防衛省、ミサイル防衛体制(BMD)強化を急ぐ


—北朝鮮ミサイル発射を受けて、防衛省は破壊措置命令を常時発令状態に—

 

2016-08-18(平成28年)  松尾芳郎

 「きりしま」SM-3

図1:(防衛省/US Missile Defense Agency))海自イージス艦「きりしま」から発射したSM-3 Block 1A迎撃ミサイル。「きりしま」は「こんごう」級4隻の2番艦。艦橋4面にイージス・システムの中核SPY-1D多機能レーダーを備え、ミサイルはMk.41 Mod.6 VLS (Vertical Launch System/垂直発射機)を、艦首甲板に29セル、艦尾甲板に61セル備え、ここにSM-3や対空ミサイルを装着する。写真はAviation Week誌8月12日号の表紙と同じ。

 

去る8月3日北朝鮮西海岸から移動式ランチャーで発射された弾道ミサイルが、本州秋田県沖250 kmの排他的経済水域に落下した。このミサイルは液体燃料式で、隠蔽された基地内で燃料を注入したのちに引き出し、発射したものとみられる。約1,000 kmを飛んで、これまでのミサイルの中で最も日本に近い海域に着弾した。

防衛省は発射を事前に予測することができず大きな衝撃を受けている。これを受け、これまでは発射の兆候を捕捉した時に発令していた「ミサイル破壊措置命令」を、常時発令の状態に改めた。これで我国西方に広がる海空域を常時レーダーで監視することになり、異変を察知すれば直ちに迎撃することになる。

新任の稲田朋美防衛相の命令で、空自所管のPAC-3ミサイルは8月8日午後10時から常時迎撃態勢に入り、その8時間後にはSM-3ミサイル搭載の海自イージス(Aegis)艦が配置についた。破壊措置命令は、日本に着弾の恐れのある弾道ミサイルに限定したものか、上空を通過してグアム、ハワイに向かうものを含むのかは、明らかにされていない。

消息筋によると、今回のミサイル発射を受け、防衛省はミサイル防衛システム(BMD=Ballistic Missile Defense)を一層強化すべく、陸上配置型イージス・システムおよび中層域防衛用のThaadシステムの導入を検討している模様。

米国防総省のミサイル防衛局(Missile Defense Agency)は「弾道ミサイル防衛システム(BMDS=The Ballistic Missile Defense System)」を「センサーの整備」、「ミッドコース段階での迎撃」、「ターミナル段階での迎撃」、の3つに分類している。すなわち;—

1)「センサーの整備」:偵察監視衛星、前線基地のレーダー、海上設置型Xバンドレーダー、地上設置型早期警戒レーダー、AWACS早期警戒機、それにイージス艦搭載のSPY-1型レーダーなどが含まれる。

2)「ミッドコース段階での迎撃」:イージス艦搭載のSM-3および陸上配置型SM-3で行う。

3)「ターミナル段階での迎撃」:中層域迎撃にはThaad (Terminal High Altitude Area Defense) ミサイルで、低層域での迎撃には陸上配備のPAC-3 (Patriot Advanced Capability-3)ミサイルで行う。

弾道ミサイル飛翔経路

図2:弾道ミサイルの飛翔経路は、発射(Launch)上昇(Ascent)、大気圏外の弾道飛行、大気圏再突入(Reentry)後に着弾(Impact)、の3つに区分される。それぞれを「ブースト段階(Boost Phase)」、「ミッドコース段階(Midcourse Phase)」、そして「ターミナル段階(Terminal Phase)」と呼ぶ。ミサイル弾頭は「ブースト段階」でブースターから分離、弾道飛行に入り「ミッドコース段階」となり、上昇(Ascent)を続け、最高点(Apogee)に達してから下降(Descent)して、目標に近くなり、大気圏に再突入(Reentry)して「ターミナル段階」に入り着弾する。

 

我国のミサイル防衛システム(BMD)の大要は次の通り;—

1)「センサーの整備」:

a) 稼働中の偵察衛星は、光学3号、4号、5号、およびレーダー3号、4号、同予備機の計6基。分解能は光学5号が最も優れ30 cm級と言われる。レーダー衛星の分解能は1 m。2016年以降も性能向上型を毎年1基ずつ打ち上げる予定。運用高度は490 kmの太陽同期準回帰軌道で、軌道傾斜角は97.3度、日本付近を通過する時刻は10:30~11:00、とされる。

b) 整備済みの地上設置型レーダーは次の通り。

[FPS-5]: 三菱電機製、Lバンド(0.5-1.5GHz、波長24cm)およびSバンド(2-4GHz、波長数cm)の2波長を使う[AESA]レーダーで、巨大なアレイアンテナ面に無数の送受信ユニットを配し、探知距離は波長の短いXバンド(3cm)レーダーより長く数千キロに達する。鹿児島県下甑島、新潟県佐渡、青森県大湊および沖縄県与座岳の4箇所に設置されている。

