8月15日、中国海空軍の動き活発化、尖閣諸島近くに多数の海警局公船と漁船が来寇、領海侵犯を繰り返す!


2016-08-20(平成28年)  松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部の発表によれば、8月15日前後から19日に至る間の中国海軍艦艇と空軍機の動きは、異常なほどに活発化している。後述のように米軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に参加し、帰路日本海に入った艦艇3隻と、浙江省軍港から出航した別の3隻が対馬海峡経由で日本海で合流、中部海域で合計6隻で演習を行っている。中国軍解放軍報(China Military Online)は「通常の外洋演習の一環で、他意はない」と報じている(2016-08-19)、しかし演習海域の詳細は伝えていない。

リムパックでは演習終了後、参加艦艇はハワイ真珠湾で一般に公開され、自由に見学できる慣習になっている。しかし今回、中国は、我が海自乗組員の中国艦見学を拒否した。さらに海自ヘリ空母「ひゅうが」艦上で演習終了を祝う海自主催の夕食会が開催され参加海軍から幹部が出席した。中国海軍関係者にも招待状を送ったが中国側は出席を断ってきた。

もう一つ、解放軍報が報ずるところでは、中国海軍は尖閣諸島から西北西約300 kmに位置する浙江省温州市近傍の島に軍用埠頭を建設した。ここは、艦艇の接岸だけでなく揚陸艇への車両搭載や出撃もできる。尖閣諸島を睨んだ軍事力増強の一つ、と見られている。

 

統合幕僚監部発表を列挙すると次の通りである。

1)    8月12日(金曜日);—

午前8時頃、宮古島北東約70 kmの海域を東シナ海から太平洋に向かう中国海軍ルフ級駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート1隻、およびフチ級補給艦1隻、を発見した。発見したのは那覇基地第5航空群所属のP-3C哨戒機である。

 

2) 8月14日(日曜日);—

午後1時半頃、北海道宗谷岬東北東350 kmの海域を西、つまり日本海に向かう中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻、ルーヤンII級ミサイル駆逐艦1隻、及びフチ級補給艦1隻、を発見した。その後同艦艇は日本海に入った。発見したのは八戸基地第2航空群所属のP-3C哨戒機である。なお、これら3隻は6月16日に宮古島北東の宮古海峡を東シナ海から太平洋に抜けた艦艇で、6月末から7月にハワイ沖で行われた米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に参加した艦艇である。

 

3) 8月16日(火曜日);—

午後7時、上対馬北西15 kmの海域を北北東に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻とフチ級補給艦1隻、合計3隻を発見、その後同艦艇は対馬海峡を北上し日本海に入った。発見、追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊「しらたか」である。

 

4)8月18日(木曜日);—

中国空軍Y-8早期警戒機1機とH−6爆撃機2機が、東シナ海から対馬海峡を通り日本海との間を往復した。航空自衛隊は戦闘機を発進させ、領空侵犯に備えた。この18日、19日、両日の空軍機は、中国艦艇が日本海で行っている演習に参加したと見られる。

 

5)8月19日(金曜日);—

中国空軍Y-8早期警戒機1機(前日と同じ機番)とH-6爆撃機2機(前日と異なる機番)が、前日と同じ航路を往復した。航空自衛隊は戦闘機を発進させ領空侵犯に備えた。

 

一方、海上保安庁の発表によれば、8月5日(金曜日)から同17日(水曜日)にかけて、連日尖閣諸島の接続水域に中国政府所属・海警局の公船が最大で15隻同時に入り、延べ28隻が領海に侵入した。15隻中8隻は小口径砲で武装している。同時に訓練を受けた民兵が乗務する約300隻の中国漁船が同じ海域に集結、領海侵犯を繰り返した。

海上保安庁は、現場で領海侵犯に対し警告すると共に外務省を通じて抗議を繰り返した。しかし実効性のない警告、抗議では事態が改善されないのは、その後の19日現在に至るも隻数は減っているものの、状況は変わっていない。

