある惑星が主星の手前を通過する際に光を遮ることで生じる現象である。

この惑星は「GJ 357 b」と命名され、地球より22 %大きく、その軌道は太陽系の一番内側の惑星「水星(Mercury)」の軌道のわずか11分の1の近距離で主星「GJ 357」を周回していることがわかった。そして表面の大気温度は254℃と計算された。

これで「GJ357 b」は[hot Earth /熱い地球]と呼ばれ、生命は存在しないが地球に近い岩石質惑星であることが分かった

その後、チリの”欧州南半球天文台(European Southern Observatory)”、ハワイの“ケック望遠鏡(W. M. Keck Observatory)、その他のの地上設置望遠鏡の観測で、この恒星[GJ 357]系に新しく2個の興味深い惑星が見つかった。

惑星[GJ 357d]はこの恒星系の「生命存在可能領域・ハビタブルゾーン」の外縁部を回っていて「太陽系」で言えば火星の位置に相当する。もし惑星が濃い大気を持っていれば表面は十分に暖かく液体の水の大洋が拡がっている。大気がなければ表面の温度は-53 ℃になり氷河の状態になっている。

この惑星は重量が地球の6.1倍、恒星との距離は地球-太陽間の約20 %しかないため、恒星の周りを55.7日で周回している。サイズは不明だが、岩石質なので地球の1~2枚程度と思われる。

この恒星系の中間にある惑星[GJ 357c]は、重量が地球の3.4倍、恒星の周囲を9.1日かけて周回している。表面温度は127℃でかなり熱い。

GJ 357系

図6:(NASA) 恒星「GJ 357」システムを表した図。惑星「CJ 357d」は、この系の「生命存在可能領域・ハビタブルゾーン」で周回している。この領域を回る惑星で岩石質で水があり、濃いい大気があれば生命存在の可能性が高い。「GJ 357d」は温暖で水があることが分かっている。大気の有無は今後の研究で明らかにする予定。

 

  •  [KELT 9b]

[KELT 9b]は超高温の巨大な惑星で、恒星の極軌道を高速で周回している。「白鳥座/Constellation Cygnus」の中の地球から670光年離れた場所にある。最初はアリゾナとアフリカに設置した小型ロボット望遠鏡を運用する[KELT transit survey]チームにより2017年に発見された。

2019年7月から9月にかけて北半球の探査をしていた[TESS]は、[KELT 9b]の観測で極めて短時間の周期で恒星の輝度が変わる異常さに気付いた。

[KELT 9b]はガス状の惑星で木星(Jupiter)の1.8倍の大きさ、重さ2.9倍の惑星で、恒星の北極・南極上の極軌道を36時間かけて周回している。

[TESS]が恒星から受けるエネルギーは、地球が太陽から受ける量の44,000倍になる。これで惑星の恒星に面した側は4.300℃の温度になる。恒星も変わっていて、太陽の2倍の大きさ、表面温度は56 %ほど高温、自転速度は速く太陽の38倍にもなり、1回転に要する時間は16時間。自転速度が速いため極部分が平らになり赤道部分が膨らんでいる。これで極区域は高温、赤道部分はやや低温になっている。この温度差は約800 ℃で、これをgravity darkening(重力による暗さ)と呼んでいる。

[KELT 9b]は、従って一周ごとに高温と低温を2回繰り返し受ける、言い換えると夏冬が1年に2回あると言うことだ。

KELT 9系

図7:(NASA’s Goddard Space Flight Center)恒星[KELT 9]を回る惑星 [KELT 9b]はこれまで分かっている系外惑星のなかで最も高温。恒星の両極をつなぐ極軌道を周回する。恒星は高速自転をしているので赤道部分が膨らみ、極部分がひしゃげている。図は恒星の両極が左右に、赤道が上下に描かれている。

 

[TESS]ミッション

[TESS]は、MIT(マサチューセッツ工科大)が主導・運用し、NASAのゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center)が管理するNASAの「宇宙物理学探査ミッション(NASA Astrophysics Explorer mission)」である。さらにノースロップ・グラマン社なども協力している。

[TESS]の“初回ミッション”の予算は2億ドル(210億円)で、これに打上げ費8,700万ドル(95億円)が加算される。“新任務(extended mission)”に必要な追加費用はさほど大きくなく数十億円規模に収まると見られる。

 

「生命存在可能領域・ハビタブルゾーン[HZ=Habitable Zone]」

「ケプラー宇宙望遠鏡」、「TESS」その他の活躍のお陰で今では太陽系の惑星以外に4,000個を超える系外惑星(exoplanet)が発見されている。それらの詳細は今後の研究で徐々に明らかになるが、「生命存在可能領域 [HZ]」にある惑星の割合はどの位か、と言う設問に対する答えも明らかになりつつある。

