世界最大の貨物輸送機、アントノフ[An-225]ムリヤの写真集


世界最大の貨物輸送機、アントノフ[An-225]ムリヤの写真集

 

2014-02-16  松尾芳郎

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図:(Gelio Livejournal)[An-225]ムリヤ(Mriya)は今も活躍中の世界最大の貨物輸送機、最大離陸重量は640㌧。ソビエト時代にスペースシャトル“ブラン”(Buran)を空輸するために作られた。製作は1機のみ。

 

アントノフ[An-225 ]ムリヤ(Mriya)については、すでに本ブログに「世界最大の輸送機アントノフ[An-225]!」2011-01-31として掲載済み。今回”Golden Eagles News 2014-02-13”で、多数の写真を掲載した[Gelio Livejournal]サイトの紹介があったので改めて述べて見たい。

 

[An-225 ]はウクライナのキエフで作られたが、ここは大型機の製造に縁がある。ライト兄弟による動力飛行成功は1903年だったが、その10年後に早くもイゴウ・シコルスキーが世界初の4発大型複葉機”イリヤ・ムロメッツ“を作ったのが、キエフであった。(同氏は革命を逃れて米国に渡り「シコルスキー航空機」を設立、今も続いている)

以来ロシアは伝統的に独創性のある飛行機を世に送り出しているが、この巨人貨物輸送機[An-225 ]もその一つ。”洗練された“とは云い難いが、改めて航空大国ロシアの技術の深さを示した機体と云えよう。飛行機好きには一見の価値がある写真集だ。

アントノフ[An-225 ]の写真は、次ぎのサイトをクリックして見ることができる。

 

 http://gelio.livejournal.com/193025.html

 

写真は78枚あり、それぞれに英文の説明があるが、判り易いように簡単な意訳を付けてみた。写真1葉ごとを原則としたが、簡単のため数葉を纏めて説明した箇所もある。

 

l   [An-225]はソビエト時代に計画され、1988年にウクライナ・キエフ(Kiev)製作所で作られ現在でも世界最大の離陸重量(640㌧)と貨物搭載量(156㌧)の記録は破られていない。

l   完成以来飛行時間は3,740時間、離陸・上昇・巡航・降下・着陸を含んだ平均時速は500km/hrである。従ってこれまで187万kmを飛行したことになる。

l   [An-225]は、全長84mもあり高さは18mで巨大、ボーイング747と比べると長さで8m、翼幅で20mほど大きい。またエアバスA380と比べても11m長く翼幅は9m大きい。

l   余りの大さのため、空港によっては駐機場がなく平行滑走路がある場合にはその一つを閉鎖し、駐機場として利用することがある。

l   翼幅は88.4m、翼面積は905m2である。これより大きい翼を持つ飛行機は1947年に作られた米国のヒューズ(Hughes) H-4飛行艇だけである。H-4は木製、ハワード・ヒューズ氏の操縦で1度だけ低空飛行を行ない、以来博物館展示となっている。

l   本機の原型[An-124]と違って、胴体上部は、スペースシャトル“ブラン”やブースターロケット“エネルギア”を搭載するため、再設計された。これら機外搭載の貨物からの後流を避けるため垂直尾翼は2枚にしてある。

l   エンジンは[An-125]と同じD-18T型、推力23.4㌧を6基装備するので、合計推力は140.5㌧になる。

l   エンジン始動方式はフライバイワイヤ・システムで、胴体床左右のフェアリング内にある[TA-12] APUからの動力で行なわれる。

l   燃料は13のインテグラル・タンクに納められ、搭載量は365㌧。これで18時間の飛行ができ、航続距離は15,000kmに達する。

l   給油作業にかかる時間は、タンカーのサイズ(5~50㌧)にもよるが、7~70両のタンカーを使い30分から半日ほども要する。

l   燃料消費量は巡航時で15.9㌧/hr、貨物積載量を最大にした場合は2時間飛行できる。

l   機体は、2本ストラットのノーズギアと14ストラットのメインギア(片側7本ずつ)で支えられる。各ストラットには2個のホイールが付くので、ホイール数は合計32本になる。ホイールは90着陸回毎に交換される。タイヤはヤロスラビ(Yaroslavi)タイヤ工場で作られ単価は約1000㌦。

l   タイヤのサイズはノーズが1120 x 450mm、メインが1270 x 510mm、タイヤ圧力は12気圧。

l   2001年から[An-225]は「アントノフ航空(Antonov Airlines)」で民間輸送に従事している。

l   貨物室は長さ43m、幅6.4m、高さ4.4mで与圧されている。各種不定形貨物、標準型コンテイナーなら16個、乗用車なら80台、大型トラックも搭載可能で、ボーイング737の胴体が収まるサイズである。

