“ニュー・ホライゾンズ”、冥王星探査後にカイパーベルトへ進む


2014-05-24 松尾芳郎

2014-05-30 Revised

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図:(NASA)冥王星探査機「ニュー・ホライゾンズ」は来年(2015)7月14日に冥王星近くに到着、冥王星と衛星カロンの間を通過しながら紫外線、可視光線と近赤外線のカメラで両星の表面を詳しく観測する。図には、探査機を中心に斜めに広がる冥王星表面と半円形の黒い衛星カロン、それに遠くに輝く太陽が描かれている。

地球から冥王星までの距離は50億km前後もあるため探査機の活動のために太陽光発電は使えない。探査機「ニュー・ホライゾンズ」は原子力発電で電源を賄う仕組みになっている。

ニュー・ホライズンズの航跡

図:(NASA)今年(2014)5月21日に発表された「ニュー・ホライゾンズ」の現在位置。2006年1月19日に打上げられ先ず木星に向かい、2007年2月にその近傍を通過、加速されて冥王星との会合点を目指して飛行中。到着まで1年余りに近づいた。これまでの飛行距離は28.68AU(1天文単位は1億5,000万km)、つまり43億kmを超えている。この距離になると光や電波が届くのにおよそ8時間も掛かるようになる。

N.ホライゾンズ予定

図:(NASA)前図のように探査機「ニュー・ホライゾンズ」は来年(2015)7月に冥王星とその衛星カロン(図ではシャロン)の表面を調査する。搭載燃料に余裕があるためその後はカイパーベルトに向かい、そこに浮遊する大型氷惑星の数個に50〜100kmまで接近し探査する。調べる氷惑星を確定するために“ハブル”宇宙望遠鏡の使用を検討している。

 

NASAの冥王星探査機「ニュー・ホライゾンズ」の担当チームでは、冥王星探査後の活用策として、カイパーベルトの探査を検討中だが、そのために「ハブル(Hubble)宇宙望遠鏡」の使用を希望している。

来年(2015)7月に探査機を冥王星とその衛星カロンの間を通過させ、詳細な表面調査と大気の状態を調べる。その後探査機を「カイパーベルト天体群(Kuiper Belt Object=KBO)」に向かわせ、そこに存在する氷の小惑星を探査する予定。

事前に探査する氷惑星を決めるためには、「ハブル宇宙望遠鏡」を使って詳しい状況を調べる必要がある。時期は今年(2014)6月後半で、担当チームはハブルの40周回の期間、つまり2.5日分を集中して使い、探査機の調査に適合するKBOの氷惑星を特定したいとしている。

「ハブル宇宙望遠鏡」は1990年4月に打上げられ、以来24年以上宇宙観測に従事中で、高度約560kmの低地球周回円軌道上を1日14~15回の割合で周回し多様な活動を続けている。

カイパーベルト内の小惑星は地上望遠鏡でも観測できるが、「ハブル」は極めて微弱な光でも捉えるので、探査に適合する小惑星の選定には欠かせない。

「ハブル」での観測は今年の6月後半としているが、このタイミングは地球と冥王星を結ぶ延長上に、丁度カイパーベルト内の小惑星の密集空間が重なるので、観測目的の惑星を探すのに好都合な時期であるためだ。

「ハブル宇宙望遠鏡」の成果は数十億光年の彼方にある多数の銀河宇宙の観測から我々の銀河内の恒星系の探査などがあるが、太陽系に関しても多くの観測成果を挙げている。例えば;—

*  冥王星の衛星として比較的大きいカロン(Charon)の他に、スタイックス(Styx)、ニックス(Nix)、カーベロス(Kerberos)、ハイドラ(Hydra)の4つの衛星を発見した。

*  木星周回の氷の衛星ユーロパ(Europa)の南極から、水素と酸素が出す紫外線を検知し、厚い氷の裂け目から水が間欠的に噴き出していることを確認した。これは氷層の下に水が存在することを示すもので、NASAは探査機の打上げ、この間欠泉に接近し探査することを検討し始めている。

近年「太陽系内の地球やユーロパ、その他に存在する“水”の根源はカイパーベルトにある」、との見方が強まってきている。そこで担当チームは、「ニュー・ホライゾンズ」の飛行方向に直径25km程の氷の小惑星を見付けだし、詳しく調べたい、と云うことだ。

