中国、地表探査衛星の洋上発射技術を確立


2020-09-24(令和2年) 松尾芳郎

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図1:(CALT=China Academy of Launch Vehicle Technology)長征11ロケットの第1回目の発射の様子(2019-06-05)。2回目の発射は9月15日に行われ、1回目と同様黄海で大型発射台船から発射し、発射後ロケットに点火・上昇し、9基の地表探査衛星を所定の軌道に投入した。

 

中国は9月15日火曜日早朝、山東半島沖の黄海で海上移動可能な発射台船から2度目となる長征11型固体燃料ロケットの発射に成功した。(China conducted its second seaborne space launch early Tuesday (15th of September) morning, a Long March-11 solid propellant rocket lifting from a mobile floating platform in the Yellow Sea off the coast of Shandong Peninsula.)

 

1回目の発射から、発射の手順、発射台船、それに山東省南岸の東港(Dongfang)宇宙基地、などを大幅に改良して、将来予定する多数の発射に対応できるようにした。ロケットは山東省南岸の海陽市(Haiyang)で組立て、東港宇宙基地に輸送、大型発射台船に搭載、黄海上の発射地点に航行して打上げられた。

今回は、9個のJilin-1 03系列の遠距離センサー衛星を高度535 kmの太陽同期軌道(SSO=Sun Synchronous orbit)に載せることに成功した。

現在中国の衛星打上げ基地は、北西部の甘粛省酒泉 (Jiuquan)、北部の山西省太原 (Taiyuan)、南西部の四川省涼山イ族自治州(Xichang)、および南部の海南島の北西部文昌市 (Wenchang)の四箇所にあり、いずれも居住区域に近いため、打上げ時には落下物によるリスクを伴う。

この大型発射台船システムが実用化されると、市街地へのリスクがなくなり、常時必要に応じてあらゆる種類の小型固体燃料ロケットの打上げが可能になる。

 

長征11型ロケット

長征11型ロケットは、LM-11とも呼ぶ3段固体燃料+4段目液体燃料の4段式ロケットで,中国打上げ技術研究院(CALT=China Academy of Launch Technology)が開発した。陸上車両あるいは艦船から発射可能で、車両積載の中距離弾道ミサイルDF-31を基本にしたものである。

2015年9月25日に陸上で最初の試射、2019年6月5日に黄海上で大型発射台船から初の洋上発射を実施。今回の2回目の洋上発射まで10回連続して成功している。いずれも複数の偵察衛星や航法衛星を太陽同期軌道(SSO=Sun-Synchronous orbit)あるいは低地球周回軌道(LE0=Low Earth orbit)へ投入している。

長征11は、高さ20.8 m、直径2 m、重量58 ton、ペイロードはLEOの場合700 kg・SSOの場合500 kg。現在開発チームは新型の固体燃料ロケットの開発を進め、2022年までにLEOへの2 tonのペイロードを投入できる予定。

山東省の東港(Dongfang)宇宙基地は前述の四箇所に続く中国第5の宇宙基地で、固体燃料ロケットの海洋発射基地として本格整備が進められている。

今回の打上げは、開陽市の南東350 km沖合の黄海で行われた。ロケットはDebo-3大型発射台船に載せられ発射点に到着、事前に黄海に配置された司令船「Bei Hai Jiu 101」のコントロールで打上げられた。

 

Jili-1衛星

打上げたのは「Jili(吉林)-1」衛星9基で、これらで衛星網を構築する。「Jilin (吉林)-1」衛星は「Jilin-1 Gaofen-03」で「高解像度-03」と呼ばれる最新型、重量は40 kgで、3基はビデオカメラ付き、6基は “箒で掃くようにビームを走査” する「プッシュ・ブルーム(push-bloom)」式の衛星である。これまでの試験では、ビーム走査幅を30~40 km にした場合、解像度は8 m程度という結果が得られている。