[FPS-3改]; 三菱電機製、Xバンド(8-12GHz、3cm波)を使い、多数の送受信ユニットのアレイアンテナの[AESA]レーダーである。アンテナを回転させ600km以上の範囲を探知する。アンテナは直径20mの樹脂製ドームの中に納められている。全国7箇所に配備すみ。

空自レーダーサイト

図3:(防衛省)航空自衛隊・航空警戒管制部隊(レーダーサイト)の配置図。

 

c) AWACS(早期警戒管制機)の配備

現在、E-767 AWACS機4機を浜松基地に配備、またE-2C ホークアイAEW(早期警戒機)13機を三沢基地に配備していたが、尖閣諸島情勢を睨み、このほどE-2Cの一部を那覇基地に移動「第2飛行警戒監視隊」を新設した。この補完のため最新のE-2D 先進型ホークアイを4機導入することが決まり、先日発注済み。

E-2D ADVホークアイ

図4:(Northrop-Grumman) E-2D Advanced Hawkeye、戦闘指揮、攻撃司令、を任務とし戦場でのネット中心の指揮をする。前身のE-2Cに比べ格段に性能が向上し、アメフトにちなんで“デジタル・クオーターバック(digital quarterback)”とも呼ばれる。2011年に米海軍の“初期運用能力(IOC=initial operational capability)”資格を取得済み。乗員5名、離陸重量26 ton、エンジンはAllison.RR T56-A-427Aターボプロップ5,100 shpを2基。

 

2) 「ミッドコース段階での迎撃」:

*  レイセオン(Raytheon)SM-3[高層域迎撃]ミサイル搭載のイージス艦6隻を運用、さらに2隻の建造を計画中。「ミッドコース段階」を飛翔中の弾道ミサイルを捕捉、SM-3を発射、撃破する。イージス艦はミサイル垂直発射装置(VLS=vertical launch system)Mk. 41 VLSを前後の甲板に配置、ここからアスロック対潜ミサイル、SM-2対空ミサイル、および弾道ミサイル防衛用のSM-3を発射できる。海自イージス艦にはトマホーク巡航ミサイルは搭載していない。米海軍では“BGM-109トマホーク(Tomahawk)”(射程1,000 km -3,000 km)巡航ミサイルをイージス艦にも搭載している。

就役中の6隻のイージス艦は;—

「こんごう」級:4隻、基準排水量7,750 ton、満載排水量9,500 ton、1993年から就役開始、同型に「きりしま」、「みょうこう」、「ちょうかい」がある。

「こんごう」

図5:(防衛省)「こんごう」級、Mk.41 VLSは前甲板に29セル、後甲板に69セルを搭載。SPY-1Dレーダーを使い450 km範囲を索敵し、同時に6-10目標を迎撃可能と言われている。

 

「あたご」級:2隻、基準排水量7,700 ton、満載排水量10,000 ton、2007年から就役開始、同型艦は「あしがら」。

「あたご」

図6:(防衛省)「あたご」級、「こんごう」級の改良型でイージス・システムは新しいBaseline 7.1、戦闘指揮能力が優れている。Mk.41 VLSは前甲板に64セル、後甲板に32セルを搭載。多機能レーダーは天頂部分の索敵能力を向上したSPY-1D(V)で、同時に12発の対空ミサイルを誘導可能。主砲は米軍仕様のMk.45 Mod4 62口径5 inch砲で、イージス・システムに統合され、GPS誘導砲弾も射撃でき116 kmの遠距離射撃が可能。現在、弾道ミサイル迎撃用に改修中。

 

計画中の2隻は、基準排水量8,200 ton、満載排水量11,400 ton、2017年及び2018年に起工、就役はそれぞれ2020年及び2021年の予定。

SM-3 BMDミサイル

図7:(US Missile Defense Agency)「こんごう」級4隻には図左のSM-3 Block 1Aを搭載し現在BMD任務に就いている。「あたご」級2隻はBMD能力を付与するための改修中で、改修後はSM-3 Block 1Aを搭載するが、日米共同開発のSM-3 Block IIAが完成すればこちらを装備する予定。図中の「運動エネルギー弾頭 KW」とは、”Kinetic Warhead”を意味し、炸薬は使わず直接ヒットし破壊する弾頭。