古森義久氏によれば、米国の著名な4つの中国海洋戦略研究機関の専門研究員達は異口同音に「尖閣の事態は日本の国家危機だ、いずれ中国は尖閣奪取に動く。日本は尖閣諸島防衛の能力を高めるべき」と述べたという。「しかし当の日本の反応は何とも異なることかと痛感した」と言っている。

我国の多くのメデイアは「習近平氏は党内の批判を抑え、来年の党大会を乗り切るために日本との緊張関係を作り党内結束を図っている」、「いずれは収束する見通し」とし、我が国内で高まる危機感の緩和に努めている。

しかし、諸般の中国の動きから、古森氏の指摘のように「一連の中国軍の動きは、日本の軍事能力と防衛意思を探りつつ、それが弱いと判れば、必ず攻撃を仕掛けてくる。まずは尖閣奪取、続いて沖縄占領を目指す」のは間違いない。

 

以下に関係写真を掲げる。

 

2)    8月12日、東シナ海から宮古海峡を抜け太平洋に進出した3隻

12日112

図1:(統合幕僚監部)ルフ級052型艦番号112「哈爾寶」(Harbin)は、1980年代末に作られたミサイル駆逐艦、同級2隻が建造された。満載排水量4,800 ton、速力31 kt。フランスのタレス社製クロタル対空ミサイルを国産したHQ-7を装備している。対艦ミサイルはYJ-83型4連装発射機4基、艦載砲は100 mm連装砲1基、対空兵装は730型30 mm CIWSを2基装備している。

12日579

図2:(統合幕僚監部)ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号579「邯鄲」(Handan)は2015年8月に就役した新鋭艦で北海艦隊に所属。満載排水量約4,000㌧。現在同型艦は22隻が就役中で北海、東海、南海、の各艦隊に配備されている。対空ミサイル短SAM HHQ-16 は米海軍と似た32セルのVLS(前部甲板)に納められている。この他にYJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基を備える。後部にはKa-2ヘリ1機を搭載する。

12日960

図3:(統合幕僚監部)フチ(福池)級補給艦8隻の5番艦「東平湖(Dongpinghu)」艦番号860、2013年6月就役で北海艦隊所属。度々紹介しているが本級は満載排水量23,000 ton、速力19 kt、航続距離7,000 n.m.@ 18 kt。燃料10,500 ton、清水250 ton、弾薬島貨物1300 tonを搭載する。

 

2) 8月14日、リムパック参加の帰路、北海道宗谷岬を西進、日本海に入った3隻

14日572

図4:(統合幕僚監部)ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号572「衡水」()は2012年7月に就役した同級11番で南海艦隊に所属。

14日153

図5:(統合幕僚監部)旅洋II(Luyang II)級ミサイル駆逐艦「西安(Xian) 153」(052C型)、2015年2月就役の新型で、同型艦6隻中の6番艦。満載排水量7,000 ton、速力30 kt、ARSAレーダー装備の中国版初のイージス艦である。射程200 kmのHHQ-9艦隊防空ミサイル(SAM)を回転式6連装VLSセル8基(計48発)に収めている。単装砲はフランス製を改良したH/PJ-87 100mm砲、対艦巡航ミサイルC-805またはYJ-62を8基、近接防空システムとして30 mm CIWSを2基。現在は、AESAレーダーを新型に、単装砲を130 mmに、またSAM発射装置をVLSに変更した旅洋III(052D型)に受け継がれ、こちらは就役済み3隻、建造中6隻、計画中3隻となっている。全てが完成すれば中国海軍のイージス艦は18隻になる。(我が海自のイージス艦は就役済み6隻と建造予定の2隻)

14日966

図6:(統合幕僚監部)フチ級8隻の6番艦、艦番号966「高郵湖(Gaoyouhu)」南海艦隊所属。

 

