超合金に替わる“セラミック–マトリックス複合材(CMC)


2014-04-09  松尾芳郎

 

“セラミック–マトリックス・複合材(CMC=ceramic matrix composites)”とは、セラミック–マトリックスにシリコン・カーバイド(SiC)のような耐火性繊維を混合した複合材で、低密度、高硬度で耐熱性と耐腐食性に勝れる。

 

Trent1000 CMC試験

図1:(Boeing & Rolls-Royce) NASA Stennis Space Center (Miss)に設置したロールスロイスの屋外エンジン試験装置で試験中のRRトレント1000エンジン。このエンジンには“セラミック–マトリックス・複合材(CMC=ceramic matrix composites)”製の排気ノズル部品(図4参照)が組込んである。これ等部品は、ボーイング技術研究所(BR&T=Boeing Research & Technology) (Huntington Beach, Calif.)が製造した。

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図2:(COI Ceramics)CMC製の排気ノズル・センターボデイ。これまでCMCで作られた最長の製品。

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図3:(COI Ceramics)CMC製の吸音型排気ノズル。これまでのCMC製で最大の直径の製品。

Trent1000 CMC排気ノズル

図4:(Boeing, Rolls-Royce, COI Ceramics)排気ノズル・センターボデイ(図2)と排気ノズル(図4)を組合わせた状態、ノズルには金属製外套が被せてある。排気ノズル・センターボデイは長さ2.3m (92㌅)、排気ノズルは長さ80cm (31 ㌅)、直径160cm (63㌅)。

 

今回の試験は、ボーイングが数年前から取組んでいる「CLEEN」(Continuous Lower Energy, Emissions and Noise)開発計画の一つで、「CMC Nozzle Development」と呼ばれている。このCMC排気ノズルを取付けたRR トレント1000エンジンは、NASAステニス宇宙センター内のRR屋外試験設備で73時間の試験を完了している。これからボーイングの「エコ実証機プログラム」の787-8に取付けられ、2014年後半からの飛行試験に入る。耐久性の目標は55,000時間としている。

使用した素材は3Mが供給する2D N610/AS oxide CMC、参加した協力企業はATK/COI Ceramics およびAEC。

 

“セラミック–マトリックス・複合材(CMC=ceramic matrix composites)”は、これまで20年以上ものあいだ開発が続けられてきたが、漸く実用に踏みだそうとしている。CMCは耐熱性に勝れ、現在の耐熱合金製の部品に比べ20%も軽くなる。将来は超合金の代わりになりそうだ。

 

航空宇宙業界ではボーイングの他にも多くの企業がCMCの実用化に取組んでいる。

 

GE;-

GEがCMC実用化の先頭を走っているのは、衆目の一致するところである。GEではすでに同社の世界研究センター(Global Research Center)(Niskayuna, N.Y.,)とGE Aviationが共同でデラウエアー(Delaware)にCMCの試験製造設備を持っている。ここでは2010年にGEのF414エンジン用タービンブレードを試作し試験を行ったし、またF-35多目的戦闘機用エンジン選定に敗れたF136のタービン部品を製造した経験を持つ。

これ等に使われた素材はSiC CMCで、2400°F (1316℃)以上の高温に耐えられる。これは耐熱合金の代表であるニッケル超合金の3分の1の重さで作ることができる。加えて耐久性に勝れ、冷却空気流量を少なくできるので、より大出力が可能となり、熱効率・燃費が改善される。

デラウエアー工場に加えて、昨年6月にCMCエンジン部品の製造のための専用工場をアッシュビル(Asheville, N.C.,)に建設すると発表した。投資額は125億円、床面積12,000m2の本格的工場となる。

ここでは、ボーイング737MAXとA320neo(オプション)に搭載するCFM-Leapエンジンの高圧タービン2段目のシュラウド(回転するブレード先端からの空気流出を防ぐ円周状の覆い)を主として生産する。CFM社はご存知の通りGEとSafranが折半出資する企業である。これは初めての民間機用CMC製部品となる。

 

P&W:-

CMCには余り熱心ではない。特に軍用エンジンの熱管理については“可変バイパス・エンジン”技術による“先進冷却法”(advanced cooling)と耐熱Ni合金の改良で対応している(F-35用PW F135エンジン?)。そして、CMC技術は本当に完成したのか?短中期的に見てコスト面で問題はないのか?と疑問を呈している。P&Wは、長期的にはCMCの価格、信頼性の問題は解決し、同社が進めるギヤード・ファンに拮抗する燃費性能をもたらすだろう、としている。

 

RR;-

ロールスロイス(RR)の対応は違っている。同社は最近”ハイパーサームHTC社(Hyper-Therm HTC Inc.) (Huntington Beach, Calif.,)”を買収し、CMC分野に力を入れ始めている。

HTC社はC/SiCやSiC/SiC等のCMCを製造しており、RRはこれを使って現在の単結晶超合金に替わる素材を獲得したいとしている。

ハイパーサーム社は10年以上CMC開発を続けていて、現在は極細(10~15μ)繊維のCMCを試験中だ。以前にはSCS-Ultra SiCと呼ぶ大直径のシリコン・カーバイド単相繊維(monofilament)を組込んだCMCを試験した経験を持つ。

このSCS-Ultra SiC繊維は、元々チタン–アルミ・メタル–マトリックス複合材(titanium aluminide metal-matrix composites)用に開発したものだが、CMCとしても有効なことが判った。SCS-Ultra SiC繊維に極細のSiC結晶材を混ぜると耐熱性が2500°F (1371℃)にもなる。SCS-Ultra SiCは一般のSiC繊維の中で最もひずみに対する抵抗力があると云われる。

ハイパーサームHTC社はこれ等の技術を使って、NASAのマーシャル宇宙飛行センター(Huntsville, Ala.)向けに、液体ロケット用の世界初となる繊維強化型SiCマトリックス製スラスト・チャンバーを開発中だ。このチャンバーは、金属製のものと同様、外側に巡らした冷却チューブ内に液体水素を通しチャンバー本体を冷却し、6500°F(3593℃)の高熱に耐えるようにする。

 

 

SiC素材開発;-

シリコン・カーバイドSiC素材には日本企業が関わっている。すなわち、日本カーボン(東京)は、GE(Newark, Del.)およびスネクマ(Snecma/サフランの子会社)と共同で、東京に「NGSアドバンスド・ファイバーズ(NGS Advanced Fibers)」を設立した。 この会社では、“ニカロン”(Nicalon)の名前で20μ径のシリコン・カーバイド(SiC)長尺繊維の製造を開始した。

前述したがGEでは次世代狭胴機ボーイング737MAX用のCFM Leap1BとエアバスA320neo用のCFM Leap1Aエンジンのタービン・シュラウドに使う“セラミック・マトリックス複合材[CMC]は”ニカロン“耐火性繊維をベースにして作られる。

Leapエンジンは未だ開発中だが、すでに6,000台を越す受注を獲得している。そしてLeap1Aはスネクマ(France)で、Leap1BはGEで生産されることが決まっている。

–以上−

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Boeing, “Continuous Lower Energy, Emissions and Noise (CLEEN) Technologies Development” Boeing Program Update, by Craig Wilsey at CLEEN Consortium Public Session 2012

Composites World, 11/1/2013, “Ceramic-matrix composites heat up” by Karen Wood