平成30年1月、我国周辺での中国軍の動きが活発化


2018-02-03(平成30年) 松尾芳郎

 

我国マスコミの多くは日中国交成立40周年の節目にあたり、このところ連日関係改善に向けた世論誘導を試みているようだが、中国側の対応はそう甘くはない。

先日の河野外務大臣と中国側首脳との会談で、河野大臣は1月10日の尖閣諸島接続水域に中国海軍の潜水艦が潜没したまま侵入した件、昨年スパイ容疑で逮捕された邦人6名の早期釈放を求める件、などを取り上げ強く抗議したが、李克強首相はいずれにも取り合わずすれ違いに終わっている。

外電によると昨年暮れの12月2日、中国の習近平主席は軍幹部との非公開会議で尖閣諸島について「(中国の)権益を守る軍事行動の推進を重視する」と発言した。

これを裏付けるのが、今回1月10日に発生した中国原潜の尖閣諸島接続水域内の潜没航行に端を発した一連の軍事行動だ、と言えよう。

すなわち、1月15日には中国海警局の大型巡視船3隻が、尖閣諸島久場島西側の領海に侵入した。海警局は昨年から海軍の指揮下に入っている。

1月28日(日)には中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻が東支那海から対馬海峡を抜け日本海に入り、再び対馬海峡を南下して東支那海に戻った。

続いて29日には中国空軍Y-9情報蒐集機が東支那海から対馬海峡を通過し日本海に入り、反転、往路と同じ航路を飛び東支那海に抜けた。

 

これら事案を、時系列に従って整理すると;—

 

  1. 防衛省・自衛隊“お知らせ”(平成30-01-11)(第1報および第2報)

 “潜没潜水艦および中国海軍艦艇の動向について”

1月10日(水)午後、潜水した状態で航行する潜水艦が、太平洋から沖縄県宮古島東北東の接続水域を通過し東支那海に進み、11日(木)午前に尖閣諸島大正島北東の接続水域に侵入した。その後午後には同艦は接続水域から北北東に向け立ち去った。発見、追跡したのは海上自衛隊の横須賀基地第6護衛隊所属の護衛艦「おおなみ」と那覇基地第5航空群所属のP-3C哨戒機である。

 

(注)接続水域とは;—

沿岸から12海里(22km)までが「領海」、その外側12海里、つまり沿岸から24海里(44 km) の範囲を「接続水域」という。「領海」は、領土や領空のように沿岸国の主権が及ぶ範囲である。「接続水域」は、沿岸国が密入国管理を含む出入国管理や衛生上の規制を行うことができる。

 

また1月11日(木)午前には中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻が、同じ大正島北東の接続水域に2度にわたり侵入を繰り返し、午後には北北西に向け離れた。本件のフリゲートの写真は発表されていないが、後述4項“中国海軍艦艇の動向について”に記載されているフリゲートと同一と推定される。発見、追尾したのは護衛艦「おおなみ」と大湊基地第15護衛隊所属の護衛艦「おおよど」およびP-3C哨戒機である。

 

  1. 防衛省・自衛隊“お知らせ”(平成30−01-12

1月12日午後、尖閣諸島北西の東支那海で、前日同諸島大正島接続水域を潜航のまま侵犯通過した潜水艦が浮上し、中国国旗を掲げ航行するのを確認した。発見、確認したのは前述の護衛艦「おおよど」および「おおなみ」である。

 

  1. 第11管区海上保安本部発表(平成30-01-15

ホウドウキョク Jan 15, 2018 “-尖閣情勢-15日に中国海警局の3隻が領海侵入”by Nose Nobuyuki

1月15日、中国海警局所属の海警2303、2308、2401、の3隻が午前8時半から久場島北西の接続水域から領海に侵入、20分後に離脱し、午前10時過ぎから魚釣島北北西から領海に侵入12時ごろに退去した。

 

  1. 統合幕僚監部“お知らせ(平成30年01-30)”中国海軍艦艇の動向について”

1月28日(日)午後10時ごろ、下対馬の西南西65 kmの海域を北東に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻を発見、その後29日に同艦は対馬海峡を北上日本海に入ったが、すぐに反転、再び対馬海峡を南下、東支那海に向かった。発表の写真から同艦は、艦番号532、同級の21番艦「荊州(Jingzhou)」、2016年1月就役の最新艦と見られる。発見、追尾したのは海上自衛隊鹿屋基地の第1航空群所属P-3C哨戒機と佐世保基地の第13護衛隊所属の護衛艦「じんつう」である。

