インフレ政策に針路を取れ ‼ いまこそ財政出動を


2020年8月14日(令和2年)  元 文部科学大臣秘書官  鳥居徹夫 

◆財政危機を叫び、増税をもくろむ政府税調 

新型コロナの感染拡大による経済低迷を打破するために、遅ればせながら財政出動を行った政府であったが、規模は小さく小出しであった。

にもかかわらず、8月5日に開かれた政府税調(首相の諮問機関)では、財政悪化が一層深刻となっているとし「消費税増税」をはじめ税収確保を求める発言が相次いだという。

財務省によると、令和2年度の歳出は、計160.3兆円。歳入は税収が63兆円、その他収入が6.6兆円、国債発行債が2回の補正予算を含め90.2兆円(当初32.6兆円、一次補正25.7兆円、二次補正31.9兆円)とのこと。プライマリーバランスは、年初のマイナス9.2兆円からマイナス66.1兆円に悪化したというのが、財務省の説明である。

残念なことに、財務省にはコロナ不況に苦しむ国民生活の切迫感、危機感がなく、一部メディアも同調して財政面での危機感をあおる。

政府は、昨年(2019年)10月に消費増税を実施したが、2019年10~12月のGDP成長率はマイナス1.6%(年率換算マイナス6.3%)に落ち込むなど、消費増税が景気停滞の要因になったことを示している。

消費税の税率アップや歳出削減は、個人消費、内需にマイナスとなり、国民生活を圧迫してきたことは周知のことである。

 

◆あの民主党政権は、歳出削減路線そのものだった 

ちょうど11年前の8月30日施行の総選挙で政権交代となり、9月に民主党の鳩山由紀夫政権が誕生した。

民主党政権は、鳩山のあと菅直人、野田佳彦が首相となったが、国民を失望させ3年3か月で政権を失った。

民主党は、国民を豊かにすることなく、自然災害の防止策にも無頓着であった。

それどころか財務省の歳出削減路線を、民主党政権が後押しした。

たとえば「コンクリートから人へ」をスローガンに、河川管理、道路など公共事業費の削減に邁進した。そのシンボルとなったのか八ッ場ダム(群馬県)と川辺川ダム(熊本県)の建設中止であった。

八ッ場ダムは、中止反対の声の高まりから、2011年12月に建設再開となった。2019年にダムが完成し供用開始の10日後に大型の台風19号が関東地方を襲った。八ッ場ダムは、河川の氾濫を防ぐために大きな役割を果たし、首都圏に洪水の被害はなかった。

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一方、今年7月豪雨で球磨川が決壊し、約70名の死者・行方不明者など多くの被害が生じた。川辺川ダムが建設されていれば、これだけの惨事とはならなかった。

川辺川ダム事業は1966年から40年以上の歳月をかけて7割程度進捗していた。にもかかわらず建設中止となった。中止されていなければ、2017年には完成していた。

当時の民主党政権や熊本県の樺島郁夫知事は、「ダムによらない治水」と述べたが中身はなかった。堤防などの改良を河川全体で行うより、上流の1カ所にダムを作る方がはるかにコスト安で完成が早い。

菅直人政権の時に発生した東日本大震災(2011年)では、震災からの復興にはカネが必要と、復興増税をも強行した。増税のチャンスと捉えたのであろうか。

景気後退と国民の負担が増す中で、国内消費は落ち込んで財政健全化どころか税収不足に拍車をかけた。

野田佳彦政権は、「社会保障と税の一体改革」を打ち出し、自民党や公明党を巻き込んだ三党合意で、消費税の税率を5%から10%に引き上げることを決定し、個人消費を落ち込ませ、景気後退による平成デフレを長期化させた。

この民主党政権には、国民生活を豊かにするための大胆な財政出動はなかった。それどころか歳出カットを至上命題とする財務省路線そのものと言っても過言ではなかった。

 

民主党政権は、財務省の「パーなペット」だった 

財務省の官僚は、時代劇の悪代官の思考回路と同じようである。

庶民からは年貢を取り立てる。公共支出は増やさない、あわよくば削ることに執念を持っている。

消費税の増税が経済の悪化を引き起こし、結果的には税収減となっていても、国民生活は二の次しか思えない。

経済全体が悪くなればなるほど、相対的に財務官僚の地位が向上するからであろうか。

武漢ウイルスの感染拡大によって、経済活動がストップした。その対応で、緊急経済対策が策定されたが、4月の当初案には一律の10万円の現金給付がなかった。

当初、求められたのは景気対策ではなく生活防衛の視点であった。そこで自民党の若手議員や女性議員と公明党が官邸に働きかけ、この緊急経済対策に盛り込ませた。当然のこととして第一次補正予算案は、修正して国会提出となった。

