エアバスA330neoは実現するか


エアバスA330neoは実現するか

 

–次世代型GTFエンジン搭載のA330neoの開発是非は2014年末に決まる-

 

2014-03-05松尾芳郎

 

A330-300図

図:(Airbus)エアバスA330-300のコンピュータ・レンダリング。A330neoはこれと外形はほとんど同じで相違点はエンジン部分。A330は1994年に就航開始、これまでに100社以上から1,300機以上を受注、昨年7月には1,000機目が引渡された。エアバス広胴機群の中で随一の稼ぎ頭。系列機にA330-200F貨物機、A330 MRTT空中給油・貨物機、などがある。最近(2014-02-28)わが国のスカイマーク社が初号機を受領、同社は合計10機のA330-300をリースする予定。

最大離陸重量は-200と-300は共に242㌧、2クラス標準の座席数は、-200/293席、-300/335席である。

 

エアバスは今年末までに、広胴機生産ラインの将来の見通しを検討する予定だが、これは同時にエンジン業界にも大きな影響を与えそうだ。これでP&W社は予想よりも早く長距離機用エンジンの市場に復帰するかも知れない。

 

エアバスは狭胴型機ではA320neo計画で競合機種を押さえトップを確保しているが、広胴機の分野ではボーイングに比べ勢いが不足気味なため、今年末までにその将来像を見極めようとしている。すなわち、A350系列機の整理(A350-800の開発中止)、A330のエンジン換装、A380の改良・エンジンの換装、の3つの戦略的な問題について方針を決めようとしている。

中でもA330のエンジン換装問題が急がれ、この年末までの決定を目指す。

A330は就航以来10年が経過し、昨年夏には1,000機目が納入されている。今年1月現在で受注は1,313機、うち1,055機が引渡し済み、従って受注残は258機。昨年から年産10機体制になったので2016年までの仕事は確保済みで、今後の受注を見込んで2018年までは生産が続く、としている。そしてその時期には新エンジンを含む改良型の生産に移行できそうだと考えている。(プログラム担当専務トム・ウイリアムス(Tom Williams)氏談)

短期的にはA330の改良は続いていて、2015年夏頃には長距離用の242㌧型が、また短距離用の機体が、それぞれ完成する。この内最大離陸重量242㌧型はデルタ航空に引渡され、来年(2015)末から運航を開始する、最大離陸重量を減らした短距離用は中国国内市場を狙っている。

焦点のエンジン換装型A330(以後A330neoと書く)だが、エンジン開発に時間が掛かるため、出現は2018~2019年になりそうだ。

A320neoの場合は、小型機であるうえ予想を上回る大量受注をしているが、A330neoでは受注数が桁違いに少ないため、投資回収が難しいと云う問題がある。機体のサイズでも、787と競り合い、A350とも多少の競合関係にある。

A330neoで2機種が検討中だが、長距離用では最大12時間の飛行が可能で、A350-800やボーイング787および777の領域で、燃費を競うことになる。

現在型A330では、エンジンはGE CF6-80E1、PW4000、R-R Trent 700(いずれも推力7万lbsクラス)から選択できる。これは営業政策上有利だが、反面パイロン、ナセルなどの設計、証明取得、などが個別に必要となり、開発費が高騰する。

従ってウイリアムス担当専務は次ぎのように語っている。『営業上の不利はあるがA330neoのエンジンは一社を選定したい。3社からの提案は、RRの「トレント1000改良型」、GEの「GEnx-1B」、PWの「次世代型GTF」がある。これ等を、コアのサイズ、全体の構成、重量などの点で検討した結果、PW提案の「次世代型GTF」(ギヤード・ターボファン)に最も興味を引かれ、これを候補として選択した。』

これで、PWは現在GE、RR 2社の独占状態にある大型エンジン分野に再登場することになり、その復活の早さに業界関係者は驚きの目で迎えている。

PWが提案中のエンジンは、A320neoなどに採用されたPW1000G GTF(推力17,000~33,000lbs)の「次世代型GTF」と云える広胴機用エンジンで、推力は70,000lbsを超える。

これに関するP&W社のデイブ・ブラントナー(Dave Brantner)社長の話はごく控えめである。

「提案中の次世代型GTFは、現在のPW1000Gのタービン温度を上げたり各コンポーネントの性能を上げて推力を達成するのではない。詳細は公表できないが、現在は新GTFについてエアバスと多くの問題を協議している段階である。

今はPW1000G 系列エンジンの開発・完成が最大の課題であり、如何にして顧客の要求にあわせて引渡せるか、にある。技術者の不足、時間の不足、いろいろ問題はあるが、勿論次世代型GTFの開発から目をそらしている訳ではない。」

PW1000Gエンジンは、現在6種類が新狭胴型機に向け並行して開発中である。いずれも低圧タービン/コンプレッサーとファンの間の減速比3:1のギア、高圧コンプレッサー(HPT)段数の8段、高圧タービン(HPT)2段、低圧タービン(LPT)3段、に変りはない。しかし推力に応じてファン直径と低圧コンプレッサー(LPT)の段数を2段または3段に変えている。すなわち;—