一般にCバンド合成開口レーダー(C-SAR)は、走査幅を拡大すれば解像度も大きくなる。例えば、ビーム走査幅を300 kmにすると解像度は50 mになってしまう。

「Jili-1 Gaofen-3 (GF-3) /高解像度-03」衛星は、Cバンド合成開口レーダー(SAR=Synthetic Aperture Radar) 付きの高解像度映像撮影衛星で、地上および海上のモニターを通して災害防止、水資源監視、気象観測、などに使変われる。

これらの衛星は、旧満州の吉林省長春市(Changchun, Jilin Province)にある長春衛星技術社(Chang Guang Satellite Technology)が開発し、地上の森林・緑地、農地、天候、海上の情報を収集し、予測することを目的としている。計画では2020年末までに60基を軌道に乗せ、2030年には138基に増やす予定。

 

De Bo 3大型発射台船

De Bo 3大型発射台船は、長さ160 m、幅39 m、吃水線深さ11 m、最大積載量20,500 ton。航行は電気動力推進で最大速度12 kt (20 km/hr)、4点投錨位置決め方式で発射位置を固定する。

9月15日の発射

図2:(VCG)2020年9月15日の長征11打上げロケットの発射、大型発射台船から打上げられ、高度535 kmの太陽同期軌道(SSO)に9個のJilin-1 03系列の遠距離センサー衛星を載せるのに成功した。

 

太陽同期軌道(SSO=Sun-Synchronous orbit)

[SSO]とは衛星が地球の南極と北極の上空を回る極軌道の一つ。両極から20~30度ずれても極軌道としている。[SSO]は低地球周回軌道(LEO=low Earth orbit)の一種で高度は低く200~1000 kmの範囲。衛星は極軌道を周るが、太陽に対しいつも同じ決まった位置「fixed position」にいる。つまり衛星は常に同じ場所の上空に同じ時間にいると云うことである。例えば、東京をモニターする衛星は、お昼の時間にはにいつも東京上空に衛星がいる。

[SSO]上の衛星は、地上の一定の場所を常時、同時刻に観測できるので、時間の経過で変化する様子を詳しく調べることができる。従って数日、数週間、数年の変化を画像から読み取り、天候や森林火災、洪水や、海面の上昇を調べ、予測に使うことができる。

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図3:(The European Space Agency() 太陽同期軌道(SSO)の説明図。

 

一帯一路政策

中国高官によれば、中国が確立した洋上打上げ技術は、低傾斜軌道への衛星打上げを希望する各国の要望を満たすもので、中国が推進する「一帯一路政策(Belt and Road Initiative)」を補強する技術」としている。

 

終わりに

太陽同期軌道(SSO)に地上モニター用の衛星多数を配備することは、農業、緑地、気象などの予測に役立つ事は勿論だが、これら民需への貢献とは別に、軍事面での情報収集にも大きな効力がある。

今回の太陽同期軌道(SSO)に衛星9基投入成功の報を受け、台湾のメデイアは早速軍事面へ情報転用に強い懸念を示した。台湾の防衛状況が常時中国の監視下に置かれることになるからだ。我国あるいは米国も例外ではない。

「Jili-1 Gaofen-3 (GF-3) /高解像度-03」衛星が技術的に完成し予定通り2030年までに138基を太陽同期軌道(SSO)上に展開することになれば、南西諸島、沖縄本島、さらにグアム、ハワイなども監視下になり、防衛力配備の状況が筒抜けになる。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Global Times 2020/09/15 “Nation conducts second seaborn space launch” by Deng Xiaoci

NASA Spaceflight Com Sptember 14, 2020 “China bounces back woth Long March 11 launch of 9 satellites” By Rui C. Barbosa

China Daily com. 2019-08-01 “New port will host Sea-based space launches” by Zhao Lei

Universe Today September 12, 2020 “China is Building a Floating Spaceport for Rocket Launches”