中国、新型ミサイルの発射試験に成功


2017-05-19(平成29年) 松尾芳郎

2017-05-20改定(誤記の訂正とDF-26能力の追加)

 

我国では、北朝鮮による弾道ミサイル発射試験が連日大きく取り上げられているが、これとは別に、5月初旬に中国が渤海湾で新型弾道ミサイルの発射試験を行ったことが、こちらは全く報道されていない。

中国国防省は5月9日に、朝鮮半島に近い渤海湾で数日前に新型弾道ミサイルの発射試験に成功したと発表した。これは米国が韓国南部にTHAADを配備したことに対する抗議の一つ、と述べている。

中国国防省によると、ミサイルは渤海湾東部の所定の海域に正確に着弾し、試験は成功した、と云う。しかしミサイルの種類、発射数、発射地点など詳細は公表していない。朝鮮半島の緊張が高まる中、中国国防省は今年4月に、韓国へのTHAAD配備に対抗し実戦を想定した新型ミサイルの訓練を計画する、と云ったが、今回はその一つである。

香港フェニックスTVの軍事専門記者Son Zhongping氏によると、試験した新型ミサイルは、米空母などの艦船攻撃能力を持つ中距離弾道ミサイルDF-26の改良型「DF-26B」、あるいは新型の潜水艦発射弾道ミサイル「JL-3」と推測している。

「DF-26B」の試験を裏付ける報道が “China Defense Today 10 May 2017”で報じられ、次のように述べている;—

『消息筋によると、今回の試射は「DF-26 (Dong Feng/東風)」の改良型であった。「DF-26」は2015年北京で開催した対日戦勝記念パレードで“グアム・エクスプレス(Guam Express)”として紹介されたミサイルである。射程は3,500-4,000 kmで、中国が主張する第二列島線内のグアムを含む基地、および海上の移動目標攻撃の能力を持つ。2段式固体燃料ロケットで車載発射機 (TEL=Transporter Erector Launcher) に搭載され、何処へでも移動でき発射地点を選ばず、発射準備に時間が掛からず、展開後すぐに発射できる。弾頭には、重量1.2-1.8 tonの核爆弾あるいは通常爆弾を複数個搭載でき、高精度で多目標を個別に攻撃できる”MaRV (maneuverable re-entry vehicle)”と呼ばれるタイプである。”China Military com“によると、弾頭には電磁パルス(electromagnetic pulse) 発射機能があり、これで空母の通信指揮機能、イージスSM-3誘導攻撃機能、さらにはTHAADシステムを破壊できると、言っている。さらに弾頭には、新開発のマッハ10で飛行する極超音速グライダー (HGV=hypersonic glider vehicle) / WH-14 も搭載でき、「空母キラー」として有効な打撃力を備える。

軍事筋によると、中国の弾道ミサイル発射基地の多くは中国北西部の新疆ウイグル自治区(Xinjiang)Korlaにあり、ここは、西はカザフスタン、東は蒙古、南はチベット(Tibet or Xizang)に接している。ここから渤海湾までは約2,500 km、途中北京など人工稠密地域があるが、「DF-26B」はこれを飛び越え目標に着弾したと推測される。』

このように、最近注目を集める北朝鮮の弾道ミサイル火星12型が、液体燃料使用、試作第1号であるのに比べ、既に完成、多数が配備されているDF-26の脅威は比較にならない位大きい。

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図1:(China Defense Today) 2015年北京の軍事パレードで公開された中距離弾道ミサイルDF-26。「DF-26B」はDF-26の改良型で、射程が伸びている。

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図2:(環球時報)2015年北京軍事パレードで出番を待つ多数の「DF-26」中距離弾道ミサイル。2013年以降中国ロケット軍に多数が実戦配備されている。車載発射機(TEL)も中国製、Taian HTF5680A1型12 x 12 車輪装備のトラック。北朝鮮の「火星12型」弾道ミサイル発射試験に使われたトラックと極めてよく似ている。

 

もう一つ、中国国防省は“ミサイルは渤海湾で発射され?目標地点に着弾”とも言っている。従って新型の潜水艦発射型弾道ミサイル「JL-3」であった可能性もある。これは中国海軍の最新型原子力弾道ミサイル潜水艦「094A型“晋”(Jin)」級、排水量8,000 tonに搭載するため、前級の「JL-2」を改良したものだ。「094A」潜水艦は原型の「094」よりミサイルを多く搭載でき、静粛性が優れている。「JL-3」ミサイルは2016年から配備が始まり、射程は12,000 kmに達する。

三つ目の可能性として、北朝鮮に隣接する吉林省Tonghuaから中距離弾道ミサイル「DF-21D」が発射されたのかも知れない。「DF-21D」は固体燃料ロケットで、中国初の移動式発射機(TEL=transporter erector launchers) 使用のミサイルである。“空母キラー”と呼ばれ、射程は1,500-1,799 km、最初の試験は2015年11月に行われた。

既述のように米軍のTHAAD (Terminal High Altitude Area Defense system/地域中層域防空システム) を韓国に配備することに中国は強く反対している。これは同システムのレーダー電波が中国内部深くまで到達し、ミサイル発射や航空機の動静を探知できるため、と言っている。しかし、我国が配備済みの高性能レーダー(後述)は、中国内陸奥深く監視を続けており、これに対しては黙認の態度で、主張がちぐはぐだ。

中国外務省報道官Geng Shuangは、「THAAD配備に関する中国の姿勢は不変で一貫して反対だ、韓国は中国の意向に沿って問題を解決すべきである」、続けて「DF-26は他のミサイルと同様THAADに対しても有効な打撃力となる」、と警告している。

何れにしても、中国の今回のミサイル試射は、防衛省は探知距離数千キロと言われる「FPS—5」(Lバンド及びSバンド使用)及び「FPS-3改」(Xバンド使用)レーダーなど、あるいは偵察衛星で、詳細を把握している筈だが、一切公表していない。米国も同様報道を控えている。

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図3:渤海湾は黄海の北西、朝鮮半島と中国大陸を隔てる海域で、中国の領海。渤海湾は他国の艦艇の侵入を拒む試験に最適な海域である。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

China Defense Today 10 May 2017 “PLA Rocket Force test fires new missile in Bohai Sea”

China Military Com. 2017-05-11 “Latest missile test shows country can respond to aircraft carriers, THAAD” by Zhang Tao

Defense News May 10, 2017 “China says it successfully tests new type of missile” by Christopher Bodeen

Global Security org. “DF-26 intermediate-range ballistic missile”

Military today.com “DF-26 intermediate-range ballistic missile”

TokyoExpress 2017-02-04「ミサイル防衛の近況」