 

防衛省ではイージス艦による迎撃能力を補完するため、新たにSM-3地上配備型イージス・システム(AAMDS=Aegis Ashore Missile Defense System)の導入を検討している。米ミサイル防衛局によるとAAMDSは、ルーマニアに設置済みで、続いてポーランドでも建設が始まった(May 13, 2016)。

 

ロッキード・マーチン(Lockheed Martin) PAC-3[低層域迎撃]ミサイル

 

PAC-3はSM-3の迎撃をくぐり抜け「ターミナル段階」に飛来した弾道ミサイルを高度15 km付近で迎撃、撃破し、直径20 kmの範囲を防衛する。

航空自衛隊は全国にPAC-2及びPAC-3を備えた6個高射群を配備中である;—

関東地区 :第1高射群、

九州地区 :第2高射群、

北海道地区:第3高射群、

中京地区 :第4高射群、

沖縄地区 :第5高射群、

青森地区 :第6高射群、

空自の各高射群はそれぞれ4個高射隊(FU=Fire Unit)で編成される。1高射隊(FU)は射撃管制装置、レーダー、電源、などと共に発射機(Launcher)5両を含む10両以上の車両からなる。発射機5両のうち3両にはPAC-2を4発ずつ、2両にはPAC-3を16発ずつ搭載してBMDに対応することになっている。配備中のPAC-3は、PAC-3 Config.3と呼ぶ最新型である。

在日米軍では沖縄嘉手納地区に、PAC-2およびPAC-3を装備する陸軍第1砲兵連隊・第1大隊が展開中。同大隊は4個中隊(FU=空自高射隊に相当)からなり、1個中隊は発射機6両編成で空自編成より1両多い、従って合計24両が配備されている。

 

PAC-2とPAC-3の比較は次の通り。

PAC-2: 弾体直径41 cm、重さ900 kg、上昇限度24 km、対航空機射程70 km、対弾道ミサイル射程20 km。

PAC-3: 弾体直径25 cm、重さ320 kg、上昇限度15 km、対弾道ミサイル射程20 km、PAC-3はロッキード・マーチン開発のERINTミサイルで、小型なのでPAC-2用キャニスター(canister/発射筒)1個には4発を搭載できる。

こうして6個高射群、24個高射隊(FU)、120両の発射機(Launcher)で、全国に展開する自衛隊基地と主要都市、原子力発電所、基幹産業施設、民間航空施設、港湾施設、などの防空を担当している。しかし仔細に見ると、現状は極めて不十分であることは、誰が見ても分かる。例えば;—

関東から北陸の防空を担当するは第1高射群の4個高射隊は、それぞれ習志野、武山、霞ヶ浦、入間、に駐屯している。このうち習志野の第1高射隊(発射機5両編成)は「破壊措置命令」で東京都心の市ヶ谷に移駐している。この5両のうち2両はPAC-3発射機(M902型)だが、発射筒(Launcher)は2本しか搭載しておらず、従って発射可能なPAC-3は2両分の16発、1目標に対し2発ずつ発射する手順なので、対応できる敵弾道ミサイル数は8個、これでカバーできる範囲は半径20 km以内、都心部と川崎市の一部、千葉県の一部、埼玉県の一部のみ、と云うことになる。

これでは北朝鮮からの数発程度の攻撃に対して、何とか都心部だけは守れるが、それ以外の地域の防御は無理。まして、大量の弾道/巡航ミサイルを保有する中国からの飽和攻撃には、対処しようがない。

米軍PAC-3

図8:(US Army)韓国Osanに展開した米陸軍第35防空砲兵旅団・第43防空砲兵連隊・第1砲兵大隊のPAC-3発射機、このように4本の発射筒を備え、それぞれに4発のPAC-3を収めている。従って1両の発射機(M902 Launcher)で16発を搭載する。米陸軍はこの型式の発射機を600両以上配備している。

産経

図9:(産経)去る5月30日市ヶ谷防衛省内に展開した第1高射群第1高射隊のPAC-3発射機(M902)。空自の発射機は、2本装備型が多く、搭載弾数も8発にとどまる。

 

