テロに屈するな!問われる決意と責任


2015-02-09  元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫

 

 

  • テロの恐怖に怯えることは、卑劣なテロリストたちの思うつぼ 

ISIL(中東テロ集団、イスラム国と自称しているが、国ではない)に拘束されていた湯川遥菜氏に続いて、後藤健二氏が殺害された。

安倍晋三首相は2月2日、記者団に対し「日本がテロに屈することは決してない。食糧支援、医療支援といった人道支援をさらに拡充する」と明言。「テロと戦う国際社会において、日本としての責任を毅然として果たしていく」との決意を示した。

そして今後とも、国内外の日本人の安全に万全を期していく姿勢を示すとともに、「テロの恐怖に怯え、我が国の足並みが乱れるようなことがあれば、それこそ卑劣なテロリストたちの思うつぼ」と結束を求めた。

ISILは、拘束していた後藤健二さんを殺害した映像をインターネット上に投稿。犯行グループの男は「日本にとっての悪夢が始まる」などとメッセージを発し、すべての日本人が殺害の対象になると脅迫した。

ちなみにISILは、スンニ派の過激集団であるアルカイダからも破門され、その本質は強盗・殺人・脅迫を常とする「中東テロ集団」である。イスラム教徒はもとよりイスラム教の国々からも反発されている。

オバマ米大統領も、ISILによる「凶悪な殺害」を非難した。そのうえで米国はイスラム国撲滅に向けた行動を継続するとの方針を示した。オバマ米大統領は「イスラム国を弱体化させ最終的には撲滅すべく、引き続き断固とした措置をとる」と強調した。

 

  • 人質殺害事件の責任が日本にあるかのような野党やマスコミ。政権批判へ誘導も

ところが日本では、野党の一部議員から、ISILの日本人人質2人の殺害を非難しながらも、「安倍政権に問題がある」「検証が必要」などと、悪いのは安倍政権で、テロレスト側にも理があるかのような主張もみられた。

たとえば「いくら人道支援とはいえ、資金援助を大々的に記者会見でアピールし刺激したことは否めない」とか、「(避難民支援を)悪意ある人たちに口実を与えた」という政権批判への誘導である。

安倍首相が、安全保障法制の整備の必要性を述べたことに対しても「テロ事件の利用は明らか」「日本はいま戦後もっとも危険な首相が政治のトップにいる」と発信した議員や、「安倍政権の存続こそ言語道断」と、人質殺害事件の責任が日本にあるかのような内容で、ISILの批判ではなかったのである。

マスコミの一部にも、「2邦人拘束」の情報を知りながら、安倍首相が中東やイスラエルを訪問し、2億ドルの人道支援を発表したことが引き金になったと非難した。

しかしエジプトなど中東諸国はイスラム教の国であり、イスラム教と異質なISIL(中東テロ集団)の脅威にさらされており、人道支援は大変感謝されていたのである。

殺害された後藤健二氏は、外務省から計3回、渡航中止を要請されたにもかかわらずシリアからISILに入った。

シリア全土やイラク西部への渡航について、外務省は、危険情報として最もレベルの高い「退避勧告」を出し、目的を問わず渡航を延期するよう呼びかけていたのである。

 

  • 日本人は、宣伝効果や利用価値の大きい標的 

テロリストにとって、日本人が宣伝効果や利用価値の大きい格好の標的になっている。つまり日本人に危害を加えても軍事作戦などの報復を受ける恐れがないからである。

1977年(昭和52年)に「ダッカ事件」という日航機ハイジャック事件があり、その際の日本政府の対応は、世界から奇異の目で見られていた。

乗客・乗務員を人質にしたテロリスト集団(日本赤軍)は日本政府に対し、乗客の身代金と在監・勾留中の日本赤軍など(含む一般凶悪犯)の釈放を要求した。

当時の福田赳夫首相は「人命は地球より重い」として、こともあろうに軍資金600万ドル(当時の為替ルートで約12億円)とコマンド(兵士)6名をテロ集団に提供した。

日本政府は、超法規的措置という名目で、在監・勾留中の犯罪者(思想犯、凶悪犯)を釈放したのである。

そしてカイロ(エジプト)で乗客全員が解放されたとき、日本の多くの新聞は「事件は解決した」と報道し、一件落着と言う感覚であった。

ハイジャッカーが乗客を釈放したのは、逃亡のお荷物・足手まといになるからである。ちなみに欧米の記事は「犯行は完全に成功した」と報道した。

それ以前にも、1972年(昭和47年)には、日本赤軍の岡本公三ら3名が、イスラエルのテルアビブ・ロッド空港において、自動小銃を乱射する事件を引き起こし、その場に居合わせた一般旅行者ら約100人以上を殺傷(うち死亡26人)したという事件があり、日本赤軍は世界を脅かしていた。

しかも釈放したコマンドも含め日本赤軍は、その後も世界各地でテロ活動を繰り返した。その犠牲となった人々も多く、日本政府は人質となった自国民の生命の安全しか考えていないと、世界から嘲笑された。

 

  • テロに理解と同情を示さないこと。軍資金やコマンドを提供しないこと

テロの撲滅には特効薬はなく、まずはテロリストを殲滅することである。

そしてテロに甘い態度をとらないこと。絶対に妥協しないこと。

「テロに対し少しでも理解と同情を示すならば、テロ行為はアミーバーのように培養され増えつづけていく」というのが、世界の常識。

ましてやテロリストに、軍資金やコマンドを提供しないこと、住居や食料、隠れ場所を与えるなどということは、許されないことは当然である。

テロリストに、日本人を人質にとっても、得るものがないと言うことを示す必要がある。

場合によっては人質の安全よりも、テロリストの壊滅が優先することを、テロリストに認識させなくてはならない。人質をとっても無駄と言うことに、結果的になるからである。

 

-以上−