マレーシア、日本に対潜哨戒機P-3Cの供与を要請


2017-05-14 (平成29年) 松尾芳郎

 p-3c_04l

図1:(海上自衛隊)富士山を背景にする海上自衛隊の「P-3C」。ロッキード・マーチンP-3対潜哨戒機は、L-188エレクトラ旅客機を基本にして米海軍向けに開発され、数々の改良を加えながら1961-1990年の間で製造された。ロッキードで約650機、川崎重工で98機、合計757機が生産され、20ヵ國が使用中。

翼幅30 m、全長35.6 m、離陸重量56 ton、速力395 kt、戦闘行動半径2,500 km、エンジンはT58-IHI-14ターボプロップ4,900馬力4基。

 

日経紙によると、マレーシア政府は、緊張高まる南シナ海の警備のため、日本に対し退役したP-3C哨戒機の譲渡を要請した。

しかしこれには、日本の財政法で国の財産の無償供与を禁じているため、自衛隊法の中に、特例として不要装備品の無償供与を可能にする条文を入れるなど、法改正の必要がある。

自衛隊法が改正され、両国が合意した場合、日本側は機密事項となるレーダー等を事前に取外してから供与ということになる。担当する防衛装備庁は機数について触れていないが、マレーシア側は4機を希望している模様。

海自保有のP-3Cは最新型のアップデートIIIAで、レーダー、ESM、赤外線探知システムなど各種の対潜捜索・探知装備とこれらの情報を総合的に処理する大型デジタル・コンピュータを搭載している。さらに対潜爆弾、魚雷、対艦ミサイルなどの大型兵器も搭載できる。2015年で海自が運用中のP-3Cは69機、余剰機のうち14機が電子戦機(EP-3)、画像情報処理機(OP-3C)などに改造、使用中である。

マレーシアは、中国の軍事基地建設が続く南沙諸島 (Spratly Islands) で、その領有権を主張する周辺6カ国の一つである。特に南沙諸島ルコニア砂洲 (Luconia Shoals) 周辺で、中国沿岸警備隊の艦艇がパトロールを繰り返していることに神経を尖らしている(尖閣諸島周辺と同じ状況)。ルコニア砂洲はマレーシアが領有し、同国のボルネオ島北岸から120 km北にあり、マレーシアの排他的経済水域(EEZ/沿岸から200 n.m.=370 km)のかなり内側に位置している。

またマレーシアの西岸は、東西の海上交通の要衝であるマラッカ海峡(Strait of Malacca) に500 km も面している。

マレーシア

図2:(Google) マレーシア領ボルネオ島の北約120 kmにルコニア砂洲(礁)があり、マレーシアのEEZ(沿岸から370 km)内に位置する。この南にはガス田があり、採掘ガスは日本にも輸出されている。

 

これらを考えると、海上哨戒は同国にとって緊急の課題であることが判る。現在マレーシア空軍は、海上哨戒用としてC-130H ハーキュリーズ輸送機を改造した1機とビーチクラフトB200T キングエア3機を使っている。しかしこのような貧弱な装備では、とても広大な沿岸海域を監視、哨戒することはできない。

我国の保有するP-3C哨戒機は、1982年から2000年に掛けて川崎重工がライセンス生産した機体である。2013年以降からは最新のP-1哨戒機の配備が始まり、2017年3月までに12機が配備されている。これに伴いP-3Cの退役が進み、消息筋によると2016年末で15,000時間以上使われた機体は28機、そのうち若干が退役、保管中と云う。

マレーシア政府が譲渡を希望しているのはこれら退役、保管中の機材である。譲渡に際しては、機密に該当する装備品は取外されるが、寿命延伸のための整備がなされ、さらにアビオニクスの近代化工事も必要に応じ実施されることになる。

P-3Cメーカーのロッキード・マーチン社は、寿命延伸のための改造案として、主翼と水平尾翼を耐食性に優れた材料で作る強化型に変更し、寿命をさらに15,000時間伸ばすことを提案している。すでに台湾とノルウエイでは改造が進みつつあり、米海軍でも何機かが改修済みである。

P-3哨戒機を使う国々では、レーダーを含むアビオニクスの性能向上を行なっている。オーストラリア、ニュージランド、スペイン、その他の各國では、イスラエルのエルタ(Elta) 製EL/M-2022多機能レーダーの搭載を含む改修をしているが、イスラム系のマレーシアでは採用が難しい。

マレーシアの年間国防費は1兆2,000億円程度(世界34位)で、近年は原油価格の下落で厳しい状況にある。大規模改修となるとかなりの予算が必要となり、マレーシア政府にとっては負担となりそうだ。

マレーシアの海上監視能力の向上を支援し、海洋進出を狙う中国を牽制することは、我国の国益にも叶う。無償譲渡の実現を望む次第である。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Defense News May 9, 2017 “Malaysia reportedly asks Japan for Lockheed made P-3 Orion aircraft” by Mike Yeo