三菱MRJ、証明取得飛行は圧縮して実施、引渡し期日は厳守(改定)


2015-11-24(平成27年) 松尾芳郎

2015-11-25改定(図2Aと説明を追加)

2015-11-30改定(初飛行出発時刻の誤りを訂正)

三菱MRJ初飛行

図1:(三菱航空機)2015年11月11日名古屋空港を飛び立つ三菱MRJ90。MRJ90には3機種ある、すなわち、MRJ90STD、MRJ90ER、MRJ90LR。エンジンはPW1217 推力17,600 lbsを2基、最大離陸重量は39.6 ton〜42,8 ton、航続距離は2,120 km〜3,770 kmで、北米ではデンバーを中心にメキシコ・カナダを含むほぼ全域を、また欧州ではパリを中心に欧州全体と北アフリカをカバーできる。最大速度はマッハ0.78。機体の大きさは、翼幅29.2 m、全長35.8 m、尾翼高さ10.5m。機首部分には層流設計を適用、主翼はいわゆるスーパークリテイカル翼型で最大厚みの位置を後ろにずらし巡航時に生ずる超音速領域を少なくし、さらに細長い高アスペクト比の主翼とし、これらの効果で抵抗を減らしている。機首と主翼の空力特性改善で数%の燃費改善を期待している。

MEJ飛行範囲

図2:(三菱航空機)MRJの飛行可能範囲。左は欧州でパリを中心とした図、右は北米でデンバーを中心とした範囲を示す。

mn_mrj10

図2A:(MONOist MRJはいかにして設計されたか)コンピューターを使う“流れの可視化技術”で解明したMRJの主翼とエンジン取付け部の圧力分布図。青色部分は超音速領域、草色部分は音速に近い亜音速領域を示している。スーパークリテイカル翼型で超音速領域を少なくし、抵抗を減らすことに成功している。“流れの可視化技術”の進歩で風洞試験が必要だった事象をコンピューターで解析可能になった。

 

「MRJ」の初飛行

三菱航空機で開発中の「MRJ」リージョナル・ジェットは、予定の4月から半年遅れて11月11日に初飛行した。しかし三菱航空機は、1号機の引渡し期日について既定の2017年6月目標の変更はしない、このため試験飛行を集中的に実施する、と発表した。予定では初飛行から引渡しまで2年の期間を考えていたが、これを1年半に短縮するということである。

「MRJ」は、日本にとって初のジェット民間旅客機、今回の初飛行は太平洋上遠州灘沖の空自演習空域で1時間半にわたって行われた。初飛行には空自の川崎製「T-4」練習機が随伴し、離陸から着陸までの状況を見守った。

戦後我が国で作られた民間旅客機では、三菱を含む航空機開発協会が1962年-74年に製造したYS-11 があるが、生産は182機に止まった。以後の40年間は、主にボーイングから受注する大型機の翼や胴体など部品の製造で技術の向上に努めてきた。戦後2番目となる国産旅客機「MRJ」は、ローンチ・カストマーANAからの15機、日本航空の32機、SkyWestの100機、Trans Statesの50機など、各社から223機の確定注文を獲得し、それにオプション等184機が加わっている。日本航空からの発注機は2021年から引渡しが始まり、Jエアが運行する予定となっている。

MRJ計画は、2012年に発生したFAA型式証明取得に関わる設計手法の不備のため、当初設定した完成目標から3.5年もの遅れが生じている。三菱は、これから1年半(19.5ヶ月)の期間内に、少なくとも2,500時間と見込まれる型式証明取得のための試験飛行を消化しなくてはならない。さらに完成を待つ航空各社に遅滞なく引渡すために、月産10機の生産体制を整えることが急務となる。

証明取得の試験飛行は、1機は名古屋空港で引き続き行うが、来年6月からは天候が安定し混雑のない米国モーゼスレイク(Moses Lake, Washington)のGrand County空港に4機を派遣して、ここで集中的に実施する。飛行試験用とは別に2機を製作し地上での強度試験に供している。

型式証明試験に使う「MRJ」5機はすべて92席型のMRJ 90で、少し小型の78席型のMRJ 70の証明取得はその後になる。

11日の初飛行は、主席テストパイロット、航空自衛隊で25年-20年の飛行経験を持つ安村佳之機長および戸田和男副操縦士の手で行われた。名古屋空港を午前9時35分に離陸し、脚とフラップは、離陸時のセッテイングのままで飛行を続けた。従って低速、低空領域での飛行で、速度は150 kt (280 km/hr)、高度は15,000 ft (約4,700 m)辺りで、上昇、下降、旋回を行い、基本特性と機能が正常であることを確認した。機長によると飛行特性は予期以上に良好で、非常に快適な飛行ができ、着陸時はやや風が強くなったが極めて安定した着陸ができた、と云う。初飛行後天候不良で試験飛行が順延されていたが、19日には2回目の飛行が行われた。