カリフォルニア大学リバーサイド校(UC Riverside)天体生命学(astrobiology)教授ステファン・ケーン(Stephen Kane)氏が率いるUC Berkley、Caltech、SETI研究所などの合同チームの研究結果では、驚くべき多数の惑星が、それぞれの恒星系の[HZ/ハビタブルゾーン]内に安定した状態で周回しており生命維持が可能、と報告している。

ここで取上げている「トラピスト-1/TRAPPIST-1」システムは「みずがめ座(constellation Aquarius)」の黄道付近にあり太陽からの距離は39光年、中心の恒星は太陽の12分の1の重さで木星より少し大きい「赤色矮星/M-type red dwarf」である。これが少なくとも7個の岩石質惑星を従えていて、その内の3個 [e]、[f]、[g]は、「生命存在可能領域・[HZ]」にあることが分かった。

トラピスト-1系

図8:(NASA/JPL-Caltech) 「トラピスト-1」システムの想像図。右端の大きな惑星は「トラピスト-1 f」、「ハビタブルゾーン」の真ん中に位置している。左端は赤色矮星「トラピスト-1」が描かれている。

トラピスト1と太陽系

図9:(NASA/JPL & Fraser Cain/Universe today) 「トラピスト-1」の[e]、[f]、[g]、は緑色で示す「ハビタブルゾーン・[HZ]」を周回している。「太陽系システム」では「地球」だけ。

 

ケーン教授らの恒星区分によると、“大きい、明るい、高温の星”(青白く輝く若い星)は、広い「ハビタブル・ゾーン」を持ち、“小さい、低温の星”(太陽や赤色矮星)では「ハビタブルゾーン」は狭い、とされる。

太陽系システムでは「ハビタブルゾーン」にある惑星は地球のみ、火星はその外縁部で外れ掛かる軌道を回っている。その理由をケーン教授は次のように説明している。

「惑星軌道は中心の恒星の同心円上に適度に離れているが、これが接近しすぎるとお互いの引力の影響で軌道が不安定になる。太陽系の場合は、巨大な「木星」があるため他の惑星の軌道を乱し、その結果「ハビタブルゾーン」に1個の惑星しか残らなかった。」

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図10:(NASA/Kepler Mission/Dana Berry & Fraser Cain/Universe today) 恒星の区分による「ハビタブルゾーン」の違い。高温の星では広く、低温の星では狭くなる。「トラピスト-1」は低温だが7個の惑星のうち3個が[HZ]にある。太陽系では{HZ}はやや広いが1個のみ、これは木星が影響したためとされる。

 

終わりに

今の所「ハビタブルゾーン」の惑星が発見されているのは僅かに過ぎない。

ケーン教授グループが注目しているのは、「Beta Canum Venaticorum (Beta CVn)」という名の恒星で、主星は太陽から27.5光年の距離にあり、太陽型(G-type)の星である。この周囲を回る惑星はまだ発見されていないが間も無く発見されよう。これまでに木星のような巨大惑星は発見されていないので[HZ]圏内を回る複数の惑星の検出に期待をしている。これには来年打上げられるジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡や地上の大型望遠鏡の活躍が待たれる。

ケーン教授は述べている。「地球は誕生後まもなく生命が誕生しこれまで続いているが、この好ましい環境がいつまで維持されるのか、その鍵を握るのは何なのか。我々と同種の経緯をたどってきた系外惑星の探査を通じて、地球の過去、将来を知ることができる」、「人のよっては地球を”スーパー・ハビタブル(super-habitable)”惑星と呼ぶが、これは他の惑星で生命が発見されていない事、生命が発達し高度な知識を得るのは困難だ、との見方によっている。」

即ち同教授らは言外に、“間も無く生命が存在する惑星が見つかり、それがやがて普遍的事実として受け入れられる日が来るだろう”と述べているのである。

銀河系は1千億を超える数の恒星で構成されていて、我々の太陽はそのうちの一つに過ぎない。数年後に生命の存在する惑星が見つかることを期待したい。

 

ケーン教授グループの研究は「Dynamical Packing in the Habitable Zone: The Case of Beta AVn”の題名で、米国宇宙物理学会誌「Astrophysical Journal」2020年7月27日号に掲載されている。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

NASA Aug. 12, 2020 “JASA’s Planet Hunter Completes its Primary Mission” by Francis Reddy

Universe Today August 7, 2020 “Some Stars Could Support as many as 7 Habitable Planets”

NASA June 25, 2020 “NASA’s TESS, Spitzer Missions Discover a World Orbiting a Unique Young Star” by Francis Reddy

NASA July 1, 2020 “NASA’s TESS Delivers New Insights into an Ultrahot World” by Francis Reddy

Scientific American August 12, 2020 “NASA’s TESS Planet-Hunting Space Telescope Completes its Primary Mission” by Mike Wall

NASA Jan. 7, 2020 “NASA Planet Hunter Finds its 1st Earth-size Habitable-zone World” by Jeanette Kazmierczak

NASA June 23, 2018 “About TESS”

TokyoExpress 2018-04-19 「太陽系外惑星を探査する宇宙望遠鏡「TESS」,打ち上げ成功