 

  1. 統合幕僚監部“お知らせ”(平成30年01-29)“中国機の東支那海および日本海における飛行について”

1月29日(月)、中国軍機Y-9情報蒐集機1機が東支那海から我国防空識別圏に侵入、対馬海峡上空を通り日本海に向かい、その後反転して同じ航路を経由し東支那海に入った。航空自衛隊はF-15戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯に備えた。なおY-9機は韓国の防空識別圏にも侵入したため韓国空軍戦闘機も緊急発進して警戒に当たった。

 

以下に原潜問題を主として公表された写真等を交えて解説する。

 

1月10-11日に中国原潜が大正島接続水域を潜没して航行した問題についてLivedoor News (2018-01-29)は、香港サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙の記事を引用、次のように紹介している。

『中国原子力潜水艦は激しい騒音で、日本の海上自衛隊に探知されて2日間追跡されるという侮辱を受けた。「093A型」と呼ばれる全長110 m「商級」原子力潜水艦が、今月10日に日本と中国の領有権紛争地域である尖閣諸島沖の海域に侵入したが、日本の海上自衛隊に探知されて2日間にわたり追跡されたあげく、12日には公海上で浮上し中国国旗を立てた。一部には、浮上し旗を立てたのは尖閣諸島の領有権を主張するためだ、とする見方がある。しかし、香港メデイアを含む内外の多くの軍事筋は、騒音を撒き散らす中国原潜が日本の艦艇と対潜哨戒機の厳しい追跡に遭い止むなく浮上した、と見ている』。

今回探知された潜水艦「093A型」あるいは「093B型」は、騒音の大きい「漢級」原潜「091型」の短所を克服するべく中国海軍が建造した最新の攻撃型原子力潜水艦。対艦巡航ミサイルを装着した「093型」は米国のロサンゼルス級原子力潜水艦に匹敵し、「091型」に比べ静音性が飛躍的に向上したと云われていたが、今回その限界を内外に露呈したことになる。

一般に潜水艦は敵前で浮上することはない。潜水艦は『隠密』が生命であるからだ。軍事常識としては、当該原潜が、アクテイブ・ソナーから繰り返し発射される警告音に「参りました、勘弁して下さい」としか受け取りようのない振舞いをしたと云うことである。実戦なら当然撃沈されていた。

米国議会の報告書によると、中国は2020年までに攻撃型原潜を6隻に増やす方針で、2020年代には既存の潜水艦よりも静粛性がはるかに優れた次世代潜水艦「095型」を就役させる計画である。

12午後原潜、防衛省

図1:(防衛省)1月10日午後から、宮古島北東海域及び尖閣諸島大正島北東の接続水域を潜没したまま航行し、11日午後公海上で浮上、中国旗を掲げた「商」級原潜の写真。海自護衛艦「おおよど」または「おおなみ」が撮影した。

093型「商」級の攻撃型原潜は、ロシアの技術援助を受け設計製造されたた潜水艦で、1番艦は起工から就役まで12年かかり2006年にやっと完成した。2007年には2番艦が就役している。093型の後継として、その後船体を110 mに延長し、騒音を減らした改良型093A型(093G型とも呼ばれる)あるいは093B型、の3番艦、4番艦が建造されている。今回の原潜は093Aあるいは093Bと報じられているのでこれに該当する。

排水量は6,000–7,000 ton、動力は原子炉2基+蒸気タービンの1軸型、最大速力30 Kts。小野寺防衛相は「対艦、対地攻撃用の長射程巡航ミサイルを搭載している」と述べた。文献によると、093A (093G)型は、超音速対艦ミサイル「YJ-18」および巡航ミサイル「CJ-10」を発射できる垂直発射装置(VLS)を装備する、と書かれている。超音速対艦ミサイル「YJ-18」は、射程220–540 km、速度は巡航時マッハ0.8、ターミナル時はマッハ2.5–3.0、空母打撃群攻撃用とされる。巡航ミサイル「CJ-10」(長剣10)は、亜音速だが射程1,000–2,000 kmで500 kgの弾頭を備え、H-6爆撃機や海軍艦艇のVLSから発射可能。

