陸自、新型地対艦ミサイルの熊本集中配備を決める


2014-06-17   松尾芳郎

 12式SSM

図:(陸上自衛隊)12式地対艦ミサイル発射機搭載車両。2013年8月富士総合火力演習で初公開された。現在の88式地対艦ミサイル「SSM-1」の後継で、陸上から発射され、低空を飛翔して来襲する海上の敵艦船を攻撃するミサイル。「SSM-1」より敵の迎撃に対する残存性が改良され、また命中精度が向上している。

システムの構成は次ぎの通り。

*  小型トラック搭載の捜索・標定レーダー装置が2台

*  小型トラック搭載の中継装置が1台

*  中型トラック搭載の指揮統制装置が1台

*  中型トラック搭載の射撃統制装置が1台

*  12式ミサイル6発搭載の発射機搭載車両(上図写真)が1〜4輛

*  7㌧トラックに予備弾6発を搭載する弾薬運搬車が1〜4輛

2013年末から陸自富士学校(静岡県)および同武器学校(茨城県)に教育用として搭載車両計2輛(ミサイル24発を含む)を配備するのが最初。続いて2014年度末には4輛(ミサイル48発を含む)が部隊育成用として富士教導団特科教導隊に配備される。

12式SSM発射の様子

図:(陸上自衛隊)「12式地対艦ミサイル」の発射の様子。設計は陸自研究本部、製造は三菱重工。ミサイル本体は、直径35cm、長さ約5m、重量約700kg、射程は200km 程度。推進方式は、個体燃料ブースタで加速、その後は小型ターボジェットTJM2推力260kgで巡航する。誘導は、目標近く迄INSプラスGPS、終末はアクテイブ・レーダー・ホーミング(ARH)方式で接近、命中する。飛翔速度は未公表だが、前身の88式地対艦ミサイル「SSM-1」が1,150km/hrなので同程度と見られる。

 

去る6月15日付けの一部新聞で「地対艦ミサイル熊本集中」「28年度から南西防衛を強化」と報じられたが、これについて以下に解説を試みる。

先般、陸上自衛隊は、沖縄列島方面への中国軍による侵攻に備え、新型の地対艦ミサイル「SSM=Surface to Ship Missile」を九州、熊本に集中配備する事を決めた。新型の地対艦ミサイルは「12式」と呼ばれるもので、今年(2014)から教育用として富士学校および武器学校に2輛が配備され、来年(2015)には部隊教育用として4輛が富士教導団特科教導隊に引渡される。

そして平成28年度(2016)には、16輛、搭載ミサイル数で192発、が熊本県・健軍駐屯地にある西部方面特科隊・第5地対艦ミサイル連隊に配備される予定だ。

我国では本土沿岸や島嶼を敵の侵攻から守るため、1970年代から対艦ミサイルの開発に取組み、1980年から「80式空対艦ミサイル(ASM-1)」を航空自衛隊に配備してきた。これを基にして地上発射を可能にするため、個体燃料ブースタを付加した「88式地対艦ミサイル(SSM-1)」を完成、1988年から陸上自衛隊で運用を始めている。発射機の調達数は約100輛(ミサイル弾数で600発)で、2000年に生産を終了した。

「88式」の配備先は、富士教導団の他に、北部第1特科団の第1地対艦ミサイル連隊・北千歳駐屯地、同第2地対艦ミサイル連隊・美幌駐屯地、同第3地対艦ミサイル連隊・上富良野駐屯地、東北方面特科隊の第4地対艦ミサイル連隊・八戸駐屯地、および、西部方面特科隊の第5地対艦ミサイル連隊・健軍駐屯地である。

北海道と青森の配備はロシアの脅威に対抗するためである。

そして今回「12式」が配備される健軍駐屯地は、南西諸島の防衛体制強化の一環となる。島嶼防衛作戦が発動されれば、直ちに大型輸送艦あるいは新造の空自大型輸送機C-2で前線となる沖縄本島、宮古島、石垣島などの基地に展開し、来襲する敵艦艇を迎撃することになる。

昨年11月に行われた3自衛隊による「離島奪還を想定した統合演習」では「88式地対艦ミサイル部隊」が宮古島に展開したが、演習で離島に「SSM」が進出したのはこれが最初。

 

(注)「地対艦ミサイル(SSM)」は、沿岸防御用で、地上発射機で発射される。ミサイル本体は、弾体前方から、センサー、誘導装置、炸薬部、燃料タンク、TJM2ターボジェット、そして最後部に個体燃料ブースタが付く。本体中程に4枚の操縦翼、さらにブースタ部に発射時の安定用に4枚の翼が付いている。ブースタ部は加速が終わると分離される。

発射時には、捜索・標定レーダー装置「JTPS-P15」車両が海岸線に進出、目標の情報を得て指揮統制装置に送り、ここで飛行経路などを計算、射撃管制装置を経てミサイル本体に伝達する仕組み。

発射後は、誘導装置(INS、GPS)の指令で地表に沿い低空で飛び、洋上に出てからも低空で目標に向かい、最後はレーダー・ホーミング(ARH=Active Radar Homing)で目標を把握、着弾する。射程は、「88式」は約150km、「12式」は200kmに延伸され、命中精度も向上していると云う。

 

ただ、陸自が保有する“捜索・標定レーダー装置”の索敵能力は、洋上約40km迄の範囲に限られているため「地対艦ミサイル」の持つ射程能力を充分生かし切れていない。この欠陥は一部では早くから指摘されていたが、昨年閣議決定した「防衛計画の大綱」の審議過程で、ようやく問題として浮上した。

これを改善するために防衛省は今年(2014)から、海自のP3C哨戒機、空自のAWACS E-767あるいは早期警戒機E-2Cが取得した敵艦船の動きに関する情報を、陸自「SSM」部隊に伝送するデータ・リンク・システム導入の調査、研究を開始した。2年ほどで実用化を目指し、「12式」SSMの熊本・健軍基地配備迄には間に合わせたいとしている。

このような事で、我国の島嶼防衛の態勢がまた一歩前進しつつあることが明らかになり、多少安堵した心地になる。

–以上−