1)    PW1200G:三菱MRJ用/70-96席、2017年就航予定

推力:PW1215G/15,000lbs、PW1217/17,000lbs

バイバス比/9:1, ファン直径56㌅

2)    PW1500G:ボンバルデイアCSeries用/100-145席、2015年就航予定

推力:PW1521G/21,000lbs、PW1524/推力23,300lbs

バイパス比/12:1, ファン直径73㌅

3)    PW1100G-JM:エアバスA320neo用/124-240席、2015年10 月就航予定

推力:PW1124G/24,000lbs, PW1127G/27,000lbs, PW1133G/33,000lbs

バイパス比/12:1, ファン直径73㌅

4)    PW1400G:イルクーツMC-21用/130-230席、2016年就航予定

推力:PW1428G/28,000lbs, PW1431G/31,000lbs,

バイパス比/12:1, ファン直径81㌅

5)    PW1700G:エンブラエルE-Jet E2用/80-90席、2018年就航予定

推力:PW1700G/17,000lbs

バイパス比/9:1, ファン直径56㌅

6)    PW1900G:エンブラエルE-Jet E2用/97-144席、2018年就航予定

推力:PW1900G/23,000lbs、

バイパス比:/12:1、ファン直径73㌅

 

現在30基のエンジンが試験中で、合計の運転時間は7,600時間、サイクル数では17,000サイクルで、飛行時間は850時間の段階。ボンバルデアCSeriesに搭載済みのPW1500Gは飛行試験中、MRJ向けのPW1200Gは最終組立中で間もなく三菱に出荷される、A320neo用のPW1100G-JMは間もなくフライトテストを行ない、今年夏の終わりにはエアバスに最初の1機分を送り出す。

PW1100G-JMは、MTUが開発の18%を受持ち、低圧タービン(LPT)の開発責任と高圧コンプレッサー(HPC)の開発でP&W社と協力する。JAEC(日本エンジン開発協会)は開発の23%を受持ち、ファン、低圧コンプレッサー(LPC)および燃焼室/デフューザーの開発責任を持つ。そしてP&Wは残りの部分の開発とシステム統合について責任を持つ。

PW1100G-JM完成式

図:(P&W)A320neo向けPW1100G-JMエンジン完成式 (Last Bolt Ceremony) での写真。これのファン直径は73㌅、バイパス比は12:1、推力27,000lbs である。

 

A330neoに提案中の次世代型GTFは、ファン減速ギア比をこれまでの3:1から3.5~4.0に改め、バイパス比を15:1に大きくし、同時に全体(LPC+HPC)の圧力比(OPR)を現在の50:1から60:1に高め、高性能化する。現在の値はすでに業界の最高レベルなので、これはかなり高い値である。PW1000Gでは、高圧コンプレッサー(HPC)の圧力比は16:1で、競合するCFM Leap Xの22:1より低い。しかし低圧コンプレッサー(LPC)の高速回転でより高いOPRを得ている(CFM Leap XのOPRは40:1)。

 

PW1000Gの高圧コンプレッサー(HPC)は、前段4段をMTU、後段4段をPWがそれぞれ担当し、MTU担当部分はデイスク・ブレード一体のブリスク(blisk)構造でチタン合金製、後段はニッケル合金製だが詳細は不明。次世代型GTFでは、LPC回転速度をさらに上げ、改良型HPCと組合わせて、全体の圧力比(OPR)を60:1近くまでに上げようとしている。これで現在のA330装備エンジンに比べ、燃費を10%以上改善した推力7万lbsクラスのエンジンに仕上げる予定。

推力7万lbs級の次世代型GTFの出現が決まると、エアバスの巨人機A380(最大離陸重量577㌧)のエンジン換装問題が浮上してくる。A380は、これまでに304機の確定受注があり、内123機を引渡し済み。最大の顧客はエミレーツ、使用中の44機に加えて96機をオーダーしている。ここがA380のエンジン換装を強く要求しているので、エアバスも真剣に検討せざるを得ない。現在のA380は、GE、PW共同開発のGP7270、あるいはRRトレント970、いずれも推力7万lbs級のエンジンで、顧客の要求に応じて搭載できる仕組み。

何れにしてもA330neoの行方は、エアバスの将来のみならずエンジン業界の行方にも大きな影響を及ぼしそうだ。

–以上−

本稿の参考にした記事は次ぎの通り。

A330 Family, Airbus

Analysis: Airbus faces tough battles over A330 longevity plan, Wed. Feb. 2014, Thomson Reuters by Siva Govindasamy and Tim Hepher

PurePower PW1000G Engine, Pratt & Whitney

Aviation Week Feb. 17 2014 “Sea Change” by Jens Flottau and Guy Norris

Aviation Week July 01, 2013 “Pratt & Whitney’s Geared Turbofan Growth Plan” by Graham Warwick