カイパーベルト内で探査に適していると思われる天体は、ハワイにある最新の「ケック望遠鏡」と「スバル望遠鏡」による広視野観測ですでに50個ほどが発見されている。「ハブル宇宙望遠鏡」は狭視野の観測用の望遠鏡だが、宇宙空間にあるため、大気の影響を受けないのでかなり高い確度で望む小惑星を確定できそうだ。

KBOにある極寒の小惑星は、原始の組成から成り太陽系の木星、土星、天王星、海王星等の巨大ガス惑星の生成過程で、取り残された屑の集まりと考えられ、その数は数兆個にも達する。

天文学者である「ケネス・エッジウオース(kenneth Edgeworth)」(1943)、同じく「ヤン・オールト(Jan Oort)」(1950)、同じく「ジェラード・カイパー(Gerard Kuiper)」(1951)が、相次いで、太陽系の海王星の外側には極寒の小惑星が大量に存在しており、彗星はそこから太陽系内に降り注ぐらしい、と提唱した。このため海王星の外に大量の星々が発見された際、これら先人の名を採り、「カイパーベルト」あるいは「エッジウオース–カイパーベルト」および、そのさらに外側を取巻く球状の小惑星帯を「オールトの雲」と命名したのである。

「カイパーベルト」は、楕円の平面形で、太陽から地球までの距離1億5,000万km(これを1天文単位あるいは”1 AU”と云う)の30〜50倍、つまり30〜50AUの範囲に広がる氷の小惑星群である。同じような小惑星帯群は岩石ではあるが火星や木星の回りにも存在する。

これ等数兆個の氷の小惑星群には、直径100km以上の天体を数千個含んでいると見られる。またそこにはそれよりやや大きい小惑星(Dwarf Planets)も存在する。

太陽系が生まれた頃、大量のガス、塵、それから岩石がお互い引っ張りあって結び付き、太陽ができ、惑星が誕生した。惑星系が生まれると大部分の塵の類いは太陽に吸込まれたが、木星より遠く離れた区域の塵は太陽の引力が弱まるので、太陽に吸込まれずその周回軌道を極めてゆっくりと回るようになった。これが「カイパーベルト」であり、さらにその遠方に生成した球状の小惑星群が「オールトの雲」である。これ等は、従って太陽系創成期の名残で、これを調べることで誕生の謎を解き明かすことができる。

探査機「ニュー・ホライゾンズ」が向かっている「冥王星(Pluto)」は、「カイパーベルト天体(Kuiper Belt Object)」として認定された(1992年)最初の惑星である。続いて2004年には、冥王星の4分の3のサイズの「センダ(Senda)」が発見されたが、これは太陽を10,500年の周期で回っている。2005年には、冥王星とほぼ同じサイズの「エリス(Eris)」が見つかり、その太陽周回周期は580年と判明した。

2006年に「カイパーベルト」最大の「セレス(Ceres)」が、2008年に「ハウメア(Hqumea)」と「マケマケ(Makemake)」が発見されて、冥王星、センダ、エリス、と共にこれ等は一括して“小惑星(Dwarf Planets)”に分類された。1992年以前までは、冥王星を太陽系の惑星の一つとして扱っていたが、1992年以降改め、海王星までを太陽系の惑星とし、冥王星を除外しカイパーベルト天体としたのは正しい措置だったと云える。

参考までにNASA発表の「オールトの雲」模型図を添付する。

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図:(NASA・JPL)「カイパーベルト」は太陽から30〜50AUの範囲に平板状に存在している。この外側、太陽から1万AU〜10万AU(1.6光年)の間に球核状に広がっている小天体群を「オールトの雲」と云う。およそ1兆個の小天体から成ると想像されている。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week May 12, 2014 page 23 “Deep Dive” by Frank Morring, Jr.

NASA News 2014-05-21 “New Horizons Mission”, “Mission Design”, “Where is New Horizons”, “New Horizons Spacecraft and Instruments”

Ilcspacesuits.com “Kuiper Belt Objects”

Space.Com June 14, 2012 “Kuiper Belt Objects: Facts about theKuiper Belt & KBO” by Nola Taylor Redd