平成26年の日本政治の展望(その2)


―安倍内閣の課題・集団的自衛権―

 

2014-01-22 豊島典雄

 

 順風満帆の安倍晋三丸であるが、前途には都知事選(23日告示、2月9日投開票)、消費増税(4月)、集団的自衛権に関する憲法解釈の見直し、原発再稼動、沖縄県知事選(11月)、消費税10%の最終決断(年末)などの問題が待ち構えている。

安倍内閣には、集団的自衛権についての憲法解釈の見直しでは、連立政権の「ブレーキ役」を自任する公明党との見解調整という難題もある。

また、せっかく病を治して健康体になりつつあるとはいえ、病み上がりの体に二回もの重労働(消費増税)はきつい。総合ビタミン剤(平成25年度補正予算案、26年度本予算)の投与で乗り切れるか。

さらに、日米合意達成のため、沖縄県・宜野湾市の普天間基地の名護市辺野古沿岸部への移設を実現するには地元自治体の協力が不可欠である。1月19日の名護市長選で移設容認派は敗北した。だから、11月の沖縄県知事選はきわめて重要である。

そして、原発の再稼動をできないと、電気料金の引き上げ、原油輸入増による貿易赤字、コスト高を嫌った工場の海外移転、雇用問題、いっそうの円安による物価高が懸念される。

 

日本周辺は波高し!!

 

安倍船長の手腕の見せ所だがいずれも難題である。特に、集団的自衛権の見直しは、自民党と連立政権のパートナーである公明党の見解が対立し、連立政権の崩壊の危険もあるとして、注目されている。

集団的自衛権を行使できるように日本国憲法の解釈を見直す必要がある背景は、日本の安全保障環境の著しい悪化である。大量破壊兵器の開発に狂奔し、昨年もわが国攻撃の恫喝をした北朝鮮。軍事力を背景に、尖閣諸島などの周辺国の領土や資源を強奪しようとして、アジアの脅威となっている中国。

オバマ大統領の米国は二期目に入ってからとくに、「世界の憲兵」「世界の警察官」の役割を果たす意思を失っているようにさえ見える。アジアでの存在感も弱まっている。中国はこの状況を有利と見て、砲艦外交を展開している。

わが国自身の安全と、アジアの平和と安定を確保するためには、安全保障体制の強化が緊要である。

 

戦後日本はオストリッチ・ポリシー

 

ダチョウは危険が迫ると砂に首を突っ込んで、危険を見まいとするという。かって野党第一党であり、非武装中立論を唱えていた日本社会党の姿勢はこのオストリッチ・ポリシー(現実逃避)ではなかったか。似ているようだ。占領基本法にしか過ぎなかった日本国憲法を神棚に祭り、手を合わせても平和は守れないのだ。

安全保障環境の悪化で、米国に一方的に依存し、弱肉強食のジャングルの掟が生きている国際社会の現実を見まいとするオストリッチ・ポリシーは通用しないのである。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」(日本国憲法前文)は幻想である。

昨年は国家安全保障会議設置法や特定秘密保護法案が成立し、一歩前進はしたが、防衛力の急速な整備と防衛法制の現実化は待ったなしである。日本の安全保障体制の柱の一つが日米安全保障条約に拠る日米同盟である。この関係を強化するために、集団的自衛権を行使できるように憲法解釈を現実化することは必要不可欠である。安倍首相の「悲願」である。

『国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力を持って阻止する権利を有しているとされています。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然です。しかしながら、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきでものであり、他国に加えられた武力攻撃を、実力をもって阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、これを超えるものであって、憲法上許されないと考えています』(防衛省・自衛隊のホームページ)。

ようするに、日本が攻撃されたら米国は若者の血を流して助ける。しかし、米国が攻撃されても日本は助けられない。日本国憲法を盾にして、知らん振りするのである。これでは、日米同盟は崩壊する。

 

現行解釈はPKO活動にも支障

 

また、現行の解釈では、PKO(国連平和維持活動)等で海外に派遣されている自衛隊宿営地の近くで活動する他国の部隊が、ゲリラなどに攻撃されても助けられない。これも、国際社会の常識に著しく反する。「日本の常識は世界の非常識」の一つである。

本筋は占領下の67年前に、米国によって強制された日本国憲法を改正することだ。「日本人の日本人による日本人のための日本国憲法」の制定をすることだが、時間がかかり、間に合わない。憲法解釈を現実にあわせるしかない。憲法残って国滅ぶではあまりにも愚かである。

 

世論も集団的自衛権容認に

 

世論も認めるようになっている。昨年12月13日の時事通信社の世論調査では、安倍政権が検討を進める憲法解釈の変更を通じた集団的自衛権の行使容認について「賛成」が17.9%、「どちらかといえば賛成」が39.7%と合わせて57.6%が賛意を示した。「反対」「どちらかといえば反対」は計27%だった。