財務省は、10万円の現金給付にも予算修正にも抵抗した。財政規律が歪むとか、国債残高がとめどもなく拡大するとの理由であった。

そして国会議員に「ご説明ご注進」と、大蔵族の古参議員とともに個別撃破をかけてきた。

かつて民主党政権で財務大臣だった藤井裕久は「予算編成権は財務省にある」と公言した。

ところが憲法には、内閣の職務として「予算を作成して国会に提出する」(73条)とされ、「内閣は、毎会計年度の予算を作成し国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない」(86条)とも明記されている。

財務省に国家財政を牛耳らせてきたのは、歴代内閣の不作為である。統帥権の独立ではないが、「省あって国なし」で、内閣の財務省支配を貫徹させている。

憲法にあるように、予算編成権は内閣にある。その下で作業を行うのが本来の財務省である。

とりわけ後半の民主党政権は、財務省のパペット(操り人形)というか「パーなペット」に堕し、緊縮財政下の増税路線でデフレを深刻化させた。

選挙で支援した連合組合員にとって「地獄絵のような民主党政権」であったといっても過言ではなかった。

政権をとるまでは、まさに「魚を釣るためにはエサをつけた」ものの「釣り上げた魚にエサを与える必要がない」という態度が、財務省の傀儡であった民主党であった。

自民党政権のもとでも平成30年以降は、濃淡はあっても勤労者の声が届いたし、勤労者を無視しなかった。唯一の例外が、民主党政権の後半であった。

 

◆日銀券を大量に印刷し、国民生活の救済を 

事業者が、経営難から融資を受けても、心配するのが返済である。

たとえば、融資で元金5年据え置き(利子猶予)で借り、その間に物価が2倍にあがれば、返済は実質半分となる。

カネがジャブジャブ回れば、企業の内部留保は非効率となる。融資を受けた方が経営にプラスに働く。

昭和40年代、勤労者は多額のローンを借りてマイホームの購入に走った。ところが石油ショックによる狂乱インフレで、物価を追いかけて賃金が上がり、ローン返済がラクになったということがあった。

借金している企業や事業者、そして個人の経済活動を活性化させることが、コロナによる経済ストップ打開の起死回生となりうる。

コロナによる補正予算は、4月末の第一次で25.7兆円、6月の第二次で31.9兆円となるが、これでも財政破綻はしない。

そもそも閣議決定した予算案に、追加や修正が必要と言えば「欠陥予算案」と難癖をつけるのが、これまでの野党やメディアである。

消費税の引き下げとか、全商品を対象に軽減税率をゼロにせよとの主張もあるが、財務省や与野党の幹部は「苦労して消費全の税率を上げたのに、下げるとなるとまた上げるのは至難だ」「引き下げるにしても作業に時間がかかる」などと、消費税率10%を死守しようとしている。

日本の場合、国債を増発しても国内で消化する。国債を外国が購入しているわけではないので、ギリシアのように取り付け騒ぎとかパニックにはならない。

財務省は、国債残高が増えると長期金利が上がりインフレになると、メディアに訴え、国会議員などへのご説明をハシゴしてきた。ところがマイナス金利である。

ハイパーインフレどころか、毎年2%の物価目標も達成していない。まだまだ国債を発行できるし日銀券を印刷すれば国民生活の救済に当てることができる。

 

政権の足を引っ張る民主党、民進党系の諸政党は、財務省の別動隊 

財務省は、財務省のイエスマンでない政権、いまの安倍政権が安定していることを忌避する。官邸が弱体化し政府与党がバラバラであることが財務省にとって望ましい。

つまり政権の足を引っ張ることは、野党と財務省に共通している。

昨今の国会でも野党は、財務省の別動隊の役割を果たし、政府攻撃に終始した。コロナ対策や生活防衛にも、興味がないように見える。

コロナ政局で特徴的なことは、国民が国会議員を動かしたことであろう。

有権者の声で政治が動いた。国民の声で大規模に財政出動させたのである。

財務省のスポークスマンであった自民党の大蔵族の議員も、やはり選挙は怖い。自公連立であっても、創価学会の婦人部がソッポを向けば苦戦は免れない。

コロナ政局で自民党は、財務省に屈しなかった。財務省のインチキ財政危機の主張を押し切ったのであった。

財務省は、コロナ第2波後の増税シナリオを虎視眈々と狙っている。しかも野党は、国民生活よりも、自民党政権の悪口に余念がない。

野党に、財務省の「財源がない」に隠された嘘を突き破ろうという意志も能力もない。

財務省の傀儡だった民主党政権の二の舞だけは、ご免こうむりたい。

必要なのは、生活防衛と国民生活を豊かにする諸施策を、矢次早に展開することである。もちろん財政出動は躊躇すべきではない。