新興国バブルの終焉


ー米中が経済政策を一大転換ー

2013-08-25  やぶにらみ左膳

世界で1、2位の規模を占める米国と中国の経済政策の一大転換観測が、世界経済全体を揺さぶっている。悪いことに21世紀に入って世界の経済を牽引したインドやインドネシア、ブラジルなど主要新興国では、通貨急落や株価下落、金利上昇に襲われて経済の混乱に拍車がかかりだした。米連準備制度理事会(FRB)は2008年のリーマン・ショックによる世界金融危機を克服するために導入した量的金融緩和政策を9月にも縮小するとの観測が有力となり、新興国に流出し続けたドルがここへきて、景気回復がが順調な米国へ還流している。世界の投資家の流れは明らかに『新興国売り,米国買い』だ。

一方、中国の新指導部は30年近く続く高成長路線を安定路線に転換中だ。特にリーマン・ショック直後に、当時の指導部が打ち出した50兆円規模の緊急景気対策が、地方政府や米国企業の過剰投資により不良債権の山を築いた。中国政府は、ゴールドマン・サックス等の銀行を使って後ろ向きの不良債権処理に乗り出す、との観測が相次ぐ。10月にも予定される党の中央委員会の決定内容が見ものだ。

夏休み明けの国際金融市場には不穏な空気が漂い『1997、8年の”アジア通貨危機”の再来ではないか』との神経質な見方まで出る。しかし、新興国は高成長の結果、危機の際の最後の砦である外貨準備高を一定程度持ち、国内消費の主役である中間層が拡大する等、経済の足腰はアジア通貨危機当時と比べると強くなっている。本格的な危機に発展するとの見方は今のところ少数派だ。が、株価や不動産価格の歴史的ともいえる高騰に沸いた『新興国バブルの終焉』いう厳しい現実は間違いない。

『インドネシアなどアジアの売り上げが落ち始めた』ーこの夏行なわれた今年4~6月期の日本の上場企業の決算発表は、円高・株高を受けて全体に好調だった。とはいえメーカー中心にアジア経済の変調を懸念する声が特徴的だった。メーカーの代表格、自動車産業では中国での売り上げが落ち込む中、高いシェアーを持つアジア市場が米国と並ぶ大きな支えだ。

当面の焦点は、経常収支の赤字幅が大きいインド、インドネシア経済の行方だ。経常収支赤字国は、貿易など資金のやり繰りを海外からの借金に頼る。このため、一度、海外マネーが流出するとたちどころに通貨や株式が打撃を受ける。

インドの通貨ルピーは連日のように安値を更新。インド政府の資金流出抑制策も効果はなくお手上げ状態に陥っている。『極端な通貨安は原油、食料など輸入物価の高騰を招きインフレに直結する怖さがある』(国際金融関係者)。インドは来年の総選挙を控え、政情が不安定化している折だけに一層懸念が広がる。アジア通貨危機の時はタイの通貨バーツが国際投機筋の売りを浴び半年間で価値が半分以上も下落。アジア通貨危機の引き金と成ったのである。

インドネシアでも通貨ルピアの下落に伴い、インドネシアでは経常収支の赤字が拡大。赤字幅はアジア通貨危機直前の1996年以来の水準にまで悪化した。中国向けの発電用一般炭など資源輸出で稼いできたのだったが、例えば一般炭の国際価格は中国国内の過剰生産、米・シェールガス革命、に押されて暴落状態になりつつある。

『(金融資本による)ホットマネーの国際的移動がアジア通貨危機の真犯人であり,今回もまた同じ』。経済学の泰斗P・クルーグマン、プリンストン大教授が米有力メディアのコラムで厳しく警鐘を鳴らしている。

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