l   貨物積卸し時にはノーズギアを折り曲げ(kneeling)、機首を下げて作業を容易にする。ノーズランプの出し入れは10分間でできる。

l   ノーズギアを折り曲げ機首を下げる様は“象のお辞儀(Elephant’s bow)”と呼ばれる。ノーズギアが前方に折れ曲がり、貨物室の支柱で支えられる。

l   傾斜の緩やかなノーズランプを使う搭載方式は、他のやり方より遥かに勝れている。

l   [An-225]の貨物搭載量は約250㌧で世界一、747Fの4倍に相当する。これまでに単体で187.6㌧(ガス発電用大型発電機と付帯設備)の貨物、超重量級の貨物253.8㌧の輸送実績がある。長尺ものの空輸記録として風力発電用ブレード長さ42.1mを2本空輸した。

l   飛行の安全のために、重心位置が規定の制限範囲内にあることの確認が重要だが、ロードマスターが規定に収まるよう搭載貨物の位置を確認している。これを副操縦士がチェックし機長に報告、許可を得てから出発する。

l   [An-225]には、それぞれ5㌧の昇降能力のあるリフト4台付きの搭載装置を備えている。別に地上には積込み用ウインチ2台が準備されている。

l   フランスの”アルストム(ALSTOM)”社の重量170㌧の貨物を、スイスのチューリッヒ(Zurich)からバーレン(Bahrain)に空輸した時の写真。途中燃料補給のためアテネ(Athens)とカイロ(Cairo)に立ち寄った。

l   この貨物はタービン発電装置一式である。

l   機長ワデム・ニコラエビッチ・デニスコフ(Vadim Nikolaevich Deniskov)氏の写真。

l   [An-225 ]を牽引するにはトーバーが2本必要なので機内に搭載してある。前述のように貨物積込み/積卸しの際はノーズギアを折り曲げる構造のため牽引に使えない、ノーズドアの左右にトーバーを結合して牽引する。本機には軍用貨物機で一般的な後部貨物ドア/ランプは付いていない。このため積込み/積卸しには30分ほど余計に時間が掛かる。

l   主任整備員の写真。

l   牽引中に方向を変えるときには主ランデイングギアの後方の4組が正しく旋回に従って向きが変わっていることを確認する。

l   油圧システムと胴体床構造担当の整備員の写真。

l   機体重量の重さでアスファルト面にはタイヤの擦り跡が残る。

l   コクピットへの昇降階段とドア。

l   2階の乗員室は2つに分かれている。前方(左)はフライトデッキ用で、整備員とその他は後(右)の部屋を使う。両室は主翼取付け部で分かれていて、各々の空調は別になっている。

l   整備員が使う部屋は、食事、仕事、それにチョットした会議に使う。前部の部屋には6席、後部の部屋には12席、合計18席ある。

l   後部乗員室用に梯子とアクセスドアがある。

l   2階の主翼取付け部は装備品室になっていて、後部コンパートメントと繋がっている。ラックはシステムごとに分類されていて与圧、空調用ダクト、除氷などの作動を司っている。勿論これ等のシステムは、搭載の34台のコンピュータで自動化されており、整備員による操作は必要ない。

l   (装備品室内の)主翼フロントスパー中央部の様子。上の白色パイプは主翼前縁スラットのトランスミッション、その下の2本はエンジン・ブリードエアのダクトである。沢山の赤色球体はハロン消火器。

l   非常用脱出ハッチ(6ヶ所)には、訪問した人達が残したラベルが貼ってある。

l   これまで本機が飛んだ最も遠いところは南太平洋のフランス領タヒチ島で、距離は16,400kmにもなる。(写真にはタヒチのラベルはない)

l   [An-225 ]のベル。長年本機の整備を担当してきた整備士ウラジミール・ウラデミロビッチ・メイソン(Vladimir Vladimirovich Mason)氏が彫ったもの。

l   本機の機長ウラジミール・ユリエビッチ・モシン(Vladimir Yurievich Mosin)氏の写真。

l   重心位置計算(weight and balance control)は胴体フレームに取付けてある荷重測定システムを使って簡単にできる。

l   フライトデッキのクルーは、機長、副操縦士、ナビゲーター、主席フライトエンジニア、搭載装備担当フライトエンジニア、それに通信士の6人構成。

l   コクピットのエンジン・スロットル・レバー。推力調整は、レバー操作の力を減らし精度を高めるため遠隔操作方式になっている。レバーを軽く動かすと電子信号に変換されそれがエンジン側の燃料コントロールに伝わり、推力が変ると云う仕組み、これには予備としてケーブル駆動システムが追加されている。No.1とNo.6エンジンのスロットル・レバーは、それぞれNo.2とNo.5に繋がっていて、パイロットはNo.2~No.5レバーを動かせば、自動的に全エンジンの推力を調整できる。

