今年4-6月の緊急発進と南西諸島の防空態勢


2015-07-19(平成27年)松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部は「平成27年度第一四半期の緊急発進実施状況について」と題する報道資料を発表した(27-07-15)。内容は一部マスコミが紹介済みだが、ここに整理してみる。

発表は、中国軍機への緊急発進が増加している事実を述べるに止まっているが、中国の軍事的台頭はこれだけではない。

すなわち、連日のように海警局公船が尖閣諸島近辺の領海へ侵犯を繰り返し、さらに東シナ海日中中間線付近のガス田での軍事転用可能な大型プラットフォームの建設を急ぐ、などが行われており、地域の安全保障環境を著しく悪化させている。

折から懸案の「集団的自衛権行使」を可能とする「安全保障関連法案」が衆院通過(2015-07-16)した。これで我国の防衛力拡充の基礎が固まり、特に増強著しい中国の脅威を受け止める南西諸島の防空体制が一段と強化されることを期待したい。

  1. 全般;—

この3ヶ月間の緊急発進回数は、前年同期に比べ大幅に減少し173回に止まった。これはロシア機が著しく減り全体の3分の1になったためで、中国機が3分の2を占めるようになった。

  1. 方面隊別;—

北部航空方面隊(三沢基地)が48回、中部方面隊(入間基地)が6回、西部方面隊(春日基地)が9回といずれも減少したのに対し、沖縄基地の「南西航空混成団」の緊急発進回数は110回に急増した。

  1. 平成27年度第一四半期(4-6月)の特徴;—

ロシア機に対する緊急発進回数は、前年同期が235回だったのに対し今期は57回と大幅に減少した。一方中国機に対する緊急発進は、前年同期より10回増え114回に達した。中国機への緊急発進はほとんど「南西航空混成団」が実施した。

  1. 参考—平成23から26年度(2011- 2014)における対国別緊急発進回数;—

緊急発進回数

平成26年度のロシア軍機に対する緊急発進回数は473回とピークだったが、全体のおよそ半分の235回はその第一四半期に発生していた。以後急速に減少し、今年度の第一四半期はわずか57回となった。一方中国軍機に対する回数は増え続け、今年度はロシアを抜きそうな勢いである。

 

我国周辺とは別に、ロシア機の西欧諸国や北米沿岸への示威飛行は、2014年年初に始まったウクライナ紛争以来、2014年は前年比で50%増え400回に達し、その都度諸国の空軍機が緊急発進し対処した。ところが年度後半に入ると息切れするようになる。この理由について西側専門家は「整備不良による稼働率の低下」と見ている。つまりロシア機は伝統的に整備性への配慮が十分でなく、使い捨ての考えで作られている、と云うのだ。事実昨年以降事故が増え始め、全面的に整備に取り組む必要に迫られ、示威飛行を減らさざるを得なくなっている。

今年の6月だけで6件の事故が報じられている。すなわち月初めMig-29戦闘機がロシア南部のアストラカンで墜落。同日Su-34戦闘爆撃機がモスクワ南500 kmボロネズ地区で墜落。その数日後Tu-95戦略爆撃機がアムール地区のウクラニカ(Ukranika)基地を離陸滑走中にエンジン火災で離陸中断大破、これでTu-95は飛行停止。6月初旬には、旧式のSu-24攻撃機の2機が個別に事故を起こし、飛行停止となる。7月14日には飛行再開したTu-95が全エンジン停止となり、ハバロフスク(Khabarovsk)南80 kmの砂漠に墜落した。

4-6緊急発進パターン

図1:(統合幕僚監部)今年4-6月の間におけるロシア機と中国機の我が国領空接近飛行のパターン。繰り返し行われていたロシアTu-95戦略爆撃機の日本周辺への示威飛行は、2015-03-20を最後に行われていない(「ロシア空軍戦略爆撃機が日本海及び太平洋で我国領空に接近」を参照)。中国空軍機の動きは南西諸島西方空域に集中している。

 

我が国の防空態勢;—

航空自衛隊は全国を4区域に分け、北からそれぞれ「北部航空方面隊」(三沢基地)、「中部航空方面隊」(入間基地)、「西部航空方面隊」(春日基地)、「南西航空混成団」(那覇基地)が担当している。各「航空方面隊」は戦闘機で構成する「航空隊」1-2個からなる「航空団」2つを主体とし、レーダーを装備する「航空警戒管制団」、対空ミサイル部隊の「高射群」、などで編成されている。

「西部航空方面隊」を例にすると;—

・第5航空団(新田原基地)第301飛行隊

・第8航空団(築城基地)第304飛行隊、第6飛行隊

・西部航空警戒管制団(春日基地)背振山、下甑島を含む7箇所のレーダー基地

・第2高射群(春日基地)芦屋、築城、高良台など4箇所のペトリオット対空ミサイル部隊

・その他、

 

「南西航空混成団」の現状は;—

南西諸島の防空を担当する「南西航空混成団」は「西部航空方面隊」などに比べ規模が小さく1飛行隊しか配備されていない。これでは昨今の中国軍の脅威増大に対処しきれないため、強化が急がれている。

第9航空団編成

図2:(防衛省・平成27年度概算要求の概要)我が国南西地域の防空態勢を強化するため、「西部航空方面隊」所属の第8航空団から第304飛行隊(F-15戦闘機部隊)を那覇基地に移動させ、現在の第204飛行隊(第83航空隊)と併せ「第9航空団」を新編する。平成27年度中に完了する予定。

南西航空混成団配置

図3:(2010 JASDF)沖縄列島及び奄美群島の防空を担当する南西航空混成団の主な部隊の配置図。

 

南西航空混成団の現在の編成は次の通り。

・第83航空隊(第204飛行隊のみで編成)(那覇基地)

・  南西航空警戒管制隊(那覇基地)与座岳、沖永良部島、久米島、宮古島、の4箇所のレーダー基地

・  第5高射群(那覇基地)、配下にペトリオット対空ミサイル高射隊、第17高射隊(那覇基地)、第16高射隊および第18高射隊(知念)、第19高射隊(恩納)

・  その他

図2の説明のように2016年3月までに第83航空隊(第204飛行隊のみで編成)は、築城基地の第8航空団配下の第304飛行隊が那覇基地に移動し、第204飛行隊と共に「第9航空団」となる。これで那覇基地のF-15戦闘機隊は40機程度の編成となり、戦力がほぼ倍増される。

那覇拡張計画

図4(内閣府那覇空港プロジェクト室)那覇空港増設滑走路計画に示された地図で”北”は”右”になる。現在の”南北”に伸びる滑走路の沖合1,310 mに長さ2,700 mの並行滑走路を新設する。埋め立て面積は約160 ha。工事開始は2014年1月、完成予定は2019年末で、供用開始は2020年3月となる。総工費は2,000億円。

現在の航空自衛隊那覇基地は、現滑走路中央下側(つまり東側)で、滑走路に並行するほぼ3分の2の地域を占める。民間用空港施設は残りの右側3分の1の地区にある。軍民両用の空港で1本の滑走路を両者が共用している。航空管制は航空自衛隊が担当している。

-以上-