某政府高官は「我が国の北朝鮮ミサイル攻撃に対する防衛体制は全く不備だ」と語っている。また米国の政府筋も「日本は飛来するミサイルに対する十分な防衛能力を備えていない」と述べている。

防衛省ではこの現状を改善すべく、「ターミナル段階」の上層に当たる[中層域での迎撃]態勢を整備するために、新たにロッキード・マーチン(Lockheed Martin) 製Thaadミサイルの導入の検討を始めた模様。

 

THAAD中層域防衛用ミサイル

Thaad(サッドまたはサードと発音)は[Terminal High Altitude Area Defense]の略で「ターミナル域高高度防空」といった意味である。1992年にロッキード・マーチンが主契約となり、開発が始まった。来襲する敵弾道ミサイル弾頭に、直接衝突・撃破する「hit-to kill」方式で既述のSM-3やPAC-3と同じ迎撃方式だ。ホワイトサンド(White Sands, New Mexico)ミサイル試験場、ハワイ・カウアイ島(Kauai)太平洋ミサイル射撃場での試験を終え、米陸軍で2008年5月から配備が始まっている。公表はされていないが、射程は200 km、迎撃高度は150 kmと言われている。

使用する地上レーダーはXバンド(波長3 cm)のAESA (active electronically scanned array)型でレイセオン(Raytheon)社が製作し、車両に搭載し移動可能、AN/TRY-2型と呼ばれる。「ミッドコース段階」の終わりから「ターミナル段階」での目標捕捉が目的で、探知距離は約1,000 kmといわれる。

Thaad発射中隊(FU=Fire Unit)は、発射機9両を持ち、1両に8本のThaadミサイルを搭載、さらに戦闘指揮車両(TOC=tactical operation center)2両と地上レーダー(GBR=ground-based radar)1両で構成される。

米陸軍は、Thaad発射機(Launcher)を80-99両、地上レーダー(GBR)を18両、そしてミサイル本体を1,422発、導入する予定である。

2008年に最初のThaad発射中隊がフォートビル(Fort Bill, Tex.)に配備され、続いてハワイ(2009年6月)、グアム(2013年4月)にも配備されている。それにミサイル警戒のためGBRレーダーAN/TPY-2がそれぞれ単独で、青森県車力分屯地(2007年6月)、京都府経ヶ崎米軍通信所(2014年12月)、さらにイスラエルのネゲブ(Negev)砂漠、トルコのクレキック(Kurecik)空軍基地、などに配備されている。また2016年7月にはThaadシステムを韓国南部(慶尚北道星州郡)に配備することが決まり、2017年末には稼働する。

Thaadミサイル本体は、長さ6.17 m、ロケットダイン(Rocketdyne)製単段式固体燃料ロケット(booster)で推力偏向方式(thrust vectoring)である。重量は900 kg。ブースター頂部に弾頭が付き分離ロケットで分離される。弾頭は直径37 cm、運動エネルギー方式(KKV=kinetic kill vehicle)で、目標に衝突・破壊する。弾頭には、液体燃料式の“進路変更・姿勢制御システム(DACS=divert & attitude control system)が付いていて、目標への最終飛翔経路をコントロールする。また弾頭には赤外線センサーがあり、これで目標を追尾する。

Thaad発射機は、M1075型で長さ12 m、幅3.25 m、発射筒(canister) 8本を備える。

地上レーダー(GBR=ground-based radar)AN/TPY-2は、全視界を見渡せる9.2 m2のレーダー面にXバンドの送受信素子25,344個を配して1,000 km以内に飛来する目標を的確に捉える。

thaad発射

図10:(US Army)Thaad発射機M1075からミサイルを発射する様子。発射機は8機のThaadミサイルを搭載するが、10機搭載型もあるようだ。迎撃可能高度は150 km、防御可能範囲は半径200 kmと云われる。従って我国防衛には、数個中隊あれば、全域をカバーできそうだ。

THAADレーダー

図11:(US Army) Thaadミサイル・システム用地上レーダー(GBR=ground-based radar)AN/TPY-2は可搬型で、米軍により青森県車力駐屯地と京都府経ヶ崎にそれぞれ設置されている。北鮮の「ムスダン」弾道ミサイル(射程2,500-3,500 km)による攻撃からハワイおよびグアムを守るため、と見られる。米戦略軍(U.S. Strategic Command)は今年7月22日に2発の「ムスダン」と推定されるミサイルの発射を把握したという。写真後方にあるのは電源および通信用装置のようだ。

 