 

「MRJ」の競合相手

「MRJ」と同サイズのエンブラエル(Embraer)E 170型機の場合は、2002から2004年に証明取得飛行をしたが、この時は25ヶ月掛かった。現在同社はE170の後継としてE175-E2を開発中だが、これは「MRJ」と同じエンジンを使い、座席数もほぼ同じ、直接競合する相手となる。エンブラエルE175-E2は2020年に就航予定で、「MRJ」のリード期間は僅か2年と少しでしかない。

E-Jetシリーズは、基本型のE170が2004年2月に就航してから、胴体を少しずつ延長し大きくしたE175、E190、E195を系列機として送り出してきた。これらの合計受注数は1,421機、その内1,158機が就航中である。エンブラエル社は、この実績を背景に改良型のE2シリーズの開発を発表、引き続きリージョナル機市場の確保を目論んでいる。

E175 E2

図3:(Embraer) ブラジル・エンブラエル社は、現在市販中のE-Jet 系列機、E175、E190、E-195、の後継機としてエンジンをPW1000Gギヤード・ターボファンに換装したE-Jet型を開発中である。MRJと競合するE175-E2は80-90席型で2020年の就航を目指している。さらにE190-E2 (106席型)/2018年夏に就航、E195-E2 (132席型)/2019年就航、を並行して開発中である。E175-E2の確定受注数は150機、E190-E2は85機、E195-E2は90機で、E2型全体としては325機の受注を確保している。E175-E2は、主翼は新設計の高アスペクト比翼になる予定で翼幅は未定、全長32.3 m、尾翼高さ9.98 m、最大離陸重量44.3ton、航続距離3,550 km、とされる。

 

「MRJ」の主要装備

ここで「MRJ」の装備について触れて見よう。

エンジンは最新型のP&W製PW1200Gギヤード・ターボファン、三菱は8年前に「MRJ」開発を決定した際に、P&W社が開発中の次世代型エンジンであるPW1000Gを選定した。PW1000G系列はこれまでに23,000時間、40,000サイクルの試験を実施済みで、P&W社はオプションを含み70以上の顧客から7,000台を受注している。このうちA320neo用のPW1100G-JM型は2015年秋にFAA型式証明を取得済みだ。

PW1000Gは”PurePower”と呼ばれ、ファンとそれを駆動する低圧タービンとの間に減速ギヤを入れ、ファンは低速で、タービンは高速で、それぞれの最適スピードで回転させて、燃費を大幅に改善する(15%+)革新的エンジン。

PW1000G系列には、PW1200G/三菱MRJ用、PW1500G/ボンバルデイアCSeries用、PW1100-JM/エアバスA320neo系列機用、PW1400G/イルクーツMC-21系列機用、PW1700G/エンブラエルE-Jet E2 175用、PW1900G/エンブラエルE-Jet E2 190, 195用がある。推力は22,000 lbs(100kN)から35,000 lbs (160 kN)の範囲をカバーしている。「MRJ-90」用には推力17,000 lbs (76 kN)のPW1217Gが搭載される。

エンジンは、MRJ量産開始と共に最終組み立ては三菱重工で行われる。

「MRJ」の機体は三菱重工の各工場で組立てられるが、主要装備品、大型部品の多くは外注となり、その主なものは次の通り。

・  AIDC:台湾空軍傘下の企業、スラット(Slat)、フラップ(Flap)、方向舵(Rudder)、昇降舵(Elevator)、補助翼(Aileron)、スポイラー(Spoiler)を担当

・  エアバス・ヘリコプタ(Airbus Helicopters):ドアを担当

・  GKNエアロスペース(GKN Aerospace):客室窓を担当

・  ナブテスコ(Nabtesco/帝人精機):フライト・コントロール舵面(昇降舵、方向舵、補助翼、フラップなど)の駆動装置/アクチュエーターを担当

・  パーカー・エアロスペース(Parker Aerospace):油圧システムを担当

・  PPGエアロスペース (PPG Aerospace):コクピット風防ガラスを担当

・  ロックウエル・コリンズ(Rockwell Collins):コクピット表示盤「プロライン・フュージョン(Pro Line Fusion)」統合アビオニクス・システム、フライト・コントロール・コンピューター、水平尾翼コントロール・システムを担当

