中国軍核戦力の脅威が増大


−原潜発射型および地上移動型の固体燃料中距離弾道ミサイルの配備が進む—

 

2013-11-25  松尾芳郎

Revised 2013-12-27

 DF-31-missiles

図:(China Military News)北京天安門広場で行なわれたパレードで行進するDF-31およびDF-31A固体燃料型弾道ミサイル部隊。2006年から配備が始まっている。

 

asia-nuclear-age

図:(China Military News)パレード前に準備のために集結したDF-31およびDF-31A弾道ミサイル搭載車両部隊。発射はミサイルの入った巨大な筒を垂直に立てて行なう。攻撃可能範囲には我国全土は勿論、米本土の一部まで及ぶ。現在30基が配備されている。重量42㌧、長さ13m、直径2.25m、射程はDF-31が7,200km、DF-31Aが11,000km

 

冷戦終了後(1991)各国(米、露、中、英、仏)の核戦力は核拡散防止条約により制限を受け、通常戦力の整備に重きが置かれるようになった。その結果米国の圧倒的な優位が顕在化してきた。例えば冷戦後の戦闘機開発で実用化に成功したのは米国のみで、ロシアは未だ試作の段階にある。ロシアは最近この劣勢を挽回しようと、プーチン大統領を先頭に新しいICBM発射可能な戦略原子力潜水艦(SSBN)、新型ICBM、それに移動式ICBMの開発配備、に再び力を入れ始めてきた。

これに比べて中国は、米国と事を構えたくないと云う思惑からか戦略核戦力の開発、実戦配備について報道は一切行なわず、一見力を入れていないかのように見える。しかし、実態は着々と整備が進行しており、少なくとも我国への核圧力は確実に高まっているのが実状だ。

以下にその概要を述べる。

中国の核弾頭弾道ミサイル戦略は、戦略原潜(SSBN)が発射するSLBMと陸上発射型のICBMの二つで、いずれにも新型の固体燃料ロケットの配備が進んでいる。従来の液体燃料使用型の弾道ミサイルは発射決定後燃料の注入等準備にかなりの時間が必要だったが、固体燃料ロケットは決定後僅か数分で発射が可能なため、有事に際し遥かに即応性が高い。

中国の核戦力の現状は不透明な部分が多いが、米国の有力調査機関「米国科学者協会(FAS=Federation of American Scientist)」が2013年11月に発表した報告によると次ぎのようになる。

 

*第二砲兵軍の状況

中国は射程5,500km以上の弾道ミサイル(ICBM)を60基保有しており、その内の32基は液体燃料型DF-4およびDF-5Aでこれ等は地中埋め込み式サイロ(発射筒)に装填されている。残りの28基は2006年以降配備が進んでいる地上移動式トレーラー搭載の固体燃料型ロケットであるDF-31 およびDF-31Aである。

DF(Dong Feng[東風])-31Aは、固体燃料3段式、重量42㌧。今年の夏7月24日)に3回目の発射テストに成功した。テストは山西省五寨(Wuzhai, Shanxi province)のミサイル試験場(Space and Missile Test enter)で行なわれ、移動式トレーラーから発射された。これまでに2012年8月30日と同年11月30日に発射試験済みでいずれも成功している。DF-31Aは2005年頃から配備が始まり、1メガ㌧の核弾頭を搭載し射程11,000kmと云われ、中国国内から太平洋を横断、米国中西部の主要都市を攻撃可能な弾道ミサイルである。DF-31はDF31Aの前身で射程約7,000km。

この他に旧式の液体燃料使用の射程2,000~3,000km級ロケットDF-3AとDF-21を合計88基保有している。これ等に搭載されている弾頭はいずれも単弾頭型で、米ロの保有する複数の弾頭を一つに纏めた「複数個別目標攻撃可能型弾頭(MIRV=Multiple Independently targetable Re-entry Vehicle)ではない。MIRV型として弾頭10個を搭載し、全米を射程に納める得る長距離ICBM DF-41を開発中だが、実用化までには未だかなりの時間が掛かりそうだ。