今回の北朝鮮のミサイルは車両搭載型で移動式のノドン(Nodong) 1(射程1,200ないし1,500 km)であったため、発射を事前に察知することができず、前述のように防衛当局は大きな衝撃を受けた。「ノドンは簡単に隠蔽でき、どこからでも発射可能」という事実は、すでに内外の専門家が1年以上前から指摘していたところで、政府の対応の遅れは否めない。

共同通信は、ノドンが発射された8月3日には「北朝鮮は同時に小型の戦術巡航ミサイルを数発発射して日本・韓国のレーダー網を撹乱させたが、これは実戦での攻撃態勢を模したもの」と報じている。

攻撃を受ければ我国は、不十分なPAC-3ミサイル高射隊とSM-3搭載のイージス艦で戦うことになる。

毎日新聞は次のように報じている;—「イージス艦6隻のうち、現在稼動中は4隻、そのうち常時配備可能なのは3隻に過ぎない。陸上配備型のイージス・システムはこれを補完する上で極めて有効だ。」

2015年6月に前防衛相の中谷元氏は、陸上配備型イージスと共にThaadの配備も検討中、と語っている。Thaadが加わると一層BMD能力が改善される。既述したが、現在SM-3の改良型ブロック(Block) IIAを米国と共同開発中で、これは弾体を太くし、搭載燃料を増やし、射程、速度を改善するもので2018年から実戦配備に入る。

SM-3 Block IIAが配備されれば、イージス艦によるパトロールは今より少ない1隻で日本全土をカバーでき、運用上楽になる。保有する6隻のイージス艦は、常時改修や艦隊防衛などに1−2隻を充当せねばならないので運用が制限され、この点からもSM-3 Block IIAの実用化が望ましい。

防衛省は、2014年に最新のイージス・システムを搭載する2隻の追加を決定し、目下建造中である。

そして、2007-2008年就役の「あたご」級2隻に「SM-3 Block IIA」を搭載・配備すれば、理論上は2隻でミサイル防衛が可能になる、しかし1993-1998年就役のSM-3 Block IA搭載型「こんごう」級だと3隻が必要になる、と言っている。

BMD地図

図12:(防衛省) SM-3 Block IA搭載の「こんごう」級がカバーできる範囲を「青色」で、またSM-3 Block IIA搭載の「あたご」級がカバーできる範囲を「橙色」で示した図。「あたご」級は受け持ち範囲が広いので、日本全土を2隻で守れるが、「こんごう」級だと3隻が必要。ただしこれは北朝鮮を対象にした場合で、中国からの大量飽和攻撃には、「あたご」級1隻では対処不可で、数隻以上の配備が必要になる。

 

終わりに

以上、北朝鮮や中国からの弾道ミサイル攻撃に対する我国の防衛体制(BMD)を振り返ってみたが、十分とは言えず、改善増強すべき点が多く見受けられる。

本文中に述べたが列挙すると、偵察衛星の解像度向上、イージス艦の追加建造とSM-3 Block IIAの実用化、陸上配置型イージス・システムの採用、PAC-3高射群の増加と米軍並みの編成へ、THAAD防空システムの配備、など。

現在、これらの装備はほぼ全てを米国からの輸入に頼っており、自主防衛にとり望ましくない。国産化しているのは、レーダー網の整備、イージス艦本体とそのVLS、それにPAC-3ミサイル・システムに止まっている。

また、識者が指摘するように、敵ミサイル発射基地を先制攻撃するため、独自に中距離弾道ミサイルの開発や長距離巡航ミサイルの配備を急ぐ必要もあろう。

弾道ミサイル防衛(BMD)の整備拡充には、イージス艦「あたご」の建造に1,500億円要したように、多額の投資が必要で予算上の制約が厳しい。

一方、厚生省のデータによると「死期の迫った老人に使う30日間の延命治療の費用は年間数兆円」とされている。「健康で未来のある国民の生命財産を守るBMDの費用」と「余命の迫った老人の延命治療のための費用」のどちらが大切かは、議論の余地はなかろう。弱者救済の風潮のなかで、老人延命費の削減はタブー視されているが、これを是正するのが政治の役目である。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Aug. 11, 2016 “Rattled by North Korean Test, Japan Steps up Missile Defense” by Bradley Perrett

Missile Defense Agency “The Ballistic Missile Defens System (BMDS)”

Northrop Grumman “E-2D Advanced Hawkeye”

Army-Technology.com “THAAD Terminal High-Altitude Area Defence, United States of America”