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図2:(外務省)尖閣諸島最大の島の魚釣島と周辺諸島の位置関係。今回中国原潜が接続水域を侵犯した島は大正島で魚釣島の北東110 kmにある。

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図3:(外務省)尖閣諸島の地図。1月10-11日に中国原潜とフリゲートが接続水域に侵入した大正島と、同12日に中国海警局の海警2303を含む3隻が領海侵犯をした久場島の位置関係。

11日原潜の行動

図4:(毎日新聞)1月10日から11日にかけて、宮古島、大正島の接続水域に侵入した中国海軍原潜とフリゲートの航跡のイメージ。

海警2303

図5:(海上保安庁第11管区海上保安本部)1月15日午後10時過ぎに尖閣諸島魚釣島領海に、他の2隻(2308、2401)と共に侵入した中国海警局の海警2303。2016年に就役した3,000 ton級の新造船で、兵装は30 mm機関砲1基、12.7 mm自動機銃4基の重武装、さらに高圧放水銃1基を装備、ヘリコプター2機を搭載する。同型艦は5隻ある。海上保安庁はこれを“機関砲の様なものを装備”と表現している。

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図6:(pelicanmemo / Quan doi nhan dan) 海警2303に搭載されている北方工業公司(NORINCO)製H/PJ17 型単管30 mm速射砲の写真。

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図7:(pelicanmemo / Quan doi nhan dan) 海警2303に搭載されている遠隔操作式12.7 mm機銃ORW-1型RWS (Remote Weapon Station)。4基搭載されている。

01-28 フリゲート532

図8:(統合幕僚監部) 1月28日(日)午後10時ごろ、下対馬の西南西65 kmの海域を北東に進む中国海軍ジャンカイ(江凱)II級フリゲート1隻を発見、その後29日に同艦は対馬海峡を北上日本海に入ったが、すぐに反転、再び対馬海峡を南下、東支那海に向かった。佐世保基地の第13護衛隊所属の護衛艦「じんつう」が撮影した写真と思われる。

 

今回出現した艦番号532は、[江凱II] 054A型と呼ばれる次世代型ミサイル・フリゲートである。1番艦「舟山」は2008年1月に就役、同型艦は25隻になる。写真の艦番号532は21番艦で「荊州(Jingzhou)」、2016年1月就役の最新艦だ。1月11日に尖閣諸島大正島北東の接続水域で原潜と合流、北に向けて立ち去ったフリゲートと同一と推測される。

満載排水量4,500 ton、速力27 kts。対空兵装はロシアの)M-38Mを改良した射程25-42 kmのHQ-16(紅旗16)を32セル垂直発射装置(VLS)に収めていて、僚艦防空能力を持つ。対艦、対潜水艦兵装にも優れており、フリゲートとはいえ4,000 tonを超える大型艦で航行性能が高く、遠洋航海を容易にこなせる。

01-29 Y-9情報蒐集機

図9:(統合幕僚監部)1月29日我国防空識別圏に侵入、対馬海峡を往復した中国海軍Y-9情報蒐集機の航跡。

18-01 Y-9機

図10:(統合幕僚監部)1月29日午前から午後にかけて中国海軍Y-9情報蒐集機が東シナ海から対馬海峡を通り日本海に入り、反転して往路と同じコースで東市内に向け立ち去った。写真で見ると、機首と胴体側面の前後にアンテナを収納する膨らみがあることから型式は「Y-9JB」で、通信、レーダー波、などを傍受し諜報活動を主任務とするELINT型と思われる。基本形は空軍用中型輸送機Y-9で、全長36 m、翼幅38 m、全備重量65 ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 kmとされる。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした記事は、本文中に既述した“防衛省、自衛隊お知らせ”および“統合幕僚監部お知らせ”以外に、次のものがある。

 

毎日新聞“経済プレミア”2018-01-27 “中国ネット民騒然、尖閣沖「原潜浮上」は故意か失態か“by 金子秀敏

Livedoor News/中央日報 2018-01-29 “中国原潜、激しい騒音で日本海自に探知される“

HatenaBlog pelicanmemo“ホウドウキョク”2018-01-16 “中国海警局3000トン級「海警2303」、尖閣沖で初めて確認30mm機関砲の様なものを装備“

Jane’s360 30 June 2017 “Chinese navy commissions 25th Jiangkai II-class frigate”

日本周辺国の軍事兵器 2016-07-17 “045A型フリゲイト(ジャンカイII型/江凱II型)