今年1月4、5日に行われた産経新聞とFNNの合同世論調査でも「集団的自衛権を認めるべきだと思いますか、思いませんか」との質問に「思う」43.9%、「思わない」35.7%、「わからない・どちらともいえない」が20.4%。日本周辺の波が高まるとともに、日本国民も安全保障体制の強化の必要性を理解するようになっているのだ。

憲法の集団的自衛権の解釈変更問題については、現在、安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の構築に関する懇談会」で議論が続けられており、4月に報告書を提出する。それを受けて政府は政府見解の原案をまとめる。その後、与党の自民、公明両党に示し、行使容認の範囲などを協議する。内閣は与党の理解を得た上で通常国会中(1月24日~6月22日)に閣議決定や安倍首相の答弁などで行使容認を打ち出す方向である。

この解釈を現実にあわせることの障害は公明党との意見調整である。磯崎陽輔首相補佐官は20日に東京都内で講演し、「公明党は『拒否権』を持っているので、しっかりと議論しないといけない」と述べている。磯崎氏は既に、24日召集の通常国会中に憲法解釈変更の閣議決定を目指すべきという見解を示しており、この日も「国会閉会中にこそこそやるべきものではない」と重ねて持論を展開した。

解釈見直ししても政権交代でまたもとの解釈に戻っては困る。そこで、秋の臨時国会に、自衛隊の行動を規定する自衛隊法や、有事の際の周辺事態法などの改正案を提出し、成立させる。

 

公明党はけん制する

 

公明党の山口那津男代表は「まず経済再生を」と言っている。現行の解釈を「それなりの妥当性と内外の信頼があると思っている」「なぜ変えるのか、どのように変えるのか。同盟国や近隣諸国、日本の国民にどのような影響があるのか。深く、広く、慎重に検討していく必要がある」と安倍首相をけん制している。

みんなの党は分裂して勢力が半減しているが、渡辺喜美代表は1月4日、集団的自衛権を容認する憲法解釈変更も視野に、行使容認を向けた党内論議を進める意向を示した。

「連立の組み換えがおきるかどうか分からないが、そのときにみんなの党はこう考えると答えを用意しておく必要がある」と。また、「今年前半には自民、公明両党間で棚上げしてきたこの問題の結論が出る。モラトリアム(一時停止)期間が終わろうとしているのは紛れもない事実だ」と述べ、自公連立政権は解消される可能性があるとした。自民党と公明党が離婚したら「私がいるわよ」と言っているようだ。自民党と連立したいのである。

「平和の党」を掲げる公明党は「解釈変更による行使容認は党の根幹を揺るがす課題」(党幹部)として一歩も譲らない構えだ(1月5日の産経新聞)。公明党の姿勢は固い。「(いつまでもついて行きます下駄の雪)にはならない。今度は分かれるのではないか」と見る向きもあるわけだ。

 

与党であるメリット

 

だが、公明党は特定秘密保護法案にも最終的には賛成し成立させている。結論から言えば、自公はなかなか別れ難いのである。

公明党の政策などは自民党より民主党と近いと見られる。しかし、公明党は与党であるからこそ福祉分野でその固有の政策を政府に受け入れさせる「手柄」を立てられる。今後も消費税10%時の軽減税率導入問題があるが、与党であるからこそ支持者の期待に応えられるのだ。

 

魅力的な公明票

 

自民党は創価学会=公明党の強い集票力に依存している。公明党は昨年夏の参院選の比例区で756万票、一昨年末の衆院選の比例区で711万票を獲得している。昨日、懇談した自民党実力者の地元秘書は「以前よりは公明党の集票力は衰えている。上が言ってもなかなか下が動かない」と言っていた。

また、自民党内には、「憲法改正を含め安倍首相らしい政策、自民党らしいを推進しようとすれば、公明党はことごとくブレーキ役になる」という反発はある。「安倍さんと公明党の山口代表は肌が合わない」(自民党幹部Aさん)とも見られる。

しかし、「我が党を応援している各種団体で、最も参院比例選挙で得票するところでも50万票です。公明党票は一桁大きいのです。300小選挙区に約2万票あるのです。大きいですよ。有力な支持基盤を持たない風頼りのみんなの党や日本維新の会では代わりになれません」(自民党選対関係者)。自民党の小選挙区選出の議員の地元の集会で、「先生方どうぞ」と言われて、壇上に上がるのは保守系市会議員と公明党市会議員である。何度も目撃した風景である。一体化しているのだ。「これでは、上が対立しても別れられないな」と思わせる。

互いに必要としている。別れられなくなっているのではないか。特定秘密保護法案のときのように、公明党が自民党に何らかの注文をつけて飲ませる形で決着するのではないか。

−以上−