オシュコシュ2015航空ショーのトピックス (その3)


2015-07-29 松尾芳郎

 

初参加した自作の小型P-51Dムスタング

P-51D型は、P-51系列機の決定版で第二次大戦中約8,000機が作られた。パッカードV-1650エンジン1,700馬力を搭載、最大速度700km/hr、上昇限度12,000m、離陸重量5.5トン、大戦中は各地で使われた。製造単価は1945年価格で約5万ドル。戦後欧米の空軍で退役が始まり、民間で所有する機体が増え米国内で200機ほどがFAAの型式証明を取得して今でも飛行している。大半は”Commemorative Air Force(記念空軍)“などの民間団体が保有している。

今回のAirVentureでは、このP-51Dの特徴を持たせながら4分の3程度に縮小した自作機が数機参加した。一見実物と見紛うほどの出来栄えで、アメリカの熱狂的な航空ファン(Aviation Enthusiasts)の存在振りを印象付けた。

S-51D

図15:(John Morris / Aviation Week)本物そっくりだが70%に小型にした「Beautiful Doll」と云う名前の“スチュワート(Stewart)製S-51D”。Vero Beach(Florida)在のJim Stewart氏が設計、製作したもので1994年に公開し、アマチュア用に組立キットを販売している。組立工数は約2000時間、現在FAAに登録されているのは12機と言われている。エンジンは水冷8気筒400馬力、巡航速度は約400km/hr。

T-51D

図16:(John Morris / Aviation Week)こちらは“タイタン航空機(Titan Aircraft)製 T-51D”で本物の4分の3の大きさ、これでも+6gから-4gでの急旋回飛行ができ、巡航速度は300 km/hr。複座型のホームビルド機で、South Austinburg (Ohio)の「タイタン航空機」が組立キットを売っている。組立工数は1,600時間程度、図16に示す完成機の価格は約10万ドルだがエンジンを小型にし固定脚とした機体は6万ドルで購入できる。これまでに28機が作られた。従来はRotax 914 (115 hp)やスズキH27A (183 hp)が使われてきたが、写真(図16)の機体はホンダの高級乗用車レジェンド用の3.5L V型6気筒エンジン245 hpを搭載している。

 

ショーに姿を見せた珍しい小型機

Aircoupe

図17:(John Morris / Aviation Week)今年は“エアクーペ(Ercoupe/Aircoupe)”と呼ぶ軽飛行機の販売開始から75周年になる。“エアクーペ”は操縦がやさしく、失速や錐揉みを起こさない飛行機と云われ、操縦訓練だけでなく愛好家に広く使われてきた。これまでに6,000機が作られ、うち1,500機が今でも飛行可能な状態にある。第二次大戦の始まる前に「Engineering & Reseaarch Co.(頭文字を採ってERCO coupeと名付けた)」が設計、製作した安全な軽飛行機である。複座型はErcoupe 415と呼ばれ、主として戦後の1946年に4,000機ほどが作られ単価$2,700で販売された。しかし程なく軽飛行機ブームが消え、ERCO社の工場は閉鎖となる。その後はAeronca、Snaders Aviation、など数社が生産を引き継ぎ、暫くの間それぞれの会社の名前で製造された。

Ercoupe 415型は、離陸重量570kg、エンジンはContinental 75hp、巡航速度150km/hr。

スターシップ

図18:(John Morris / Aviation Week)この“ビーチ・スターシップ(Beech Starship)”は飛行可能なごく少数機の一つで、オシュコシュに飛来した。炭素繊維複合材製で、機首にカナード、プロペラはプッシャー式と云う変った形をしている。

設計は複合材を得意とするScaled Composites社が協力し、バート・ルータン(Burt Rutan)氏が担当した。ビーチ・スターシップは双発で6-8人乗りのビジネス機。初飛行は1983年。ビーチは、同社が製造し好評だったキングエアの後継機と位置付けていたが、諸種の事情で生産型機の飛行は1989年に遅れた。1995年までに53機が作られたが、販売不振(単価390万ドル)のため生産を中止した。その後ビーチ社は、少数機のアフタサービスを続けるのは採算に合わないとして、ユーザーから買い戻し廃却処分を行った。

残った飛行可能なスターシップは全米数カ所の航空博物館などに寄贈され、そのうちの数機は今もFAAの耐空証明を保持している。

スターシップ2000A型は、乗員1名、乗客6名、巡航速度570km/hr、上昇限度41,000ft、最大離陸重量6.7トン、エンジンはP&WC PT6Aターボプロップ 1,200hpを2基装備、プロペラはマコーレイ(McCauley)5翅型直径2.64mである。

セスナ172N

図19:インリン航空機(Yingling Aviation)はセスナ172Nの製造権を取得し、単価16万ドル(約1,900万円)で販売を目論んでいる。インリン社は長年セスナ社の下請けとして整備、改修、部品製造などで豊富な経験を積んできた企業で、中国を拠点に活躍している企業。

セスナ(Cessna)172シリーズは、“スカイホーク(Skyhawk)”の名で知られ1955年に初飛行し、以来数々の改修が加えられ、A型から始まり今ではS型が生産されている。172シリーズは合計で43,000機が作られ、4人乗り小型機としては世界で最も使われている。途中1986年から、製造物責任法などの訴訟問題から生産を中断していたが、1998年に172R型で生産を再開し今日に至っている。

172シリーズは操縦が容易で多目的に使用され好評だが、新造機の価格は初期の$8,700から、新型のエンジンやアビオニクスなどへの換装のため上昇を続け、2012年価格は$300,000くらいにもなっている。

172Nは1977年から始まったモデルで、”Skyhawk 100”とも呼ばれる。ライカミング0-320エンジン160hpを装備し1980年まで作られたモデル。

“インリン”社は、セスナ172Nのほかに同182、210、パイパーPA28、さらにはビーチ・ボナンザの製造権の取得を目指している。

話はそれるが、今年の中国企業の参加は10数社に達し、そのうち3社はドローン製造に関連する企業だった。

 

AirVentureでの事故

今回のショー期間中に発生した事故はいずれもゼネラル・エビエーション関連機で、着陸時にノーズギヤが折れた件、ギア出し忘れで胴体着陸した件、それに7月22日朝、単発のパイパー・マリブ(Malibu)A-46型機が着陸で滑走路手前にクラッシュ、6人が病院に運ばれた件、の合計3件。

-以上-

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Newsletter July 21, 2015, “Warbirds at Oshkosh-Not What They Seen” by John Morris

Aviation Week Newsletter July 23, 2015, “EAA Airventure Show Highlights” by John Morris

Aviation Week Network July 24, 2015, “Healthy Mix of Professionas and Enthusiasts Keeps Oshkosh Relevant” by John Morris, Molly McMillin, Fred George and John Croft

EAA Airventure Oshkosh July 20-16 2015, “Massive B-52 to Land In Oshkosh

Thenorthwestern.com July 27, 2015 “EAA AirVenture wraps up record- breaking week” by Nathaniel Shuda

その他