米空軍航空宇宙情報センター(Air Force National Air and Space Intelligence Center)の最新の報告によると「中国は世界で最も活発に弾頭ミサイルの開発に取組んでいる国家だ。中国の弾道ミサイル軍(第二砲兵軍)は規模の拡大とミサイルの種類の増強に力を傾注している。」と云っている。

これら新型の地上移動型トレーラー搭載のミサイルは、地中のトンネルに格納されているため正確な数は把握できていない。上記の数は推測値である。これ等トンネルは、専門家の間で「地下の万里の長城(Underground Great Wall)」と呼ばれ、複数あり総延長は百kmにも達するらしい。ただ大半は内部の換気が不十分で要員の常駐は難しいと云われるが、相手国からの攻撃に対しては充分すぎる抗堪性を持っている。

別の調査機関「Project 2049 Institute」の話では、弾道ミサイルを主管する中国軍の第二砲兵軍は、核弾頭は陜西省にある中央核弾頭収納基地に保管し、必要時にミサイルに装填する方式を採っていると云う。

*海軍の戦略原潜艦隊

CdKJ1

図:(China Military News)“晋”級弾道ミサイル原潜(SSBN)。JL-2固体燃料中距離弾道ミサイル(SLBN)を12基搭載する。中国海軍戦略原潜艦隊の中核。

jin_class

図:(China Military News)基地に停泊する“晋”級弾道ミサイル原潜。JL-2弾道ミサイル発射筒のハッチ12個が全て開かれている。同型艦が奥に見える。

JL-2 r MIRV  Giant Wave 2 Chinese IBtercontinental-range submarine-launched ballistic missile (SLBM)8,000 km multiple warheads Chinese Type 094 (Jin-class) submarine Type 092 (3)

図:(China Military News)“晋”級原潜から発射されたJL-2弾道ミサイル。JL-2は長さ12m、直径2.25m、重量42㌧、で大きさは陸上発射型のDF-31Aとほとんど変わらない。1メガ㌧の核弾頭を搭載した場合は射程は7,200km。

 

海軍の核戦略能力は米国に比べ格段に低く、唯一稼働しているのは3隻の“晋”クラス戦略原潜(SSBN)だけだ。“晋”級潜水艦は“巨浪2”と呼ばれる”JL-2”水中発射型弾道ミサイル(SLBM)12基を装備している。JL-2弾道ミサイルは固体燃料方式3段式で射程は弾頭重量2.8㌧の場合は2,000km、1㌧の場合は7,200km。射程が短く中国沿岸海域から米国西海岸を攻撃することは不可能である。JL-2は前述の陸上配備型弾道ミサイルDF-31と同系列のロケットで、2002年に最初の試射が行なわれ、2008~2011年には数回の発射に成功し、今年の夏にも前述のDF-31Aの試射に併せてテストされている。すでに実用化の域に達している。

“晋(Jin)”級094型SSBNは、前身の“夏(Xia)”型092型戦略原潜を改良した中国海軍の第2世代戦略原潜と云われ、2007年から就役している。水上排水量8,000㌧、全長137mの大型艦。現在の3隻に加えさらに2~3隻が2020年までに完成する予定だ。“夏”級は1987年に就役した中国海軍初の戦略原潜だが、実用性に乏しく1年以上前から改修と称してドックに入ったまま。

このように“晋”級の整備は進んでいるが、実は大きな問題を抱えている。それは騒音問題、“晋”級は中国海軍潜水艦の中で最も静粛とされているが、それでも80年代のソ連のデルタIII型等のレベルに及ばない。本来戦略原潜(SSBN)の役目は、隠密裏に太洋深く潜航し、自国が核攻撃を受けた場合には直ちに核報復を行なうことにある。ところが“晋”級プラスJL-2の性能では、米本土への核攻撃を行なうために中部太平洋に進出せねばならず、日米両国の対潜探知能力の前に簡単に発見されてしまう。このためか“晋”級が長期間の洋上パトロールに出航した形跡はない。

従って“晋”級は米国にとってさほど脅威とは云えない。しかし、渤海湾等中国の沿海域に潜む“晋”級から発射されるJL-2は、我国にとり重大な脅威であることは変わりない。

−以上−