3) 8月16日、南シナ海から対馬海峡を通過、日本海に進出した3隻

16日578

図7:(統合幕僚監部)ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号578「揚州」(Handan)は2015年9月に就役した最新鋭艦で東海艦隊に所属。

16日532

図8:(統合幕僚監部)ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号532「荊州」(Jingzhou)は2016年1月に就役した同級21番艦の最新鋭で東海艦隊に所属。

16日886

図9:(統合幕僚監部)フチ級補給艦8隻の1番艦、艦番号886は「千島湖(Qiandaohu)」東海艦隊所属。

 

4)8月18日(木曜日)、Y-8早期警戒機1機とH-6爆撃機2機が東シナ海と日本海を往復

18日中国機

図10:(統合幕僚監部)8月18日の中国空軍機3機の飛行経路を示す。なお19日の航跡も同じなので省略する。

18日Y-8

図11:(統合幕僚監部)Y-8早期警戒機。ウクライナ・アントノフ設計局が作ったAn-12型輸送機を中国がライセンス生産したのがY-8輸送機。1981年から陜西飛機工業で75+機が生産された。Y-8は輸送機型が基本だが、多くが多様な電子偵察用に改造。写真はその1つ「Y−8洋上偵察機 (Y-8ASA)」である。

機首にある大きなレドームにはイギリス・タレス社から入手した高性能「スカイマスター(Skymaster)」空中捜索レーダーが入っている。中国海軍は4機を保有、東海艦隊の作戦支援任務についている。捜索範囲は1万 mに上昇した場合は320 km x640 kmに広がる。

18日H-6

図12:(統合幕僚監部)H-6爆撃機 (轟炸6、Hong-6)は、1969年から配備が始まり各種派生型を含み現在120機が配備中。原型はロシアのツポレフTu-16で、西安航空機が国産化している。当初は核爆弾(20 kt級)搭載用だったが、弾道ミサイル(ICBM)の実用化で核爆撃機としての効用が薄れ、現在は対艦巡航ミサイル(ASM)発射母機や機雷投下用母機として使われている。

乗員2名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76トン、エンジンWP8推力10トンを2基、巡航速度790km/he、戦闘行動半径3,500km、兵装搭載量9トン。最新のH-6K型は、射程2,500kmの空対地ミサイル“長剣10 ”を搭載、エンジンをロシア製D30KPに換装して航続距離を伸ばし,日本全土はもちろんグアムやハワイも攻撃圏内に入る。

 

 

5)8月19日(金曜日)、Y-8早期警戒機1機とH-6爆撃機2機が東シナ海と日本海を往復、一部機番が異なるが同型機なので説明は省略する。

19日Y-8

図13:(統合幕僚監部)Y-8早期警戒機。

19日H-6前

図14:(統合幕僚監部)H−6爆撃機、前方を飛行した機体。

19日H-6後

図15:(統合幕僚監部)同じくH-6爆撃機だが後方を飛行した機体。

温州市埠頭

図16:(中国軍報)浙江省温州市近くの島に完成した中国海軍用埠頭、尖閣諸島から300 kmにある。

尖閣中国漁船

図17:(海上保安庁)8月5日から現在に至るまで続く尖閣諸島接続海域に蝟集する300隻の中国漁船。これらの多くは海上民兵が乗務・指揮しており、必要に応じ海軍の軍事作戦の先鋒を務める。

尖閣中国公船と漁船

図18:(海上保安庁)近距離から撮影した中国海警局船と漁船群。

泉州学院

図19:(矢板明夫氏撮影)中国福建省・石獅市にある泉州海洋学院。産経新聞によれば、海上民兵の教育訓練はここで行われている。民兵とは、退役軍人などで構成される準軍事組織で、正規軍の支援が任務。うち海上民兵は約30万人とされ、常万全国防相は7月末に浙江省海上民兵部隊を視察、「海の人民戦争の威力を発揮せよ」と訓示した、という。

 

—以上—