海自最大の護衛艦・ヘリ空母「いずも」が就役


2015-03-28 松尾芳郎

改訂2015-03-29 (最初の図の説明の中でCH-46とあるのをCH-47と改めた)

改訂2 2015-03-31  (艦型比較図と説明を改めた)

 いずも左舷

図:(海上自衛隊)引渡し式前の公試運転中の海上自衛隊最大の護衛艦・ヘリ空母「いずも」艦番号DDH-183の左舷上空から見た姿。飛行甲板は全長248m、幅36m、最大戦速30kt、基準排水量19,500㌧、満載排水量27,000㌧とされる(一部の外誌は30,000㌧と紹介)。航空要員を含む乗員は約470名、揚陸作戦時や災害救助活動時には約500名が追加乗艦できる。搭載航空機は、哨戒・対潜ヘリSH-60K 7機と輸送・救難ヘリMCH-101 2機を含む最大14機とされる。明示されてないが、陸自が運用中のCH-47双発大型輸送ヘリや近く配備予定のV-22オスプレイなどの運用も可能である。

 いずも右舷

図:(海上自衛隊)「いずも」の右舷上空から見た写真。艦首記載の番号[83]右にはファランクス20mm機関砲・CIWS(細長い白色レドーム)があり、また艦橋前部の小さい白色レドームは射程9.6km対空ミサイルSeaRAM 11連装発射機である。艦尾にもそれぞれ1基ずつがある。艦橋のうしろに張り出している構造は飛行甲板とハンガーを結ぶ舷外エレベータ。「いずも」は舷外エレベータを装備する初めての護衛艦となる。甲板中央にはもう一つのエレベータが見える。右舷舷側の中ほどの開口部は自走車両用の出入口で、ここから大型トラック約50輛の搬入/出ができる。いわゆるRO-RO機能を備える。

艦型比較 のコピー

 

図:右上の「いずも」と他艦の飛行甲板を比べた図。右下は「ひゅうが」。

左側はいずれも大東亜戦争で戦った日米の空母を示し、上から順に、米海軍“エセックス級”、日本海軍 ”信濃”、”翔鶴 ”、 ”飛龍 ”。

「いずも」の飛行甲板は、“翔鶴”に匹敵し米海軍の“エセックス”に迫る大きさである。余談だが”エセックス”級空母は1941-50に掛けて24隻が作られた。

 

ジャパン・マリン・ユナイテッド横浜事業所磯子工場で2012-01-27に起工した護衛艦「いずも」は、2013-08-06に進水式を挙行した。追加工事の完了後、試験運用を続けていたが、この程完成し2015-03-25に引渡し式が挙行された。式には中谷防衛大臣が出席、初代艦長吉野敦一等海佐に軍艦旗が手渡され「いずも」は横須賀基地でヘリコプター搭載護衛艦として正式の任務に就いた。

「いずも」の概要

防衛省は、「いずも」はヘリコプター搭載艦で、増強著しい隣国(中国海軍を指す)の潜水艦隊に対する抑止効果を持ち、その搭載能力を生かして災害救助に威力を発揮する、また、いわゆる“空母”にはなり得ない、とその任務を控え目に解説している。

引き続き2番艦が建造中で今年8月に進水、2017年3月の就役を目指して工事が行われている。

「いずも」は先行して作られた「ひゅうが」型(基準排水量14,000㌧)ヘリ空母を約6,000㌧上回る19,500㌧、飛行甲板は全長248mで「ひゅうが」型より50m長い海自最大の艦型となる。

米海軍の強襲揚陸艦マキン・アイランド(ワスプ級の8番艦)が満載排水量41,000㌧全長257m、幅34mであるのに対し、「いずも」は満載排水量では2,7000㌧と云われやや小振りだが、飛行甲板のサイズ(全長248m x 幅36m)では引けを取らない。

エンジンは「ひゅうが」型と同様IHIがライセンス生産するGE LM2500IECガスタービン28,000馬力を4基装備している。LM2500型エンジンはいわゆる40㌳型コンテナ(長さ12m x 幅2.4m x 高さ2.6m)に納められ、交換が容易になっていると云う。