・  スピリット・エアロシステムズ(Spirit Aerosystems):エンジン取付け用パイロンを担当

・  住友精密工業(SPP):ランデイングギヤ・システムを担当

・  UTCエアロスペース製(UTC Aerospace Systems):電源システム・空調システム・高揚力システム・防火システム等を担当

・  ゾデイアック・エアロスペース(Zodiac Aerospace):ギャレイ・ラバトリー・客席を含む客室内装と燃料システムなどを担当

 

このようにMRJ製造に協力する企業は、大半が欧米や台湾で、国内の航空機関連企業の成長が未だ不十分なことを改めて示している。

MRJコクピット

図4:(Rockwell Collins) MRJコクピットの「プロライン・フュージョン(Pro Line Fusion)」統合アビオニクス・システム」。4枚の15 inch型デイスプレイからなり、直感的な表示でパイロットの負担を軽減する。機長席前方には「ヘッド・アップ・デイスプレイ(HUD)」が付き、ここには「合成視認イメージ(Synthetic Vision System)」が表示される。これで闇夜、悪天候時でも安全に着陸進入ができる。

 

MRJコクピットに搭載するロックウエル・コリンズの「プロライン・フュージョン(Pro Line Fusion)」統合アビオニクス・システム」は、速度・高度などの飛行情報、方位・通過点などの航法情報、地上や他機などとの通信機能、気象情報、エンジン作動情報、異常を知らせる警報機能、などを統合して大画面にグラフ化して表示する。4枚のパネルは、必要に応じパイロットが簡単に表示機能を変更できる。各パネルにはタッチ・パネル機能が付いていて、重要な情報はタッチして直ぐに表示できる。

このシステムは、最新のエンブラエル製KC-390軍用輸送機や米空軍の最新型空中給油機ボーイングKC-46A にも採用されている。KC-46Aタンカーは我が航空自衛隊でも4機の購入を決めている。

MRJ客室断面比較

図5:(航空と文化No.108三菱航空機佐倉潔技術本部副本部長記事)エンブラエルE-Jet 175/190(左)とMRJ 70/90(右)の客室断面の比較図。MRJはE-Jet E2に比べ、床上高さ80 inch(203 cm)で1 inch高く、客室内幅は108.5 inchで0.5 inch広い。頭上の手荷物収納ビンも大型で、客室の比較ではやや優れている。

MRJ客室

図6:(三菱航空機)92席型MRJ-90の客席配置図。前後の左右にドアを設け、これで客室中央の非常用ドアは不要となった。図中の略号は、G/ギャレイ、L/ラバトリー、B/手荷物室、S/収納スペース、C/客室乗員席。B/手荷物室は容積644 ftでバッグ95個を搭載可能で、積卸し専用ドアがある。

MRJ材料

図7:(航空と文化No.108三菱航空機佐倉潔技術本部副本部長記事)MRJ機体構造の素材重量比を示す図。CFRP(炭素繊維複合材)とGFRP(ガラス繊維複合材)の合計は12%となる。大半を占めるアルミ合金(Aluminum)はリベット類を含め輸入に頼ることになる。

 

まとめ

MRJのFAA型式証明取得の飛行は始まったばかりだが、これからの1年半で少なくとも2,500時間以上必要な試験飛行を消化し、証明を取得し、2017年6月予定の引渡し開始には、三菱重工の総力を挙げて取り組まねばなるまい。さらに顧客航空会社が待ち望んでいる納入予定を遅滞なく遂行するには、早急に月産10機体制を整えなくてはならない。並行して、顧客が必要とする操縦、整備の訓練支援体制、部品の供給体制などの充実も求められる。これらを全て乗り越えて、初めて世界のリージョナル機市場で互角に戦えることになる。健闘を望んで止まない。

−以上−

 

本稿作成に参照した主な記事は次の通り。

Aviation Week Nov. 13, 2015 “Test Period Compressed as Mitsubishi MRJ makes First Flight” by Bradley Perret

Aviation News 11 Nov, 2015 “MRJ performance Far better than expected” by Mavis Toh

三菱航空機MRJ ホームページ

航空と文化 No.108 @ 2014-03-25 “MRJを世界の空へ“ by 三菱航空機技術本部副本部長佐倉潔

MONOist 2014-07-07 “MRJはいかにして設計されたか“ by加藤まどみ

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Rockwell Collins “Pro-Line Fusion Integrated Flight deck”