中国海軍とロシア海軍の艦艇、南西諸島海域で相次ぎ不審な行動


2015-11-26(平成27年) 松尾芳郎

 

去る11月初旬から中旬に掛け、中国海軍情報収集艦とロシア海軍艦隊が、尖閣諸島南側海域と沖縄本島−宮古島間の海域で不審な行動をしていたことが判った。防衛省は、意図は不明としているが、関係筋は、沖縄本島を含む南西諸島一帯の中国による領有権主張を強め既成事実化を狙う動き、と見て警戒を強めている。

防衛省の発表(平成27年11月12日)によれば、11月11日(水)午後5時から12日(木)午後7時に掛けて我が国尖閣諸島南方接続水域の外側、中国が主張する防空識別圏に沿うようにして、東西に反復航行する中国海軍ドンデイアオ(東調)級情報収集艦1隻を発見した。発見、動向を監視したのは海上自衛隊第5航空群那覇基地所属のP-3C哨戒機である。

13日に行われた大臣記者会見で中谷防衛大臣は「この軍事行動については引き続き注視し、警戒監視に万全を期す。中国軍の我が国周辺に置ける活動は急速に拡大・活発化しており、今後も拡大するだろう。この事態を国内外に広く認識して貰う必要がある」と述べた。関係者の間では、我国が他国の侵攻に備え、宮古島や与那国島などでレーダー設置など防衛体制整備を進めていることに対する情報収集の行動、と見る向きが多い。

情報収集艦東調855

図1:(防衛省)ドンデイアオ(Dongdiao=東調)級情報収集艦、艦番号855。東調級は満載排水量6,000 ton、艦尾にヘリ甲板、大小3個のパラボラアンテナを備え、仮想敵の通信傍受や電子偵察の他に、戦術弾道ミサイルや長距離対艦ミサイルの試験発射時の測定を行うのを主任務としている。中国が開発中の対艦弾道ミサイルの運用試験に従事しているらしい。東調級情報収集艦の1隻、艦番号815は今年7月ハワイ沖で行われた多国間海上軍事演習海域の周辺を航行し、情報収集を行ったことは、よく知られている。815情報収集艦は1999年就航だがその後少しずつ改良され、最新の855(図1)まで4隻ほどが就役している。

日中防空識別圏

図2:11月11日から12日に掛けて中国海軍ドンデイアオ(Dongdiao=東調)級情報収集艦、艦番号855が東西に往復を繰り返した海域は、尖閣諸島と与那国島の間で、中国が主張する防空識別圏境界に沿うようにして行われた。同じ頃ロシア艦隊が10日間にわたり往復を繰り返し、錨泊したのは沖縄本島と宮古島の間で、宮古島の北東海域であった。

 

中国海軍の行動とは別に、同期間にロシア海軍艦艇も南西諸島周辺海域で異常な行動を見せた。防衛省統合幕僚監部の発表(27-11-20)によれば、11月9日(月)から同20日(金)に掛けて、ロシア海軍艦艇4隻が沖縄本島と宮古島の間の海域で数日間往復航行を繰り返し、錨泊し、一部は我が宮古島付近の接続水域に侵入するなどの行動をとった。艦隊はその後立ち去り、西太平洋を南下したのが確認されている。

ロシア艦隊のその後の動向は明らかにされていないが、南シナ海に向かい中国が領有を主張している南沙諸島周辺に進出し、米海軍の動きを牽制するつもりかも知れない。

発見、行動の監視に当たったのは海上自衛隊第5航空群那覇基地所属のP-3C哨戒機と第1海上訓練支援隊呉基地所属の「くろべ」(基準排水量2,200 ton)および「てんりゅう」(基準排水量2,450 ton)である。このロシア艦隊は11月4日(水)に日本海から対馬海峡を南下、南シナ海に入ったものと同一(本サイト15-11 -07“ロシア太平洋艦隊、旗艦を含む艦艇が日本海から対馬海峡を南下”を参照)である。艦隊は、太平洋艦隊旗艦「バリヤーク」ミサイル巡洋艦011、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦715、ボリスチリキン級補給艦、イングル級救難曳船の4隻である。

以下に統合幕僚監部が発表したP-3C哨戒機撮影の写真を掲載する。

スラバ級011錨泊

図3:(統合幕僚監部)ロシア太平洋艦隊旗艦「バリヤーク」艦番号011。満載排水量11,300 ton、超音速対艦ミサイル16基を搭載、空母機動部隊攻撃を主任務とする。

ソブレメンヌイ715錨泊

図4:(統合幕僚監部)満載排水量8,000 ton、対空、対艦戦闘を主任務とする艦で、旗艦バリヤークの護衛に当たっていると見られる。

ボリス補給艦

図5:(統合幕僚監部)

イングル救難船錨泊

図6:(統合幕僚監部)

011洋上補給

図7:(統合幕僚監部)右の補給艦から補給を受ける左のバリヤーク・ミサイル巡洋艦。

宮古島北東沖で錨泊

図8:(統合幕僚監部)4隻のロシア艦艇はこのようにして数日にわたり宮古島近海で錨泊し、その後西太平洋を南に向かった。

 

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