個艦防御機能

「ひゅうが」型は、対空、対潜の戦闘能力を持っているが、「いずも」は航空機の運用に主眼をおくため、個艦防御機能では「ひゅうが」に劣る。対空ミサイル用多機能レーダーや対潜用ソナーは簡略になり、巡航ミサイルや航空機を迎撃する兵装を持つだけである。すなわち、「ひゅうが」に搭載する“改良型シー・スパロー・ミサイル(ESSM)射程50km”は装備せず、射程9.6kmの対空ミサイルSeaRAM 11連装発射機を2基とファランクス20mm機関砲(射程3km)を2基搭載するのみだ。

「いずも」は大型艦の特徴を生かし、艦隊の中核として運用することを想定していて、自艦の対空・対潜戦闘は、随伴する僚艦防衛能力のある護衛艦に頼ることになる。高価な対空、対潜装備を一部省略したため、建造費は「ひゅうが」型と同じ約1,200億円に収まった。

多機能レーダーは、「ひゅうが」のFCS-3(三菱電機製)からミサイル射撃指揮機能を外したOPS-50を装備する。これのC波帯捜索用アンテナを艦橋の周囲4面に配している。また潜水艦探知用OPS-28水上捜索レーダー(日本無線製)を艦橋上構に搭載している。

対潜用ソナーは、「ひゅうが」の艦首プラス側面アレイのOQQ-21から側面アレイを省いたOQQ-23に変更されている。対潜用として対魚雷防御のための投射型静止ジャマー(FAJ)と自走式デコイ(MOD)を装備する。

神経系統:

艦の神経系統の役を担う情報処理システム、C4I システム(Quadruple I = Command Control Communication Computer Intelligence System)は、「ひゅうが」と基本的に同じ。しかし戦闘指揮システムは、前記ESSMを廃したことで簡略化したOYQ-12型になっている。また戦闘指揮所(CIC=Combat Information Center)と旗艦用司令部作戦室(FIC)は、「ひゅうが」より拡大されている。

航空機運用機能

飛行甲板は前述のように245m x 38mで「ひゅうが」(195m x 33m)の1.5倍の広さとなり、ヘリ発着用スポット4つから5つに増えている。ハンガーは第3−第5甲板にあり大きさは125m x 21m x 高さ7.2m。飛行甲板とハンガーを結ぶエレベータは甲板中央に1基(20m x13m)と艦橋うしろに舷外エレベータ1基(15m x 14m)の合計2基を備える。搭載機はSH-60哨戒・対潜ヘリ7機、MCH-101輸送ヘリ2機など最大14機としている。陸自が配備する「V-22オスプレイ」の離着艦もすでに「ひゅうが」で実証済みであり「いずも」での運用に全く問題はない。

F-35Bの運用は?

内外の関心の高い次世代ステルス機STOVL型F-35B戦闘攻撃機の「いずも」への搭載について、防衛省は「考えていない」と否定している。米海軍では、ワスプ級およびアメリカ級の強襲揚陸艦でF-35B運用が決まっており、420機ほどの調達を想定している。F-35Bは短距離離陸垂直着陸型(STOVL)のためF-35AやF-35Cに比べ戦闘行動半径が300kmほど短い845kmになる、これを補うため米海兵隊では艦載型のMV-22オスプレイ給油機を併用する予定。

関係筋では、ワスプ級と艦容の似る「いずも」でのF-35Bの運用には何ら支障ない、とする見方が多い。航空自衛隊は陸上型のF-35Aを近く導入する(42機)が、「いずも」型でのF-35B運用が決まれば、新たに動く航空基地が誕生することとなり、我国の防衛力向上に大きく貢献できそうだ。

中国との関係

「いずも」の引渡しを報ずるメデイアの一部は、相変わらず“空母型護衛艦の保有は専守防衛の理念に反する”とか“中国を刺激する”とか批判を繰り広げている。

先般来報道されているように、中国政府の2015年予算では国防費は4年連続10%プラス増の18兆円(米国防総省の推定では21兆円)となる。これは我国の平成27年度防衛予算5兆円の約4倍に相当する。中国は、これで海軍では大型空母数隻の建造と弾道ミサイル原潜の増勢を進めており、空軍ではステルス戦闘機、瀋陽航空機製の”J-31”、西安航空機製の”Y-20”大型輸送機などの実戦配備に力を注いでいる。

今や日米の軍事専門家の間では“中国が攻めてくるのはいつになるか”に関心が集まっている。3年後になるか、あるいは10年後かは判らない、しかし歴史が示す通りその時は必ずくる、と懸念されている。

「いずも」の完成を喜んでばかりはいられない、我々は“第二の元寇”に対する備えを急がなければならない。

 

−以上−