l   世界最大の巨人機のコントロール・ホイール(操縦舵輪)。舵面の操作は油圧システムに繋がる油圧アクチュエータで行なわれ、油圧システムは4系統で充分な冗長性を備えている。コントロール・ホイールおよびペダルの動きはロッドとケーブルで油圧システムに伝達される。操縦席からエルロンまでには胴体内で30m、それから両翼の中で35mもある、また尾翼のエレベータおよびラダーまでは約65mある。

l   [An-225]は、搭載貨物が無い時は2,400mの滑走路で充分離着陸でき、最大離陸重量の場合は3,500m、そして最大着陸重量時は3,300mの滑走路長さが必要である。

l   エンジン暖機運転には滑走路端で約10分間行なう。これで離陸時のエンジン・ストールを防止する。

l   離陸/着陸のスピードは、機体重量にもよるが240~280km/hrである。

l   上昇時のスピードは560km/hr、上昇率は8m/sec。

l   高度7,100mで速度を675km/hrにまで上げ、巡航高度に上昇する。

l   {An-225}の巡航速度は850km/hr。これは機体重量と予定飛行距離で多少変る。

l   ファースト・オフィサーのドミトリー・ビクトロビッチ・アントノフ氏(Dmitry Viktorovich Antonov)

l   コクピット正面中央の計器盤。左に予備のホライゾンと高度計。真ん中黄色枠内にはスロットル位置表示計とエンジン推力表示計。その下には、左が操縦舵面位置表示計と、右にはランデイングギアの偏向度数とスラット、フラップ、スポイラの位置を示す計器がある。

l   主席フライトエンジニアの計器盤。左のサイドパネルは油圧システム操作用とランデイングギア位置表示のパネルになっている。上部左のパネルは防火システムパネル。その右側は、APUスターター、与圧、空調、防氷、などの操作パネル。その下、正面は燃料、エンジン・コントロール、各システムの自動モニター・システムのパネルとなっている。

l   主席フライトエンジニアのアレクサンダー・ニコラエビッチ・ポリシュク氏(Aleksander Nikolaevich Polishyuk)の写真。

l   エンジン・コントロール・パネル。左の長方形計器はスロットル位置表示計、大きな円形計器はファンと高圧コンプレッサー計器(圧力比?)。下の小型円形の計器はエンジンオイル温度計、その下の縦型計器は各エンジンの油量計。

l   搭載装置の操作パネルで、電源供給システムと酸素システム関係の計器類が並んでいる。

l   ナビゲーターのアナトリー・ビニヤトビッチ・アブドリアエフ氏(Anatoly Binyatovich Abdullaev)の写真。

l   ギリシャ上空を飛行中。(ジェプソン・チャートを使用?)

l   ナビゲーター教官のヤロスラフ・イワノビッチ・コシツスキー氏(Yarolav Ivanobich Koshitsky)の写真。

l   通信士のジェナデイ・ユリエビッチ・アンテイポフ氏(Gennady Yurievich Antipov)の写真。チューリッヒからアテネ(Zurich-Athens)に向け飛行中だがコールサインは“ADB-3038”と連絡しているところ。

l   フライトエンジニアのユーリ・アナトリビッチ・ミンダール氏(Yury Anatolievich Mindar)の写真。

l   数葉の説明のない写真については省略。

l   これから降りるアテネ飛行場の滑走路の写真。[An-225]は夜間着陸では計器飛行で着陸する。最も着陸が難しいのは山岳地帯にある障害物の多いカブール(Kabul)空港だ。着陸進入は時速340km/hrで高度200mまで降り、そこからスピードをゆっくり落としながら滑走路に向かう。

l   フラップ無しでの着陸速度は295km/hr。滑走路に接地する時の沈下速度は6m/sec。接地後は直ぐにNo.2~No.5エンジンのスラストリバーサを開き、No.1とNo.6はアイドルにする。そして機体は140~150km/hr のスピードから減速し停止する。

l   [An-225]の寿命は、8000飛行時間、2000サイクル、あるいは25年と予測していた。本機は2013年12月21日で運航開始以来25年となったので、詳細な点検を行ない、寿命を45年に延長すべく必要な整備、改修をする予定である。

l   (模型飛行機を前に)[An-225]は、用途が陸上輸送のできない長尺貨物と超重量物を運ぶのに限られているため、運航コストが高い。需要は不規則で月2~3回のこともあれば年1~2回の時もある。2号機を作ることが検討されたこともあったが、費用が9,000万㌦にもなり、試験飛行のコストなどを入れると合計で1億2,000万㌦になるので難しい。

l   この飛行機は多分世界で最も美しく印象的な機体である。写真撮影に協力してくれた“アントノフ航空”にお礼を言いたい。

−以上−